冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第28話:決戦 ~誘い~

大いなる闇は焔のようにゆらゆらとうごめき、その身体に光る物が一つあった。小さいながらも白く輝いていた。


光は水晶板と反応していた。水晶板はワタルのズボンの中で振動し、明滅を繰り返していた。
少し鈍感なワタルも今回ばかりは気づけた。だからと言って、それが示すものが何かまでは分からなかった。


ワタルはそれを気にしながらも目の前の絶望から希望を導く方法を考えていた。それはアエナも同じだった。アエナが先行して形のない常闇に切りつける。大きな手の様なものがアエナを襲い、闇が彼女を包み息の根を止めようとした。
さすがにそれはワタルが火灼の首飾りを使って何とか救いだすことができた。水晶板の明滅は魔王に近づくと強さを増す。


前にも、同じことがあったなと記憶をたどり、ワタルは悠久の石の時の事を思い出した。


あの時、マ・ゴンテの中に悠久の石があった。その時も水晶板が光り輝いた。そしてアエナも救うことができた。もしかするとこれは、七宝に反応している? だったら、あの魔王の中に輝くのは最後の宝具ということか。 だけど、どうやって取り返せば・・・!






「取り返そうと考えたって無駄だ! 私の奥底と深くつなげてあるからな。」


くそっ 読まれているのか!?




会話の意図を理解できないアエナは、ワタルの方を向き、どういうこと?という顔をしてくる。




「あそこに光ってるのが七宝の一つだよ。あれを奪えばもっと弱体化するはずだ。」


アエナと距離を擦り寄らせて目の前の絶望を移す影を見据える。とりあえず、もう一度仕掛けよう。
二人は二手に分かれる。今度はワタルが正面、アエナが右手から大周りで挑んでいく。


だが、同じことが繰り返される。




































(無駄だ、と言ったはずだ。この状態になってしまえばお前達とは違う次元になる。当然、お前たちは時間の概念通りに動くしかない。だが、我は時間をも支配できる究極の魔法を会得している。それによりお前達人間より優れた究極の存在となり、生きとし、生けるものを統べる大魔王として君臨してやる!)






マ・ゾールはゆっくりとアエナの方へと近づいていく。アエナはそれに気づくこともない様子で動かない。いや、動くことは決して許されないのだ。マ・ゾールは右手に全ての闇の魔力をかき集めアエナに注ぐ。




(闇に堕ちろ!! 小娘!)


魔法は放たれた。








しかしながら何とも幸運なことか。狂った時間の中を走る人影が現れ、それが持つ楯で闇を全て跳ね返した。彼がアエナの手を取った瞬間、アエナも彼らの流れの中に入った。
アエナは驚きを隠せなかった。月の楯と悠久の石を持って現れた彼を知らないわけがなかった。


「久しぶりだね。アエナ・マクスウェル。ボクを覚えているかい?」


「ええ、とてもね。」


アエナは皮肉な口ぶりで返した。彼はやれやれと方を落として続けた。


「名誉挽回と言ったら信じてくれるかな? いや、この際誰でもいいから助けがいる。そうじゃないかい?」


「だったら、ワタルも!」


「あれは、最後だ。いろいろ厄介になるからね。」


と言って彼は彼女に、持っていた恒久の石を持たせてアエナから離れ、ワタルを守るように位置に着いた。跳ね返されたマ・ゾールはまだ少し息が荒く崩れた状態のようだ。長時間この状態を保つのは容易ではないらしい。マ・ゾールは


「まだだ、こうなったら時間魔法を継続させて一人でも減らす。<暗刻魔法 止 >」






「魔導呪印 <束縛>。」


と彼がいうとマ・ゾールの足元に魔方陣が現れ、そこから鎖が現出してマ・ゾールの足を止める。


アエナは、それを合図に剣を再度構えてマ・ゾールに切り込む。だが、闇は形を持たず、ただゆらゆらと舞い踊るだけだった。だが、彼の魔法の効力はマ・ゾール自体のその特殊な身体をも変化させていった。




マ・ゾールの身体は形を戻し、物理攻撃を可能にしたのだ。この攻撃の布陣ならばなんとか切り抜けられそうだ。マ・ゾールは予想外の出来事に苦悶の表情を浮かべる。


「二人でも、厄介だな。だが、お前達の負けに変わりは無いのだ!」


そう言うと彼はいなくなった。


(お前のような小僧の魔導など、暗刻魔法にかかれば造作ない。この『戻』そして『跳』を使用すればお前の攻撃は無かったことになる!悠久の石さえも戻る効果に対しては干渉できるが跳ばす事に関すればそれは時間の流れを乱したことにはならない。)


そして時は流れて魔導呪印は発動したものの、マ・ゾールの場所から大きく外れていた。ワタルはここまでの時間に置いてけぼりだったが、マ・ゾールは暗刻魔法を強制解除したため、絶望の局面のまま訳も分からず立ちつくしていた。


ワタルは見覚えのある人物に気が付いた。


「あ、あなたは・・・。」


「キモいから再会のハグは無しだぞ、サ・タール、いや、佐江内ワタル。状況は理解できなくてもいい。こいつを倒せばアエナは本当の意味で笑ってくれる。ボクはそれでいい。」


「何があったのか分かりませんが、あなたの気持ちは分かりました。 オーガス、一緒に戦ってください。」


これで、やっと三人が一緒に戦う理由ができた。だが、厄介なのは暗刻魔法とそれを強力にしているあの宝具。あれを取り返さなければ。魔王が魔力の使い過ぎで倒れこんでいる。ここで早急に作戦を立てないと、そう考えているとオーガスが


「魔王の中に宝具があることは分かっているようだな。あれを取り出すためには、今ある宝具を組み合わせて剣を作り、風穴を開ける。
 いいか、ボクが作っている間、月の楯しかお前たちを守ることはできない。ワタル、お前が持ってアエナを守れ。傷一つでも付けたらその時、ボクは君たちを裏切るかもしれない。やれるな?」


「やるしかないでしょ。その代わり、早くお願いしますよ。」


ワタル、アエナ、そしてオーガスの三人はマ・ゾール内部にある宝具奪還作戦へと動き出す。
そして彼らも、決戦の地へと赴くのであった。


「さっさと来なさいよ。おガスちゃんにいいとこ取られるわよ。」
「いや、傷口開くやろ。けが人には優しくしろや。」





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