冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第6話:獣人たちの超文明

 ワタル一行は龍神の言葉に従いケモイの国へと向かっていた。ケモイの国は他の国よりも文明が発達しているがそれを扱える獣人が非常に少ないため宝の持ち腐れになっている。少数派のケモイは知能がとても高いことで有名である。


「もうすぐで着くからみんなきばるのダ。」


「とりあえず休みたいんだが。」


「ワタルは体力がなさすぎるのよ。」


 アエナとワタルは一緒にいる時間はとても短いが、なぜか馬があっていて龍神とも雑談することが多くなっていった。それとは反対にオーガスはどんどんと自分の世界に浸るようになっていっていた。彼はそれを理解はしていたが無性にワタルの事をいっそう毛嫌いするようになっていった。


「ちょっとワタルくんはこのパーティーになれすぎではないかい?そもそも元魔王なのに信頼を得ているし、ぼくだってアエナとは幼なじみなのにアエナもあまり話しかけてくれなくなったよね?」


アエナはオーガスにむくれながら答えた。


「それはあなたが一方的に話さなくなったからでしょ。それに私は単に新入りの素性が知りたいから話してるだけよ。それに彼、ルナ王国を出てからあまり元気がなさそうだから。ねえ、休みがてらもう少しあなたがいた世界のこと話してくれる?」


 アエナの純粋な質問にワタルはきょろきょろしてあまり彼女を見ないようにしながら


「う、うん。この世界に来てだいぶ経つけど、やっぱりモンスターがいたり魔王だったりって言うのが実際にうようよしてるのは改めて気持ち悪いなって。僕の世界にはいないからね。フィクションとしての物語やお話では沢山存在してるけどね。」


会話をしていると何やら大きな図体をしたモンスターがぞろぞろと現れた。アエナ一向の前に現れたのはオークの山賊だった。3~4mあるそれらは4、5匹で群れをなしていた。真ん中にいたリーダーらしきオークが


「ねえちゃんら、ちょいと食糧とかおいてけや。話聞いてる限りケモイの国に行きたいらしいな?なあに、通行料や、案内係と思えば安いもんだろ?」


などと言い、食糧すべてを要求しているようだった。オーガスは顔をすごめて


「騙されないぞ! アエナ、きっと罠だよ。それに食糧全部渡しても知らないに決まってる。それに案内役は龍神で十分だろ。」
「確かにそうね。 悪いけどあなた達の助けは要らないわ。帰ってちょうだい。」
「じゃあ、力ずくで奪うまでよ! 野郎ども!身ぐるみ全部はがしちまえ!女も好きにしていいぞ!!」


リーダーの一声で子分達は一気にやる気な顔をしてとっかかっていった。
オークたちはワタル達を取り囲んでいき得意の陣形に持っていった。ワタルはあたふたしながら持ってきた賢者の聖剣をさやから抜いた。その姿はこの間魔王を倒したとは思えない逃げ腰だった。オーガスは少し腹を立てながら全体呪文で相手を混乱させたりして間合いを取っていた。アエナは億さずにただ一番大きな巨体のオークと戦っていた。オーガスは弱腰のワタルに煽るように


「ワタル!この前のやる気はどうした!とりあえず小さいのから戦え!」


ワタルはろくに剣術を習っていない、というか運動音痴のような動きで刀に振られていた。よくあれでさっきの魔王を倒せたもんだと二人が呆れていると突然彼がにやっと笑い、右手を付きだした
(そうだ!魔王に異世界転生してるんだからなんかチート能力あるでしょ。考えてたら右目から力を感じてきた!そう言えば魔王の時の能力は目にあったんだ。よし)


<止まれ、命令だ>


だが、何も起こらなかった。
変なことをしているワタルをよそにアエナは巨体のオークに苦戦していた。それの脂肪は分厚く、剣で切っても中々致命傷にならなかった。アエナは汗をぬぐい


「こいつ、他のオークより手ごわいかも。」


そのオークは他より知能が低いのか、うめき声しか発さないが切られて怒っているようだった。そいつが両手を振りかざし、地面を殴った時、アエナ達は一斉に吹っ飛んでいった。アエナは少し弱気になって龍神を探していた。


「肝心な時に龍神様はどこにいるの?」
「アエナ、ここは龍神の剣の出番なのダ」


遠くの草むらからひょっこり現れて解説し始めた。


「龍神の剣には過去に倒した魔族の力を一時的に借りる事ができる能力がある!それを使うのダ!」


彼女に龍神の剣の能力を使うことにためらいは無いし、今の状況を打破するにはそれしか無かった。


「剣に宿りし魔族の力よ!私に力を!」


その時、オークの周りに光が集まりそれが眩しいほどに輝いたかと思うと一瞬にして消えオークもその姿が全く無かった。あるのは灰のような黒ずみだった。


「うわ…まじっすか」


ワタルが少し状況に引きながら呆けたように言っていた。オーガスが少しして


「先を急ごう。こんなの普通だろ?なんだ、その顔は。悪い怪物を殺して何が悪い。」


ワタルは未だに困惑していた。実際前までは彼らに殺される側だったのだ。それが殺す側になって彼らの少しさめたような殺伐とした気持ちを理解できずにいた。


「悪いとは言ってない。だけど生きてただろ。」


オーガスは首を振り、腰の抜けたワタルを腕から引っ張りあげて立った所を突き放し、


「はぁ、お前はやっぱりおかしい。いいから行くぞよそ者。アエナも…」


アエナにやさしく手を差し伸べ、体勢を整えてケモイへと向かう。若干のわだかまりを残しながら4人は歩き続けてようやくのところでケモイの国へとたどり着いた。出迎えてくれたのは頭が鷹のような猛禽類の獣人だった。


「旅のお方、こんなご時世にようこそ起こし下さいました。とりあえず今日はお休みになって下さい。」
「うん、そうさせてもらうわ。みんなも用事は明日でいいわね?」


アエナの意見に皆んな賛同した。というのもとてもクタクタだったからだ。王国を出て以来、ろくな場所で寝泊まり出来ていなかったので、鷹の獣人の提案は彼らにとって名案に思えた。鷹の獣人は首にかけてある機械の首輪で何かしていると、宿屋の主人が颯爽と現れ、荷物を運んでくれた。宿屋に着くと死んだようにみんな床についた。


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(ん? なんだここは?暗いぞ?)
[おい、聞こえるか、オレ様の声が。]


(誰だ。)
[オレ様か?お前の中にいるお前さ。お前、もっと暴れたいだろ?]


(そんなことない、強くなりたいとは思う。なあ、少しだけ力を貸せるか?)
[貸してやってもいい。どうなっても知らんがな。]


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 夢は変な所で僕が目を覚ましてしまって終わった。未だに変な感覚がある。“あれ"は本当に僕の中にいるのだろうか。
 そのせいで眠れなくなってしまった、ちょっと気晴らしに宿屋の窓を開けて空を見よう。闇夜も少し明るんできた頃だろうか、朝日(元から出てる間隔は無いけど)がもう少しであがりそうだ。あの夢の正体は分からない。けど、一つ言えることは僕が“あいつ”と共存してなるべく抑えて戦わなければということだ。

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