不幸な超能力者が異世界に来た場合、どうすればいいですか?

もか

3話 困っている人がいたので、玉投げに行った


それにしても広い大通りだなぁ。

人はたくさんいて、みんな楽しそうに笑っている。

それがとても羨ましくて、少し妬ましかった。

…あ、あれ?

いつの間にか人の姿はなく、そこは辺り一面野原だった。

迷子になった…?

すっと血の気が引いていく。

やば、急いで街に戻らないと。
って、街ってどっち!?

そんなとき、



「あ、あのっ!!」



どこからか声が聞こえた。

慌てて見渡すが、誰もいない。



「上!上見てください!!」



…あ。

私の頭上。
つまり、木の上には一人……いや、一匹?


耳と尻尾が生えていて、クリクリした目からは今にも涙が出そうにうるうるしていた。

見た目は、完璧人間。
耳と尻尾を除けば。



「えっと…降りれないの?」



そう聞けば、素直に頷く。



「ま、待ってて。」



木の所々に足をかけて、女の子を助ける。



「大丈夫?」

「うん、ありがとう」


「アリム!大丈夫か!?」



向こうから見えた男の子がそう言う。

多分、歳は私と同じくらい。
だけど、この人も耳と尻尾が生えてる。



「お兄ちゃんっ!」



先程助けた女の子がその人の元へ駆け寄る。

兄妹か…

いいな。
ここは、私にとって羨ましい人しかいないのかな。

アリムを一度抱きしめた後、兄は琴子を睨んだ。

その顔は、アリムに見せる顔とは全く違う。



「おまえ…勇者か。」



はい?



「お兄ちゃん!この人は私を助けてくれたの。お兄ちゃんが思ってるような人じゃないよ!」



途端に兄の顔つきが変わる。



「えっ…?」

「その子の言う通り。私はその子を助けただけ。じゃあね。」



そう言って去ろうとすると、アリムは琴子の前に立ちはだかった。



「お姉ちゃん!一緒に遊ぼ!」

…え?



「アリムはね、いつも玉投げをして遊んでるの。」



勝手に話を進めるアリム。

まずい、このままじゃ…



「お姉ちゃんも一緒に玉投げで遊ぼ!」



キラキラした目で琴子を見つめる。



「あーいや、私は…」

「お姉ちゃん、忙しい?」


うっ、これはさっきのうるうるした目…!


チラッと兄の方を見ると、不安そうな顔をしている。


琴子はため息をついて「いいよ」と言った。



「行こっか。玉投げ。」

笑顔を貼り付けて、アリムに言う。

「本当!?やったー!」

きらきらした目で喜ぶ。


それを見て、琴子は少し申し訳ない気持ちになった。

アリムが喜びで周りが見えない隙に兄が琴子に近づく。



「悪い」



琴子の耳元でそう言った。


あぁ、妹のことね。



「私は大丈夫だよ。」

「そっか。じゃあ行くぞ。」



…え?行くって?どこに?
ここでするんじゃないの?

アリムの兄が手をかざす。



「我が手に宿りし闇の力。今ここに封印を解けよ。くう魔法!」



この世界には痛い人しかいないのか。



と思っていると、さっきまで何も無かった場所から魔法陣が現れた。


痛い人じゃなかったんだ…


そして、一瞬の出来事だった。

無数の光が琴子をたちを包む。



「わぁい!玉投げだ〜!」



アリムの声で目を開けると、そこには宙に浮いてる玉がたくさんあった。



「…な、に、…これ……」



アリムはそれを平気な顔で手に取る。



「お姉ちゃんもやろーよ!」


そんなことを言われても、この世界をルールを知らない。


「う、ううん。私は見てるよ。」

「えー」

「アリム、お姉さんは疲れてるらしいから、ごめんな。」



アリムの兄が琴子を庇うように言う。



「ありがとう」


琴子は兄に近づき、お礼を言った。


「お礼を言うのはこっちのほうだよ。妹を助けてもらった上に、妹のわがままを聞いてもらった。けど、どうしてだ?」

「なにが?」



琴子がきょとんとする。

彼女にとって、困っている人を助けることは当たり前のことであり、常日頃からやってきたことだ。



「だって、勇者なのに…」

「さっきから言ってる勇者って何なの?」

「え?」



今度は兄がきょとんとする。



「勇者じゃないのか…?」

「どこをどう見たら勇者に見えるわけ?だいたい、女の勇者なんていないでしょ。」

「女勇者くらいはいるよ。」



どうも二人の話が合わない。

そう感じた琴子は、質問することにした。



「私、違う世界から来たの。だから、この世界のことについて教えてくれない?」

「異世界人…?」


琴子は首を縦に振る。


「なに痛いこと言ってんだ?」


あんたらにだけは言われなくない!!



「まぁいいよ。じゃあ、この世界のことについて簡単なことを話す。」


琴子は真剣に彼の話を聞いた。

途中途中、ツッコミどころは満載だったが。






…なるほど。

彼の話をまとめると、どうやらここにはそれぞれ階級とその役割があるらしい。

例えば、人間は勇者として亜人を倒す役目がある。
そして、アリムとその兄は亜人だから勇者にんげんから逃げている。
勇者にんげんや亜人以外にも、フォーゲルという鳥の族もあるらしい。


琴子は、初めて会ったときにアラムの兄から向けられた視線を思い出して納得した。



「え、待って。じゃあ、今は私が怖くないの?」

「だって、おまえは他の勇者とは違うだろ。」

「まぁ、そりゃあね。」


琴子が他の勇者と違うのは当然のこと。
だって、この世界について知識が浅すぎるから。


ていうか...


琴子はアリムに目を向けた。


あの子は何をやってるの...


アリムは、宙に浮いている直径30cmくらいの玉を投げている。

見るからに重いそうだよ、あれ。
多分、私でも持てないと思う...。

それを片手で軽々と投げる。

最近の子どもはすごいなぁ。


アリムが琴子に気づくと、琴子の元へ駆け寄っていく。


「お姉ちゃん、一緒にやる?」

「う、うーん…じゃあやろっかな。」

アリムの投げ方を見ていたから、少しはわかるし。

玉を向こう側にある的に当てればいいんでしょ?ボーリングみたいなものじゃん。



「...重っ!!」


適当に宙に浮いている玉を手に取るが、とても重く思わず地の上に置いてしまう。


「お姉ちゃん?大丈夫?」


琴子はアリムの手に目がいってしまう。


「アリム...よく持てるね。」

「でしょ!?練習したの!」

「練習...?」


その言葉にピクリと反応する。


「うん!アリムも最初は持てなかったんだけど、お兄ちゃんが、努力していれば必ずできるようになるって!」


琴子は黙ってアリムの頭の上に手を乗せる。

そして、「よかったね」と呟いた。









─あなたは、努力すれば報われるんだね。─








「お姉ちゃん?」

「なんでもないよ。」

それより、この歳でこの握力か...

将来、ヤンキーになったら世界滅びそう。




「今日は楽しかったよ。ありがとう。」


日は暮れて、アリムは少し眠そうな顔をしている。



「こちらこそ、妹と遊んでくれてありがとう。」

「ううん。勇者の人たちに気をつけてね。バイバイ。」



琴子はアリムたちに背を向けた。

さて、これからどうしようか。

行くあてもなく、ただ夜道を歩くことになるのかな。



「...っ、ま、待てよ!」



背中から聞こえた声に立ち止まる。



「なに?」

「家、どこ?遅いから送る。」

「え?ないよ。」



ほぼ即答だった。

そのせいか、アリムの兄は呆気にとられている。



「...は?」

「だから、ないの。」

「なんで?」

「勇者じゃないし...」


きっと、普通なら家の一つでも持っているんだろう。
とは言え、さすがに学校の宿題のために召喚されたなんて言えない。


「とにかく、私のことは気にしないで。」

と言っておこう。


恐らく、この人たちのことだから私を助けるに違いない。

けれど、私は何があろうとこの人たちと一緒にいることはもうないだろう。

仮にあったとしても、私から突き放す。

さぁ、どうくる...?


「じゃあ俺らの家こいよ。」

まさかのお家へのお誘い!?


そうくるとは思わなかった...

てっきり、「じゃあ俺も一緒にいる」とかそういうのだと思ってた...


「い、いや、遠慮しとくよ。」


それでも一緒にいる選択を選んだのは違いない。

琴子は一生懸命に言葉を探す。


「ほら、お母さんとかに迷惑になっちゃうでしょ?」

「うち、両親いないんだ。」


地雷踏んだぁぁぁぁ!!



「アリムにも、迷惑になると思うし...」

「おまえのこと好いてるから平気。」


「私、結構大食いだよ?亜人からしたら、食に困るんじゃない?」


さっきの話を踏まえると、亜人はこの世界では圧倒的に弱い立場。
とすると、食料を手に入れるのも困難なはず。

亜人を襲う人間がそこら中にいる中、亜人が身を隠さずにのこのこと歩いていたら秒で襲われること間違いなし。


「じゃあ、こうしよう。」

アリムの兄は、人差し指をたてた。


「俺たちはおまえに家を貸す。空いてる部屋があるから、そこに住んでほしい。その代わり、おまえは俺らの食料の調達をよろしく頼む。それでいいか?」


...あぁ、言わなきゃよかったな。


「...はい。」

観念して、視線を下に落として返事する。


この先、どうしよう...。




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