冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第23話:彼らの意志、時代を超えて

マ・ゴンテが復活した。これは僕たちにとって最悪かもしれないけど、一つのチャンスなんだ。だって、アエナが、もしかしたら帰って来れるかもしれないからだ。目の前の魔女は美しくもはかなく冷たそうな白い肌と白や青が交じったような衣装を身にまとい、周りでは吹雪が舞っている。彼女を倒して、この時代の悠久の石を取り戻すんだ。
 足を踏み込んで真っ向から勝負を挑む。ウガルさんやエルさんは辺りに散らばった雪の塊から生まれた番犬「スノウハウンド」に立ち向かっている。自分の持っている恒久の石を守りながらということもあるから慎重にジーンズのポケットに入れておいた。マ・ゴンテは吹雪を自在に起こして僕たちを翻弄する。冷たい風で手がかじかんできた。震えながらも剣をしっかり持ち、切り込んでいくがすんでのところで彼女は雪と化してしまう。実態のない相手には打撃や剣撃は不利だ。そんなことは分かっている。でも今はそれしかできない。ウガルさんもエルさんも雪でできた番犬に苦戦している。


「どうしたの、ぼうや。 そのスノウハウンドも私本体を倒さなければ永遠に復活するのよ。どれだけお友達が炎で牽制しても時間の問題よ。勇者ならこの私を倒してみなさい!」


苦戦したのちワタルが怯んで腰を落としてしまった。このタイミングを見計らうかのように、この魔女、やたらと自身があるのか、言葉でワタル達を囃したてている。ワタルが体勢を立て直し、立とうとしたその一瞬、マ・ゴンテは目の前から消え、瞬きをして気が付けば目の前に現れていた。彼女はワタルの首を片手でつかみ、もう一方でポケットから恒久の石を手にする。
すると、彼女の体の中で丸いものが共鳴して光っているものがあった。それはおそらく悠久の石。それはだれしもが確認しなくても分かりきっている。彼女は恒久の石を手にするとワタルをいらなくなったぼろきれのように捨てた。恒久の石を彼女は体内に取り込むと胸の中心が緑色に光輝き、それはマ・ゴンテに力を与えているようだった。彼女は勝ち誇ったかのようにワタル達に


「この二つの石さえあれば世界を手にしたことと同じ! もはや、お前たちには倒すこともできまい!」




マ・ゴンテの新たな力の目覚めにより苦戦を強いられるワタル達、その一方でアエナ、オーガスは時間の概念を超えた無の世界に存在していた。それは石の効力と相まってマ・ゴンテの攻撃によるものなのだろう。アエナが起きて見渡すとそこは辺り一面が白く、見まわすとオーガスがいた。だが、彼の姿は今までと違うように感じた。人間ではない姿のようであった。


「オーガス、あなた・・・」


「やあ、アエナ。これが本当のボクの姿さ。」


彼の姿は今まで彼自身が犯してきた罪の重さか、醜く、怖ろしい姿だった。だが、アエナはその姿に驚きはせずに先ず、なにがあったのかを聞いた。


「君のせいさ、アエナ・マクスウェル。 ボクは君を守るために、一緒になるためにここまでやってきた。なのに君は拒否し続けた。挙句には自ら死にに行くなんてよっぽどボクの事が嫌いなのかい?」


オーガスは顔はそれこそ笑顔のようだったが彼自身の歪んだ心が見え透いた嘘の顔を通り越して見えてより一層恐怖を感じた。彼はアエナに近寄るが、アエナはその一歩一歩を同じように下がっていった。その中で薄ぼんやりと自分自身の事や身の周りの事を思い出してきていた。


「嫌いという訳じゃない。狂ったあなたを止めるためにこうやって別の次元に飛ばさせたのよ。これで誰かが助けに・・・」


「助けにって誰が助けてくれるんだい?」


その言葉に彼女は固まってしまった。核心は無いけど、ぼんやりとした記憶の中で見えるシルエット。きっとその人なら助けてもらえると信じていた。だが、その顔も名前も記憶からすっぽり抜けてしまった。誰なのだろう。アエナは焦りながらオーガスをにらんでいた。


「まだ、思い出せてないみたいだね。 それよりボクの事はどうだい? なにか思いだせる事は無いかい? といっても、君には身に覚えのないことかもしれないけどね。」


「私が物語で語り継がれていた勇者で、あなたはそれに出てくる善の心を持った魔物・・・?」


オーガスはしばらくして語り始めた。自分とアエナの関係についてを。
 オーガスとアエナとの運命の輪は語り継がれてきた伝承「アエ・ルナ聖戦記」にさかのぼると彼は言った。アエナは勇者として、オーガスは魔王の一味として彼女の前に立ちふさがった。しかし、彼女の寛大な心により邪悪な心と善の心を分離して「ベ・リット」という人格と「オーガス・トムゼン」という人格に分かれた。だが、その歴史さえも彼女たちの行動によって変わっていった。そしてオーガス自身もアエナに愛情を求めていた。だが、実らず、善の心も荒んでしまい、悠久の石を宿したマ・ゴンテを殺し、彼は世界をリセットした。それは何でもない日常、だがオーガス・トムゼンはアエナの幼なじみとして生まれたのだった。これが全ての始まりだった。


「アエナ、今度こそ君だけをボクの手で幸せにしてみせる。たとえ、それで世界が滅びたとしても。」


「そんなの事、絶対にさせられない。 私のせいで世界中の人が、ましてや彼が、“かれ”?」


オーガスはアエナに襲いかかろうとした。なぜかアエナは抵抗せず、ただおびえて尻もちをついてしまった。その時、自分の上着からカランと硬いものが落ちた。繋がってはいないが腕輪のようなものだった。腕輪には黒くたいらな部分があったが、黒曜石でもない独特の光沢感のあるものだった。どこかで見たことのあるものだったが使い方の分からないものをじっと見つめていると黒い部分が光り始めた。
















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ワタルは考えていた。アエナを取り戻す方法を、だがマ・ゴンテを倒せていないいま、彼女を倒し、対となる石を使ってアエナを取り戻すことが今、やるべきことである。その想いはエル・シドやウガルにも通じていた。だから一緒に戦えている。二人はスノウハウンドの猛攻から逃れ、ワタルのもとへと集結していた。マ・ゴンテの強力な魔力は三人を苦しめる。だが、このままではらちが明かない。そこでウガルが作戦を建てた。


「おい、さっさと片付けんだろ。俺の合図でエル・シドは鞭であいつの両手縛れ。 そしたら、ワタルお前があの女にとどめをさせ! ええか、チャンスは一回きりと思え。やるぞ。」


ウガルは右手を地面に置き、左手で構える姿勢から一気にジャンプした。マ・ゴンテはこの動きに気を取られていた。ウガルはそのままマ・ゴンテの顔面を足で強打すると同時にエル・シドの両手に装備したサラマンダーがマ・ゴンテの両手に巻きついていく。サラマンダー自体炎系の技なので相手を十分に怯ませられる。ワタルはタイミングを見計らってマ・ゴンテの方に飛び込んでいく。だが、マ・ゴンテは力をため込んでいた。彼女は腕に絡んだ鞭を使って大きく廻ってワタルを蹴りあげた。ワタルは反対方向へと吹っ飛んでいった。マ・ゴンテがエル・シドを振り払うとワタルの方へと向いてとどめを刺そうとしたがワタルはまだ諦めるわけにはいかない。突然にズボンのポケットからバイブがして取り出すと水晶板がマ・ゴンテの体内にある石に共鳴していたようだ。それに気付いたのかワタルは彼女の光っている胸部に水晶板にあてた。
 時が止まったようになっていたが水晶板のバイブは鳴りやまない。ワタルは起動してその水晶板を右耳に当てる。






「もしもし・・・」


どこかの誰かの声。でもどこから、もしかしてここからなのかと思いアエナも使い方の分からなかった腕輪を手に取る。


「もしもし?」


女の人の声だった。機械的な雑音のせいで聞き取りづらくわかりにくかったがワタルは間違いなく彼女だと確信した。


ワタルは彼女に今どこにいるのか、何があったのかを聞いてはみたものの彼女はよくわからない様子だった。


「ごめんなさい。 あなた・・・誰ですか? 私の知っている人?」
「あたりまえだよ。僕自身君を知っている。君も僕の事をよく知っている。」


よくわからない物体から聞こえてくる“彼”の声は聞いたことがあるというより、とても落ち着く声だった。それは多分懐かしさのようなものだとアエナは感じていた。全てを思い出せずにいたが言えることは向こう側にいる“彼”こそアエナ自身が待ち望んだ「彼」だったということだ。


「私を助けられるの? どうやって、」


「きっと僕は助けられる、いや助けて見せる。だって、君は一番最初に僕を本当の名前を言って魔王の呪縛を解いてくれたんだ、アエナ・マクスウェル。さあ、思い出して! 僕の名前を呼ぶんだ!」


その時、アエナは苦しんでいるようだった。いままですっぽり抜けていた記憶が映像として一気に流れ込んできたのかアエナは相当苦しんでから、はっとしたように彼の名前を思い出した。


「わ、た、る・・・そう、全てを思い出せたわ。あなたの名前、佐江内ワタル! ワタル、私をここから出して!」


その時、動いていなかった周りの時間が動いたかと思うとマ・ゴンテは自分自身に刃を向けていた。剣先は丁度石が光り輝いているところだった。何をしているのか、何が起こっているのか分からずにおどおどしているとマ・ゴンテが


「おまえのためじゃないぞ。低級魔王。私は私を殺したあのエゴイストのオーガスト・べ・ムゼンリットにひと泡吹かせたかった。ただそれだけだ。そもそも、この時代には私という魔王は存在しないのだ自害しようと殺されようと同じことよ。」


切られた切れ目から大きな渦が立ち込めその中には希望に満ちた少女と自分のやりたいことがうまくいかずに苦虫を噛んでいる魔王がいた。ワタルはアエナに手を差し伸べて助け出す。魔王、ベ・リットはただ見守っていた。アエナを助け出すとアエナの足をつかみ、この時代にオーガスも戻ってきた。オーガスは魔王の姿でワタルの前に現れた。マ・ゴンテは自分体内にあった悠久の石と恒久の石だけを残してしてやったりと笑みを浮かべて消滅しかけたがその残りの力をオーガスが禍々しい右手で吸収した。


「もう、いい人ぶる演技はやめだ。ワタル、お前は最初からボクにとって異質な存在だった。だからお前さえ消せばアエナはボクのものになるはずだ。だから、死ねよ、死ねよ!」


飛びかかろうとするオーガスにワタルは初めて拳を使って彼を殴った。人を殴るのもましてや魔王を剣ではなく拳で殴ることは無かった。ワタルは拳を震わせながら


「いい加減にしろよ! もうあんたは仲間じゃない。アエナをこんなにも苦しませてるのが分からないのか!?」


オーガスは殴られて切れた口からでた血をぬぐいながら立ちあがり


「・・・おまえの、お前のそういう説教くさい所が嫌いなんだよぉ!!」


殴りかかろうとするとアエナが割って入り、ダガーナイフを突き刺した。オーガストは驚いた顔をしてナイフが刺さったまま後ろへ引き下がった。それを合図にするようにいっせいに影の集団が現れた。さっきのアサシン部隊だ。彼らはオーガスを小刀で刺して抑えつけていた。当然暴れ出すオーガスの体からは血がにじみ出ていた。


「お前たちの事情はよく知らんが、こいつが敬愛するマ・ゴンテ様の敵であることは分かった。ここは我々に任せろ。」
「いいのか? 僕たちは敵なんじゃ?」
「我々はマ・ゴンテ様の指示のみ聞き、行動する。マ・ゾールなど、ましてや世界征服なんてあの方がいなくなった今、全く興味はない。勝手にしろ!」


アサシン部隊の力強い後押しのおかげでオーガスを置いて何とか城を脱出する四人。いよいよ最後に待ち受けるはマ・ゾールのみ。彼らは大急ぎで山をかけのぼっていく。





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