転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第四十四話 任務

教会で祈りを捧げてから学院にやってきた俺はテイクに剣を渡していた。
「これがお前の要望していた剣だ」
「これが……………」
俺とナンの傑作の剣。形状は刃が波型になっているフランベルジュで柄には戦闘にも邪魔にならないように装飾と細工が施されている。
「どうだ? 何か気になる点でもあるか?」
「ううん、ないよ。こんな凄い剣をありがとう」
剣を数回振って使い心地を確かめて礼を口にするテイクだが、この程度で満足されたら困る。
「まだ礼を言うのは早い。そいつにはいろいろとギミックを仕掛けたんだぞ?」
「ギミック?」
「ああ、剣に魔力を込めてみろ」
「えっと、こう?」
俺の言う通りに剣に魔力を込めるとテイクの前方に半透明の盾が出現する。
「魔力を込めることで盾を出現させる。ジャンヌに渡した盾と違って前方しか守れないが攻撃を防ぎ、その間に魔法の詠唱の時間ぐらいは稼げるはずだ。それとオリハルコンも組み込ませているから剣身は変幻自在だ」
説明すると早速剣身の形を変える。
「アダマンタイトも使っているから並みの剣よりかは遥かに頑丈だ。後はそれを使いこなせれるかはテイク、お前次第だ」
「………………………うん。必ず使いこなしてみせる」
真剣な顔で頷くテイク。どうやら満足してくれたようだ。
「……………………ところで話は変わるんだけど」
「ん? なんだ?」
「二人に何かあったの? なんか、前に会った時と比べて雰囲気がいいって言うか、仲がいいって言うのか……………」
「ああ、それはな」
俺はジャンヌを引き寄せて二人に教える。
「俺達、恋人同士になったんだ」
「ちょ、トム!?」
「別にこの二人ならいいだろう?」
「そ、それはそうかもしれないけど……………でも」
ごにょごにょと口ごもるジャンヌに息を吐く。まったく照れ屋さんなんだから。
「ああ、そう、なんだね……………」
「なんだよ? その今更みたいな顔は」
「いやだってもう付き合っているのかとばかり」
ふ、恋人同士になる前からそう思われていたとは。俺とジャンヌの仲に良さが窺えるな。
「まぁ、俺達の事は置いておくとして。テイク、お前はこれからどうするつもりだ?」
「どうするって?」
「お姉さんの為にも強くなるんだろ? 学院の順位を上げるのは当然としてそれ以外はどうするつもりだ? 俺達はダンジョンで実戦を積もうと考えているけど一緒に来るか?」
ジャンヌと話してダンジョンでモンスター相手に実戦経験を積んで強くなろうと考えている。いずれは順位を賭けて決闘するかもしれないけど強くなるという目的は一致しているので誘うもテイクは首を横に振った。
「ううん。僕は僕のやり方で強くなろうと思っている。強くなっていずれは君達二人に決闘を申し込むから覚悟していて」
その挑戦的な笑みに俺もジャンヌも笑みで返した。
「その時は受けて立つ」
「負けないわよ?」
俺達もそう簡単に勝たせてやるほど優しくはない。
「剣をありがとう。それじゃ僕は行くね」
最後に礼だけ言って離れていくテイクの後ろ姿は覚悟を決めた男の背中に見えた。
「ナンはどうする? 一緒にダンジョンに潜るか?」
誘うけどナンは首を横に振る。
「………………………手伝いがある」
「ああ、先生の知り合いの」
「………………………………んっ」
ナンはカイドラ先生の知り合いの鍛冶師の下で鍛冶の手伝いをしつつ腕を上げている。この学院に入ったのも騎士が使う剣やその使い方を近くで見る為で将来は鍛冶師として店を開くつもりらしい。それを聞いた俺は思わず『同志!!』と叫んでナンの手を取ったものだ。
しかし、ナンも来ないとなると俺とジャンヌの二人だけで潜るのはな……………。
「リリスやセシリアでも誘うか?」
「そうね。流石に二人だけでダンジョンは危険でしょうし」
二人を誘ってダンジョンに潜ることを考える。すると―――
「トム。ここにいたのか」
「エレナ先輩」
紅の髪をしたこの学院一位のエレナ・ヴィクトルが俺達のところまで駆け寄ってきた。
「エレナ・ヴィクトル……………学院一位の『紅の風刃ウィンド・スカーレット』…………」
隣で何故か戦慄しているジャンヌにエレナ先輩は気軽に声をかけた。
「そっちのキミは初めてだね。私はエレナ・ヴィクトル。これでも学院一位だよ?」
「存じております。私は―――」
「ああ、知っているよ。『悪魔の飼い主デビル・マスター』なんだって?」
「な、なんですか!? その二つ名は!?」
驚くジャンヌ。けど俺もその二つ名は初耳だ。
「違うのかい? 悪魔の彼相手に唯一手綱を握れる存在だと聞いたのだけど?」
「ち、違います!! 人をこんな変態扱いしないでください!!」
「おぉぉぉいいいい!! 何でそこで俺を指すんだよ!? 関係ねえだろ!?」
「だって貴方変態じゃない!!」
「誰が変態だ!! それを言うならお前だって昨夜――――」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ言うなあああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
真っ赤にして口を塞いでくるジャンヌにバランスを崩して押し倒される態勢になるもジャンヌは必死に俺の口を塞いで喋らせない様にしてくる。
や、やめ……………い、息が……………!
そんな俺達にエレナ先輩は可笑しそうに噴き出す。
「ふ、ふふ……………な、仲が睦まじいようでなりよりだ………けど、そろそろ私の話を聞いてはくれないかな?」
そんなエレナ先輩の声に『す、すみません!』と謝りながら俺の上からどけて俺も立ち上がってエレナ先輩の話を聞く。
「実は国から学院に任務が言い渡された。内容はとある人物の護衛だ」
「任務? なんで国が学生に任務を?」
普通は学生にしないよな?
「あー、騎士も忙しい立場で人手が不足していてね。後はお偉いさんの事情ってところかな? たまに学生にも任務として仕事が回ってくるんだよ。勿論、受けられるのは30位以内の人達だけだけどね」
俺の疑問をエレナ先輩は呆れながらも答えてくれる。
どうやらこの手の仕事が回ってきたのは初めてではないみたいだ。
「そこで君達二人にもこの任務を手伝って欲しいんだ。勿論国から報酬も出るし、どうかな?」
その誘いに俺は考える。
胡散臭い気もないとは言い切れないけどこれは実績を作るチャンスではないだろうか?
ここで護衛対象とも仲を深めて印象を良くして貰えば信用も得られる。リスクもあるだろうが、ここは受けるべきだろうか?
俺はジャンヌに視線を向けると頷かれた。
「わかりました。その任務、協力させていただきます」
「助かるよ。それで日時だが――――」
そこで簡単に任務の日時と詳細について話を聞いてから数日後。
俺達は任務の為に都市の南門に足を向けるとそこには一台の豪華な箱馬車とエレナ先輩と他にもう一人の女性がいた。
白を基調とし、ところどころに銀色の刺繍とアクセサリーが施された装束に清廉な白銀のローブを羽織っている銀髪銀眼の女性。その首にある十字架から見て教会の関係者だろうと首を傾げているとその女性は俺達の姿を見てペコリと頭を下げて挨拶をしてくる。
「お初にお目にかかります。私はエレオノーラ・ミステリア。この度は護衛をよろしくお願い致します」
「エレオノーラ・ミステリア………ッ!? 聖女様がどうしてここに!?」
彼女の名前を聞いて突然ジャンヌが驚きの声を上げた。
え? 今、聖女様って言った?
「あれ? 言っていなかったかな? この方が今回私達が護衛するお方だ」
「えええ!!」
そういえば護衛の日時と場所は教えてもらったけど誰を護衛するまでは聞いてなかったな。けど聖女様の護衛ね……………。
チラリと聖女様を見るとにこらかな笑みを向けられた。か、可愛い………。保護欲が擽られる可愛さだぜ。……………じゃないそうじゃない。たかが学生に聖女様を護衛するなんて普通はありえないだろう。漫画やゲームでも聖女には色々と厄介事を抱えているものが多い。
どうやら初めてのこの任務は何かある臭いがぷんぷんするな。
あ、聖女様からいい匂いが……………。

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