個性が強くて何が悪い!

小鳥 遊(ことり ゆう)

08:始まりは突然に

 その日は一日中雨が降りしきっていた。

今日の体育は体育館でバレーボールという最悪イベント。はっきり言っておく、球技は俺を嫌っている。俺は球技が苦手って訳じゃあないんだ。球技、つまり、ボールを使うスポーツ全般のボールは俺を怪我させるから嫌われてるんだと思う。


女子は男子の隣のコースで試合していたんだが、あやさんもきらりさんもキラキラしていてかわいkk」ドゴハッ!?


鈍痛がすごい。脳が揺れて気持ちが悪い。何が起きたんだ。とりあえず、誰か、保健室...。


次に目が覚めた時、俺は知らない天井を見上げて寝ていた。

保健室の先生によると、ボールが顔面に当たったらしい。説明してくれた保健室の先生は普通のおばちゃんなので興奮も何もないが、安心だけが俺を包んだ。起き上がろうとすると、腰辺りに重みを感じた。


見るとあやさんだった。うたたねをしてるようだが、とてもかわいい。

スー、スーと寝息を立て、俺を看病していたようだった。


申し訳ないが俺はトイレに行きたいんだ。トントンと優しく起こす。

うとうととしつつ、起き上がると少し顔を赤らめ、挨拶をしてくれた。ただ、申し訳ないのがとてもトイレに行きたいので行かせてもらった。


しばらくして戻ってくると


「申し訳ないです。 私がいながら、マスターをお守りできなかった。」


「別にあやさんが悪いわけじゃないよ。 俺が運動音痴だから。 さ、おれのことはいいから、授業に戻って。」


あやさんはしょんぼりとしながら保健室を後にした。


しばらく保健室で療養していた俺はいつの間にかお昼くらいまで寝ていた。

さすがにこれ以上は寝れないので起きた。眼ざめたと共に気付いた。隣のベッドに誰かがいると、、

恐る恐る探ってみるとそこにはスー、スーと寝息を立てる美女、正確にいうと童顔だが、胸のご発達が大変良い女の人が眠っていた。

かわいいと思ったがこれ以上見過ぎると犯罪なのでそこから立ち去ろうとしたその時


「・・・だあれ?」


「あっ、すいません。起こしましたか。」


「ううん、仮病だから大丈夫だよぉ。」


なんというかおっとりした人だなあと思いつつ、簡単に会釈をして保健室を後にした。

渡り廊下から教室に帰るまで、ふと、さっきの女の人を思い出し、自分自身の行動を反省した。

挨拶をされてびっくりしてるんじゃあ、ハーレム王になれないぞと自分を奮起させた。でも別にいいもん、教室に帰ればきらりさんが慰めてくれるもん。


堂々と教室に戻るときらりさんが来る様子もなく、陽キャ達と話しこんでいる。その後も来てくれなかった。それを見かねたれんれんが様子を見に来た。

うれしいけど今はお前じゃ役不足じゃ。


「よっ、アタマ大丈夫か?」


「その言い方やめろし。ていうか、きらりさんに来てほしかったんだけど。そう言えばきらりさんの様子、変じゃないか。」


「心配だから来てやったのに開口一番それか。 でも、あのギャルの様子が変なのは認めるがな。気になって天使さんにも調べてもらってる。」


話をしているとちょうど天使ちゃんが来た。彼女は来て早々焦ってるようだった。


「やっぱり、ダメだよ。札杜さんの方もモブちゃんのこと覚えてないっぽいんだよね。どうしてだろ。」


「そんなはずはないよ。 それに俺がまた、個性を使えばいい話だろ?」


と言って陽キャの事は怖いけどキラりさんのもとへと向かっていった。


「きらりさん!」


「は? だれだよ。きもっ。なんで私の下の名前知ってるし? ていうか、私達、どっかで会ったっけ?」


おう、これは最初に会った時とほぼ同じ感触。すごいゴキブリか何かを見てるようだ。こっちも負けずに個性を使っているが、まるで効かない。攻防戦は惨敗に終わり、加えて陽キャに足蹴にされた。


まさかなと思い、急いであやさんの所へと向かう。

だが、嫌な予感は的中していた。


あやさんも僕の事に関して興味がなさそうに見つめていた。記憶も消え去っていたようだった。

どうしてなんだと、悲しくなり、ただ茫然と教室へと戻っていった。


勉強もさして身にも付かず、ましてや声も聞こえてこなかった。

色も失い、廃人のようになっていた。

れんれんや天使ちゃんの言葉にも生返事で空虚に一日が終わった。


天使ちゃんが見かねて


「ごめんね。 神様なのに何もできなくて。」


「いや、天使ちゃんは悪くないよ。 今日はもう疲れたよ。一人で帰る。悪いけどれんれんにもそう伝えといて。」


教科書をカバンに入れ、教室を出る。

下駄箱から靴を取り出し、玄関から空を見上げる。

外の景色はまるで俺の心を移すような曇天、しかも雨が降り注いでいた。

ため息をつき、傘を見つめていると


「お悩みのようですね。」


どこかで聞いたことのあるような可愛げのある声だった。

その声は続けざまに


「私にも悩みがあるんです。私、いろんな人から合法ロリって言われるんですけど、それがどういう意味か聞くとみんなニコニコするだけで放してくれないんですよ。 これって変な言葉なんですかねぇ?突然申し訳ないですけど教えてくれます? 合法ロリってなんですの??」


彼女の潤みながらも真剣に聞いてくる姿がとてもかわいらしくて、なんだか今の自分が馬鹿馬鹿しくなって最後には噴き出して笑ってしまった。


彼女はプクッと頬を膨らませていたが、自分自身心の中では


そういう所やで。


と思っていた。


「ま、君の笑ってる顔が見れてよかったぁ。私の悩みは尽きなさそうだけど・・・。あっ、私、結城 亜莉須って言います。二年生です。 君は見た感じ、一年生だよ、、ね?」


「・・・はい。如月信男です。結城先輩、ありがとうございます。少し、気が晴れました。後、合法ロリはいい言葉だと思いますよ? 多分。」


「絶対、違うよぉ。」


お互いに笑いあい、傘をさし、学校から少し、先輩と別れるまで話し続けた。個性を使わずにこんなにも女性と話すなんてめったにないけどこの人とはなんだか素直に話せる。これが本当の恋なのかな?


でもなんで、この人は俺に話しかけてくれたんだろ? とりあえず今日は先輩に会えてよかった。そう思えた。


家に帰って、ふと、考える。あやさん、きらりさん。どうすれば戻ってきてくれるんだろ? 一時的なものかもしれないし、今日はもう寝よ。


寝る頃には雨は上がり、星がぽつぽつと輝いていた。



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