冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第15話:脱出 虚獄の檻

 帝国に乗り込もうとしたワタル、アエナ、エル・シドは道中の酒場で帝国の支配者サンクト・ベテルク侯爵の親衛隊に拘束され、地下独房へと入れられてしまったのであった。収監される途中、全員が目隠しされていたため、脱出の手段も立地も情報もなく行く手を阻んでいた。そこには収容されているワタル達の他に酒場で知り合ったウガルも別部屋で収容されていた。


「ワタル、ここに来てどれくらい?」
「三日半くらいかな。水晶板スマホ的に」
「それ、時計も見れるのね。」
「他の機能はここでは使えないっぽいけど。」
「他って?」
「ああ、ゲームとか、SNSとかかな。」
「また訳わかんない事言ってる。でも、一度見てみたいわ。あなたの世界、平和な世の中なんでしょうね。」
「さあ、どうだかね。」


「ちょっと二人とも、よくそんな平気で談笑していられるわね。」
「いや、実際何もできないんだから仕方ないじゃないか。」
「いつもの何とかしようとするワタちゃんらしくないわよ。アエナちゃんも。」


二人とも早くここからでなければならないのはよくわかっている。だが、この虚無の空間の中ではどうすることもできないと二日目ほどで悟ってしまったからだ。悟りきった二人にエル・シドが久しぶりに声色を変えて


「お前たちはすぐに諦めるような奴らだったのか? だとしたら残念でならない。私は、君たちにこれまでにも諦めない心を幾度となく見せていただろ。」
「根性論は得意じゃない。これまではやれる可能性があったからやってたんだ。鉄格子は剣では切れない。」
「じゃあ、私は突拍子のない可能性に賭ける!」


すると月の楯を取り出しては鉄格子目がけて投げつけた。月の楯は満月のように丸いためきれいに弧を描いて格子の方へと向かって行った。楯の構造には仕掛けがしてあり表面上にはダイヤモンドコーティングがされており、防御としても優秀で投げれば殺傷能力の高い兵器にもなりうる。もちろん、彼らはそれを知らない。だが、本能的に道具の特性を見わけ、実行しているのである。
 楯は檻を火花を散らしながら切断していく。カランと床に落ちた時にはもう檻は人一人が通れるくらいには開いていた。彼らが外に出るとそこに不運にも骸骨の見張りがいたがエル・シドが楯を拾ったと思うとものすごい雄たけびと共に猛突進で駆けつけ骸骨の骨を粉砕して行った。 骸骨から鍵を拾うと


「これで、分かった? どんな時にでも諦めれなければ活路はあるって。」
「うん、とりあえずあなたを怒らせると怖いっていうのは 」
「確かにここにいた時の私たちは弱気もいいところだったわね。」


息を整えている所に異変に気付いた残りの見張りがこちらに向かい
「人間を虚無感へと誘い、脱獄させる事のない無の煉獄、“虚獄の檻"を自力で破るだと!?」
「私はね、型破りな“女”なのよ。そんな修羅場の一つや二つ、既に乗り越えておるわ! 経験の違いよ! さ、あたしのサラマンダーちゃんの餌になっちゃいなさい。」
「ふざけるなぁ!」
「捕えろ!」
「オオウラァッ!!」
雄たけびとともに散華のように舞う骨をよけながら三人は地上を目指して行く。目指そうとしたところでふと思い出して監視員のポケットから拾っていた鍵をワタルは急いでウガルのいる所へ向かった。ウガルは独房の中で寝転びながらこちらを向いていた。


「あの、あなたベテルク侯爵の秘密を知ってますよね?」
「ああ、だからなんだ。」
「一緒に戦ってもらえますか。」
「いやだね。 だが、戦うというのも悪くない。少しの間だけ協力したるわ。」
「あ、ありがとうございます!」


ウガルとワタルが一緒に先へ行くエル・シドとアエナに合流しようとしたが


「俺は先に用がある。 お前は姉ちゃん達と合流して先に奴のところへ迎え!」
「え!? あ、はい。」


地上前でエル・シド達と合流してウガルとのことを話そうとしたがタイミングを逃してしまった。地上に出るとそこは侯爵の居城の大広間の一階に出ていた。そこは扉が一階にも二回部分にも見えていた。アエナ達は急いで侯爵の居所を見つけようとしていた。すると二階正面、大階段から見える大きな扉が開き奇妙な声が聞こえてきた。


「勇者たちよ、待っていたぞ。 さあ、中へどうぞ。」


「どうする?」
「私もワタルにそう聞きたかったけど、ここは入るしかないでしょう? なにせご本人様直々なんだから。」
「そうと決まれば善は急げね。私もあなたたちについて行くわ。」



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