冴えないワタルは異世界勇者より勇者らしい。

小鳥 遊(ことり ゆう)

第3話:潜入 ルナ王国



「龍神の剣よ、私に力を貸しなさい! はあぁ!」
「よりによって面倒なオークをよこしやがって! 魔導呪印<紅蓮>!」


アエナとオーガスは魔王の居場所を突き止めるべく一度、村をおそった騎士たちのいるルナ王国へと向かっていた。途中でオークと出会い、必死になぎ倒して行くアエナとオーガスであったがその戦い方は勇者とは言えない野蛮で凶器すらオーガスは感じていた。それでも彼は叱責する様子もなく、あくまでも冷静にアエナを諭した。


「ずいぶんと荒っぽいよアエナ。そんなに急いでも仕方ないよ!敵は腐るほど僕たちを拒み続けるんだから。」
「早くこの惨劇を止めないと!魔王は目の前にいるって言うのよ!私たちのような犠牲者を出さないためにも、早く、早く・・・」


ルナ王国への道は遠く、険しく、彼女たちの精神を徐々にすり減らすように彼らが襲いかかってくる。ナーガ村を出て四日ほど経ち、本来ならばこのぐらいに王国に着くころだが魔物が行く手を阻むのでまだ三分の二にも満たなかった。王国の門が向こうにかすかに見えるのがわずかばかりの希望である。景色はもう暗く、彼女たちの持つ松明の明かりで見える足元の自然豊かではなくなった荒野とそこに映る影が唯一の彼女たちの見えていた景色であった。


「とりあえず、もうここいらで野宿をしよう。とりあえずの簡易テントを作っておくか・・・ってああもう!そのまま寝たら危ないって言ってるでしょアエナ。」
「オーガス、女の子っていうかお母さんみたい。でもいつ襲われてもいいように剣を持って寝るのが習慣になりつつあるからしょうがないわよ。」


オーガスは薄暗く夜空に浮かぶいくばかりの星に見ては少し感傷に浸りながら彼女にやさしく昔話を持ちかけた。


「ねえ、アエナ。王国には行ったことある?」
「私がまだお母さんのおなかの中にいた時、両親は王国に出稼ぎに行っていたらしいわ。」
「僕はそんなこと聞いたことないや。当然行ったこともないし。どんなところだろう。」
「少なくとも魔王の支配下で無かった時はとてもいい国だったんじゃない?騎士たちもあんなことしなかったろうし。」


アエナ達はあやしげできれいな星空を見ながらたわいもない話をしていた。そんな時、近くで地響きが鳴った。遠くからこっちに向かってくる。あれは夜の狂犬、ワーウルフだった。といってもならず者の獣人で、人語を解せるのだが、アエナ達に頭の悪そうな会話を繰り広げる。


「貴様らが魔王デ・モール様の言っていた勇者だな!ガルル。人間の騎士は役に立たんだろうからオレ達がお呼ばれされたって訳よ。」
「ガル、お前らには恨みはないが」
「死んでもらうッガルよー!ヒャッハー!!」


話しかけてきた三人に加え中隊規模の人数がアエナ達を囲んでいた。突然の戦闘に驚いたがすぐに二人は背中合わせになって


「オーガス、後ろ頼んだわよ。」
「いわれなくてもやりますよ! 魔導結界<不可侵>!このバリアでふっとべ!」
「龍神の剣よ 私の声にこたえよ!<リヒト・ゴッドラッヘ>!」


三匹のワーウルフ達はあちこちに倒れていき、蹴られた犬のようにキャンキャンにいったと思うと


「フガル、プガル俺の援護しろ。いつものあれ仕掛けるぞ!」
「御意。」
「いくッガルよー!グガルの兄貴!」


ワーウルフの義兄弟グガル、フガル、プガルはアエナ達に何かを仕掛けようとしていた!彼らは三人一列になったとおもえば分身のように分かれたりを繰り返し彼女たちを翻弄した。そうすると彼らは必殺技のようなものを出そうとしてきた。


「いくぞ!必殺、ウルフストリーm・・・」


瞬間に彼らの必殺技は何者かの影によって振り払われその影はワーウルフ達を一掃した。よく見るとそれは騎士のような格好をしていた。その甲冑には二人とも見覚えはあったがあまりにも辺りが暗くてよくわからなかった。その男は颯爽と介入してきた。


「人間様を馬鹿にすんじゃねえ!獣くせえ犬っころ共!」


突如として現れた屈強な戦士のような人が何の脈絡もなしにワーウルフ達を全て倒してしまった光景に唖然としていた二人。静かな夜が一層静かになるだけの無の時間があったが、しかしどうにもならないのでオーガスが話を振り始めた。


「え、誰 ですか?」
「あなた、もしかしてこの前の!?」


振り返った姿を見てアエナはその屈強な戦士が黒い甲冑を着ていてしかも見たことのある短髪の髭面に気付いた。それは村を襲った、しかもアエナを持ちあげて勇者かどうかを見た男だった。彼はひょうひょうとした態度で


「やっぱりお嬢ちゃんが勇者だったか。お元気ですかと言いたいところだが、んまあそんなわけないわな。」


そんな態度を見てアエナは胸の奥底に秘めていた怒りを抑えきれず鬼の形相で剣を抜いて詰め寄りながら


「よくも、のうのうと現れたわね!あなた達のせいで私の村は!」
「待て、俺も死傷者を出したくはなかった。でもあのままだと勇者は現れず、世界は滅びる運命だった。そうじゃないかい?お嬢ちゃん。」
「私のせいだって言いたいのか!」


アエナは龍神の剣を振りかざし彼に向って振りおろそうとした。しかし、彼はその刀身を片手で受け止めながら


「君たちの村にしたこと本当にすまないと思ってる。だが、君たち以外にも苦しんでいる人たちがいるってことを分かってほしい。そして我々の国も君の村の二の舞にさせないでほしい。これは俺の最後の賭けなんだ。頼む、俺の話を聞いてくれ。」
「アエナ、そいつの話を鵜呑みにしちゃダメだ!罠かもしれないぞ!」


アエナは考えた、多くのことを。村の事、この世界のこと、自分の使命のこと、やらなければならないことは沢山ある。かといって彼を許して野放しにしておくのも今この瞬間の爆発的な怒りをどうすればいいかわからなかったが彼女は剣を降ろした。


「あなたのこと完全に信用してるわけじゃないけど今は情報が先決だわ。あなたが知ってること全て教えて。それで信用するか決める。」


騎士団長は黙ってうなずき、彼の身の周りに起きていることそして魔族になった渉などの話をした。


「その魔王のなりそこないみたいなのの情報はどこから?随分と詳しいわね。」
「うーん、神のお告げ、ってやつかな。まあここからは俺の勘なんだがな、国王と王妃はまだ生きていてただ幽閉されているだけだと思う。サ・タールってやつが何度も地下牢に周りを気にしながら入っていくのを俺は見ているからな。割と確実性の高い話だと思うがな。まぁそのサ・タールも真名を告げればきっと仲間になってくれる。俺はそう確信している。」
「僕らの村にも両陛下が秘密裏に処刑がされているという話を聞いたような気がするけど」
「とにかく今は王国に行くのがお前らの目的だろう?とりあえず俺の作戦に乗ってくれないか。」


アエナは悩んだ後、うなずいて騎士団長を睨みつけながら


「いいわ、信用してあげるわ。 でも少しでも変な動きをしたら殺すわよ。」


といい、彼の言うがままに彼女たちは騎士団長の後をついて行った、というより捕虜にされたように縄に縛られ引きずられていった。王国の門はそのおかげですんなりと入ることができた。しかし、事はそううまい方に行くはずは無くそこに突如として現れたのは黒のローブにそれとは対称に派手な赤い肌が印象的な悪魔がやってきた。彼こそがここを支配する魔王の一人デ・モールである。彼は騎士団長たちがここに来ることを予期していたかのようにやって来たのである。


「ご苦労であった騎士団長。どこで油を売っているのかと思えば、先に勇者の居場所を突き止めていたのですね。」 彼の功績を労いながら続けざまに騎士団長の耳元で 「まあこれで単独行動していたことに関してはチャラにしてあげるよ。いなくなったら団員どもを殺そうかとも思ったが、もう少し生かしてやるよ。」とささやいた。
「やっぱり罠だったんじゃないか!アエナ、どうしよう。」
「どうもこうもないでしょ!八方塞がりよ!っく・・・よくも騙したわね...」


だが、布陣は団長も囲んでおり、騎士団長は何も言えずにただ顔を伏せていた。デ・モールは勝利を確信しているかのように高笑いをして、絶望している彼女たちを煽るかのように


「その絶望!それが我らが主、大魔王マ・ゾール様の活力になり我々の血と肉となるのだ!だがもう、貴様らは必要ない。ここで旅は終わりだ!見習い!やっておしまいってあれ?見習いはどうしたよ。」


・・・


その頃、その見習いサ・タールこと佐江内渉は苦悶の表情を浮かべながらこの状況をまじまじと見つめていた。
(何をためらっているんだろうか、ぼくは。役割はそこにあるのに・・・。彼女は敵のはずなのにぼくはそれを助けたいと思っている。この王国の王族虐殺の時もそうだった。それに賛成できず情報交換のためと言って自分に任せて貰った。今回はそうはいかないだろうな。)


そう考えているうちに事件は起こった。発端は騎士団長だった。彼は自分を抑えていた魔物たちを力で振り払って、刀を取り出して牙をむいた。


「もう悪者ごっこは終わりだ!二人ともここは俺があいつらの気を引いておくから、王国にある『賢者の聖剣』をもってこい!お前の龍神の剣じゃ話にならん。」
「団長、貴様!怪しいと思っていたがやはりか!お前らも何をしている!さっさと二手に分かれて勇者を捕まえるのと見習い探して来い!」


勇者たちは自分達のために行動した騎士団長を信じ、王国の中にあるという聖者の聖剣というものを探すのであった。

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