不幸な超能力者が異世界に来た場合、どうすればいいですか?

もか

4話 一緒にいられないので、逃げようとした


琴子は辺りを見回す。


「な、」


どう見ても人間ではない、耳と尻尾が生えてる亜人たち。


「な、」


辺りからの強い視線。


「なんで人間が私しかいないのよぉぉぉぉ!!」







事の始まりは、3時間前。



「ん〜」


異世界に来て初めての朝。
まずは朝食を作る。

アリムたちの家は二階建ての一軒家で、琴子の部屋は2階にある。


「...え?」


琴子が一階に降りて冷蔵庫を開けるが、そこには全くと言っていいほど食材がない。

食材どころか、調味料すらない。
街に出ても亜人・・だから・・・売ってもらえないのだろう。


亜人が差別を受けているのはわかってたけど、まさかここまでとは...


少しだけ昔の自分を思い出す。


ううん、この人たちは大丈夫。
私と違うもの。


出かける準備をして、街に出る。





「おぉ、めっちゃ売ってるやん」

見渡す限り、
肉! 魚! 肉!!


ポケットに手を入れて、出てきた財布をもう一度見る。


「お金どうすればいいんだろう」と困っていた矢先に見つけた財布。


テーブルの上に、一枚の紙と一緒に置かれていた財布。


『食料調達のときはこれ使って』


運が良いのか、この世界は日本語表記みたいで楽々と読むことが出来た。



本当に、使っちゃっていいのかな...?


とは思いつつ、これは一種の取引みたいなもの。


泊まらせてもらったし、しなくちゃだよね。

実を言うと、琴子は考えていた。


【これで食料を買ってアリムたちに渡したら、あの兄妹から離れよう...】


財布をぎゅっと握りしめ、琴子は店へと向かった。











き、聞いてない...

聞いてないよ......!




それは、つい10分前のこと。


「あの、これとこれください。」

琴子が指さしたのは、安めの牛肉500gとサンマ。


人のお金だし、あんまり使っちゃうとダメだもんね。


と思っていたら、

「May I help you?What do you want?」

この世界、日本語だけじゃないの!?


なんとか英語は得意だったからよかったけど、ドイツ語とかフランス語きたら終わってた...。



さてと、あとは帰るだけ。


琴子は前向きに歩いた。
いや、歩こうとした。




待って。
私、どこから来た...?




琴子は歩いた。

時には行き止まりになり、
時にはヤンキーに絡まれたり、
時には狼に遭遇したり。



「もう疲れたよ〜」

見ると、周りは昼食を食べている。


うどんの食べ歩きとか初めて見た。



ぎゅるるるるる



そこらじゅうに響き渡る音が鳴る。

爆撃とか、そんなんじゃない。

単に、私のお腹の音だ。

周りの注目は今、全て私のものとなっている。


やらかした!!

その場を走り去っていく。





あ〜最悪。
こういう時の注目ほど、嫌なものはない。


「あ、見つけた!」

幼く可愛い声が右耳に入る。


「朝起きたらいなくて、お昼になっても帰ってこないんだもん。探したよ〜」

声の主が喋る。


あぁ、見つかったか。

ここまでくると逃げるのは難しい。


これでこの人たちとは関わらなくて済む。

そう思ったばかりなのに。


「家帰ったら話聞くから。」


なんかめっちゃ怖い...!!





「どこほっつき歩いてたんだ?」

あのさ、そんなに目力すごいんだから人間の一人でも余裕で倒せるんじゃない?

「買ったんだけど、帰り方がわからなく 

「迷子かよ」

うっ!
まぁ確かにこの歳で迷子は恥ずかしいけどさぁぁぁ??

「こっちはずっと待ってたんだよ!」

声を張った。

「どこにいるかもわかんねぇし、どこを探せばいいかもわかんねぇし!
なのに、見つけたと思ったらへらへらした顔でいるし!!」

...あ、そっか。

琴子は昨日の彼の言葉と行動を思い出した。


確か、二人の親を殺したのが人間なんだよね。
そして、初めて私を見たときのあの目。

...私が逃げたと思ったのか。

そりゃ、確かに逃げようとしたけど。


事実なので反論はできない。

「お兄ちゃん、そんなに怒っちゃダメだよ。」

アリムが琴子を庇う。 

そのまま琴子に近づき、耳元で
「お兄ちゃん、本当に心配してたんだよ。まだかな〜まだかな〜って。」
と囁いた。


そう、だったんだ...。

てっきり疑われていると思っていた琴子にとっては予想外のことだった。


「心配かけてごめん。」

頭を下げて謝罪の言葉を発する。


いつの日だったか。
琴子が最後に心から悪いと思ったのは。

ずっと心にもない謝罪をしていた琴子は、すごく久しぶりに本当の「ごめん」を言った気がした。

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