冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第12話:迷宮の謎を解け! 後篇

 階段の先は割と開けていて三つほど扉があった。その前に目の前の奴をどうにかしなけらばならない。
「なんかぷよぷよしてるし、思ったよりたくさんいるんですけど!」
「ネバネバが足にひっついてる! やだ、気持ち悪い!」
「アエナちゃん、ワタちゃん。スライムって言うのはこういうものなのよ。・・・でもね、こんなに多いと気持ち悪いわよっ! どきなさいよあんたたち。」
スライムは本来、いたとしても単体で動いていることが多い。しかし、そこには虫が湧いているようにうじゃうじゃ、ねばねばとうごめく水溜りが扉を塞いでいる。
スライムは粘着性のある液体を体内から吐き出し、身動きを取らせず、溶解性の体液で人をもくらい尽くすと言われている。
「来るな! もう、えい、えい!」
ワタルがこちらへと向かうスライムを見境なしに切り込んでいく。しかし、スライムは何もなかったかのように突き進み続ける。
「打撃が効かないことくらい常識でしょう?こういうのはおガスちゃんみたいな魔法系がっていないのね。私はどちらかと言うと格闘タイプだし・・・」
「いや、こういうのは雑魚キャラだと思ってたんですけど!? ていうかエル・シド、魔法使えないのか?」
「そういうあんたこそ魔法の一つくらい唱えなさいよ。 ああ、もう気持ち悪っ!どっか言ってよ。」
「二人とも、なんか炎系の魔法か火打石無い?それで焼き払ってしまえば済む話よ。」
「こうなったら奥の手ね。二人ともさがっててちょうだい あ、、アエナちゃん動けなかったわね。 じゃあアエナちゃん中心にして陣形取って。」
エル・シドの言う通りにするとエル・シドは自分のポシェットから鞭のようなものを二本取り出しておもむろに地面にたたきつけた。しなる鞭はカチッカチッと変な音を鳴らしながら火花を散らして舞っていた。しばらくすると火花は炎に変わり、鞭の先端から途中までが燃えているようだった。
「これぞ、エルちゃんお手製、お仕置き用火打ち鞭『サラマンダー』よ! さ、あんたたち!私の舞いについてこれるかしら?」
サラマンダーはエル・シドの鞭さばきもあり、的確にスライムを根絶やしにしていった。大量にいたスライムは恐れをなしたのかどこかへと消えてしまった。
「なんで、隠してたの? そんな秘密兵器。」
アエナが疑心の眼差しを向けるとおびえながら
「怖い顔しないでよ。秘密は秘密の方が面白いじゃない? それだけよ。」
エル・シドがアエナを捕まえていた粘着物を取り除き、少し悪びれた顔してうつむいていた。アエナはため息をついて気を取り直して
「先を進みましょう。 これ以上体力は使いたくないわ。」
三人は扉を見つめてなんとなく真ん中を選び進むと扉が見えてあけるとさっきの右側の扉に出ていた。さっきの戦闘で床の焼けた跡があるから分かる。
真ん中と右が繋がっているとしたら残りは左になるので左のドアを進んだ。正解かどうかはすぐ分かった。新たな場所と扉に出くわしたのだ。
今度は二つで扉の間の両端に宝箱があった。扉と扉の間には張り紙があり『ハコの中のカギをとり正しいトビラへと向かうべし。』とあった。


「こんなの確立の問題だよ。ていうか両方開ければいいんだよ。 アエナ、手伝って。」
「確かにそうね。じゃ、私は左側を」
「ちょ、ちょ、ちょっと!? そんなんでいいの? どっちかは罠かもよ?」
エル・シドの不安そっちのけで二人は同時に開けた。しかし、鍵など見当たらなかった。二人は首をかしげつつ箱を戻した。
「ほら言ったじゃない。」
「いや、もう一度探せばさ・・・ あれ?」
ワタルがもう一度箱を開けるとそこにはさっきまで無かった鍵があった。
「何だよ、あるじゃないか」
そう言って取ろうとしているところにアエナが力づくで止めて
「いや、やっぱり罠かもしれないわ。一旦閉じて考えましょう。」
宝箱をとじて辺りをもうち度見渡してみる。
白い壁に木製の扉が二つ。
両端に宝箱が鍵も付けずにただ閉じて放置されている。
宝箱は二つ同時に開けた時には無かったがもう一度右側だけあけると鍵があった。
ということはもしかしたら二つの箱にはおそらく仕掛けがしてあるのだろう。
アエナは考えに考えた。しかし堂々巡りで頭を悩ませていた。
「なあ、この部屋に違和感を覚えんのは気のせいかな?」
「どういうことよ。ワタル。」
「白色の壁に何か隠れている気がする。なんか気持ち悪いんだ。もし箱が二つだけなら張り紙には二つの箱の中のどちらかにあるって書かれてもいいはずなんだ。だけどもし他に箱があるとすれば?」
と言いながら手探りで扉の周りを探して行く。そうすると右側の扉の右の空白に四角くて白い箱があった。開けてみるとそこには鍵があった。それをそのまま右の扉に刺すとピッタリとハマり、まわすことができた。先へと進む回廊を抜けていくとようやく奥の部屋への入り口だった。
中に入るとそこには月の楯が台の上に飾られていた。
「よくここまで来たな。勇者よ。 なんだ、ゴルバも一緒か。」
「あら、ドラド。おひさ~、相変わらず質素な暮らしね。」
「エル・シドさん、知り合いなんですか?」
「ちょっとね。深い仲なの。」
「恋人・・・?」
「勇者よ誤解するな。 我が名はデ・ドラド。この関所の番人である。そこにいるデ・ゴルバは我が世界を破滅させた現況だ。」
「元竜王、あんたの世界は元はと言えばあんたが悪いんじゃない。」
「じゃあこの人も異世界の住人?」
「そうね。私たちがいた世界では私とドラドの二人が世界を支配してたんだけどけんかが多かったわ。この世界で唯一こことは違う同じ世界から召喚された魔王ね。」
「説明は済んだか?」
「もういいわよ。 さ、アエナちゃん前に出て」
言われるがままに彼女はドラドの方へと向かった。ドラドはイスを用意して紳士的に彼女に座るよう促した。だが、彼女は少し疑ったように立っていた。
「敵の厚意を無下にするのかい?」
少し緊張した空気が流れ、彼女は静かに座った。
「良い判断だ。 ではこれから君に一つ質問するがね、返答次第ではあの楯をやってもいい。どうする?」
彼女は黙ってうなずいたのでドラドが静かに質問を始めた。


「君は大切な人一人を救いに行くのと君とは関係のない無作為に選ばれた人間複数とをどちらをたすけるかね。」


「正義の選択ね。答えは簡単よ。 無作為に・・・」
「ちょっと、待ってよ。」
突然ワタルが割って入ってきた。
「ちょっとあんた何考えてんのよ。ここはアエナの番でしょ。」
「いや、どっちかって言う風に割り切る問題じゃない気がして・・・。今の旅でも大勢を助けることで大切な人を助けられるかもしれないと思ったんだけど。」
「・・・ふふふ、呆れた考えを持ったバカだな。だが、今までで一番気に行ったぞ。アエナ、君の意見も確かに正解だ。ちなみにどちらが正解と言うことはない。君の、、いや君たちの信念をただ聞きたかった。それだけだ。 その楯は餞別だ。勝手に持って行け。」
何が良かったのか僕にはイマイチよくわからなかったけど無事、月の楯を手に入れることができた。これで後、三つだ。ドラドに送られ、三人は迷宮を出た。そこには新たな大地が広がっていた。
「また、ワタルに救われたわ。 これでマ・ゾールにまた一歩近づいたわね。」
「見て、二人とも。」
エル・シドが差したのはさっき通ってきた迷宮のある関所だった。関所はこの大地から下にあるルナの大地とを結ぶ関所の役目をはたしていた。
「上に登ってきていた意味はこういうことだったのね。」
「多分、ここから先はマ・ゾールの手下が多いから一層警戒した方がいいわ。私たちみたいに人の良い魔王なんてそうそういないから。」
「もちろん、覚悟のうえよ。」


月の楯を誰が持つかということを三人で少し揉めたがじゃんけんで負けたエル・シドが持つことになった。


そして、三人は新たな大地へと進んだ。新たな旅路は今より一層困難になるだろう・・・。

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