転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第三十九話 踏み入れぬ領域

「おい、嘘だろ……………」
「なんで………あいつ一年のはずだろ? それなのに」
「悪魔だ。あいつこそ本物の悪魔だ………」
外野で好きかって言ってくれる奴等は後でしばく。誰が本物の悪魔だ。
決闘を執り行う競技場で俺はこの学院で二番目に強い槍使いの男性を倒した。
強くなる為に俺は自分よりも順位が上の人達に決闘を申し込んでは倒して早くも一週間。俺はこの学院で二番目に強い人を倒し、学院二位の座を手に入れた。
始めは断る人が多かったけど魔剣を賭けの商品にすれば目の色を変えて決闘を受けてくれたおかげでこの一週間で多くの学院上位陣と戦うことが出来たのはいいけど…………………。
「足りない………」
予想より弱い。
いや、決してこの学院の人達が弱いわけではない。現に倒れているこの先輩の槍捌きも魔法行使も凄いの一言。スキルを使わなければきっと負けていた。けど俺が求めているのはこんなんじゃない。スキルを使っても勝てない相手が欲しい。
少なくともグリードはスキルを使っている俺と互角に戦った。それにあの様子からきっと奥の手は見せていない気がする。そう考えればグリードの実力は俺以上かもしれない。
「後一人、か…………」
順位が二位になったことで最後に残るのは一位の人だけ。二位がこれならあまり期待しない方がいいかもしれないけど当たるだけ当たってみるか。
そう思って競技場から出ようと思っていたらパチパチと拍手が聞こえた。
「凄いね、キミ。一年で学院二位を倒すなんて前代未聞だよ?」
そう言って俺の前に現れたのは一人の女性。
赤よりももっと濃い紅の髪をした女性。凛々しい佇まいにその表情は笑みを浮かべるも目は笑っていない。俺の動きを一瞬たりとも逃すまいとする目で俺を見ている。
「おいあれ…………………」
「学院一位の『紅の風刃ウィンド・スカーレット』…………」
「遂に彼女まで…………」
外野からの騒めきを聞いて俺は納得する。
なるほどこの人が学院一位…………。てっきり男かと思っていたけどまさか女性だったとはな。それも綺麗なお姉さんとは驚きだ。
「ふふ、学院一位が女だったことに驚いたかな?」
「正直に言えば、ですが。それで次は貴女が相手になってくれるんですか? 学院一位さん」
「勿論。私もキミに興味を持ってね。ぜひ手合わせて願おうかなと思ってね」
挑戦的な笑みと共に剣を抜く先輩に俺も構える。
「行くよ?」
その言葉と共に先輩は一気に間合いを詰めて攻撃を仕掛けてくる。
速い…………ッ!?
間合いを詰めて攻撃をしてきたと思えば呼吸する暇すら与えてくれない連続攻撃。一撃一撃は軽くてもその圧倒的な速度から生み出される連撃に俺は追い詰められる。
「この程度なの? もっとキミの本気を私に見せて!」
「言われるまでも!」
スキル『剣心一体』を発動させてその速さに対応する俺だけどそれでもまだ先輩の方が一手早い。
それでも先読みと技は俺の方が上!
先輩の剣の軌道を先読みしてその軌道をずらす。
「!?」
絶えることのない連続攻撃に僅かに隙を生じた。俺はその隙をついて刀で峰打ちする。
―――筈だったのに俺は吹き飛ばされた。
「な、なんだ!?」
どうにか地面に着地するも今の現象に怪訝する。
確かに俺は先輩の隙をついて峰打ちをしようとした。けど、気が付いたら俺は足が地面から離れて吹き飛ばされた。
何がどうなっているかわからない俺に先輩は得意げに笑みを見せる。
「ふふん。驚いてくれたかな? キミを飛ばしたのは風の魔法。そして私は『無詠唱』のスキルを持っているの。だから私に詠唱は必要ない」
自慢に語る先輩。
なるほど無詠唱のスキルか…………。だからノーモーションで魔法が使えたのか。
それにさっきの連続攻撃の速度から恐らくは速度上昇系もしくは加速といった速さに特化したスキルも持っていると思っていいだろう。
この人なら俺の練習相手になってくれるかもしれない。
そう思って俺は懇願してみた。
「………………………………先輩。時折でいいので俺の練習相手になってくれませんか?」
「いいよ。私もそうお願いしようと思っていたところだから」
驚くほどにあっさりと了承して貰い、俺は胸を借りる気持ちで再び刀を構える。
そして俺は学院一位であるエレナ・ヴィクトルという練習相手が出来た。



あれからエレナ先輩と何度も剣を交えてお開きとなり、俺は自宅に帰宅する。
「あ~疲れた………さっさと風呂にでも入るか」
さっさと疲れを取ろうと浴室を目指しながらセシリアに背中でも流して貰おうと考えているとばったりジャンヌに会った。
「よぉ、お前も風呂か? なんなら一緒に―――」
いつも通りにセクハラをしてみるとジャンヌは顔を俯かせて無言で俺の傍から離れて行く。
部屋を出て来てきたのはいいけど、どういうわけかジャンヌは俺を避けている。リリスやセシリア達、シュティアとは普通に話しているのは見るのに俺だけは話どころか顔すら合わせてくれない。
さっきだっていつもならこう、何言っているのよ!? この変態!! って言ってもいいのに。
俺、何かしたかな? …………………したな、セクハラとかよく。
でもそれはいつものことだし、それが嫌われる原因とは思えない。
「はぁ~へこむな…………………」
トボトボと歩きながら俺は浴室に向かい、脱衣所の扉を開ける。
「あら、ご主人様。お帰りなさいませ」
そこにはドレスを脱いで下着を脱ごうと手にかけていたリリスがいた。
うむ。相変わらずエロい身体ですなぁ………………。
思いがけない光景に目を養っているもリリスは自分の身体を隠すことなく、それどころか俺に見られているにも関わらず下着を取り払う。
ブラに包まれる豊満なおっぱいがブラから解放されることでぷるんと揺れて自由の身、自由の乳となって揺れる。
「ご主人様は入らないのですか? せっかくの機会なのですから一緒に入りましょう。お背中お流ししますよ?」
「ぜひお願いします」
俺はさっきまでの憂鬱な気持ちがどこかへ飛んで行き、リリスと一緒に入る。
邪魔にならないように髪を団子にするリリスはその美しい裸体を微塵も隠そうとしない為におっぱいも尻も丸見え。眼福のあまり鼻血が出てきそうだ。
というよりもアレだな。美女は脱いでも凄いって聞いたことあるけど本当だな。なんというか芸術? 絵画や彫像みたいに無駄のないスタイルだ。
「あまり見られますと今度は私がご主人様のお身体を拝見させて貰いますよ?」
微笑みながら堂々とそう言ってくるリリスに俺はさっと視線をリリスから外す。
美女に自分の身体を見られる…………………。それはそれでなんか興奮する。あれ? 俺ってサドだと思っていたけど実はマゾだったの? もしくは両方?
「ふふふ。ではこちらにお座りください」
リリスに促されて俺は椅子に座ってリリスに背中を見せるとリリスはゴシゴシと優しい手つきで俺の背中を洗ってくれる。そして動く度にリリスのおっぱいが俺の背中に当たる!
くっ! 何でリリスはこんなにもエロいんだありがとうございます!
俺、こんなエロい美女から告白されたんだよな…………………。まだ返事は返していないけどいつかはきちんと返事をしよう。強くなってリリスの父親である魔王様に認めて貰えるように。
「最近、ジャンヌ様とまともにお話されていませんね?」
不意にリリスがそう言ってくる。
「………………………俺、何か嫌われることでもしたかな?」
もしそうなら謝りたい。そして前みたいに話がしたい。
落ち込む俺の後ろでリリスはくすくすと可笑しそうに笑っていた。
「ごめんなさい。ふふ、ご安心ください。別にジャンヌ様はご主人様のことを嫌ってはおりませんよ?」
「ならなんで?」
「むしろ逆。恥ずかしいのでしょうね」
恥ずかしい? 俺と話すのが?
リリスの言葉がよくわからず、こんがらがってしまう。
「自分の気持ちと向き合うのは難しいものです。ここは男の器の広さの見せどころですよ?」
「……………………よくはわからないけど、いつも通りに接してやればいいってことか?」
「はい」
ジャンヌが何に向き合っているのか、リリスが何を言いたいのかはわからないけどリリスがそう言うのならそうしよう。
「ですが、それでもご主人様が嫌な思いをするのも事実」
不意にむにゅんと背中に柔らかい感触が襲ってくる。
「ふぉぉおおおぉぉおおお…………………」
あまりにも突然のことだったので思わず変な声が出てしまい、俺の肩に顎を乗せているリリスはクスリと笑う。
「ジャンヌ様が気持ちと向き合うまで私がこうして慰めてあげます。ご主人様の大好きなこの胸を使ってもいいですし、それ以上の事でもいいですよ? ご主人様のしたいように、思うがままに、望むがままに私はそれを受け入れましょう。なんでしたらここでも………」
耳元でそんな刺激的なことを言ってくるリリスさんに俺は全身が石になったかのように固まる。
どうしてリリスさんはこんなにもエロいのですか!? やべぇ! 大人の誘惑は童貞の俺には刺激が強過ぎる!! 
するとするりとリリスの手が俺の下半身に向かって伸びていく。
そこに到達するまでゆっくりと俺の反応を楽しむように焦らしながら伸びていくリリスの手に俺は抗うこともできずにただそれを見ていることしかできない。
「さぁ、溜まっているものを吐き出しましょう?」
耳元で囁くように艶のある声を出すリリスに俺は理性という鎖がはじけ飛び、ビーストとなりかけたその時、ぶぱっと俺の鼻から大量の血が流れてきた。
まるで塞き止められていたものが壊されたようなありえないぐらいの量の鼻血が出てくる。
……………………………………ふっ、童貞の俺にはまだここは踏み入れることは許されない領域だということか。でも、いつかは必ずこの領域に…………………。
俺は更なる精進を胸に秘めて意識を失った。

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