冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第20話:悠久の時:雪のしぐれ

 ベテルク帝国を出るワタル、エル・シド、ウガルはウガルの言葉を頼りにしながら悠久の石があるというマ・ゾールの城がある山のふもとまでやってきた。辺りは元々、節減地帯だったのか、草木も生えてはいなく、廃墟がちらほらとあるだけだった。頂上を見上げるとマ・ゾール城が見え、それは山をえぐって禍々しく佇んでいる。雪のなごりは山の頂上しかなくふもとには冷気だけが来ていて少し、肌さむい感じがした。
ワタルが風景に見とれてきょろきょろ見渡しているとウガルが話を切り出してきた。


「ここはかつて、マ・ゴンテという雪の魔女の縄張りだった。だが、大昔に勇者によって倒された。その彼女が持っていたのが悠久の石。それがマ・ゾールを倒す最後の宝具だった。」
「じゃあ、このあたりのどこかに石があるんですね。」
「知らん。あるかもしれんし、無いかもしれん。なんにせよ、気を付けた方がいい。ここには・・・」


言いかけたとたん。物陰からさっと現れ、姿を現したのは黒装束に雪の結晶が描かれた鉢がねを巻いたヒト型のモンスターだった。着ているそれはまるで忍者衣装だった。忍装束風の服装をを身にまとうモンスターはワタル達三人を囲う様に並び彼らを威嚇する。


「マ・ゴンテの手下残党のアサシン部隊か! 面倒やな。」
「ウルフちゃん、どうすんのよ!」
「ウガルや。 とにかく戦うしかない!」


ワタル、エル・シド、ウガルは三人で互いの背中を守る形で戦う姿勢をとった。
一瞬の静寂、そののち、アサシン部隊は一斉に襲い掛かってきた。それを合図に三人は散開していった。ウガルは自慢の爪を使い、相手を切り裂いていく。エル・シドもサラマンダーで大勢の相手を翻弄する。相手との能力は五分五分といった所でウガル、エル・シドの間にはいまだに緊張感が走る。
しかし、二人はワタルとは違い、修羅場をくぐりぬけているため戦いを優勢へと運び入れる。優勢で戦いを進めている頃ワタルは苦戦を強いられていた。相手は素早い速さを得意とするアサシンである。しかも相手は手練れでアサシン部隊の長のようだった。長はワタルを圧倒的に剣術でも速さでも勝り、さらには言葉でも彼を攻め立てる。


「マ・ゴンテ様をお慕いする我ら、ダークアサシン部隊、隊長である私にお前のようなへっぽこ勇者にやられる訳がない!」
「くっ・・・確かにつ、強い。 だからといってひ弱なままで終わるようには鍛えられてない!」
「くらえ! 暗殺アサシン妖術イリュージョン、吹雪の舞!」


ワタルの周りにはとてつもない冷気、そして氷の礫がワタルに襲い掛かる。到底剣さばきでは自然の摂理をさばくことはできない。ワタル自身も剣も凍り始め、万事休すかと思われたがワタルは意外にも冷静であった。普通、極限状態だと体中が悲鳴を上げ、思考も鈍る。しかし、世の中の言葉には「火事場の馬鹿力」という潜在能力を示唆する言葉がある。彼は、その境地に入り、思考はいつもよりも冴えわたり、エル・シドに自分の考えを伝えた。


「エルさん! 僕にサラマンダーで燃やしてください。」
「あなた、そんな趣味が?」
「いいから! 早く!」


ワタルの言うとおり、エル・シドはサラマンダーでワタルを火あぶりにした。 彼は少し、こげながらも前に進んでいった。走りは遅かった。だが、その分の突撃の重さは妖術をかけたアサシンをも吹っ飛ばした。アサシン部隊の長たる人物がやられたとあって驚き、部下たちは彼の元へと向かって行った。ワタル達はそれに乗じて彼らを囲み、剣で脅しをかけた。


「大人しく、ハァ、してもらおうか。」
「こいつ・・・。 まあ、仕方があるまい。大将である私が大手をかけられたんだ。抵抗はせん。」
「悠久の石はどこにある?」
「ここにはない。」


「あかんか。じゃあ、どうするか。」
「お前たちは何ゆえに石を必要としてるんだ?」
「ある人を救うため。」


アサシンたちは少し輪になってなにやら話し合いを始めた。三人には聞こえていなく理解できずに眉をひそめて見守るのみだった。しばらくすると会議はお開きになり、三人の方に向き直ってはアサシン隊長が話しを切り出してきた。


「ならば、少し手を組まないか? 我々もそれを欲している。せめてものマ・ゴンテ様の形見として置いておきたい。」


明らかに罠のにおいがすると三人は思った。エル・シドは罠だといい、やめておけといい、ウガルは情報が必要だから乗っておいて損はないという。ワタルは二人の意見をかみしめながら考えた。少しの間うつむいて地面を見ていたがやめて前を向いて口を開いた。


「・・・手を組みます。 今はアエナを優先するほかない。 罠かも知れないけど僕たちは情報が欲しいです。」
「いいだろう。交渉成立ということで話を進めよう。 悠久の石を探すには別に恒久の石を持ってくるのだ。石は王宮にあり、悠久の石とは対の存在で探すために必要なのだ。 もちろん君たちにご足労願う。これが条件、どうかね?」


「なるほどな。 それやったら確かに確実やな。」
「ウガルさんも知ってるってことは正確な情報かもしれないですね。」
「じゃあ、また王国に戻るの? 」


エル・シドとウガルは渋っていたが、ワタルに戸惑いは無かった。アエナを救うため、世界を取り戻すために必要なことは何でもするつもりだった。ウガル、エル・シドは彼の決意の眼差しに妥協し、王国へと戻る事にしたのであった。

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