冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第25話:覚醒のきざし

 洞窟へと進むワタル達、コウモリが道を少し邪魔する中、ただ前へと進む。ここにマ・ゾールの秘密のからくり昇降機、いわゆるエレベーターがあるとウガルが言っていた。それ自身も彼の自信策のひとつと言っていたので間違いは無いだろう。エル・シドは不安になりながら


「ほんとにその、えれべーたーっていうの? ここにあんの? めちゃうすきみわるいんだけど。」


洞窟を水晶板の灯りを頼りに進んでいきながらワタルが不安になるエル・シドを安心させるために自分の記憶を頼りに話した。


「ウガルさんも言ってましたけど、僕もその昇降機、使いましたから。そしてこの洞窟からルナ王国の方へと向かったんで覚えてます。」


洞窟は水晶板だけの光では見渡せないほど暗かった。その中をなんとなく真っすぐ進んだり、ウガルとワタルの記憶を頼りに右往左往しつつ目当ての昇降機へと向かう。妙な静けさが洞窟の中で三人を襲った。よく目を凝らすとワタル達の他に灯りが一つあった。もしかしてマ・ゾールの手下か?そう思ったワタルは他の二人に注意を呼び掛けた。灯りがこちらの気配か不自然な灯りに気付いたのかこちらに向かってくる。ワタル達は警戒し水晶板の灯りを消したが既に遅かった。灯りが目の前に広がる。明るさにくらんで見えなかったが見えるようになるとそこには人型の女性がいた。肌はおそらくグレー系、服装は少し露出して艶めかしい。何より特筆すべきはフードを被っていても目につく鋭く尖った長い耳だ。ワタルもうすうす感づいていたがアエナ達にはすぐに理解した。彼女がダークエルフであると。彼女はフードをとりその妖艶で美麗な顔立ちを見せて


「お前たちはここに何をしにきたんだい?」


アエナは剣を構え警戒しながら


「そっちこそ、なに? マ・ゾールに偵察頼まれたの?」


「いや、自分の寝床荒らされてるのを身にくるのは普通の事なんじゃないの?」


彼女はきれいな長い銀髪を手すきでなびかせて淡々と話していた。確かにここの住人なら自分の居場所を荒らされるのを嫌がるのも理解できる。ワタルは少し緊張しながら彼女の目のやり場に困る服装からそらしながら


「あの、すいません。すぐ、ここから抜けたいんですけど、この上にあるマ・ゾール城の昇降機を知りませんか?」


そういうと空を向いて少し考えて、すると思い出したように右手の拳を左手に当てた。にっこり笑ってこちらを向き直し


「いいわよ、案内してあげる。」


 彼女はワタルのあごに手を当てながらにやりと笑いながら話しかけた。ワタルはすごくドキドキしてびっくりした猫のように飛びのけぞった。彼女とエル・シドが彼をくすくすと笑うように見ていたが、彼女が背を向けて歩き出し案内をしてくれた。


「あなた、いいひとなの?」


アエナがきょとんとした声で話すと彼女は冷静に


「・・・確かにダークエルフは悪い印象だよね。でも本当はただ肌の色が少し違うだけでエルフと同等なのよね。あなたの反応はよくみるわ。」


彼女の目は遠いところを見つめていた。よく同じようなことでエルフたちに迫害を受けていると考えるだけでも腹が立った。彼女は暗い洞窟を自分の庭のようにすたすたと歩いていた。


「そう言えば、名前聞いて無いわよね。私はアエナ、そしてワタルにエル・シドよ。あなたは?」


「ちょっと待って。何か聞こえた?」


彼女が口に指をあてた。そのまま指を差した方向を見るとカサカサとうごめいているものが見えた。それは虫のようなものでなにやら見張りをするようにウロウロとしていた。ダークエルフはそれを見ながら


「あれが昇降機を守っている魔王のペット、スカラベよ。あれを倒せばすぐにでも上に行けるわ。」


「そうなのね。ワタル、エルお姐さん行きましょう。」
「アエナちゃん、言いたかないけどホントに大丈夫?罠かもよ、ダークエルフは狡猾だって聞くし。」
「信じるしかないわ。」


 正直僕もそう思っていた。情報もないし、灯りも水晶板ではもたなかっただろうしその辺はいまあの人にお世話になっているところはある。


 理由はないが彼女を信用して前へ進むしかない。僕とアエナが何とかエル・シドを説得してスカラベ退治に挑む。




 ダークエルフからもらった松明を周りに並べていくと大きな虫の姿があらわになった。大きいとはいえ虫には変わりなく、剣での攻撃はすんなりと通った。なので僕とアエナが主体となって、暴れ出したスカラベの攻撃を交わしながら攻撃を続けた。スカラベは痛みに耐えられずに暴れ出しては見境なく洞窟の岩を壊している。






 ワタルは勇気を振り絞り、大きい虫の背中に乗り剣を首にかけてバランスを取りながら首をかっ切ろうとしている。その姿は以前の弱腰で戦っていた彼の姿は無く、がむしゃらに血しぶきや虫が巻き起こす土煙を浴びながら歯を食いしばり、首をかっ切ろうとしていた。


「これで、終わりだ!!」




 虫の動きは止まった。ワタルはフラフラで泥まみれになっていたがその姿は歴戦の勇者のようだった。アエナが肩を貸し、寄りかかりながらダークエルフに先導される。ダークエルフはまた、思い出して立ち止まって振りかえりざまに


「あ、ごめんなさい。ここじゃなかったわ。 こっちよ。」




 彼女の差す方向はさっきとは逆方向。じゃあ、今までの徒労はなんだったんだ? アエナ達は憤りかけたが先を急ぐために抑えた。踵を返して彼女の言うままに連れていかれる。そしてようやく目的地に着いた。昇降機は目の前だ。アエナ達は急いで昇降機の方へ向かう。すると突然


グサッ、 ナイフの刺さる感触、じわじわと痛み、血がにじんでくる。ワタルは恐る恐る確認する。背中の右の肩甲骨辺りに刺さる小刀。そして背後の冷静な殺意と殺気を感じた。ダークエルフのはもう一つ左手にナイフを持ちながら


「簡単に行かせる訳ないじゃん。後それ、毒ついてるから。」


ワタルは刃物の痛みと共にある別の痛みをじわりと感じ始めていた。毒の種類は分からないが遅延性の神経毒だと思う。アエナとエル・シドはワタルをかばうようにして彼女に問いかける。


「やっぱり、あなた、マ・ゾールの手下なのね!?」


「違うし。手下とか柄じゃないし。」


「じゃあ、なんでワタちゃんに危害加えたのよ! 関係ないじゃない。」


「そうね。 関係ないわ。でも面白くなかったし、だ・け・ど、お礼も言わずに行こうとするのは無礼ってもんじゃない?」


「そんな理由で人を殺そうだなんて狂ってるの?」


アエナ達は今まで倒したことのないタイプの魔物に恐怖していた。人間が一番恐怖するのがおそらく幽霊やゾンビという事象ではなく自分の知らないことや見たことないものに出会った時であるために彼らに恐怖を感じさせ、戦慄を走らせた。ダークエルフはのらりくらりとしながら様子をうかがっていた。そのうちワタルが目覚めると


「どいてください。世界の平和がかかってるんです。お礼、言わなかったのはあ、謝りますから。」


とぎれ途切れになりながら起き上って懇願するワタルにアエナが寝るように抑えつけていた。でも、その手をふりほどいた。起き上がり、剣を構えて冷や汗をぬぐい


「どかないなら押し通るまでです!」


とワタルが声をふり絞り叫んだが、アエナが目の前に立ちふさがり「やめて、私がやるから」と何度も言ったが、言うことを聞かずに強引に振りほどき剣を彼女へと向ける。彼の目からは何か覚悟の様なものを感じる。


 僕はこれまでアエナにばかり任せていた。手負いになってしまったとはいえ、ここは少しでも役に立ちたい。もっと彼女と対等に助けあえる人間になりたい。だからここは僕がこの剣で敵を倒さなければならないんだ!


 その覚悟が通じたのかダークエルフは少し嬉しそうにワタルに手招きで誘った。


「そうか、君が引き続き遊び相手になってくれるのね。じゃあ、私と踊りましょうか、死のダンスを、」



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