個性が強くて何が悪い!

小鳥 遊(ことり ゆう)

13:夜空の星と川の流れと明日のパンツ

バーベキューの味はそれなりに美味しかった。味付けはきらりさんに任せて本当によかったと思った。

それからは少し、時間があったので川辺で石切りをして遊んだ。意外にも自然との戯れは時間がたつのが早く、日も暮れてきていた。


都会の街並みとはちがい、自然の日暮れは暗い。なので星もよく見えた。キャンプファイヤーのゆらゆらと燃える灯りが優しくみんなの顔を照らしてくれる。どんどん星の輝きは強くなり、辺りも真っ暗だった。


「こんなに、綺麗に星が見れるなんてすごいねぇ。」


亜莉須が上を見上げさせて、しばらくはみんな星の魅力に息をのんだ。


「あんまり星座とかの事分かんないんだけど、誰か知ってる?」


モブ男が静けさを切って問いかけた。そうすると、連廉が多くの中から、三つの良く輝いている星を一つ筒指さしながら


「あそこに一等星が、結構大きく輝いてるのが三つくらい、ちょうど三角形になってるように見えるだろ?あれが夏の大三角ってやつ。」


「それで?」


「以上!」


れんれんは賢いのかよくは分からないが、各々で星の見方なんて、なんでもいいんだろうけどね。今日の見える星は今までなんとなく見ていた夜空とは違っているように感じた。みんなでわいわい見ると言うより、夜空の深淵をみんなで無言の共有を果たしていた。


 みんなで星を眺めた後、夜も遅いし、寝る事にした。

特にいかがわしい出来事もハプニングも起きなかった。若干、へこんだがみんな疲れていたのだろう。




朝、小鳥が鳴いていた。変な時間に目が覚めてしまったモブ男はキャンプイスに座り、コーヒーのお湯を沸かせていた。そこにやってきたのは、愛海さんだった。


「早いですね、、如月くん。」


「変に目覚めてしまったんでね。」


「私は、一度こういう大自然の静かな場所で本を読んでみたかったので読書を・・・」


「コーヒーいる?」


「ミルク、ありますか?」


「当然。 俺、ブラックでは飲まないから。」


しばらくするとお湯が沸騰した。インスタントの缶を開け、二人分のコップに分けて入れていく。お湯を注ぐとコーヒーのかぐわしい香りが漂ってきた。ミルクを少し多めに注いで愛海さんの所へ持っていった。 愛海さんはこちらに目もくれず、軽く会釈した。モブ男は自分の場所へと戻り、朝の空気と共にミルク多目のコーヒーを味わった。

しばらくして、愛海さんが、本をそっと閉じ、モブ男の方を向いて歯切れ悪く話し始めた。


「・・・如月くんはペキュラーになったんですよね。その、、<魅力>の効果、すごく興味があるんですけど教えてもらえますか・・・?」


モブ男は突然の事に驚いた。少し考えながら、教える、とは言っても何をすればいいんだ?

とりあえず、どういうものかを説明すればいいか。と思い、自分の個性について語り始めた。


「この個性は異性、つまり俺なら女性に効果があって少しだけ見つめて念じてしまえば俺のために尽くしてくれる女子が増えるっていう個性。君のお姉さんには効果なかったけど...」


「随分と都合のいい個性なのね。姉に関して言えばあの人、すごく鈍感だからそういう精神系の個性は効かないのかも。」


愛海さんの言葉にはなんとなく納得がいった。

なにげない会話をしていると、みんなが起き始めた。

あやさん、天使ちゃん、れんれん、きらりさん、そして亜莉須先輩が最後に眠そうな顔でやってきた。


「おはよ~。今日は熱いねぇ。と言う訳で、川もあるし今日は泳ごう!」


「姉さん、子供じゃないんだから、、」


冷酷にけなす愛海に亜莉須が膨れ上がって


「やだぁ、泳ぎたい~。みんなも水着、持って来てるよね?」


あやさん達はたじろぎながら、


「え、ええ。念のためを思って持ってきました。」


「当たり前っしょ~。モブっちのために今日のためにビキニ買ってきたし~。」


「気合い入ってるね! で、れんくんとモブちゃんは?」


「俺、見物で。モブ男、女子とのイチャイチャできる絶好のチャンスだぞ。しかも水着、のらないわけ・・・」


れんれんが言おうとする事は分かるが俺はあいつの言葉をさえぎって


「お、俺は水着持ってねえから、パス! ごめん! みんなで楽しんで。」


それを聞いてきらりが小悪魔のような笑みを浮かべて


「もしかして、恥ずかしいのぉ?こんな可愛い女の子たちと川遊びすんのが。かわい~。」


「きらりさん、マスターはほんとに水着を持ってきて無くて・・・」


そこに天使ちゃんがモブ男の前まで来て両手でひょいとモブ男を持ちあげてしまった。


「な、なにしてんの? 」


「お姫様だっこです! こう見えて私、(神様だから)力強いんですよ! いきますよ~それ~!!」


この神様は俺の気も知らないで川の方へとお姫様だっこで俺を連れていき、そしてポイっと俺を川へ私服のまま投げ入れた。案の定俺はカナヅチなので緩やかな流れにも流されてしまう。バタバタしていると余計に溺れて流されていった。


あやが、怒った顔で川の方へ走りながらみんなをたしなめた。


「だから、マスターは泳げない可能性があると言ったじゃないですか! マスター! バタバタしないで!余計な体力を使わず、流れに身を任せて待っていてください!」


と言うと、急に冷気が漂ってきた。俺もなんとか冷静にあやさんの指示を聞いて体を自然に任せた。


「天使さん、亜莉須先輩、手を貸してください。 他の人は離れて。」


二人があやの後ろに立ってあやの指示を仰ぐ。


「亜莉須先輩は川の流れを穏やかにしてください。出来れば止めてほしいですけど・・・。天使さんにはこの斧を使って木を切ってきてください。ダムを一時的に作ります。」


そういうとあやは氷であしらわれた斧を天使に渡した。


「私の個性といえど、氷です。すぐに消えてしまうからいそいで切ってきてください! 説教は後で。・・・亜莉須先輩、お願いします。」


天使は斧を両手で持って森の方へと走っていった。亜莉須は個性で川をゆっくりにした。川はどんどん凪いでいった。そこへちょうどよく駆けつけた天使が木材をせっせと運び、川へと放りこんだ。木材はビーバーの作るダムのように水をせき止め、流れるモブ男を受け止めた。


天使は無心で水の中に入り、モブ男を抱え、介抱した。

服は全て濡れ、風邪をひくと大変なので乾かすために自分の持ってきたバスタオルでくるまり、昨日のたき火で暖まった。


あやが温かいお茶を淹れ持ってきて


「マスターも人が悪いですよ。泳げないなら、はっきりと申し上げていただければこのような事には・・・。」


「みんなの楽しい気分を台無しにしたくなくて意地張っちゃった。」


「今の方が壊してますよ・・・。いいですか、ここに揃う人たちは、、少なくとも私はマスターが楽しく夏休みを過ごしてもらおうと集まりました。なので、マスターが嫌な事はちゃんと言ってください。それが、、友達・・・ですから。」


そうだよな、俺がみんなを巻き込んでるのに俺が引っ込んでどうすんだ・・・。


信男は空を見上げながら、ふと肌寒さから悪寒に変わった。そして、虚無の目でもう一度空を見つめ、誰にも聞こえないように一人言を言った。


・・・替えのパンツ、もう無いや・・・。



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