転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第四十九話 魔槍

毒に犯された水源をジャンヌの新しいスキル『浄化』によって元に戻して俺達は街に戻ろうとした際に七つの欲セブンズ・ディザイアが俺達の前に現れた。
エレナ先輩が聖女様を逃がし、俺とジャンヌが敵と対峙している。
「フッ!」
鋭い槍の一突きを刀で受け流し、そのまま斬り払うように振るもグルンドは巧みな槍捌きで防いだ。
「流石はグリード様がお褒めするだけはあります。なかなか良いスキルをお持ちで」
「そういうお前もな。槍の上位スキルか?」
「ええ、槍の上位スキル『槍術師』。極めれば魔力無しに岩石さえも貫くことができます」
へぇ、それは凄いな。ならその上にある最上位のスキルを持っている俺は隕石でも斬れるのだろうか? ………………いや、斬れたらもう人間じゃなくね?
冗談交じりにそう思いながら俺とグルンドは互いに距離を取る。
「というか、お前等の目的ってなんだよ? お前等も聖女様狙いか?」
「その質問にお答えするとしたら半分正解で半分ハズレです。私達に依頼した司教はここにある水源に毒を入れて、ここに訪れた者を始末しろ。と依頼を受けただけです。別段聖女様を殺せとは命じられていませんので」
おいおい、司教。七つの欲セブンズ・ディザイアにまで依頼を出したのかよ。流石にそれはやり過ぎだろ。どんだけザイクル教会を邪教に認定させたいんだよ。
「どんだけ聖女様に死んでほしんだよ、司教は………」
「それだけ復讐を果たしたいのでしょうね」
「復讐………?」
「おや、知らないのですか? 数年前にアグロディ教会とザイクル教会は宗教争いがありましてね。その争いで司教の娘さんはザイクル教会の手によって嬲り殺されたのですよ。ですから、ザイクル教会を邪教に認定させ、地獄の底に叩き落とす大義名分が司教にはどうしても必要のようです」
なるほど。それなら確かに下手な神官よりも聖女様が死んだ方がその後色々とやりやすい。
自分と同じ協会に所属している聖女様が死ねば真っ先に疑われるのは険悪の仲であるザイクル教会だ。聖女様の死を大義名分としてザイクル教会を邪教と認定させて復讐を果たす。
聖女様さえ死ねばあとはザイクル教会が裏で糸を引いていたとか、こいつらが聖女様を、などと話をでっちあげればザイクル教会に容疑をかけることができる。
「けど、それならどうしてお前等に聖女様を殺させないんだ?」
眼前にいるこいつらが聖女様を殺さないのは依頼に含まれていないから。だけど、七つの欲セブンズ・ディザイアに聖女様を殺す様に依頼をすればいい筈なのにどうしてそれをしない?
その疑問をグルンドが教えてくれた。
「金でしょうね。いくらアグロディ教会の司教といえど我々の組織に殺しの依頼を出せれるほどの金がなかったのでしょう。殺しの依頼は色々と手間ですから高いんですよ」
金銭的問題があったのか……………。というか。
「思ったんだが、随分と丁寧に教えてくれるな? 言葉もやけに丁寧だし。なんで七つの欲セブンズ・ディザイアにいるんだ?」
正直裏の組織で働いている人には思えないぐらい丁寧だ。
「ああ、お気になさらず。ただの性分です。それと私が組織にいる理由は至極単純なものですよ」
グルンドは槍を構えて堂々と告げる。
「惚れた女の傍にいたい。ただそれだけです」
その言葉に俺は目を見開き、すぐに唇を曲げる。
「なるほどな、確かに至極単純な理由だ。同じ男としてその気持ち理解できるぞ? ちなみに惚れた女ってあいつのことか?」
現在進行形でジャンヌと戦っている女性を指すが、首を横に振った。
「いえ、彼女ではありません。私が惚れた人は私以上に強く、美しいお方。あの方の為にも私は実績を積み重ねて認めてもらわなければならないのです。組織の一員として、一人の男としても」
「その気持ちわかる。だが、こっちも負けられねえ理由があるからな」
「ええそうでしょう。だからここからはどちらが勝っても負けても恨みっこなしで行きましょう」
「ああ」
敵同士でありながらも同じ男として分かち合う俺達は互いに笑みを見せ合い、歩み寄る。
そして俺達は決闘でも始めるかのように互いの得物をぶつけ合わせて勝負を再開する。
「ハァァァアアアアアアアッッ!!」
容赦のない槍の連続攻撃、乱れ突き。俺の身体を風穴だらけにしようと襲いかかってくる。しかし、俺はスキルを発動させてその槍の動きを全て見切り、受け流す。
だが――――
「!?」
一撃も受けていない筈の俺の身体に傷が生じる。
確かにグルンドの攻撃を見切って受け流している。それでもグルンドが槍を突く度に俺の身体に傷が生まれる。腕、足、横腹、頬、と致命傷ではなくても確かに傷が生まれ、血が流れている。
まるで槍に見えない刃があるかのように……………ッ!
「そういうことかッ!」
槍を弾く俺。僅かに態勢を崩したグルンドの腹に蹴りを叩き込む。
「グッ!」
「チッ」
呻き声を出すもグルンドはそれ以上態勢を崩すことはしなかった。俺が蹴りを入れる瞬間に後ろに下がって威力を殺しやがった。けど。
「その槍。ただの槍じゃないな」
「……………………御明察。この槍の素材に用いられたのは風を操る魔鳥ジズの素材を使った魔槍です。形状こそ槍ですが、これも立派な魔剣ですよ?」
「ほう?」
魔剣に続いて魔槍が出てくるとは…………。これは是非とも手に入れないとな。
武器マニアとしての血が騒ぐ俺はグルンドに言う。
「俺が勝ったらその魔槍を頂戴してもいいよな?」
「ええ別に構いませんよ。私も貴方に勝った暁にそちらの剣と腰にある魔剣を頂戴するつもりですので。特にそちらの魔剣は鞘から抜かなくてもわかります。随分と強力な魔剣をお持ちで」
「まぁな。灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの素材を使った俺の最高の一振りだ」
「……………なるほど。それはあのお方に献上するのに相応しい一振りです」
「あっそ。なら遠慮なく貰うぞ?」
距離が開いた状態で俺は刀を振るうと同時に刀身から魔力を放出させて刀身を伸ばす。グルンドはその一振りを身を低くすることで躱すと同時に一気に槍の間合いを入る。
槍に風の螺旋を纏わせて俺の心臓を寸分狂わず狙う。
俺は身を逸らすことで躱し、グルンドの首を斬り落とそうと刀を振るうが上半身を後ろに逸らすことで掠り傷で終わらせた。
「確かにその魔槍には驚かされたけど、ただ風を纏わせている程度なら魔法剣と変わらねえぞ?」
「この魔槍を魔法剣と同列に扱わないで欲しいですね」
すると、槍から発生させる風が息吹でもしているように吹き出る。
風貫ディアトリトス!」
放たれる風の一突きは俺の横を通り過ぎ、壁に直撃。直撃した壁には穴が開いている。
風刃クスィフォス!」
続けて槍を振ると風の刃が放たれる。
「まだまだ行きますよ?」
槍を上空に掲げるとそこから風で形成された鳥が出てくる。それも一体二体じゃない。ざっと見ただけで十体以上はいる。
風霊鳥群オルニス・フェイラッカ!!」
風の鳥の大群が一斉に俺に襲いかかる。俺は咄嗟に魔剣を解き放ち地面に突き刺す。
「黒竜炎!!」
地面から噴き出す黒い竜の炎が風の鳥を呑み込んでいく。
「……………そこまで風を操れるのかよ」
確かにこれではただ風を纏う程度しかできない風の魔法剣と同列にするべきじゃないな。
「【風の精霊よ。我が呼び声に応じてその力を貸し与え賜え。風をここに。我が身に疾く走る疾風を】」
風の魔法を発動させたグルンドは一瞬で姿を消した。
「!?」
「躱しましたか」
突如背後から放たれた一突きを俺はギリギリのところで躱した。スキルの直感と気のおかげで躱せれたが俺の目ではグルンドの動きを捕えることが出来なかった。
速すぎるッ!!
「ではこれならどうでしょう?」
更に魔槍の風を我が身に纏わせて残像すら視認できない速さで動き出すグルンド。
魔法の風×魔槍の風。二つの風の力を纏わせて相乗効果を発揮させている。グルンドの気の気配は感じるが、動きが早過ぎて特定が出来ない。このままじゃ間違いなく殺られる。
「次の一撃で終わらせます。覚悟を」
告げられるその一言は本当だろう。グルンドは次の攻撃でこの戦いを終わらせるつもりだ。
「……………………試してみるか」
俺は魔剣を鞘に納めて刀を両手で握って目を閉じる。
これに失敗したら俺は間違いなく死ぬ。それでももう俺にはこれしか手は残されていない。
気の訓練を行って俺はグリードのようにまだ気を自在に操ることはできない。今の俺にできるのは気で相手の気配を察知するぐらいだ。
だから全ての感覚を閉ざし、相手の気を、気配だけを感じ取る。それだけに全ての意識を集中させる。
感じろ、奴の気配を。
予測しろ、奴の動きを。
神経を研ぎ澄ませて意識を極限まで集中させる。
そして――――
「そこだ!!」
背後からトドメをさしに来るグルンドを斬った。
「な、なぜ……………?」
身体から血を流し、よろけるグルンドだが、今の一撃は紛れもない致命傷だというのは流れ落ちている血の量でわかる。
「感謝する、グルンド。お前のおかげで俺は更に強くなれた」
きっとここでこいつと戦っていなければ強くなれた実感を持つことが出来なかっただろう。それと俺はまだまだ強くなれるということにも。
するとグルンドは俺を見て笑みを浮かべた。
「はは…………そうですか、そういうことですか。私より貴方の方が強かった。ただそれだけの話だったのですね………………」
何かを悟ったかのように語るグルンドは俺に顔を向けて告げる。
「この勝負、貴方の勝ちです。魔槍もたった今貴方の物になりました。できることならトドメをお願いしても?」
「ああ」
俺は切っ先をグルンドに向ける。
「最後に言い残すことはあるか?」
「いえ何もありません」
「そうか。じゃあな」
最後の一振りを持ってグルンドの生を断つ。そしてグルンドの魔槍を手にすると。
「へぇ、俺を主だと認めるか」
触れただけでこの魔槍は俺を主だと認めたことがわかる。《ドラゴニック・ソード》と違って随分と聞き分けのいい奴だ。
とはいえ、俺は槍のスキルは持っていないから槍術も含めて練習が必要だな。
「さて、ジャンヌの方はどうかな」
戦いが終えて、俺はジャンヌに視線を向ける。

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