冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第14話:帝国の掟

 魔王の親派の多いここ、ベテルク帝国では勇者は受けいられるわけもなく住人はいつ勇者の寝首を搔いてやろうかと獲物を見据える眼差しで見つめている。それでも、情報の欲しいアエナ達は帝国の城下町を探索して行くのであった。


「それにしてもほんと、ヤな雰囲気ねぇ。」
「それでも、マ・ゾール討伐のためにはここを通らないといけないし、第一、七宝もあと三つ必ずどこかにあるはずよ。それも探さなきゃ。」
「あ、あそこで聞いて見るって言うのはどう?」


ワタルが指差したのは荒れた雰囲気の酒場のようであった。丁度三人は喉が渇いていたのでワタルの意見にのって入っていくことにした。店内には帝国内外のならずものと言いそうな顔立ちばかりで、三人に興味なのか殺意なのかは分からないが熱い視線を送ってくる。カウンター席の方へと向かい、三人は一列に座ると同時にマスターが


「ここはお嬢さんらみたいな子供が来る場じゃねえ。ましてや、魔王を倒す運命を宿す証を持ったお嬢さんは特にな。」


マスターはアエナやワタルたちをみて吐き捨てるように言った。二人はここで気合い負けしないようにマスターをにらみ続ける。そんな中でエル・シドは彼の事を知っているような口ぶりでマスターに話しかけた。


「でもここでのルールは“どんな人間にも情報を提供する”じゃなかった?情報屋さん。」


「エル・シドか。チッ、面倒な奴だな。分かった。情報はやれんがこれを飲んだら帰れ。」


情報屋と言われたマスターは三人から離れ、何やら飲み物を作っていた。豆を挽いたりお湯を注ぐのはまるでコーヒーを入れるバリスタのような丁寧な仕草で三杯注いでいった。カウンターに座る三人の前に戻り、コーヒーのようなものを出してきた、それをそれぞれが何のためらいもせずカップに手を出し始める。 マスターはあきれた表情で


「普通、敵地なら、毒入ってないかとか警戒するだろうに。まあ、いい。ここからは俺の独り言だが聞くも聞かないも自由だ。」


「彼はこういうスタイルなの。いつもこうやって飲み物ついでに何かのヒントをくれるの。」


エル・シドは飲みながら二人にひそひそと彼のスタイルについてニヤッとしながら言った。マスターはすかさず咳払いして話を続けた。


「・・・この先は密告に注意しな。勇者はいるだけでもブタ箱入りかも知んねえ。ひどけりゃその場でギロチン、うまく転んでも飼い殺しだな。女の勇者ってあれば後者は濃厚だな。しかし、ここから出られる方法も知っている。帝国の長、”サンクト・ベテルク”侯爵に謁見し通してもらうか、倒すかのどちらかだな。」


「倒す、方法は?」


アエナが質問すると、酒場の空気が一気に貼り詰め、客人全員が先頭体勢に入った。 すかさず、ワタルやアエナが剣を持つが、カウンターの奥に一人座っていた男が左手をあげた。するととたんに客人たちは自分の席に戻り、再び沈黙が流れた。奥の男はフードを被っていたが肉食獣のような口元をこちらの方に見せながら


「やめとき、姉ちゃん。そう、死に急ぐなや。ここでのルールは情報聞いてる時は何も訊かない、話さない。・・・それ、俺のおごりや。それが最期のティータイムかもしれんからのう。」


マスターが少し一礼すると話を続けた。


「倒す方法なんて知ったこっちゃない。知る由もないね。なぜか。ここいらのボスであり帝国の長、サンクト・ベテルクは誰も姿も、その人の能力さえも、知らない。謎のボス。徹底した秘密主義者だな。以上。俺の独り言終わり。飲んだら帰れ。これは警告だ。」


マスターは三人に釘を差し、他のテーブルへと回っていった。少しすると活気づいたように談笑が増えていき酒場はにぎやかになった。ワタルは僕たちが来なければここも今みたいに普通の活気ある酒場だったのだろうと思った。一方アエナはさっき命を助けてくれた彼の方に向いて


「さっきはどうも」


無言で合図してしばらくしてから


「姉ちゃんには弟たちが世話になったみたいやからな。少し顔が見たかったんや。ったく、勇者といえど、女に手ぇだしたいうことはあいつらもだいぶおちぶれとるようやなぁ。」


と言いフードを外すとそこにはオオカミの顔立ちをした戦士の姿、いわゆるワーウルフだった。彼の左目から頬にかけてには痛々しい生傷があった。彼はアエナとどういう関係なのだろうか。アエナがもしやと思い訪ねてみた。


「もしかして、ルナに向かう際、襲ってきたワーウルフの三人のさしずめ、兄貴分って事かしら?」


「そうや、名のるほどでもないけど、ウガルや。なんかあった時はよろしく。 それとこれは姉ちゃんだけに言うとくけど、俺はベテルクのアホは俺も気に食わん。やから、弱点を教えてやる。それは・・・」 


酒場の入口から軍服を着た骸骨の部隊が銃剣をもって扉をたたき割って乱入してきた。


「アエナ・マクスウェル及び、仲間三名! 帝国勅命により身柄を拘束する。抵抗すれば命までとは言わんが四肢が無事で済むと思うなよ。それと、そこのワーウルフ! 確かウガルと言ったな。お前も反逆罪で投獄する。」


骸骨達はこつこつと音を立てこちらに向かってきて三人とウガルを囲む。他の客人は興ざめして席を立つものや三人の旅人と反逆者を嘲笑っていた。ここで一戦交えてもいいがどうせ彼らの長に会えるだろうと思いアエナの合図で両手をあげ三人は抵抗しなかった。それを不思議にも思わず、骸骨兵スケルトルーパーはアエナ達を手錠や拘束具を使ってウガルと一緒に帝国内監房に連行していった。
帝国の中心であるベテルク侯爵の居殿、深淵ダーク宮殿パレスの地下深く内に監房があり、そこには虚無の地獄が待っているという。彼女たちの運命はここで終わるわけにはいかない。



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