冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第10話:料理と世界樹と

ワタル、アエナ、オーガス、そして元魔王エル・シドの奇妙なパーティーはお互いに微妙な空気を放っていた。だが、お互いの信頼や親交をよそに彼らにはやるべきことがあった。アエナとオーガスは魔王への復讐と世界の平和を、ワタルは元の世界へと戻るためである。
「それで、エル・シドが私たちに着いてくることに意味はあるの?」
「そうねぇ、アエナの追っかけじゃダメ?」
「もっと明確な理由があるから私たちと合流した。そうじゃないの?」
「勘が鋭いわね。でも、嫌いじゃないわ! だから特別に教えるわね。 実は、私あの魔王嫌いなの。だって、なんかくさいし、やってることじじ臭いからアエナの若さと勇気?に惚れちゃった?みたいな?」
エル・シドは若干ほほをあからめて言っていた。


「所で、うちの'男子’陣は、何やってんの? 先急ぐんでしょ!」




アエナとエル・シドが“女子トーク”していて前ばかりみて歩いている頃、ワタルとオーガスは後ろの方で歴戦の疲弊でまいっていた。オーガスはへたった声で
「少し、休もう!もうあれから4時間くらい歩いてるぞ~。」
ワタルは声をかける気力もなく腹を抱えながら歩いていた。
「もう仕方ないわね。 でも丁度いいわ。ご飯にしましょ!」
エル・シドがそういうとさっきまでへとへとだった男子二人が生き返った目で簡易野営地を建てた。
「いやあ、やっぱケモイの技術はすごいな! こんなテントも掌に収まるくらいのサイズになるんだから」
「ワタちゃん。休憩になるといきいきするわね。じゃあちょっとリザードでも狩ってきてよ。あと、おガスちゃんは薪とかの木材と野菜類、それに薬草取ってきてよね。」
「その呼び方はやめてくれるかな? デ・ゴルバ。」
「まあ、そう言うなよ。おガス(笑)」
ワタルはオーガスをからかいながら狩りに出かけた。オーガスはとても不機嫌そうな顔でうっぷんを晴らすような荒々しさで薪を割っていた。
「人の呼び方なんて人の勝手でしょ。ていうか、ワタちゃんは堅苦し過ぎぃ!もっとフランクに行きなさいよ。」
ワタルが狩りをしつつ
「・・・特に女性となると名前で呼んだことない。」
少しぶっきらぼうに答えていたがそれを感じとってかエル・シドは
「そらそうね。そんな感じ出てるもの。これからはみんな名前かあだ名呼びね。」
そろそろ頃合いかのようにアエナが間に入り
「ワタル、そろそろ獲物は狩れたかしら?」
「あ、ああ、アエナ・・・これを持ってそっちへ向かうよ。」
少しぎこちないようなしゃべりと笑顔だったがなにかワタルとアエナは始めに会った時より一層心の距離が近くなっていた気がした。ワタルはそれをより一層感じていた。オーガスはそれを見て一層不機嫌そうになっていた。彼自身も採集が終わり、ぞんざいに材料を置いた。
「さ、アエナちゃん。ちゃちゃっと調理しちゃいましょ。薬草も混ぜておけば薬膳料理になるから疲労回復には丁度いいわ。」
ワタルは改めてこの世界がレベルもなく、薬草一つで体力や傷が一瞬で治るようなRPGではないのだなと実感した。少し前に体力回復に薬草を直に食べたがものすごくまずくてその場で吐いたことを覚えている。そうこうしているうちに料理はできあがった。
「さ、出来たわよ。エルちゃん特製薬膳カレーよ。カレーって食べ物初めて作ったわ。あんたの世界って変に手の込んだ料理作るのね。」
異世界でまさかカレールーがケモイの商店で手に入るとは思わなかった。そしてこうやって変な人たちと囲んでカレーライスを食うなんて夢にも思わなかった。あっちなら出来合いのご飯を一人でレンジでチンして温める寂しい食卓なのに・・・。
「こうやって一つの料理を囲んで食べるっていいわね。わたし何百年ぶりかしら?」
エルがニコニコしながらぼくらの顔を眺めてくる。アエナもそれに感化されて
「確かに旅に出てから、ろくなもの食べてなかったし、落ち着いてみんなと食事なんて・・・」
それから少し無言が続き、少ししてからみんな食べ始めた。全く土地勘のなかったようなこの場所でほどんど現実的じゃない人と食事してると、やっぱりこの人たちも生きてるんだなって僕は思った。異世界で食べるカレーは普通のカレーと大して変わらなかった。だけど少し心が温かくなった。


食べ終わった後、アエナはすっと立ち、ワタルの前に立った。 ワタルはとてもではないが急なことにビックリして声も表情も出せなかった。アエナが自分の剣を出してはワタルの右肩スレスレにかざして


「ワタル、私たちもっと、お互いを知るためにも、そしてあなた自身が体力と剣術を身につけるために稽古を付けて上げるわ。 どう?」
「どうって・・・僕はこのゲイザーの力で、」
「ダメよ、あなた自身が力を付けなければいつかその魔の力に押しつぶされてしまうわ。ま、問答無用で稽古するけどね。 ほら立って!」


彼女が右手を差し出してきたのでワタルも渋々手を取り、二人が間合いを取ると剣を振りかざした。エル・シドはそれを見て茶化すように囃したてる。オーガスは横目で静かに見ていた。ワタルが少しいやな顔で向こうと向くとアエナが集中しなさいよとでも言うように剣を横に振った。ワタルもそれに応えて剣を構えた。
 とたんにアエナが躊躇なく振りかぶってきた。それに驚くも何とか防御するワタル。
「ちょ、ちょっと何するのさ!」
「しゃべってる暇あるなら攻撃しなさい。」
アエナの声色はいつになく冷淡で恐怖さえ感じた。なおもアエナの猛攻が続く。だが、さすがにこの状況にワタルもやる気になり龍神の剣をはねのけ、大きく振りかぶった。剣道のまがいのような振りにくすくす笑われながらも実践的な剣術を見つけていく。だんだんと振り方もへっぴりな姿勢も前よりも断然に良くなっていった。その場しのぎの剣さばきだったがやはり村一の剣の使い手と言われたアエナに鍛えられたのでワタルも自慢げに剣を振りかざすようになった。


「ワタル、」
「何?」
「これだけは覚えといて。今の事全部忘れてとはいわないけど、実際モンスターや魔王と対峙する場面があったら型とかじゃなくてあなたとあなたの剣を信じて。それが戦いの極意よ。」


自分を信じろと言われてもピンとこなかったが聞いてもどうにもならないだろうと思い、生返事で「わかった」とだけいっておいた。 二人とも剣を納めるとエル・シドもオーガスも旅支度を揃えて待っていた。アエナはワタルを見ながら無理やり手を引っ張って合流してまた、旅を続た。
 歩いているとそこには見たことない大きな木があった。その木は、何か光のオーラを放っているようだった。四人は足を止めてその美しい木を眺めていると
「あれは・・・世界樹じゃない!? こんな所に成ったのね。」
エルが指を指していたがワタルはよくわからず
「世界樹ってなんですか?」
世界樹とやらにアエナも興味を持ったのか二人して首をかしげていた。
「世界樹って言うのは150年に一度しかこの世の中に存在できない植物よ。その木には不思議な力があってね・・・っておガス何やってんの?」
「この木に触れればどんな時間、場所にでも行けるんだよな! だったら、もう一度このパーティーをやり直すんだ! ぼくのやり……」
続けて何か言ったように思ったがすぐさま彼は光の中に吸収されて分からなかった。
「エル・シド、本当にどんな時間や場所にも行けるんですか?」
「それは、分からないわ。自分の行きたい所だとも限らないらしいし・・・」
「エルお姐さん、どうにかならないの。」
「ごめんなさい、アエナ。いくらあなたの頼みでも世界樹に一度は行って戻ることなんて尋常じゃないくらいの運の持ち主じゃないと確立が低いのよ。やめた方がいいわ。」
「じゃあ、オーガスを放って行けと?」
「ワタちゃん、あんたたちそこまで仲いいわけじゃなかったんだから都合いいんじゃないの?」
「そうだったけど、元はと言えばアエナのパートナーだ。アエナがどうするかだよ。」
アエナは少し考えた。自分にとって最善は何かを・・・
「・・・先を急ぎましょう。魔王がいなくなった安全な世界で龍神に助けてもらいましょう。ということだから、お願いを聞いてもらうのはおつかいが終わってからにしましょ。心配だけどね。」
終始アエナの表情は苦しそうだったが最後には心配をかけまいと少しぎこちない照れ笑いを見せた。
「その方が確かに頼みやすいかもね。じゃあ、もう行きましょう。彼のためにも一刻も早くあのじじいを倒さないとね!」
じじいというのは魔王マ・ゾールの事なのだが、目の前で悪態をついているこの人もまた魔王だったのだが、その威厳はなく、男前だが少し露出のある艶やかな服装で僕の世界で言うところの”オカマの方”だと思う。だけど僕はそういう気はないけどきれいな人だと思う。



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