転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第三十八話 それぞれの想い

あれから学院の先生達がやってくて試験は中断となった。そしてテイクの姉であるシェイクは生徒達を殺したことを自白して自首して事情聴取を受けている。
利用されていたこともあって死罪にはならないみたいだけど罪は罪。重罪は避けられないと聞いた。そしてテイクは俺に言った。
「武器を打って欲しい」
真っ直ぐ、真剣な目で俺に懇願した。
「お金は何年かけても絶対に払う。だから僕に武器を打って欲しい」
覚悟を固めた顔でテイクは言う。
「僕は騎士になる。そして功績を上げて姉さんの罪を少しでも軽くしたい。それに姉さんの想いを利用した七つの欲セブンズ・ディザイアが許せない。必ず捕まえて牢屋に入れる為にも僕には強い武器がいる」
テイクは俺に深々と頭を下げる。
「僕に武器を打ってください」
そんなテイクの熱意に負けて俺はあいつの為の武器をナンと共に製作することを決めた。
姉の為に戦うテイクは朝早くから夜遅くまで剣を振っている姿がよく見えるようになり、今では自分よりも強い先輩達相手に決闘を申し込んでいる程だ。
そして今回の主犯であるグリードとそいつが所属している組織『七つの欲セブンズ・ディザイア』のことについて調べてみたら俺の予想を上回ることが判明した。
七つの欲セブンズ・ディザイアは有り体に言えば裏組織。それも大規模の組織でその構成員は人間から魔族まで幅広く世界中に潜伏している可能性が非常に高い。
あのリリスも手を焼いている組織とぼやいていた。
そしてグリードはその組織の幹部とされる実力者。厄介な奴に目を付けられたことに俺は溜息を吐く。
「異世界転生で鍛冶師としてスローライフを送れればそれでよかったのによぉ…………………」
そんな都合のいいことを愚痴るも今更の話だ。巻き込まれた以上は全てを解決させて後はのんびりと鍛冶師ライフを堪能すればいい。
それよりも問題は…………………。
「ジャンヌ。飯を持って来たぞ」
あの日以来部屋に閉じこもってしまったジャンヌは今日も返事はない。
俺は仕方がなく今日も部屋の前に飯を置く。
「やっぱりショックだったのか…………………」
グリードに強姦されかけたんだ。傷つくのも無理はない。それに一応は飯はちゃんと食べているみたいだし、リリスが時折部屋の中に入ってケアもしてくれているみたいだから後はジャンヌの気持ちが落ち着くまで待っていればいい。
ジャンヌのこともだけど俺も俺だな。もう数日も経つのもまだ身体が痛い。
鍛冶師としての腕も上げる必要もあるけど、今はそれ以上に強くなる必要がある。身体の調子が元に戻ったらちょっと本気で鍛えた方が良いか…………………。
いやそもそもそれ自体が難しいか。
神様が俺にくれたレアスキル『剣心一体』は強力過ぎる故に並大抵の相手では簡単に倒してしまう。何の遠慮もいらないモンスター相手ならともかく人を相手にする時は気を付けないと下手をしたら殺してしまうことに繋がる。
「練習相手も選ぶ必要があるか…………………」
学院の順位が一桁もしくは一位の人を探してその人に練習相手になってもらえるか頼んでみるか。駄目ならダンジョンでモンスター相手にするしかない。ともかくダメもとで声をかけるぐらいはしてみよう。
今後の強くなる課題として自分より上位の順位にいる人達に決闘を申し込むことは前提として俺はグリードの戦いで一つ気になることがある。
「気、か………」
スキルの発動中に全身から感じ取れるあの感覚はグリードと同じ気の力かもしれない。
魔力を一切必要とせず、どうすればいいのかがわかるようになる。それは奴と同じように俺も無意識に気を使っているからだと思う。
あの野郎と同じなのは少々、いや、だいぶ嫌だけど気も俺の力ならそこに手を伸ばさないわけにはいかない。
庭で刀を抜いて目を閉じる。
まずはスキル無しで気を感じるところから始めるか。



「ジャンヌ。飯を持って来たぞ」
今日もまた彼が私の部屋の前で食事を持ってきているのに私は今日も返事をしなかった。
もうあの日から何日経つんだろう…………………。
私は負けた。完膚なきまでに。
シェイクさんと戦った後とか片腕しか使えなかったからなんて言い訳だ。ううん、例え全快だったとしても私はあの男に負けてトムが来てくれなかったら辱めを受けていた。
「悔しい…………………」
騎士になる為に家を飛び出し、学院に入学して、毎日必死に努力をしているのに手も足もでなかった。あの男にされるがままで何もできなかった。
弱い。今の私はなんて弱いんだろう。
このままじゃ私、騎士じゃなくて一人の女の子に…………………。
『俺がお前を守る騎士になってやる』
抱きしめてくれた彼の言葉を思い出すと私の顔は熱くある。
「ち、違うの! いや、違うことはないのだけど違うの! 別に抱きしめられて女の子として守ってくれるって言ってくれたことに嬉しかったわけじゃないのよ! …………………って、誰に言っているのよ!? 私!!」
一人叫ぶ私は枕を殴る。
「どうしてさっきからトムの顔が頭から離れられないのよ…………………」
頭の中からトムの顔が消えない。
確かに男の人の胸の中で泣いたのは初めてだし、トムには色々と感謝もしているし恩義もあるし好きか嫌いかで言えば好きの方だけどそれはあくまで友達としてという意味でそれにトムは変態だし…………………。
「うぅ~~~私どうしちゃったのよ…………………?」
これもきっとあのグリードのせいだ。気をおかしくされたからこんなことばかり考えてしまうのよ。今度会ったら灰にしてやるんだから………………ッ!
あの男に恨みつらみを吐きながら私は枕に顔を埋める。
「………………………………好きなのかな? 私。トムのこと」
トムと出会うまで私にとって全ての人は敵に等しかった。
騎士になりたい。それだけなのに家族皆がそれに反対し、誰一人私の夢を応援してくれる人はいなかった。それが辛かったし苦しかった。こんな思いをするぐらいならいっそのこと諦めてしまおうとさえ思えた。けど、諦めきれなかった。
そんな私の夢を応援し、励まし、支えてくれたのがトムだ。
そんな人はトムが初めてだった。
学院に入学してからも彼は鍛冶師になる夢を追いかけ、私も騎士になる夢を追いかけた。
互いの夢の為に努力し、研磨を重ねてきた。
けど騎士を目指している私は鍛冶師である彼に守られているばかり。
私は部屋に置いている彼が打ってくれた剣を手に取って鞘から抜く。
「本当にいつ見ても綺麗な剣…………………」
鍛冶に関しては素人の私でもこの剣は見惚れるぐらいに美しい。
彼が私の為に打ってくれた剣。なら私は彼に何をしてあげられるのか?
彼はどうしようもない変態だけど誠実な一面もある。この身体を好きにさせたとしても彼はきっとなにもしようとはしない。
「私がトムにできることってなんなんだろう…………………?」
「まずは想いを告げるというのはどうでしょう?」
すると背後からいつの間にかリリスさんがにこやかな笑みと共に立っていた。
「リ、リリスさん!? い、いつからそこに!?」
「ち、違うの! いや、違うことはないのだけど違うの! その辺りからですが?」
ほぼ初めからそこにいたの!? まったく気づかなかったんだけど!!
相も変らずにこの人は本当に神出鬼没。これも空間魔法の一種なのかしら?
「というよりも想いを告げるとはどういう意味ですか?」
「文字通りの意味ですが? ジャンヌ様はご主人様のことが好きで好きで仕方がないのでしょう? でしたらその想いをご主人様に伝えるのです」
「べ、べべべべべ別に! 私はあんな変態の事なんて好きじゃないわよ!?」
「私はもう伝えましたよ?」
「!?」
う、うそ…………? まさかリリスさんも…………………。それなら私に勝ち目なんてあるわけが…………………。
なんでも完璧にこなすリリスさん。種族に違いはあっても財力、能力、容姿、性格そのどれか一つも私が勝っているものなんてないのに…………………。
「ですがまだご主人様からお返事を頂いていないのです」
「え…………? ど、どうして…………?」
こんな綺麗で完璧な人から告白でもされたら普通は即その場で返事をしてもおかしくないのに。
「これはきっとご主人様には既に思いを寄せている人がいるのでしょう。それが誰かとは私の口からは申し上げませんが、その方はチャンスだと思いますね。あんなにも素敵でたった一人の女の子を守る為にドラゴンにまで立ち向かう勇気ある人なのですから」
そ、それってもしかして………………あの時のことなの?
それならトムが思いを寄せている人ってまさか………………。
「ふふ、では私はこれで。ああそれと貴方の騎士は今も頑張っていますよ」
その言葉を最後にリリスさんは部屋から出ていった。
…………………そっか。トムは頑張っているのね。それなら私もいつまでもうじうじしている場合じゃない。いじけている暇があれば少しでもトムに追いつけるように強くならないと。
私は有耶無耶な気持ちを振り払って剣を持って部屋の扉を開ける。

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