転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第五十九話 都市攻防戦

この都市――ヴァレイはかつてない危機に陥っている。
数千を超えるモンスターの大群がこの都市に向かって進行中。このままいけば残り一時間もしない内にこの都市はモンスターに蹂躙されるだろう。
それを阻止する為にこの国の国王は王命を下し、騎士達、そしてこの都市に住む冒険者達は戦場に駆り出される。その中にはまだ学士である俺達も強制参加だ。
まだ学士である俺達を強制参加なのもどうかと思うが、実際のところはそれだけ人手不足。
だから学士だろうと騎士の卵として都市を守らないといけない。
俺、鍛冶師なんだけどな………。
今更ながらそんなことを思いながら騎士達が集い都市の南門の前で多くの騎士達が集うその場所で武器の手入れをしつつ来たる時が来るのを待っている。
「少しは緊張しなさいよ………」
そんな俺にジャンヌは呆れるように息を吐いた。
「いや、緊張するというか、俺的には新しい装備を試す絶好のチャンスというか」
俺の言い分にジャンヌは頭が痛いのか頭を押さえる。
「というか、どうして他の奴等はあんなに怯えてんだ?」
「あれが普通の反応よ。貴方がおかしいだけ」
剣を大事そうに抱えながら怯えている他の学士達に首を傾げているとジャンヌが酷いことを言ってきた。誰がおかしいって?
「皆、怖いのよ。だって死ぬかもしれない戦いに身を投じるのだから当たり前よ。それでも戦わないといけないからここにいるのよ」
「戦わないといけないのなら逆に功績を挙げるチャンスだと思えばいいのに」
「そんな前向きなことを考えるのは貴方だけ」
「いや、そうでもないよ?」
ジャンヌの言葉に続いて言ってきたのは最近実力を上げて来ているテイクと戦斧を持ったナンだ。
「よぉ、テイク。ナン」
「うん、君達はいつも変わらないね。逆に安心したよ」
「うん」
前と変わらない笑みを見せながら俺とナンが打った剣の柄に手を置く。
「トムじゃないけど功績を挙げるにはうってつけだ。悪いけど活躍させて貰うよ?」
挑戦的な笑みを浮かべてそんなことを抜かしやがった。
テイクには道を踏み外して重罪を科せられた(美人な)姉がいる。その姉の罪を少しでも軽くするために功績を挙げる必要がある。
こいつにはこいつで戦うべき理由が、功績を挙げないといけない理由がある。けど。
「悪いが一番に功績を挙げるのは俺達だ」
それは俺達も同じだ。
テイクのような立派な理由はない。それでも俺とジャンヌの交際に文句を言われないようにするには実績を積み上げ、功績を挙げる必要がある。
俺達の仲を認めてもらう為にもそれは必要なことだ。
「貴様等、少しは緊張感を持て。貴様等の緩んだ態度が周囲の士気に関わる」
この冷たい棘のある物言いは………。
「義兄様」
「誰が、いつ、貴様の兄になった?」
ジャンヌの兄貴が現れた。相変わらずのるイケメンで腹が立つ。ケッ。
やさぐれる俺に先輩は息を吐いた。
「話は聞いた。ジャンヌと、妹と付き合っているようだな」
「はい」
「ならば先に告げておく。ホウキ・トム、私は貴様を認めない」
先輩ははっきりと拒絶を口にした。
「貴様の強さは認めてやる。だが、ジャンヌは家出中の身ではあるとはいえ、フィルスト家の人間だ。その血の重さは平民である貴様では理解にも及ばないものと知れ」
その言葉に俺は押し黙る。
それはジャンヌから教わったからだ。
「フィルスト家次期当主として、一人の兄として貴様等の仲を容認することできん」
「お、お兄様! 私は――」
「だが、功績を挙げて爵位もしくはそれと同等以上のものを国王から授かったとなれば話は変わる」
「トムを………え?」
「国の為に貢献した者を無下にはできん。それどころか実力を買われて身内に引き入れる可能性は極めて高い。それが王族や貴族であればなおさらだ」
先輩は俺達の横を通り過ぎながら最後に一言。
「最も平民である貴様には無理なことだ。精々死なない程度に足掻くといい」
そう言って立ち去ってあの騎士達の所に向かう先輩の背を見つめて俺とジャンヌは顔を見合わせて一笑する。
「なんだかんだで応援されたな」
「そうね」
たくっ、兄妹揃ってツンデレなんだから………。
けど、未来の兄貴に応援されたら頑張るしかないな。
「皆の者! 我等、騎士団総長からこの度の作戦を伝える!」
意気込みを上げていると号令がかかり、騎士達は一斉に壇の上に立つ初老の男性に目を向ける。
「私はこの国の騎士団総長を務めているカヴァレリア・ルスティカーナだ」
あまりこの国の事情も騎士についても知らない俺でもその名前は聞いたことがある。
カヴァレリア・ルスティカーナ。
この国の騎士団総長を務めているお偉いさん。その年齢は既に八十は超えているとは聞いたことはし、そのしわくちゃの顔や白髪を見ればそれぐらいの歳にも見える。
けど、それは顔だけを見ればだ。
その身体はまるで筋肉の塊。マッスル筋肉と名付けてもいいぐらいだ。鎧を着なくても既に筋肉の鎧を身に付けているほど見事な若々しい肉体だった。
そして騎士団総長という肩書も伊達ではない。
この国には国家騎士と神殿騎士という役職があるも、大体の人はこの国の騎士団に所属して活動している。国家騎士と神殿騎士はその騎士団から選出された者がなれるエリート騎士のようなもの。
そしてこの人、カヴァレリア・ルスティカーナは数多くの騎士団を纏めては国王から絶対の信頼を寄せられている数少ない人だ。
その人直々から作戦を伝えられるなんてよっぽどのことと考えていいだろう………。
「斥候より報告を受けたモンスターの数はおよそ三千を超えている。そしてその三千のモンスターは我々がいるこの場所、都市の南門に向かって真っすぐに進行していることがわかった」
このままここにいれば時期に衝突するということだろう。
「よって我々は団を三つに分けて迎撃に入る。まずは正面を『深紅の騎士団』。右側を『蒼水の騎士団』。そして左側を『翡翠の騎士団』と学士達で取り囲み、殲滅する」
それは作戦と言えるのだろうか? と思うもここは剣と魔法の異世界。元の世界の戦争のように銃や爆弾などはない。なら戦法も剣と魔法しかない。
「諸君。この国の為に剣を取れ。愛する国の為に、守るべき民の為に騎士としての誇りを持って戦うのだ」
騎士団総長からの直々の言葉に士気が高まる。
この場にいる誰もが手を握りしめ、顔を上げて覚悟を固めている。隣いるジャンヌも同様だ。
かくいう俺も同じだ。
ここで死ぬつもりも、ジャンヌを死なせるつもりもない。
存分にジエン流を披露してやる。ジエン流はその為の剣技だ。
そして俺達学士は『翡翠の騎士団』に従って配置につく。聞こえてくるモンスターの遠吠えや地響きに他の学士達は小さく悲鳴を上げているなかで俺は《ドラゴニック・ソード》を手にする。
「来る」
視界にモンスターの大群を捉える。
砂煙をあげながら勢いよくこちらに向かって来る多種多様のモンスターの大群。誰もがその光景を目撃して唾を呑み込み、剣を握りしめる。
「学士は下がれ! まずは我々『翡翠の騎士団』が――」
その団の団長が学士は下がるように告げるより速く、俺、いや、俺達は前に出る。
「数を減らすわよ」
「了解」
ジャンヌの愛剣《セア》と俺の魔剣《ドラゴニック・ソード》から聖なる炎と漆黒の炎を噴出させて開戦の狼煙を上げる。
聖焔の煌火セイクリッド・ティリア!!」
黒竜炎哮ドラグ・イラプション!!」
放たれる聖なる炎と竜の顎をした漆黒の炎はモンスターを呑み込み激しい爆撃と爆音と共に焼き払う。誰もが啞然とするなかで俺はリリスから貰った指輪に魔剣を収納して刀を手にする。
「さて、ろうか」

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