転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第五十六話 エルネスト商会

師匠とほぼ毎日のように剣を交えてジエン流を覚えていく俺はここ最近鎚よりも剣を握っていることが多い。だが、これも全てはグリードを倒す為。強くなる為に今は大好きな鍛冶は控えて修行に明け暮れる。
「シャアアアアア!!」
今日だって師匠からワイバーンを一人で倒してこいなんて無茶苦茶な修行をしているくらいだ。
「シッ!」
空から強襲してくるワイバーンの翼膜を斬り、飛行能力を削って地に足をつけている好機を逃すことなくすぐにトドメをさす。
ワイバーンは竜種だけど流石に灼熱竜ヴォルケーノドラゴンほど大きくも強くもない小型なドラゴンといったところだ。火を吐いたりなどはしないが、尻尾には毒針があり、数体の群れで襲ってくる少々厄介なドラゴンだ。
人間は空が飛べないから空を飛ぶ相手は非常に戦いずらいけど、以前の灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの経験とこれまで鍛えた剣術をもってすればそれほど難しい相手ではなかった。
「ふぅ、これで師匠からのお題はクリアだな」
地面に寝転ぶ数体のワイバーン。疲労はするも傷一つ負うことなく完勝した俺も大分強くなったと思う。少なくとも日本にいた頃の俺と比べれば大分違うな。
もしかしたら俺は日本よりもこっちの世界の方が性に合っていたのかもしれない。
「まぁ、それはさておき。剥ぎ取り♪ 剥ぎ取り♪」
ワイバーンの鱗と爪牙は灼熱竜ヴォルケーノドラゴンほどではないけどいい剣と防具を作る素材になる。毒針の方もギルドに提出すればそれなりの金にはなるみたいだし、素材も金も手に入れるといういいとこ尽くしだ。
剥ぎ取った素材を工房に放り込んで何かワイバーンの素材を活かした剣でも防具でも作ろうかなと考えながら俺は自分の着ている革鎧を見てみる。
「そろそろ新しい装備に変えるとするか」
師匠との修行もあって着ている革鎧は既にボロボロ。そう言えばジャンヌの装備も結構痛んでいたな。折角だからペアルックみたいな装備でもしてみるか? 
その時のジャンヌの反応を想像していると、近くに気を感じた。それも複数。
俺は気配を消しながら気が感じられる方に足を進ませると、そこにはガラの悪い男達――野盗が馬車を襲撃していた。
武装した男達が十数名はいて、護衛の人を殺し、馬車から女の子を引きずり落として、金品や積荷を奪っていくという強盗シーンを俺はリアルで目撃している。
「と、いけない。助けるとするか」
これも修行の一環として俺は刀を抜いて茂みから野盗の一人に奇襲を仕掛ける。
「ガッ!」
「なっ!? なんだ!? てめえは!!」
「ただの武者修行中の鍛冶師だ」
「ふざけたこと抜かしやがって! てめえらこのガキをぶっ殺せ!」
リーダーと思われる男の合図に数人の手下ABCDが一斉に俺に襲いかかってくるが。
「この!」
「死ね!」
「おら!」
「どりゃ!」
手下ABCDの攻撃は一向に俺には当たらない。
師匠と比べると遅すぎるな。それに折角の機会だ。師匠から教わったジエン流の技を試してみるとしますか……………。
俺は刀を鞘に納める。
それを見て観念したのかと思った手下ABCDは笑みを浮かべて向かって来る。だが――
「ジエン流 雷光」
瞬く間に手下ABCDの横を通り過ぎてその間に手下ABCDを斬り捨てた。
足裏から魔力を放出させて抜刀術の要領で敵を瞬く間に斬り捨てる。ジエン流最速の剣技。
まだ師匠程完璧ではないけど、野盗相手には十分だな。
「さて、次は誰だ?」
刀を振って血を払い、野盗達に視線を向ける。先程の剣技を目の当たりにして怯む野盗達から一歩踏み出す大柄の男。その手には大剣が握られている。
「ガキにしてはいい腕だ。次は俺様が相手をしてやるぜ」
「そうか」
大剣を振り上げて力任せに振り下す男の一撃。ただの力任せの大振りと言いたいけど……………。
「その剣。魔剣か…………」
叩きつけられた地面は砕くことなく溶けている。
「ご名答。これは腐蝕の魔剣。闇ルートで手に入れた俺の愛剣だ。これでてめえもぐちゃぐちゃにしてやんよ!!」
力任せの大振りを繰り出す。その攻撃を前に俺はひたすら避ける。
「この魔剣の前じゃ防御は不可能! 一撃必殺の最強の魔剣だ!」
「確かにいい魔剣を持っているな。是非にも俺のコレクションに加えてやる」
「やってみやがれ!!」
振り下ろされる魔剣の一撃。けれど、振り下ろされるよりも速く俺は男を斬った。
「な、に…………?」
「力任せの剣技で今の俺に勝てるかよ。もっと技を磨け」
地に伏せる魔剣使いの男。それを見て他の野盗達は戦意を喪失して一目散に逃げていく。
他に敵がいないことを確認して俺は刀を鞘に収めて腐蝕の魔剣に手を伸ばす。
「へぇ、抵抗するか」
持つ手が熱い。恐らく皮膚の表面を溶かしたのだろう。これ以上持てばお前の全身を溶かしてやるとこの魔剣はそう警告しているのだろうが。
「上等」
俺は躊躇うことなく魔剣を持ち上げる。自分の手が溶かされている痛みと腐敗する臭いがするも構わず魔剣に魔力を流し込む。
「従え」
そして腐蝕の魔剣は俺を溶かすのを止めて俺を持ち主と認めた。手は多少溶かされて骨が見えているがレアな魔剣が手に入ったのだから問題じゃない。
手に治療薬をかけて応急処置を施して襲われていた馬車の人達に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「は、はい! 貴方のおかげで助かりました! 本当にありがとうございます!!」
涙ながらお礼を言ってきた可憐な美少女。
太陽の光に反射してキラキラと光輝く純銀のような綺麗な銀髪にどこまでも蒼い空色の瞳。歳は俺より少し下の中学生ぐらいの可愛い美少女だけど成長すればきっと美人になれる。そんな美少女だ。
「あの、何かお礼をしたいのですが…………」
「ん? ああ別にいいぞ。これも修行の一環だし、収穫もあったからな」
魔剣を担ぎながらお礼を断る俺だけどこの子は引かなかった。
「いえ! 商会の娘として助けられた恩はきちんとお返ししないと気が済みません!」
意固地にお礼をしようとする。
…………ん? 商会の娘?
「あ、申し遅れました。私はルーシィ・エルネストと申します。大商会エルネストの娘です」
エルネスト? 確かよくリリスの話に出てくる商会だったな。ならこの子はその娘さんか。
「ああ、俺は十夢だ。よろしくルーシィさん」
「ルーシィとお呼びください。それでお礼を…………」
「まずはここを移動しないか? いつまでもここにいるわけにもいかないだろ?」
「は、はい! それもそうですよね!」
下手をすれば野盗の死体を食べようとモンスターが近づいてくるかもしれない為に俺達は一先ずここから離れることにした。
「トムさんは鍛冶師なのですか? てっきり騎士か冒険者の方だと」
「あーまぁ、色々事情があって今は剣術の方を鍛えているんだよ。ところで他に誰もいないのか? 護衛はいたようだけど他に商会の人とかは?」
「えっと、実は…………」
ルーシィは恥ずかしそうに自分の秘密を打ち明かした。
どうやらルーシィの父親は娘であるルーシィを溺愛していて商会としての勉強や経験はさせてもらえてもそれは全て父親のサポート的な仕事だけで自分一人に仕事を任せてもらえることはなかったらしい。危険なことから遠ざけられて両親の下で安全な仕事だけしかさせて貰えなかったことに不満を抱いたルーシィは両親の目を盗んで仕事を奪い、独自で護衛を雇い、一人でも仕事ができることを証明したかったらしい。
それで危険な目にあったら世話はないわなぁ、とは思ったけど口には出さないでおいた。
「両親には謝らないとな」
「……………………はい」
気恥ずかしそうに首を縦に振る。まぁ、無事だったことだしこれを一つの経験として自分の糧にしていけばいい。
ルーシィと雑談しながら馬車に揺られて街に到着してエルネスト商館に辿り着くとそこにはルーシィのご両親と思われる夫婦がいた。
「ルーシィ!」
娘と目が合うと一目散に娘に抱き着いて無事だったことに安堵の涙を流す。その抱擁にルーシィも薄っすらと目尻に涙を溜める。
「この馬鹿娘がぁぁあああああああああああああああああッッ!!」
「痛ッ!!」
――が、すぐに父親の雷という拳骨が娘の頭に落ちた。
「街の外はモンスターや野盗がうろうろしていると何度も言っただろうが!! それなのに街の外に出るなんてこの大馬鹿者が!!」
「ご、ごめんなさい!!」
父親の怒りにルーシィは涙目で何度も頭を下げて謝るも父親の怒りは収まることなく娘にくどくどと説教を続ける。
溺愛しているって聞いたけど、娘に甘々ってわけでもないんだな……………。
愛にも様々な形があることを俺は知った。
暫くして娘の説教が終わり、ようやく俺の存在に気付いてくれた。
「ところで貴方は?」
「ああ、俺は十夢と言います。実は―――」
俺は父親にルーシィが野盗に襲われていたところを助けたことを説明する。
「そうでしたか。娘を助けてくださり本当にありがとうございます」
深々と頭を下げて感謝の言葉を告げてくる父親に俺は首を横に振る。
「いや、偶然居合わせただけですからお気になさらず。それでは俺はこれで」
「待ってください!」
さり気なく去ろうとする俺にルーシィは俺の腕を掴んで止めに入った。
「まだお礼をしていません! 何か私にできることはないでしょうか!?」
「何かって言われてもな…………」
正直別に何かして欲しいことなどないし、武具の素材も金も学院に請求してしまえばどうとでもなる。ありったけの武具が欲しいって言っても今はそれをじっくり鑑賞する暇もない。手入れや管理つて大変だからそれは落ち着いた頃から集めるつもりだ。
拒否しようにも涙目を浮かべているこの子の顔を見るとそんな事は言えないし……………。
「こら、ルーシィ。トム殿を困らせてどうする?」
「だって!」
「まったく………」
頑固な娘に嘆息する父親は娘に代わって俺に話しかける。
「トム殿。欲しい物がないと仰るのでしたらエルネスト商会と関係を持つというのはどうでしょうか? そうすれば我々はいざという時にトム殿の後ろ盾にもなりましょう」
それ、普通にお礼を貰うより凄いことじゃねえ? 大商会が後ろ盾になるって普通は無くね?
「いいんですか?」
「それだけ我々には貴方に恩があるということです。勿論色々と優遇もさせて貰います」
まぁ、そこまでしてくれるっていうのなら断るのも気が引けるな。他に何も思いつかないし、これで納得しておくとするか。
「それではそれでお願いします」
「はい。それとこれは商会としてではなく父としての頼みではありますが、どうか娘と仲良くしてあげて欲しいのです。今回のように娘が無茶をやらかさないようにトム殿にも見てあげて欲しいのです」
「お父様!?」
「それぐらいなら全然いいですよ」
美少女とはいくらでも仲良くなりたいしな。
「感謝します。それではこれを」
手渡されたのは紋章みたいなものが刻まれたバッジだ。
「我がエルネスト商会の関係者の証です。色々とお役に立つはずです」
「そうですか。ありがとうございます。それでは俺はこれで」
「はい! 何かあればいつでもエルネスト商会に足を運んでください!」
「ああ」
俺は踵を返して師匠に課題をクリアした報告に向かう。

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