鋼鉄の大地

ノベルバユーザー316381

狂った戦争

 2024年  7月 26日 北アフリカの戦場の夜にて

兵士達はみな自分の銃を両手で抱きしめながら設営された野営地のテントの中でぐっすりと眠りについていた。 

だが、その兵士達とは別にテントも建てずに野ざらしのまま焚き火を囲んで寝ている兵士達がいた。

その内の1人の兵士は夢にうなされていた。

今までに見て、聞いてきた記憶が画面を高速でスクロールするかのように頭の中を流れていく。

それらの記憶は全て彼にとっては悪夢に等しかった。


『次のニュースです、先日、アメリカのアイオワ州にて体長10m以上の未知の巨大生物が現れました。』

『その巨大生物は四足歩行で四つのオレンジ色に光る眼球、体毛が生えていないという特徴を持っています。』

『巨大生物はとても凶暴で捕獲の際、14名の重軽傷者を出し、発見から3時間後に警察によって射殺されました。』

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全てはこれから始まった。

『世界各地で未知の巨大生物が人を襲う事件が多発しており、死者は7万人に及び……』

『アメリカ政府は非常事態宣言を発令………』

'奴ら'は次第にこの地球に侵食していき、本当の地獄が幕を開けたのは2020年の事だった。

『ご、ご覧下さい!'ドラゴン'です!何十匹ものドラゴンが空を飛び、人を襲っています!』

本当の地獄はドラゴンなどでは無かった。
真の脅威は奴らの使用する兵器だった。

『こちらホーネット3!!駄目だ!ミサイルを全部撃ち込んだが損害は確認出来ない!!』

『何なんだあれは…魔法だとでも言うのか…!?』

奴らは正しく'魔法'を使っていた。
榴弾砲のように曲線を描く光の弾を放つ魔法、どんな攻撃も通じない青色のドーム状の障壁を発生させる魔法。

特に厄介だったのが障壁だった。

過去にATGMや戦車の主砲、巡航ミサイルに空対地ミサイルなどを撃ち込んだがいずれも障壁を貫く事は出来なかった。

これらの魔法とあの巨大生物…'魔物'の大群によって現代兵器は次々と敗北していき、アメリカは壊滅的な被害を受け、抵抗力を失い、日本やその他のアジア諸国はまだ生存者がいるかすらも分かっていない。

唯一生存者がいて敵対勢力との戦いを続けているのはヨーロッパ諸国のみである。

ロシア連邦は国土の半分を敵対勢力に占領され、ロシア軍の主力は全て西に撤退し、残された半分の国土を守る為、抵抗を続けている。

残されたヨーロッパ諸国でさえも軍や公的機関が機能しているおかげで辛うじて秩序の崩壊は防げている位だ。

戦力の不足のせいで今のEU軍には軍規を犯した者や犯罪歴のある者が入隊させられる懲罰部隊が幾つも存在している。

そしてうなされていた彼もその1人であった。

彼の夢の中で流れていく記憶は今度は自分がかつて経験した戦場での記憶に変わっていった。

『こちら第324中隊!多数の敵歩兵と魔物に遭遇!』

『数が多すぎらぁ!!あいつらはアリンコか!?』

『魔物が突っ込んで来やがる!!』

『う、うわぁ!!!助けぐぁああえええああああ!!!!!!』

『クソっ!!カイルが食われやがった!!』

『このままだと戦線が崩壊するぞ!!』

『どうせ懲罰部隊の俺らに救援なんざ寄越してくれねぇよ本部の奴らは!!  良くて俺ら諸共砲撃か空爆だ!!!』

『左翼が崩壊しかけている!!もっと撃て!!弾幕を張れ!!!』

奴らはあの牙で俺達の故郷を、文化を、文明を、果てには生命さえも喰らい尽くすだろう。

『もう駄目だァ!!!!これ以上持ち堪えられない!!!』

『ひっ…!た、助けてくれ!!死にたくねぇぇぇえええぇぇぇええ!!!!!!』

だが…………

『…!この音は…まさか!』

我々にも敵を喰いちぎる牙がある事を忘れるな!!!

『やったぞ!!!空軍の航空支援だ!!!』

『攻撃機に攻撃ヘリまで来てやがらぁ!!』

『奴らが逃げてくぞ!!』

『やっちまえ!!!空軍!!』

この記憶を最後に彼の夢は終わりを告げ、意識が覚醒した。

「うっ…はぁ…。」

強い朝日に目をすぼめ、溜息をつくと立ち上がって首にかけてあった笛を口に咥えると息を吸い込み、思い切り吐いた。

ピィィィィィィィィィィィィィイッ!!!

笛を吹いてから数秒経つと寝ていた他の兵士達がムクリと起き上がり伸びをしながらあくびをしている。

こうして起こしているのは部隊内で彼はこの第546小隊の小隊長を務めているからである。

「おい朝だぞ起きろへレーネ!上官の機嫌を悪くしたいのか?」

今は北アフリカ奪還作戦の為、彼らは第225大隊の一員として戦場に赴いている。

「んぅ……朝日は嫌いだ…。」

この寝袋に蛹の中の虫のように潜り込んでいる黒髪短髪の女は名をへレーネ・クーデルという。

へレーネは狙撃を得意としているが、運動が出来ないのといつも寝ているという欠点がある。

容姿は戦場を渡り歩いているにしては整っていて部隊内での評判は良い方。


朝日から目を逸らし更に寝袋の中に潜り込もうとするへレーネを彼は両脇を掴んで無理矢理引きずり出した。

彼は部隊内ではリーパーと呼ばれている。

本名は無い…というか''本人が覚えていない''。

運動神経は良く、射撃に関してもいつもはガリル SARという自動小銃を使っているが過去にドラグノフやモシン・ナガンによる狙撃の
経験もあり、かなりの実力を持つ。
 
ただひとつの欠点は学力が無さすぎるという所である。

ついでにリーパーという呼び名はただかっこいいからという理由で付けられただけであってリーパーの名に相応しいほどそんな大きな戦果は上げていない。

「うぅぅ……この世は非情だ……。」

「嘆いても無駄だ。さっさと起きろ。」

嫌がるへレーネをなんとか立ち上がらせ、各自で装備の点検や朝食を取らせた。

こうして彼ら懲罰部隊の一日は始まった。

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