個性が強くて何が悪い!

小鳥 遊(ことり ゆう)

20:個性のぶつかり逢い



『さて、一回戦最終組は、ポジティブギャル/蒲生きらりVS突進戦車/甲斐弾乃介だぁああっ!』


きらりさんの戦う相手は俺が初めに倒したデカブツとは違う威圧感の大きさと筋肉量だ。聞く所によると彼は欅ヶ丘高校初のラグビー部発足に貢献した俺達と同じ一年生らしい。いや、どう見ても三年の風格だぞ。

甲斐弾乃介はきらりさんに近づき、手を差し伸べた。きらりさんが応じて握手をする。甲斐はさわやかな笑みで

「今日はよろしくね、蒲生さん。グランファイトに出たからには全力で行かせてもらうからね。」


「おっけー。ま、こっちも勝ったらモブッチとデートできるって約束したし、全力っしょ!」


きらりさんの言動を聞いて、あやさんが文字通り冷やかな眼差しを向けて


「マスター、私そういうの聞いてないのですが・・・」


突如のフリに信男の背筋が凍りついていた。自分はハーレムを作る上で絶対に踏んではいけない地雷、つまりハーレム女子を平等に扱わず、偏ってしまうことである。これはいけないと考え、あるアイディアを思いついた。


「あっ。あぁ、ごめん。あやさんってそういうの嫌いかなっと思ってあえて言わなかったんだけど・・・。そういうの必要だった?」


「そういうのは、、!嫌いじゃない、ですが、やはり下品な蒲生さんに取られるくらいなら私がマスターとデートします!!」


顔一つ変えずに言っているつもりだが、彼女の顔は少し紅潮していた。

彼は心の中で「計画通り」とつぶやきながらニヤついていた。

そのような会話はつゆしらず、きらりと甲斐のグランファイトが始まった。

きらりは現出装を身にまとい、いつものJKヒップホップスタイルで相手のボディに蹴りやパンチを繰り出したが、甲斐の守備の硬さは想像以上だった。


「こんなの練習のスクラムに比べたらいたくないよ。こちらも行かせてもらおう。現出<タックル・シールド>」


彼がそう言うと両手に半月型の楯が現出された。そして彼は体の前で半月型の楯が丸く円になるように前腕を正面に持ってきた。さらにきらり目がけて一直線に賭け抜け出す。その威圧感にきらりは逃げまどうが、彼はなお追いかける。


「目的に向かって純粋に一直線!! これが俺の個性<実直>の力だっ!」



体力的に追いつかれてしまったキラりだったがなんとかかわした。だがしかし、次の攻撃が来たらもう、ひとたまりもないだろうと感じていた。


(これ以上、あんな攻撃されたらやばたにえんでしょ。でも大丈夫、大丈夫。もうあの子のパターンは読めたっしょ。それならあれで行くっきゃないっしょ!)


「来なさいよ、ガチムチラガーマンさん❤」


「誘っているのか? ふざけているのか? 迷うな、甲斐弾乃介! 明鏡止水だ。静かにかつ激しくっ!大胆にいざ、大技<ヘヴィ・チャリオッツ>」


先程より勢いも速さも違う、重戦車の威圧がしなやかな雌鹿をおそう。


「待ってました。じゃ、うちも技キメますか。<タピオカ・ハザード>!!」


ひたすらにくるくると回り続けるきらりに若干動揺する甲斐とその様子を見る信男達だが、甲斐が一直線にやってくると彼を掴み、力を利用して相手を大きく投げ飛ばした。


「どーよ! タピる時、凄い力で吸うとタピオカが勢いよく流れて喉にタックルしてくるみたいに相手の力使えば、体力とかに自信なさげ女子でもヨユーで男吹っ飛ばせんのよっ!」


甲斐はどうしようもなく場外の方へとやられてしまった。


『おーっと、これは予想外っ! 蒲生選手が巨体の甲斐選手を謎のJKパワーで投げ飛ばしたぞぉ!これは場外判定!今大会は展開が読めません。さて次は二回戦。初戦はクールなでしこ札杜選手VSゆるふわ結城選手だぁあ!』


きらりがリングから降りて信男の元に戻ると入れ違いにあやがリング入りしようとしていた。


「きらりさん、決着をつけましょう。逢えるとしたら、決勝、ですけど。」


「望む所だっつうの! あん時はうやむやにしちゃったけどモブッちとのデート券は渡さないかんね!?」

二人の仲が心配な中、札杜礼、そして結城亜莉須がリングに上がった。


「亜莉須先輩もマスターとのデート券を?」


「ううん、優勝したら食堂のデザートの無料券もらえるんだってぇ。あそこのプリンおいしいんだぁ、のぶくんとも一緒に食べたいなぁ。」


『私は知りませんが、彼女たちは何か因縁があるようです。札杜選手から熱い闘志を感じます。普段のクールさとは違います!!それでは、グランファイトォ、レディ・ファイッ!』


(結城さんの個性はある程度マスターから聞いたけど、こうやって対面するのは初めてね。ぬいぐるみに気をつけて間合いを測って冷刀一閃でいくしか・・・)


「早速行くよぉ。現出魔<おっとりくまさん(グリズリー・メロウ)>チェーン・マスコットだぁ!」


複数の小さなクマのぬいぐるみがあやの足にまとわりつく。振り払っても、振り払っても次々とまとわりつく。


「しまっ・・・」


「私に“遅い”って思われるなんてあやちゃんもまだまだだねえ。」


爆発したかのように見えると、まとわりつかれた左足だけが、鉛のように重く、動きが鈍っていった。


「まだ現出もできてないのにっ! 現出<冷刀>! 届けぇ!」


「チッチッチッ~。こんなのじゃぁ、あやちゃんにはプリンはあげられないよぉ。」


「私はっ、、!」


「そろそろ、とどめと行こうかなぁ? あやちゃんごめんね。でもね、プリンが悪いのよ。グリズリー・メロウ、お手柔らかにね?」


くまのぬいぐるみは結城のおっとりとした動きとは逆に俊敏にあやの正面に立ち、可愛い右手で殴りかかろうとした。


その時何が起きたかは分からないが、結城の右手が凍っているように見えた。


「とっさの判断でしたが、何とかなった、のかしら。くまの動きが止まってるみたいだし。この新たに現出した<冷弓>であなたのその『糸』を封じさせてもらったわ。あなたの現出魔の正体は自由自在にクマのぬいぐるみを動かすその操り糸。でしょ?」


「あちゃぁ、やっぱりばれちゃってたかぁ。」


「・・・ペキュラーとの戦闘ではケガはあっても致命的な死は無い。凍傷、火傷なども現出さえ解いてしまえば擦り傷程度なので安心してください。では、札杜流:細雪」


あやは結城の右側を抜けると的確に瞬間的に結城の左手首、肘、そしてわき腹を竹刀のような形の冷刀で打った。結城はその場で倒れ込んだ。


『おっ!? これはダウンか? 5カウント以内に立ちあがらなければ戦闘不能として扱われます! 1、2!』


大勢の観客が沸き立ち、一緒になって叫ぶ。


『3!』


『4!』


『5!』


『タ~イム! 結城亜莉須、戦闘不能! 勝者、札杜礼!』


勝者に沸き立つ観客。それとは真逆に冷静に結城のもとへ向かうあやだったが、あやが手を貸す前に結城は立ちあがった。


「いやぁ、やっぱり強いなぁあやちゃん。歯が立たなかったよぉ。」


「いえ、亜莉須先輩こそ素晴らしいファイトでした。」


お互いに握手をしあい、お互いをたたえ合うハグをした。


『ご覧ください、これが真のグランファイトのあるべき姿です。お互いの個性を尊重し、たたえる。すばらしい戦いでした。みなさん、両者に拍手を!』


ハグしたかと思うとムッとした表情であやさんが突き放すと


「え、あやちゃんどうしたのぉ?」


「やっぱり、結城先輩のこと好きにはなれません。」


「なんでぇ?」


「あなたには私の悩みは一生理解できませんっ!!」


恥ずかしそうにスタスタと会場を後にするあやさんを見て俺はなんとなくあやさんの悩みの種を察してしまって頭を抱えてしまった。

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