個性が強くて何が悪い!

小鳥 遊(ことり ゆう)

31:後夜祭キャンプファイヤー

日が落ちて文化祭もすべての催しが終了し、手芸部も無事に存続の危機を免れた。というのも二回目の公演で件の西京貴先生が鑑賞しにきてくれて良い評価をくれたのだった。そしてなぜか正式に部活動の顧問として取り持つことになったのだった。先生に理由を聞くと


「手芸部としての活動もちゃんとしてるんだなって感動したからだよ。」


と含みのある笑顔で答えてくれた。全く食えない教師だ。そんなこんなで、文化祭の締めくくりといえばキャンプファイヤーだ。運動場に集まり、火柱がごうごうと立つ周りを囲んでいた。炎でかすかに揺らめき見える人の顔触れはいつもよりなんだかロマンチックな表情を生み出していた。

月姫は信男にゆっくりと語り始めた。


「なんか、私のせいでてんやわんやな文化祭だったね。」


「いや、そんなことないよ。むしろ、忘れててごめん。 天使ちゃんも立派な俺のハーレムグループのメンバーなんだからさ!」


「もう! 普通そんなこといったら女の子引いちゃうよ! ま、そのブレない心がみんなを引き寄せたんだろうけどね。」


いい雰囲気の中、きらりとあやが別々に俺のもとにやってきた。


「ねえ、モブッチ! うちと、踊ってくんない?」


「きらりさん、少しは節度をわきまえてください。まあ、分からなくもないですが…。」


「あやも、モブッチとのダンス狙ってんじゃん!」


「そりゃ! そうですよ…。 学校行事で好きな人と踊れるとなったら踊りたいですよ。」


二人のいつもの喧嘩に乗じてふらっと麗美が俺の腕を組み、連れ去ろうと仕掛けたが、あやが俺の腕を引っ張って止めた。


「麗美さん、何、してるんですか?」


「怒ってるあやちゃん、ちょっとかわいい。でも、ダーリンは私と踊るの! お分かり? 敗北者はそこでおとなしく親指しゃぶって青春の1ページを刻むのね。」


「あ? 新入りが舐めた口聞くんじゃないべ? モブッチが嫌がってるだろうが…。 ね、モブッチ♡」


前半と後半の声色が違いすぎて背筋が凍った。


「みんな、ちょっと落ち着いてよ…。」


割とうれしいけど。 あやは左腕の袖を、きらりは右腕を、麗美は引っ張られている開いた両脇から背中から抱き着いて信男を取り合っていた。天使は慌てふためきながら三人を止めていた。その光景に呆れながらも廉は少しうれしそうに見つめていた。


「自分が真ん中だったらなぁっていう妄想でもしてるの?」


馴れ合いの光景をぼんやりと眺める廉に愛海がふと覗き込んだ。少しいたずらっぽく聞いてみると廉は目線をそらし


「ち、違うよ。ただ、あいつ変わったなあって。あんなに活発になったのはあの子たちのおかげだろうな。」


「そうかもね、でも嫌じゃないんだね。それはあなたも成長してるから、かもね。」


「…結城さんは行かなくていいのか? 」


「私はいいんだよ。私はあなたと同様、見守ってるだけよ。」


愛海と廉の二人をよそに背後からめかしこんだ亜莉須が信男の方に駆けつけていった。


「あーあ、姉さんめっちゃ時代錯誤なドレス来てるし。キャンプファイヤーと舞踏会間違ってんじゃない?」


信男の元に駆けつけてきた亜莉須は着慣れないドレスの裾を踏んで思いっきり転んでしまった。それに動揺した5人は亜莉須のもとに駆けつけ、みんなで起こした。


「えへへぇ、ごめんねぇ。3年生になったら文化祭楽しめないだろうから信男くんとの思い出に踊ってもらおうかなって思ったんだけど…。私が一番最後みたいね。」


きらりが呆れたような表情で亜莉須の肩を持ち


「あー、もう先輩には敵わないっしょ。今日だけは先輩に信男を渡すしかないよね。」


「少し、卑怯な手段のように思えますが、我々は来年もあるので…。」


きらり、あやの二人の思いがけない譲歩に驚きながらも


「みんな、ありがとぉ~。じゃ、信男君、踊ってくれますか?」


信男は亜莉須の手を取り、キャンプファイヤーの周りで踊っているひったちに加わってフォークダンスを見追う見まねで踊っていると、アナウンスが流れてきた。


『これより、マイムマイム流しまーす。皆さん、輪になってくださーい!』


「おいおい、タイミングわりぃなあ。」


信男は悪態をついていたが亜莉須は子供のようにはしゃいでいた。


「聞いたことあるやつだぁぁ~! みんなで踊るとやっぱり楽しいよね!」


「それは亜莉須先輩に賛成ィ~。」


右側にはきらりが手をつないできた。あや、るな、愛海、廉がそれに連なって輪に入ってきた。亜莉須先輩は信男の左手をぎゅっと握りしめ、楽し気に振り回し、曲に合わせて回りながら踊っていった。

 キャンプファイヤーの周りをぐるぐると回る人影は楽しいひと時の終わりと絶頂のひと時を味合わせた。



翌日の登校はいつもより足取りが重かった。やはり、イベント終わりの授業というのは気が乗らない。天使ちゃんとの登校だったとしてもこのけだるさは変わらない。きらりが俺の机まで来てたわいのない話をしていても気分は上の空だった。とうとう、昼ご飯の最中、あやさんたちから心配された。


「大丈夫ですか? マスター。」


「ん?うん。 なんかイベントって終わるの早いなあって思ってさ。初めてだよ、こんな喪失感を味わったのは...。」


きらりは信男を手繰り寄せ、肩に顔を乗せると幸せな笑みを浮かばせた。


「モブッチがいるだけでさ、うちらは毎日が楽しい思い出ばかりなんだよ!? まだまだモブッチを飽きさせないんだからね?」


信男は微笑み返し、ささやいた。


「楽しみにしてるよ。」


その光景にあやは顔を膨らまし、対抗するようにもう片方の腕を手繰り寄せ信男の頭を肩に乗せ


「私には、、無いんですか?」


恥ずかしがりながらも慣れない甘えたいアピールは信男の童貞心をくすぶった。信男は表情は冷静を装っていたが、内心テンションが爆上がりしていた。
 こうして、文化祭の甘い一日は幕を下ろした。だが、現実は信男の余韻を浸らせてくれるほど甘くなかった…。

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