転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第七十一話 剣と拳

精霊石を求めて精霊の棲家に訪れた俺達は目的の精霊石を入手して帰ろうと精霊洞窟を出た先にはジャンヌを傷つけ、涙を流させた張本人、七つの欲セブンズ・デザイアの幹部、グリードが待ち構えていた。
思いも寄らない再会。だけど俺がすることは変わらない。
俺の惚れた女を泣かせたこいつだけは絶対に許さない。こいつだけは俺の手で斬らないと気が済まない。
そうして俺は剣をグリードは拳を構えて戦いの火蓋が切って落とされる。
「ハァァアアアッッ!!」
「オラァァアアアッッ!!」
乾坤一擲の気合と共に俺は剣をグリードは拳を繰り出して激しい攻防を繰り返す。
放たれるグリードの拳や蹴りが俺の全てを破壊せんと迫りくるに対して俺はその攻撃を全て避けながら斬りかかるもグリードも俺の攻撃を躱す。
剣と拳。互いに違う得物を用いて戦いを繰り広げて一撃でもまともに受ければ致命傷は免れない。そんな戦いをしている最中、グリードは笑った。
「あれから更に強くなったみたいだな!?」
「ああ! お前をぶった斬る為にな!!」
そう、俺はこいつを斬るために強くなったんだ。
「だがな、強くなったのはてめぇだけじゃねえ! 一度俺の首を斬り落としたてめぇを忘れた日なんて一日もねぇ!! 殺された借りを返させて貰うぜ!」
「できるもんならやってみやがれ!!」
俺達は同時に後ろに大きく後退して互いにスキルを発動させる。
『剣心一体』を発動させて剣の深淵。剣の世界に潜り込む。そしてグリードも『気功』のスキルを発動させて己の気を解放させる。
「秘剣、残撃の太刀!」
「真拳撃流 気功術、崩撃掌打!」
刃を振るうことで放たれる斬撃の嵐をグリードは気を纏った掌打で打ち消したが、その隙に俺は魔力操作で足に魔力を集中させて加速し、奴の懐に潜り込む。
「ジエン流 刹那!」
心臓。人体の急所に一貫必殺の技を繰り出して刃はグリードの心臓に突き刺さる……………筈だったが、手ごたえがない。
「気の運用により残像を生み出す。これが真拳撃流 歩法、残影。そしてこれが」
「!?」
背後に現れるグリード。その拳に集まる気の流れに俺は咄嗟に回避行動を取る。
「真拳撃流 剛拳、崩月!」
気が集結した拳が砲弾のように放たれた。だが、運よく紙一重で回避することができた俺だったが…………………。
「マジか………」
確かに躱した筈なのに鎧はその一撃で壊され、身体にも浅くはない傷を負った。
嘘だろ…………? 躱してもこの威力かよ……………。
「ヒュー♪ さっすがだな、おい。あそこから俺の拳を避ける奴がいるなんて何年ぶりだ? だがまぁ、最初の攻撃は俺が決めたみたいだな」
剛毅な笑みを浮かばせながら楽し気に声を弾ませる。
「真拳撃流 剛拳、崩月。全身の気を腕に集中させることによって拳の威力を何倍にも跳ね上げる剛の拳。運よく躱せたみたいだが余波は受けたみたいだな」
余波でこの威力かよ………。
得意げに技を語るグリード。けど、得意げに語れるだけの威力はある。
機動力を優先している為にジャンヌの鎧ほど頑丈ではないけど、そこらの防具よりかは遥かに高性能である自慢の鎧がたった一撃、それも余波だけで破壊された。
直撃すれば身体に風穴が空いていたな…………だが。
「最初の攻撃を決めたのは俺だ」
「あぁ?」
そこでグリードはようやく気付いた。自分の左肩が斬られているということに。
「………………なるほどな。崩月を躱すより先に俺の腕を斬り落とそうとしやがったな」
「残念ながらかすり傷程度になっちまったが、次は斬り落とす」
グリードの技を繰り出す瞬間、先にグリードの腕を斬り落とそうとしたから回避に少し遅れたが、今の技は繰り出す前に僅かに溜めの時間が必要になるのがわかった。次は確実に斬れる。
呼吸を整えて次の攻防に身構えているとグリードが口角を曲げながら俺に言ってくる。
「なぁ、トム。お前も七つの欲セブンズ・デザイアにこいよ」
「はぁ?」
どういうわけかグリードは唐突に勧誘をしてきた。
「大抵の奴は俺が真拳撃流を使うまでもなくくたばっちまう奴ばかりだが、お前は違う。ここで殺すのが惜しいぐらいにお前は強い。だからその強さを七つの欲セブンズ・デザイアで存分に使わねえか? 今ならちょうどベルフェゴールの席が空いてる」
「………………………」
グリードから感じる気の流れから嘘や何かしらの策というわけでもなさそうだな。組織の幹部として俺の実力を買っての勧誘だろう。けど…………。
「誰がそんな目的も意味もわからねえ組織に入るかよ。そもそも俺には興味がない」
俺はそんなものに興味も感心もない。
第二の人生は鍛冶師として生きるって決めているからな。
「どうして今の時代は平和かわかるか?」
不意に話が変わり俺は怪訝するもグリードは言葉を続ける。
「一昔前、人間、獣人、魔族、エルフやドワーフなども自分達以外の種族を根絶やしにして滅ぼそうと戦争をやっていた。だが、ある日突然他種族同士で手を取り合う事件が起きた。何かわかるか?」
「……………いや」
「邪神がこの世界を滅ぼそうと外の世界からやってきたのさ。その強大な力のあまり他種族は戦争どころじゃなくなった。邪神を討伐する為に手を取り合い、同盟を結び、多くの犠牲を払いながらも邪神を封印することに成功した。だが、その戦いでどの種族も種の存続が危うくなり、和平を結んでそれぞれの種族の国を建国した」
この時代にそんなことがあったんだな……………。そういえば師匠が前に戦争のないこの時代とかなんとか言っていたな。それじゃ俺が使うジエン流やグリードが使っている真拳撃流もその戦争があったから生まれた流派かもしれないな。
だけどそれがいったいなんなだってんだ?
「まだわからねえか? なら教えてやるよ。俺達、七つの欲セブンズ・デザイアの目的はその邪神を復活させることだ」
「!?」
「その封印を解く為に俺達は世界中から封印を解くアイテムを探している。俺がここにいるのもその洞窟にある精霊石を手に入れる為だ」
「なるほど、だからお前がここにいるのか…………」
精霊石の存在はエルフしか知らない筈。つまりグリードの組織にはエルフがいる可能性が高い。
だけど………。
七つの欲セブンズ・デザイアの目的はわかった。けど邪神なんていかにもやばそうなものを復活させてどうするんだよ? 邪神様に世界を滅ぼして貰うのか?」
「惜しいな。邪神に世界を滅ぼして貰うのは正解だが、それはあくまで通過点に過ぎねぇ。邪神に世界を滅ぼさせて俺達七つの欲セブンズ・デザイアが邪神を殺し、神の権能を手にして新たな世界の神として降臨する。それが七つの欲セブンズ・デザイアの真の目的だ」
七つの欲セブンズ・デザイアの真の目的。
あまりのスケールの大きさに理解が追いつけないが、そうとうやばいことをしようとしているのはわかる。
「……………お前等がその邪神を殺せるのかよ?」
「だからこその組織だ。どうだ? ベルフェゴールの代わりにお前が新たなベルフェゴールになり、俺達と共に新しい世界の神にならねえか?」
「誰がなるか」
その勧誘に俺は呆れながら言う。
「邪神を復活させて世界を滅ぼさせて、それで今度は自分達が邪神を倒して神様になるとか。俺には心底どうでもいい。俺はただ鍛冶師として剣を打ち続けたい。それだけだ。後はジャンヌやリリス達と毎日イチャイチャしながららぶらぶな毎日を送りたいぐらいだな。少なくとも神様になりたいなんて一度も考えたことはない」
「なんだよ? 随分と平凡な夢だな。男ならもっと野心を持つべきだろ?」
「行き過ぎる野心は時に己を破滅に導く。何事もほどほどがいいってことだ。まぁでも、お前等の目的が俺の夢を邪魔するのなら壊滅させるしかねえわな、七つの欲セブンズ・デザイアは」
俺は改めて構えを取って言う。
「まぁ、どっちにしろお前は斬ることには変わりないけど」
そんな俺の言葉にグリードは口角を曲げて拳を作る。
「おもしれぇ。なら勧誘は無しだ。どっちが先にくたばるか、勝負といこうぜ」
「望むところだ」
俺とグリードとの戦いが再開する。

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