軌跡を奪われし村人は、復讐に身をゆだねない
第四話 【リア発狂】
リアに吹き飛ばされたスウイは壁、正確には『そこ』に衝突、染み込むように姿を消す。
およそ自然には起こりえない現象にラストたちは大きく目を見開いた。
この瞬間まで存在していた人間の喪失はラストに計り知れない衝撃を与え、心は嵐のごとく荒れ狂う。その一方で身体は亀のように動かない。
驚愕、疑念、把握、愁嘆、憤りの順に感情が変遷する。
助けられなかった。どちらも諦めない、その選択が彼らを死地に追いやった。
ラストは後悔している。しかしそれは、どちらかを見捨てればよかった、というものではなく、どちらも救えなかったことだ。
ピアルリアの神業行使の瞬間スウイはこちらを見ていた。
ラストはスウイを信じ、スウイも信頼にこたえようと逃げずに挑んだ。決して悪い人間じゃなく、好感が持てる青年だった。
でも、あたしは救えなかった。
ひんやりとしたダンジョンの空気がラストの後悔を嘲るように凍てつかせる。
その時、愕然と唇をかみしめるラストの耳に場違いな笑い声が飛び込んできた。
「ふ、ふふはははははははははは!!」
「リ、リア?」
皆が負の感情を胸に抱く中、一人だけ喜悦混じりの哄笑を上げる幼馴染に違和を訴えるリーシア。
周囲の視線を一身に浴びてリアは喜色一杯に微笑み
「あった、あったんだよ! 道はあった! 待っててスー! リアもすぐに向かうから!!」
「リア! 何言ってるのよ!! あなたも見たでしょ!! リアを引き留めたス、スウイが消えちゃったのを」
スウイの名前に動揺をにじませリーシアはリアの発言を問いただす。
口ごもるリーシアにスウイを切り捨てた罪悪感を垣間見て、ラストは彼女とリアのスタンスの違いを理解した。リアはスウイの存在そのものの拒否、リーシアは詳しくはわからないが単なる拒絶と異なる何かだ。
だがリーシアの叫びはリアには届いていないようだ。
「ごめんなさいなん。リーの心配はとっても嬉しいのん。けどスーが待ってるのん。だから行かないといけないなんな。絶対連れてくるから安心してくださいなん。」
頭痛を催す発言だ。言葉は通じるのに会話が成立していない。リーシアもリアの発言に二の句が継げないようだ。
アキトの存在がリアをこうまで狂わせたのか。
こちらを振り返るリアはリーシアに対し本当に申し訳なさげに眉を下げていた。
スウイを『そこ』に追いやった張本人は平時とまるで変わった様子がない。
それはラストに戦慄を、怖気を、拒絶を喚起する。
無理解の塊であるリアにラストはおもわず問いかけた。彼女の真意を。
「『そこ』に行ってもスウイに行き逢うとは思えない。スウイは消えた。あなたの中では違うの?」
「……ラーはやっぱり敵なんな。ひどいのん、ラー。信じてたんなんよ? リアはリーもピーもラーもアーもボーもみんなみんな信じてたなん。……けどラストだけは裏切った」
最後に発した声にはどす黒い瞋恚がこもっていた。
リア特有の独特なしゃべりが掻き消えた言葉は千の呪いを並べるよりよっぽど説得力を持っている。
リアはスウイをかばう真似をしたラストに敵意を抱いたのだ。
「ラーだけは許せない。本当はこの場で八つ裂きにしてやりたい。けど、それは保留にしておくのん!」
「どうして…? 殺るなら相手になるけど」
「それはもちろんスーを迎えに行かないといけないからなのん! だからラーなんかを構ってる暇はないのん!!」
使命感を秘め憂いに満ちた顔つきになるリア。無表情を貫くラストだが支離滅裂、理解不可のリアの発言に心中では痛哭する。
失わせちゃ駄目だったんだ。リアにとってスウイは途轍もなく大きく重かった。
「だから、いまはバイバイなん! またね! リー! ピー!」
台詞の途中で膝を深く折り曲げ地面をける。反動はリアに加速をもたらし一本の矢と化して、空を射抜く。
「待って! リア!!」
会話で皆の隙を作り『そこ』に向けて一直線に距離を縮める。リアの真意を悟り急いで追いすがるラストたちだが、彼女らより『そこ』と近距離というアドバンテージも手伝いリアもスウイ同様、闇へ消えた。
「リアーー!!」
消えたリアをつかむように手を伸ばし彼女の名を呼ぶリーシア。伸ばされた手が『そこ』に届きそうで慌ててラストとピアルリアでリーシアを抑え込む。
リーシアも別段意図あっての行動ではなかったらしく二人の抱き着きにおとなしく従った。
「もう大丈夫だよ。ごめんね、リアがいなくなって気が動転してたみたい」
「気持ちはわかりますがもっと考えて行動してください。もう私は誰一人として仲間を欠きたくありません」
「うん、そうだね。ごめん、ほんと……ごめん」
悲痛に顔をゆがめるピアルリアの願い出にリーシアは意気消沈した様子で応じていた。
気落ちしているのはこの場にいる全員、後は痛哭に絶望の七年を暴露したスウイ、まだ希望にすがっていたが本心ではリアも泣いているはず。スウイと入れ替わって魂だけになったアキトもきっとそうだ。他にもリアが口にしていたアー、ボーって人もこの話を聞けば傷心するだろう。
アキトのスウイへの憑依は誰の心にも傷を刻み込んだんだ。
けどそれにも一つおかしな点がある。おかしいというか不可解な点が。これを知っているのはリーシアだけだろう。アーとボーとやらでも答えうるのかもしれないが。
「リーシア、あなたに一つ聞きたい。スウイの七年を知ってリアが錯乱したのは分かる。けどそれにしても感情的になりすぎ。あれはもう狂人の類。……理由は知ってる?」
「―――――――――――――」
ラストの問いがリーシアのやわらかい部分に突き刺さったのか。リーシアは沈痛に黙するのみ。
じれったい。ラストがリーシアを問い詰めようとした時、ようやくリーシアが口を動かす。
「それを語るには私とリアとの出会いから語らないといけないけどここはダンジョンだから。いつまでもいるのは危険すぎるし一言で……」
一拍おき、リーシアは真剣な表情でこちらを見据え一文。
「リアはスウイを信仰している」
およそ自然には起こりえない現象にラストたちは大きく目を見開いた。
この瞬間まで存在していた人間の喪失はラストに計り知れない衝撃を与え、心は嵐のごとく荒れ狂う。その一方で身体は亀のように動かない。
驚愕、疑念、把握、愁嘆、憤りの順に感情が変遷する。
助けられなかった。どちらも諦めない、その選択が彼らを死地に追いやった。
ラストは後悔している。しかしそれは、どちらかを見捨てればよかった、というものではなく、どちらも救えなかったことだ。
ピアルリアの神業行使の瞬間スウイはこちらを見ていた。
ラストはスウイを信じ、スウイも信頼にこたえようと逃げずに挑んだ。決して悪い人間じゃなく、好感が持てる青年だった。
でも、あたしは救えなかった。
ひんやりとしたダンジョンの空気がラストの後悔を嘲るように凍てつかせる。
その時、愕然と唇をかみしめるラストの耳に場違いな笑い声が飛び込んできた。
「ふ、ふふはははははははははは!!」
「リ、リア?」
皆が負の感情を胸に抱く中、一人だけ喜悦混じりの哄笑を上げる幼馴染に違和を訴えるリーシア。
周囲の視線を一身に浴びてリアは喜色一杯に微笑み
「あった、あったんだよ! 道はあった! 待っててスー! リアもすぐに向かうから!!」
「リア! 何言ってるのよ!! あなたも見たでしょ!! リアを引き留めたス、スウイが消えちゃったのを」
スウイの名前に動揺をにじませリーシアはリアの発言を問いただす。
口ごもるリーシアにスウイを切り捨てた罪悪感を垣間見て、ラストは彼女とリアのスタンスの違いを理解した。リアはスウイの存在そのものの拒否、リーシアは詳しくはわからないが単なる拒絶と異なる何かだ。
だがリーシアの叫びはリアには届いていないようだ。
「ごめんなさいなん。リーの心配はとっても嬉しいのん。けどスーが待ってるのん。だから行かないといけないなんな。絶対連れてくるから安心してくださいなん。」
頭痛を催す発言だ。言葉は通じるのに会話が成立していない。リーシアもリアの発言に二の句が継げないようだ。
アキトの存在がリアをこうまで狂わせたのか。
こちらを振り返るリアはリーシアに対し本当に申し訳なさげに眉を下げていた。
スウイを『そこ』に追いやった張本人は平時とまるで変わった様子がない。
それはラストに戦慄を、怖気を、拒絶を喚起する。
無理解の塊であるリアにラストはおもわず問いかけた。彼女の真意を。
「『そこ』に行ってもスウイに行き逢うとは思えない。スウイは消えた。あなたの中では違うの?」
「……ラーはやっぱり敵なんな。ひどいのん、ラー。信じてたんなんよ? リアはリーもピーもラーもアーもボーもみんなみんな信じてたなん。……けどラストだけは裏切った」
最後に発した声にはどす黒い瞋恚がこもっていた。
リア特有の独特なしゃべりが掻き消えた言葉は千の呪いを並べるよりよっぽど説得力を持っている。
リアはスウイをかばう真似をしたラストに敵意を抱いたのだ。
「ラーだけは許せない。本当はこの場で八つ裂きにしてやりたい。けど、それは保留にしておくのん!」
「どうして…? 殺るなら相手になるけど」
「それはもちろんスーを迎えに行かないといけないからなのん! だからラーなんかを構ってる暇はないのん!!」
使命感を秘め憂いに満ちた顔つきになるリア。無表情を貫くラストだが支離滅裂、理解不可のリアの発言に心中では痛哭する。
失わせちゃ駄目だったんだ。リアにとってスウイは途轍もなく大きく重かった。
「だから、いまはバイバイなん! またね! リー! ピー!」
台詞の途中で膝を深く折り曲げ地面をける。反動はリアに加速をもたらし一本の矢と化して、空を射抜く。
「待って! リア!!」
会話で皆の隙を作り『そこ』に向けて一直線に距離を縮める。リアの真意を悟り急いで追いすがるラストたちだが、彼女らより『そこ』と近距離というアドバンテージも手伝いリアもスウイ同様、闇へ消えた。
「リアーー!!」
消えたリアをつかむように手を伸ばし彼女の名を呼ぶリーシア。伸ばされた手が『そこ』に届きそうで慌ててラストとピアルリアでリーシアを抑え込む。
リーシアも別段意図あっての行動ではなかったらしく二人の抱き着きにおとなしく従った。
「もう大丈夫だよ。ごめんね、リアがいなくなって気が動転してたみたい」
「気持ちはわかりますがもっと考えて行動してください。もう私は誰一人として仲間を欠きたくありません」
「うん、そうだね。ごめん、ほんと……ごめん」
悲痛に顔をゆがめるピアルリアの願い出にリーシアは意気消沈した様子で応じていた。
気落ちしているのはこの場にいる全員、後は痛哭に絶望の七年を暴露したスウイ、まだ希望にすがっていたが本心ではリアも泣いているはず。スウイと入れ替わって魂だけになったアキトもきっとそうだ。他にもリアが口にしていたアー、ボーって人もこの話を聞けば傷心するだろう。
アキトのスウイへの憑依は誰の心にも傷を刻み込んだんだ。
けどそれにも一つおかしな点がある。おかしいというか不可解な点が。これを知っているのはリーシアだけだろう。アーとボーとやらでも答えうるのかもしれないが。
「リーシア、あなたに一つ聞きたい。スウイの七年を知ってリアが錯乱したのは分かる。けどそれにしても感情的になりすぎ。あれはもう狂人の類。……理由は知ってる?」
「―――――――――――――」
ラストの問いがリーシアのやわらかい部分に突き刺さったのか。リーシアは沈痛に黙するのみ。
じれったい。ラストがリーシアを問い詰めようとした時、ようやくリーシアが口を動かす。
「それを語るには私とリアとの出会いから語らないといけないけどここはダンジョンだから。いつまでもいるのは危険すぎるし一言で……」
一拍おき、リーシアは真剣な表情でこちらを見据え一文。
「リアはスウイを信仰している」
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