転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第五十四話 師匠

「また来たのか、小僧」
明朝に俺はまたジエン流の師範大であるシジマさんに会いに来たのだが、心底鬱陶しいような顔で俺を見てくる。
「帰れ。そして二度と面を見せるな」
「まぁそう言わずに、手土産もありますから」
俺は酒を見せるとシジマさんは無言で杯を俺に投げてくる。その杯に酒を注いで手渡して俺も持って来たグラスに酒を注いで飲むと感心した声が聞こえた。
「ほぅ、小僧。いい飲みっぷりじゃねえか」
「まあね」
シジマさんも酒を一気に飲んで杯を空にして突き出してくるので酒を注いでやる。
「………………随分といい酒だな」
「俺には目利きのいい人がいますから」
気に入って貰えて何よりだ。本当にリリスにはマジで感謝だな。
手土産として酒を勧めたのもチョイスしてくれたのも全てリリスさんだ。もう本当リリスに足を向けて寝ることができねえわ。
リリスに感謝しながら暫くシジマさんと酒を飲んでいると、不意にシジマさんが訊いてくる。
「てめぇ、どうしてジエン流に拘る? 今の時代、剣術などどこへでも覚えれるだろう?」
酒に気分を良くしてくれたのか、もしくはさっさと追い払いたいのかそう訊いてきた。何はともあれ一歩前進したこのチャンスを逃さない為にも俺は真面目に答える。
「確かに今は剣術の指南は頼めばどこでもできる。聖シュバリエ学院でも何人か剣の指導者がいる」
事実、学院でもその人に剣術を教わる人は大勢いる。でも。
「それでもそれは形だけ、恰好だけの剣術だ。俺が身に付けたいのは実戦剣術。実戦で役に立つ剣術だ」
実はというと俺も少しはその人から教わった。けれど俺には肌に合わず、ましてや実戦で役に立つとは思えなかったのですぐに止めた。
「実戦剣術か…………何の為に実戦剣術を身に付ける? 殺したい奴でもいるのか?」
「ああ、いる。どうしても何があっても一人だけ絶対に許せない奴が」
グリード。ジャンヌを傷つけ、泣かせたあいつだけは必ず俺の手で斬ると誓った。
私怨だろうが、八つ当たりだろうがそんな理由付けなんてどうでもいい。奴だけは絶対に斬る。俺の手で必ず。
無意識に俺の手は強く握りしめていた。しかし、シジマさんは言葉を続ける。
「戦争もねぇ今の時代に随分とぶっ飛んだ小僧だ。そこまでわかってんなら剣や剣術は何の為にあるか知ってんだろ?」
シジマさんは深刻な顔で告げる。
「剣は凶器。剣術は殺しの技。騎士達が言ってやがる民を守る剣も剣術も存在しねぇ。そんな空想染みたことが言える奴は一度もてめえの手を汚したことがねえ奴だけだ」
「……………………もしかしてそれがジエン流が衰退した理由ですか?」
「ああ、戦争だけにか役に立たん剣術は不要だそうだ」
そういう理由があったのか……………。
この世界は割と平和だ。ファンタジー世界は戦争ばかりしていると思っていたけど実はそこまでではない。というか大体百年ぐらい前に戦争は終止符が打たれた。だから今はよほどのことがない限りは戦争は起きないし、争いの火種になる可能性のあるものは全て排除したのだろう。そのうち一つがジエン流だった。
「俺も歳だ。もう十年か二十年もすれば老いて死ぬだろう。それでこの世からジエン流は消えてなくなる。だから俺の残りの人生を放っておいてくれねえか?」
何もせずただ静かに死にたい。それがシジマさんの望みなんだと思う。
ジエン流が衰退した今、剣を振るう理由も剣を握る理由もなくなった。何の意味もない剣術に拘るのは止めて酒を飲みながら死に絶えようとしている。
そんな理由があるのならここからジエン流を教えてくれと言うのは我儘だろう。だから俺は――
「なら尚更俺にジエン流を教えてください」
その我儘を貫くことにした。
「小僧…………俺の話を聞いてたか?」
「はい。けれど俺には貴方の事情なんて関係ない。この先何もする気がないのなら俺にジエン流を教えてくれ」
堂々と懇願する俺にシジマさんは怒りに満ちた顔で俺を睨む。
「図々しい小僧が。それが人に教えを乞う態度か?」
「貴方が俺にジエン流を教えてくれるのなら態度を改めるが、そうじゃないのならする気はない。俺にはするべきことが、やるべきことがある。何もしないあんたと違って俺には時間がないんだ。七つの欲セブンズ・ディザイアと戦う為にも俺には剣術が必要なんだよ」
七つの欲セブンズ・ディザイアだと…………?」
その言葉にシジマさんの表情が一変する。
「……………小僧。てめぇの名は?」
「十夢だけど? 急にどうした?」
「スキルは? 剣のスキルは持っているのか?」
「一応剣の最上位スキル『剣心一体』があるけど…………」
「剣神が持っていたあのスキルか!?」
「お、おお…………」
急に大声を上げて驚く俺を無視してシジマさんは俺に言う。
「トム。気が変わった。てめぇにジエン流の全てを叩き込んでやる」
「…………それはこっちから申し出たことだからありがたいが、どうして急に?」
「俺の師は七つの欲セブンズ・ディザイアに殺された」
シジマさんは語る。
シジマさんが剣を手放すきっかけになった本当の理由はシジマさんの師匠が七つの欲セブンズ・ディザイアに殺された。当然シジマさんや他の門下生の人も仇を取ろうとしたが見事に返り討ち。師も門下生も殺され、心が折れたシジマさん仇を取ることさえ諦めて酒に溺れる毎日となった。
「正直俺はもう諦めていた。奴の強さは化物だ。だが、剣の最上位スキルである『剣心一体』を持っているお前にジエン流を叩き込めば奴を上回るかもしれねえ。だから」
「自分の代わりにそいつを殺してくれと?」
「ああ、格好悪いがな。だがそれで少しでも他の奴等の溜飲が下がるなら安いものだ」
復讐の代理人になるつもりはないけど、どの道俺はもう七つの欲セブンズ・ディザイアに目を付けられているからついでに仇を取ってやるとするか。
「了解。それでその化物の名前は?」
「ああ、奴の名は――――」
告げられるその名前。もし出会うことがあればシジマさんの代理として復讐を果たそうと決めた。
「わかりました。それではシジマさん、いえ、師匠の代理としてジエン流の技でその者を斬り伏せます」
「ああ」
師匠となったシジマさんは部屋の片隅に置かれている小汚い布包みを持ち上げて布を取り払うと両手剣が姿を見せる。
「おおっ! いい剣ですね、師匠! 是非とも俺に下さい!」
「やるかボケ」
ですよね。わかっていました。わかってはいたけど武器マニアの血がどうしてもそう言わずにはいられない。
「愛剣を握るのも久ぶりだが、まぁ問題はねえだろう」
両手剣を肩に置いて師匠は俺に向けて言う。
「さっさと立って外に出な、弟子。俺の教えは優しくはねえぞ?」
「上等ですよ、師匠!」
こうして俺はジエン流のシジマさんに弟子入りすることができた。

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