転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第四十八話 水源

聖女様の正体を知った俺達は変わらず聖女様の護衛に務めている。
そして今日もまたこのウルプス市で流行り病に犯された病人を聖女様の奇跡の力で癒していく。
けど、数が多すぎる。
ここ以外でも神官が尽力を尽くして病人の病を癒してはいるけど、それでも人手が足りない。
原因不明の病魔。それに次々に感染していく住民達。ここにいるだけでも数百の規模で聖女様に病を癒して貰おうと集まっている。
まるで終わることのない作業を永遠にやらされている。そんな気持ちになる。
そこで俺がポツリ、と…………。
「そもそも原因はなんだ?」
そうぼやいてしまう。
流行り病だとしても何かしらの原因があるし、そもそも感染原因はなんだ? 空気感染か経口感染かはわからないけど、他の神官や神殿騎士。俺達を見て少なくとも空気感染ではないとは思う。
空気感染だとしたら既に何かしらの変化はある筈。けれど、俺やジャンヌ達はもちろん俺達よりも前にこの地にやってきている神官達にも変化は見られない。
それならこの地に住む人達が知らず知らずのうちに病原菌を口に入れてしまった。ということになる。それなら一番疑うべきなのは……………。
「水、だな」
ここは異世界。日本のように水道から水が出てくるわけではない。井戸や川から水を汲んでそれを使っている。水魔法が使える人ならそっちを使っているとは思うけど、平民は基本的に井戸や川の水を飲み水として使っている。
それなら水源に毒を混入させてしまえば人は知らず知らずに毒を口にしてしまう。
異世界コミックで犯罪者や悪の組織が良く使う手口だけど、この様子だとその線が妥当だろう。
俺達や神官達の飲み水などは魔法によって生み出された水だと聞くし、後でエレナ先輩やジャンヌと相談して調べに行ってみるとするか………。
「死ね! 聖女!!」
不意に病人に紛れて短剣を握りしめた男性が聖女様を殺そうと接近してくる。だが、聖女様を短剣で突き刺すより前にジャンヌが盾で男性の攻撃を防いだ。
「ハッ!」
「ぐふッ!」
そして男性を一刀両断する。…………ようなことはなく剣の腹で攻撃して男性を痛みで悶絶させて捕縛して神殿騎士にその身柄を引き渡した。
俺はその男性に同情、というか痛みに悶えるその気持ちに共感を覚える。
俺もその痛みをよく知っているからな……………。
俺もよくジャンヌにされたものだ。その痛みがどれだけか文字通り身をもって知っているからな。
「トム。気を緩めないでしっかり護衛に集中しなさい」
「イエッサー!」
敬礼で返す俺の頭にジャンヌの愛の込めた拳骨が落ちた。なぜ…………?
「ふざけていないでしっかりやりなさい。いいわね?」
「はい…………」
真面目にやりますので指をボキボキと鳴らすのは止めてください。本当、お願いしますから。
「………………私も彼氏が欲しいものだ」
そんな俺達にエレナ先輩はそんなことを呟く。
大丈夫ですよ、エレナ先輩ならきっといい人が見つかりますよ。
それにしてもこれで今日、何回目の襲撃だ? まだここに来て二日目だというのにいくらなんでも多すぎるだろう? 司教はよほど聖女様を亡き者にしてザイクル教会を邪教にしたいみたいだからいつ強行策を取ってくるかわからないな、こりゃ………。
そうなる前に病気の原因を排除しておいた方がいいかもしれないな。


聖女様のお仕事を終えたその日の夜。俺、ジャンヌ、エレナ先輩、聖女様は水源を調べる為に水源があるとされている山に入っている。
本当なら神殿騎士や他の神官の人にも手伝って欲しいのが本音だが、本当に水源が原因かわからない以上はおいそれと頼めれないし、緊急の患者が出た時の対処もしなければいけないからまずは俺達だけで動くことになった。
「トムって時々妙に博識よね。もしかしてトムってどこかの国の貴族だったりするのかしら?」
「生憎と俺は一般人だよ」
元の世界が前に付くけど。
異世界であるこの世界で勉学に励むことができるのは貴族や王族といった身分がある者だけ。平民は独学で勉強をする人もいるみたいだけど基本的は勉強などしない。
それに比べたら日本はいい生活なのかもしれない。できないことができるってだけで違うんだから。勉強もテストも嫌だってある意味贅沢な悩みかもな。
「皆、一応は警戒はしておくように。こんな暗闇の山の中ではいつ暗殺者に襲われるかわからないからね」
ランタンを持ちながら俺達にそう注意を促してくれるエレナ先輩に俺達は頷く。
確かにこんな山道だったらいつ襲われても不思議じゃねえな。
周囲を警戒しながら山道を歩く俺達。すると、水源があるとされる洞窟に辿り着いて中に進む。
街の人に聞いた話だと、水源の水は澄んでいるように綺麗と聞いた。
だが………。
「これはどう見ても…………」
そこにある水はどう見ても澄んでいるとは言い難いほどに濁ってる。エレナ先輩は水源の前にしゃがみこんで険しい顔で覗き込む。
「…………これは間違いなく人為的だ。毒が混入されている」
「わかるんですか?」
「こう見えても薬毒には長けているからね。まぁ、詳しくは話せないが」
後半言葉を濁しながらも毒が人為的に混入されている事実が発覚した。これも司教の仕業かと訝しんでいるとジャンヌが水源の前に立つ。
「女神様から授かった新しいスキルを試してみるわね」
そう言ってジャンヌの手元から聖女様が使う奇跡に似た光が出現してジャンヌはそのスキル名を口にする。
「『浄化』」
すると、濁っていた水がその光に当てられて澄んだ水へと姿を変えていく。
そのスキル名通り、毒を浄化したのだろう。聖職者が持っていそうなスキルをジャンヌはアグロディーテー様から授かったのか。
水源はあっという間に綺麗な澄んだ水へと変わった。それを見て一息つくジャンヌ。
「ふぅ~」
「お疲れさん」
「ええ。でも、思っていたよりこのスキルは疲れるわね……………」
スキルの反動で疲労を感じているジャンヌ。それだけ毒が強かったのか、スキルの反動が強かったのかはわからないがこれでこれ以上病人が増える心配はなくなった。
「さて、それじゃ戻るか」
もうここには用がない。さっさと宿に戻って休むことを提案する俺に一同頷いて水源を背に向けて歩き始める。すると――
「それは勘弁してほしかったですね」
「まさかあたしの毒を浄化させるなんてね」
俺達の前に二人組の男女が暗闇から姿を現した。
槍を背に携えた軽装で長身の男と褐色肌で民族衣装のような恰好をしたアマゾネスのような女性。
「誰だ?」
剣の柄に手を置きながら問いかけるエレナ先輩。その問いに男性が丁寧に応えた。
「お初にお目にかかります。私はグルンド。七つの欲セブンズ・ディザイアに所属している者です」
「同じくあたしはベネーノ。水源に毒を入れた女さ」
七つの欲セブンズ・ディザイア。その言葉に俺達は一斉に戦闘態勢に入って剣を構える。
「まさかこんなにも速く七つの欲セブンズ・ディザイアに会うとはな……………。グリードは元気にしてるか?」
皮肉を込めてそう挑発する俺だけどグルンドと名乗る男性は俺の言葉を聞いて顎に手を当てる。
「ほう。それでは貴方がグリード様が話していたトムですか。なるほど、見ただけで貴方がお強いことはわかります」
そう告げるグルンドは槍の矛先を俺に向ける。
「ベネーノ。彼は私が相手をします」
「はいよ。それならあたしは毒を浄化してくれたそこの騎士様と殺り合うとしますか」
獲物を見つけた蛇のようにジャンヌを見るベネーノは腰からナイフを取り出す。
「エレナ先輩は聖女様を街まで頼みます」
「………………すまないがここは任せる。代わりにもならないとは思うけど、聖女様は私が必ず守ると約束するよ。だから心置きなく戦うといい」
「「はい」」
敵が俺とジャンヌに狙いを定めた以上は俺とジャンヌはここから逃げるわけにはいかず、そして、命を狙われている聖女様の傍には誰かがいないといけない。
聖女様を連れて離れて行く二人に俺達は安堵する。エレナ先輩なら問題はないからそっちは安心して任せられる。それよりも今は自分達のことだ。
相手は七つの欲セブンズ・ディザイア。油断できる相手ではないのはグリードとの戦いで良く知っている。だからここで確実に仕留める。
「行くぞ、ジャンヌ」
「ええ」
互いの相手を睨み合い、同時に駆け出す。
俺とグルンドの刀と槍が衝突し、火花が飛び散り。ジャンヌとベネーノの剣とナイフがぶつかり合う。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品