転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第四十七話 剣の聖女

任務が終えてからのご褒美に期待しつつ俺は聖女様につきっきりで護衛してもいいか許可を求めると―――
「はい。宜しくお願い致します」
微笑みながら即了承してくれた。
「既に二度も救われた身。ここで我儘を申せば女神様よりお叱りを受けてしまいます。我が身を貴方様方に委ねます」
胸元に手を置いてそう言ってくる聖女様は次に謝罪を口にする。
「それと謝らなければいけません。今回の件で貴方様方を巻き込んでしまった事に」
「………………それはどういう意味か、理由をお聞きしても?」
エレナ先輩が深刻な顔で尋ねると聖女様は頷いて口を開く。
「貴方様方を信用して真実を打ち明けます。今回の一件は全てアグロディ教会に所属している司教の独断です。全てはザイクル教会を邪教と認定させてアグロディ教会をこの国唯一の国教にする為に私をその犠牲に選んだのでしょう」
告げられる真実に俺達は目を見開く。
「盗賊も暗殺者も全てはその司教が手を回した者。恐らくはザイクル教会の仕業に見せかける為に偽りの証拠を持たせて」
「……………………いえ、ちょっと待ってください。それはいくらなんでもおかしいかと。ザイクル教会を邪教としてアグロディ教会を国教するにしてもその為に聖女様を犠牲にするなんて……………」
戸惑いながらも最もな疑問を口にするジャンヌ。俺もその疑問に頷いた。
その司教の考えはまぁ、わからなくはない。その為にまだ未熟な学生である俺達を利用したのもわかる。けど、その為に聖女様を犠牲にするものなのか……………?
聖女様はどの神官よりも強い奇跡の力を有している。教会でも重宝している聖女様を犠牲にするよりも他の神官を犠牲にした方が損害も少ない筈だ。
ザイクル教会が聖女様を暗殺!? とキャッチフレーズにでもするつもりか?
疑念を抱く俺達に聖女様は自分の胸に手を当てて答える。
「それは疑っておられないからでしょう。新たな聖女を生み出せれるということに」
「それはどういう意味で……………?」
「私は人間ではない、ということです」
その言葉に目を見開く俺達にお構いなく聖女様は続ける。
「私は元々は教会で祭事の際に使用される一本の剣でした。ですが、長い年月、人々の祈りを受けて自我を持ち、私という存在が誕生したのです。エレオノーラ・ミステリアは教皇様が付けて頂いた名前です」
すると、聖女様の身体が輝きだして一本の剣となった。
『信じて頂けたでしょうか?』
「………………………………今の姿を見て疑うな、という方が無理でしょう」
エレナ先輩は驚きながらも聖女様の話を受け入れた。俺とジャンヌもきっと同じ気持ちだ。
人々の祈りによって自我を持ち、人の姿になれるだけでなく奇跡まで使える剣。流石は異世界。こういう剣も存在するんだな。
『司教は信仰心、人々の祈りさえあればまた聖女が生み出せると信じているのです。ですので、ザイクル教会を邪教と認定させる為に現聖女である私を犠牲にするつもりです』
「あの、そこまでご存じなのならどうして聖女様はその通りに動いておられるのですか? 教皇様や他の信者の方に相談するなり、それに聖女様ならそれなりの地位がある筈では?」
確かに。そこまでわかっているのならそれに従う理由なんてないはず。
『……………聖女という立場ではありますが、私に地位はあってないようなもの。それに人間ではない私を教皇様や他の神官の方は一人の人間として扱ってくれました。ですから、万が一にも巻き込みたくはなかったのです。ですのでもう一度謝罪を。私の我儘に貴方様方を巻き込んでしまい、本当に申し訳ございませんでした』
……………なるほど。俺達は護衛上どうしても巻き込まれてしまうけど、教皇や他の神官は聖女様が司教の企みを口にしなければ巻き込まれることはない。いや、司教にそう脅されているのかもしれない。だから必要以上に誰かを犠牲にさせない為に司教の言う通りに動いたのか。
全てはザイクル教会を悪と認識させる為の大義名分を手に入れる為に。
聖女様の言葉にひとまずは納得する。
「しかし、それならどうするのですか? 申し訳ありませんが共に心中するつもりはありませんよ?」
「トム!?」
「だってそうだろ? 俺はまだ死にたくない」
「それはそうだけど……………」
言葉を濁らせるジャンヌも理解はしている。けど、どうにかしたいと思っているのだろう。
すると――
「それなら簡単だ。私達は聖女様を守りつつ生きて学院に帰る」
エレナ先輩が不敵な笑みを浮かばせてそう言った。
「その司教は目的の為に聖女様を亡き者にしようと企んでいるのなら私達でそれを阻止すればいいだけの話だ。生きて戻れたら今の聖女様の証言を学院に持ち掛ければいい。流石の教会も学院からの言葉を無視することはできないだろうからね」
「ですが、その司教は白を切るのでは?」
「それは無理だね。神官の使う奇跡には真実を見抜く奇跡があるから、疑いを持たせることが出来れば後は自滅するはずだよ。まぁ、念のため保険は掛けておくから安心していいよ」
自信満々に言ってのけるエレナ先輩。
その保険はなんなのかはわからないけど、学院に戻るまで聖女様を護衛すればいいのなら話は簡単だ。
その話を聞いたジャンヌもほっと安堵の息を漏らす。
「それじゃ俺達がすることは変わらないってことで安心してください、聖女様」
『……………貴方様方に感謝を』
感謝の言葉を告げて再び剣が輝くと聖女様は再び人の姿になった。全裸で。
穢れを知らない純白な肌。全体的に少しスレンダーだけど、手の平に納まるぐらいのちょうどいい胸にほっそりとした腰。保護欲が擽られる可愛い顔とは裏腹に男の劣情を促すその身体に俺は思わずゴクリ、と生唾を飲み込んでしまう。
おまけに聖女ということもあって男として穢れを知らない聖女様を自分の手で穢したいという欲求がふつふつと――――――
「トム?」
「見てません欲情してませんごめんなさい許してください」
湧き上がる前にジャンヌが殺意を込めた鋭い眼差しと共に俺の首筋に剣を当ててくる。
ジャンヌさん、マジやべぇっすわ……………。
「私というものがいながらどうして貴方は他の女性を卑猥な目で見るのかしら? リリスさん達はともかくとして」
「……………………悲しい男の性というやつです」
だって男の子だもん、僕。目の前に全裸の美女美少女がいたら思わずガン見してしまうのも仕方がいことなんだ。むしろ、健全な男の反応だ。
「?」
そして聖女様。そんな不思議そうに俺達を見ないでください。というか、早く服を着てください。着てくれないと俺の命の危機が…………ッ!
「仲睦まじいものだね」
エレナ先輩もそんな微笑ましそうに見てないで助けて下さい! ジャンヌさんの目がマジなんですから! 
そうして俺は聖女様が服を着てくれるまで冷汗が止まらなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品