冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第5話:冴えないワタルはうろたえない

 ワタル、アエナ、オーガスはルナを後にし魔王城へと向かうのであるが、どのように行けばいいかわからずに路頭に迷っていた。そこでワタルが二人に少しでも役に立てると思い、自分がここに来た時の様子を話した。


「一応、ぼくの記憶ではあの向こうに見える山の中腹部に魔王城があるんだ。ぼくたちは飛んで下に降りて行ったけどその道筋は相当険しい感じだった。」


アエナは相当焦っているらしく


「それでも道があるなら最短距離で行かないと。王国の魔王たちを倒したとしてもまた他の魔王やモンスターがやってきてもおかしくないわ。」
「そうだけど、そいつの言うこと全部信じるわけ?あんまりよくないと思うけどなぁ。使い魔になったと言っても魔王サイドの奴だったし、そもそもこの世界の人間じゃないっていう話だよね? ねぇ、きみ、どこから来たの?そんでもってなんでそんな冷静なわけ?」


オーガスは信じているアエナとは反対に渉の言葉に半信半疑で彼に質問だてていたがその顔は少し嫉妬に歪んでいるようにも見えた。オーガス自身ワタルという存在は異質なのだろう。


「ラノベを読んでたってのもあるけど、今更騒いでもこの状況はどうにもならないから。今は二人と一緒にこの世界を救うことが自分の世界に戻る最短の道でアエナ・マクスウェルの意志だと思う。」


少しため息交じりにワタルが分かりにくい冗談を交えながら言うとオーガスは益々睨むような顔をして


「なんだ?その”ラノベ”というのは。新しい呪文か?」


オーガスは冗談など通じるわけもなく、この異質な彼を真面目に質問責めしたが質問返しで“レベル”だの“ゲーム”だの何らよくわからない言葉を連発されて疲れはててしまった。


「私もあなたの事は気にもなるけど、見方ってことは確かよ。今はとりあえず、あの魔王城に向かう事に集中するのよ。」


アエナが二人の士気を上げるがそれを阻むようにどこからともなく甲高い声がさえぎる。


『そういう訳に行かないのダ!アエナそしてそのとりまき諸君。』


聞いたこともない子供のような声がどこからか聞こえてきた。辺りを見渡すと振り返った先にいつの間にか、なんというべきか竜の着ぐるみを着たような少年がいた。その少年はこの二人、ましてやこの世界の住人でもないワタルのことも知っていたようだった。ワタル達はそれぞれに目の前の小さい子供に目線を合わせながら執拗に質問した。


「ぼく、迷子?」
「そういう訳にいかんっていうのはどういうことかい? ぼうや。」
「ここにいると怪物に狙われるぞ? ていうかどこから来たんだ?」


ワタル達の目まぐるしい質問をはじき返すような大声でその子供が


『われを見下すでない!われはアエナ、オーガスお主らの守護神、龍神だぞ!!もっと崇めろ!奉れ!』


アエナは男の子が怒るたびに体をじたばたさせているのをみて内心かわいいと思っていたが改めて龍
神という名前を聞いて彼の正体を疑っていた。ワタルは笑いをこらえきれず、噴き出しながら


「そういうならさ、証拠見せてよ? ね?」


その男の子は呆れたのか怒ったのか下を向き始め、何か地面にむかってぶつくさ言い放っている。その姿はだんだんと大きくなり、男の子の周りに魔法陣が形成された。しばらくすると男の子の姿形が大きく禍々しく変容していき、最終的には龍のような姿となり大きな口をゆっくりと開けて


『これでも、信じないか? 異世界の人間よ。』


声色も地響きが鳴りそうな低く険しいもので言葉もさっきより荒々しくも温かな気持ちにさせた。しかし、実際に話しているというよりは我々の脳内に直接語りかけているようであった。ワタルは腰を抜かして半べそになって


「うわ~!頼むから元に戻ってくれ^~。」


ワタルの情けない言葉に少し落胆した一向であったが龍神はフンと一息ついて元の子供の姿になり話を続けた。


「アエナ、君は魔王城に直接行こうと思っているようだけど、そうはいかないのは理由があるのダ。いいか、君の持っている魔王退治の『龍神の剣』その元魔王見習いの持っている『賢者の聖剣』これらは『七宝』という大魔王の持つ最強の力を弱体化させる七つ道具なのダ。」


「て言うことは、あと五個そういうアイテムを探さないといけないのね。残り五個の詳細は?」


「まず、超文明で作られた未来を見通す『水晶板』次に太陽の一族の『緋灼の首飾り』、幻の魔法石『悠久の石』どんなものも跳ね返す『月の楯』そして最後に・・・」


龍神は最後の道具を言おうとしたがなぜか口を両手でおさえながら首を横に振っていた。


「おい、早く最後の道具を教えてくれよ」
聞いていたアエナ達はワタルの言葉に賛同して野次を飛ばしていたが依然として首を振り続けていた。そしてようやく口を開いた。


「最後の道具は自分達で見つけるのダ。これは七宝を使う条件なのダ。」


この世界のどこかにある七つ道具「七宝」それは本当に場所の見当がつかないものだった。しかし、ワタルはその一つに興味を持った。


「なぁ、その『水晶板』ってさ、もしかしてこれのこと?」


自分の私服のジーンズのポケットから取りだしたのはこの世界に来てから使っていない「スマートフォン」だった。なぜかこれと私服だけがこの世界にもってこれたのだった。龍神はそれを見たとたん飛びあがって


「それだよ!それそれ! 問題は使えるかどうかだね。」


ワタルは肩を落としながら


「使えたら苦労しないよ。そもそも充電がないし。何とかなんない?」
「わしは単なるナビなのダ。神だから何でもありじゃないし、そこまでの神力はないのダ。」
「使えんな。」


龍神はワタルの一言にいきりたちお前もだろと言い返したくなったがむっとした顔でぐっとこらえて続けた。


「・・・とにかく、水晶板はこの先にあるケモイの国で直せる。あそこは見かけは獣人たちのジャングルだが高度な文明と叡智を携えておるから。近くまで案内と守護をしてやるのダ。」
「とりあえず、そこに行く必要があるらしいわね。早く大魔王を倒すため、行きましょうか。」


彼らは相槌してみんなでケモイへと向かうのであった。ケモイへと向かう途中話はワタルの話になった。オーガスが言っていたようにワタルはこの世界にとってよそ者のような人間を受け入れるにはただ冷静に話すしかないのだ。アエナはワタルの横顔に目線を合わせようとして話した。


「で、あなたはどういう称号があったの?私が勇者だったり、オーガスが魔導士のような。」


ワタルは少しアエナと距離を取りそっぽを向いてぼそぼそと答えた。


「いや、普通に学生です。」
「学生? 何かを学ぶってこと?」
「そう。」
「魔法とか、剣術とかそういうこと?」
「いや、そうじゃなくて。もっと普通の。英語とか数学とか。」
「あなたの普通はここでは普通じゃないわ。何かよくわからないけど不思議なものを学ぶのね。」


だんだんオーガスは二人の会話を聞いて少しあきてきたのか面白くない顔をしてオーガスが話を切り上げた。それから彼はこれからのケモイの国について話した。


「あそこはぼくたちよりはるかに優れた獣人が最先端の技術を持って生活してるんだ。僕たちよりだいぶ平和でいい暮らしをしてるんだろうなあ。」


竜神が割って入ってきて


「そらそうなのダ。彼らの知恵の源は大樹にある大量の文献資料のおかげなのダ。あの技術にはルナ王国も手は出せないのダ。」


アエナは龍神に子供をあやすように頭を撫でててあげた。龍神は照れながら自慢げになっていたが神様の尊厳が無くなると思ったのか急に顔をきりっと切り替えた。


王国はまだ見えてこない。まだ先の獣人の国に思いをはせながら彼女たちは先を急ぐ。

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