冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第21話:恒久の時:雪のかけら

ワタル、エル・シド、ウガルの三人は無事にルナへと戻ってきた。王国内は復興への活気で希望を取り戻しつつある。話せる人間がいないかと辺りを散策するとワタルにとって見覚えのある人物がいた。その人物はワタルを見るや、駆けつけてきた。


「サ・タールの旦那! 帰ってきたのか!? なんで、」
「騎士団長、今はワタルで大丈夫。 それより力を貸してほしい。」
「お嬢ちゃんの事かい?」
「んな!? なぜ、?」
「見当たらねえし、あんたが途中で帰ってくるような奴じゃねえからな。」


ワタルは彼に一連にあった事を説明し、早急に恒久の石のありかを教えてほしいと話した。騎士団長地震話しの内容は理解を示し、助けようとしたが、少し顔が曇っていた。彼はワタルとひきつれている二人に申し訳なさそうに切り出してきた。


「協力してやりたいが連れてる奴がなあ… 一応この王国はモンスターにやられてるし、」
「そ、そうでしたね。 すいません、二人は王国の外で待っててもらえますか?」


ワタルが二人に王国の外で待ってもらうように言い、ウガルとエル・シドはちょっと愚痴をこぼしながら街の外へ出ていった。それを見計らったかのように国民の何人かが作業をやめてこちらに話しかけてきた。その形相はワタルに対して怒っているようだった。住民は開口一番にらみをきかせて


「おまえ、どの面下げて何戻ってきたんだ! 勇者はどうしたんだ!」
「どうせ裏切ってここを取り戻しに来たんだろう!?」


「落ち着いてくれよ。 こいつは、別に悪い奴じゃないって知ってるだろう?」
「でも、魔王の手下には変わりなかった。俺たちを苦しんでいたのを見てたんだ。どうせその時、楽しんでいたんだろ!」


国民の大声にぞろぞろと駆け寄っては根も葉もない根拠を並べてワタルは勇者を裏切り、ここへまた侵略しに来たと思われてしまった。ワタル自身、この間まで敵だったんだ。けど急に味方になって謝られて、国を去られたんだ。混乱してるのも無理は無いかもしれないと考えていた。しかも、勇者もいなく、連れていたのは元魔王と襲っていたモンスターの一種なのだからなおさらだろう。
 ワタルは少し考えた。それは他の人にとっては瞬時の出来事かもしれないが彼にとっては時間が止まっているように感じた。そして彼は膝を折った。


「お願いします、皆さんの力が必要です! ここでの事を忘れろとか、水に流せとかは言いませんが勇者アエナの窮地を助けるため、この世界を救うために!」


ワタルは必死に、辱めを受けてでもそのまま「お願いします」と連呼していた。彼は生きている中で土下座などしたことがなかった。しかも自分の戒めのための謝罪ではなく、他人のため懇願する事をしたことがなかった。それは、彼にとってもアエナ・マクスウェルという存在は大きいものになっていたということなのであろう。


「頭 あげてくれよ、旦那。あんたの覚悟はみんなにも分かってもらえたんじゃないかな。」


僕の覚悟は分かってもらえたかは正直分からない。でも、これだけは確かに言えることがある。それは完全にさっきの嫌悪の眼差しが徐々に消えていたのが床を見ていた僕でもはっきり見えた。これがわかりあえたってことなのかな? 僕は立ち上がり、恒久の石の話をした。丁寧に、熱心に。先程、悪口を言っていた人は無言で立ち退いていくと、一番最初に文句を言っていた国の年長らしき人物がごつごつした石を持ってきた。あれが恒久の石なんだろうか。


「あんた、名前は?」
「佐江内 渉です。」
「ワタルよ、お前を許せたわけじゃないが勇者をお救いするにはこうするしかあるまい。ちゃんとやれよ。役目を果たせなかった時は今度という今度ははりつけにして火あぶりにするからな!」


その人の目はほんとにやりかねない目つきをしてたけど、その人なりの励ましと思っておこう。そうじゃないと胃も心臓も持たない。手渡された意志を受け取り、僕はやや苦笑いになってありがとうとだけいって会釈をして外で待つ二人の方へと向かった。話している間に雲行きが変わり、外は雪が降り始めてきた。人気のない寒空で放置していた彼らに少し申し訳なさそうに謝り、僕らは元いたベテルク帝国へと向かって行く。


王国を出ていくワタルの背中を見ながら騎士団長は見えなくなるまで遠くを見つめていた。それに割って入ってきて、先程ワタルに楯ついていた住人の一人が団長に話しかけた。


「騎士団長、あれでいいんですかい? 少しあの少年には悪いことをしたような・・・」
「いいんだよ。あれで自分がなにしなくちゃいけないかわかったろうし。」
「なんで、あなたは彼がここに来ることを?」


「さあな、神のいたずらだよ!」


ルナ王国騎士団 団長、カイ・ドレクス自身もまた、アエナと同じく数奇の運命を送り続けた男である。全てを知っていたかのように見透かしてワタルに手を貸すさまは、それこそ神の意志なのか、必然の出来事か。その真相や真意は彼の体験によるものなのかもしれない。
 こうして彼らの世界は誰も予想のできない未来へと繋がっていく。螺旋やばねのように時代や意志が交錯していく。彼らの終着点はどこへ向かうのだろう。





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