転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第三十六話 グリード

テイクのお姉様――シェイクさんとの戦いが終わり、どうにかなったと思った時に私達の前に一人の男性が現れた。
灰色の髪をした男性。軽装を身につけて腕には拳闘士が好んで使う籠手ガントレットから見て恐らくは拳闘士なのでしょうけど、なんなの、この人………………? 普通じゃない。
剣を構えて警戒する私の頬に冷汗が流れる。
まだ何もしていないのに、ただこちらに向かって歩いて来ているだけなのにまるでそこにいるだけで空気が重く感じる。
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンから感じた威圧感や番外の悪魔エキストラデーモンのような異様な存在感ともまるで違う。
この男性がそこにいるだけでまるで水の中に放り込まれたように身体が重く、息がしづらい。
私は彼の存在にこれまでにない危機感を抱き、剣から出せる限りの最大出量の炎を放出させる。
「お?」
「テイク! お姉様を連れて逃げて!」
友達を逃がす為にも私は最初から全身全霊の一撃を放つ。
聖焔の煌火セイクリッド・ティリア!!」
様子見もせずに先手必勝の一撃を放つ。眼前に広がる炎の世界。だけどまだ彼が生存しているのは気配でわかる。
「速く! 貴方達を庇いながらじゃ戦えない!!」
「………………ごめん! すぐに助けを呼んでくるから!!」
お姉様に肩を貸しながらこの場を離れて行く二人に安堵し、常備している治療薬を飲み干して血を止める。応急処置ぐらいだけどないよりかはマシね。
「健気だね。自分を犠牲にお仲間を逃がすなんてな。まぁ、いい判断だとは思うぜ?」
炎の中から姿を見せる彼は火傷一つ負っていない。多少服を焦がした程度。
「………………………………貴方は何者なの? 何が目的?」
「俺か? 俺はグリードって名前だ。んで、目的はシェイクを始末するってところか。まぁ、始末するにしても存分に楽しんだ後にだけどな」
歪みきった気持ちの悪い笑みを見せる。
「………………始末ってどういうことなの?」
「あぁ? そんなの殺すって意味以外に何がある? あいつは俺達の下で十分に働いてくれたからもう用済み。だから殺すの」
口が軽いのか、私の質問にあっさりと答えてくれる。嘘かもしれないけど、嘘をついているようには見えないし、俺達の下で働いたってことは何かしらの組織の人間なのかしら?
「ほんと、あの女も馬鹿だよな。死んだ男の為に簡単に人を殺すなんてよ。生き返るわけもないのによく働いてくれたことだけには感謝しねえとな」
彼の言葉に私は怪訝する。
どういうこと? 確かシェイクさんは人が生き返ったところをその眼で見たって言っていたはず。
その疑問を尋ねる前に彼は教えてくれた。
「お前さんも秘宝レジェンドくらいは聞いたことはあるだろう?」
「………ええ、遥か昔に人と神が作り上げたとされる幻の宝でしょ?」
「そう。そのうちの一つに生命の宝珠っていう宝があるんだ。それがこれだ」
彼は懐からネックレスのようなものを取り出して私に見せる。
あれが秘宝レジェンド、生命の宝珠。初めて見たわ……………。
「これを生きた人間につけるとその人間が死んでもその死を無効にしてくれる力がある。だが、一回使う度に多くの人間の命を吸収させる必要があるが、シェイクのおかげでもう十分に溜まった」
そこまで話して私はようやく理解できた。
その秘宝レジェンドを使ってシェイクさんを騙し、死んだ人間を生き返らせれると思い込ませて自分達の都合のいいように使った。シェイクさんに多くの人を殺させたのも全てはその宝の力を回復させるため………………………。
愛する人を餌にシェイクさんの想いを利用していた…………。
「なんてことを…………………ッ! 貴方には人の心がないの!?」
「はぁ? そんなんあるわけねえだろう? 俺は自分の欲するままに生きる。他人のことなんか知ったことか。俺は俺もやりたいようにできればそれでいい」
言い切るこのグリードという男性に私は剣を強く握りしめる。
「私は貴方のような人が大っ嫌い!」
「俺はお前さんみたいな気の強い女は好きだぜ? 殺すには惜しいぐらいだ。どうだ? 俺の女にならねえか? そうしたら命は助けてやるよ」
「ふざけないで!!」
激昂し、一気に攻める私は彼の間合いに入って剣を振るうも紙一重で躱される。
「どうした? 疲れてるのか?」
「うるさい!!」
剣を振り回して猛攻する。しかしこの男から余裕の笑み消えずにどれも紙一重で躱されていく。
「くっ!」
魔力操作も使い、スキル『剛力』も使って剣から炎を出しているのにかすりもしない。
左腕が動かないもの原因でしょうけど、それ以上にこの男は強い。
「そろそろ行くぜ?」
そう告げて拳を作り、殴ろうとしてくる彼の拳を顔を逸らすことで避けるも――
「かふっ」
「残念。本命はこっちだ」
彼の膝蹴りが私のお腹に入り、痛みが私も襲うも歯を噛み締めて耐えて剣を振る。
「ああっ!」
「おっと、元気じゃねえか。ならこれも耐えろよ?」
また拳を作る彼の攻撃に今度は蹴りも警戒すると蹴りが放たれてそれも避ける。
「そらよっと!」
「あぐ!」
だが彼は片足を軸に自分の身体を回転させて回し蹴りを放ち、私を蹴り飛ばす。
「ほらさっきまでの威勢はどうした? それとも俺の女になりたくなったか?」
「だ、誰が……………ッ!」
立ち上がり剣を構え直す。けど、拳闘士である彼の間合いは危険。
だけど一番気になるのはこの剣の炎が効かなかったことなのよね……………………。
あの炎は今の私が出せる最大威力の筈なのにこの男は服を多少焦がす程度のダメージで収めた。なにかしらのスキルだとしたらきっと魔法も効かない筈。それなら――
私はテイクが置いて行ってくれた盾を拾って形態を変化させて『剛力』のスキルを発動して投げる。
「ハァァアアアアアッ!!」
トムとナンが作ってくれた盾のバージョン3は投擲武器。これなら魔法とは関係なく遠距離の物理攻撃が可能。これなら―――。
投擲する盾を避ける男だけど盾は男の背後からも襲いかかるも後ろに目でもあるかのように屈んで避けて盾は私の手元に戻ってきた。
「…………………へぇ? 剣もそうだが盾もなかなか面白いじゃねえか」
剣と盾に興味を示したのか、男の口角が上がる。
「今度はこっちが攻めるぜ?」
そう言って間合いを詰めてくる男に私は盾を構える。攻撃を防いで何とか隙を作り、そこを攻撃する。そう思っていた。けど………………………。
彼の攻撃を盾で防いだその時、私の目、耳、鼻、口から血が出てきた。
「ど、どうして……………?」
疑念を抱きながらも身体のダメージのせいか、その場で膝をついてしまう私に彼は私を見下しながらこう言ってきた。
「俺のスキル『気功』は気を操る力があってな。触れた対象の気を自在に操れる。そして気は神羅万象全てにあり、生物の生命エネルギーでもあるんだよ。言っている意味が分かるか? つまり俺の攻撃は防御不可能。例え盾や鎧で攻撃そのものは防げたとしても気は確実にお前さんを捉える。今お前さんにしたのは気を乱して生命エネルギーを内部から少しだけ破壊した」
すらすらと自分のスキルについて語る。
『気功』……………? そんなスキルが存在しているなんて……………。
魔力とは違う気と呼ばれる力の前に私はなす術もなく膝をつく。
「んじゃ、始めるとしますかね」
男は歪みきった笑みと共に私を組み伏せて両手首を掴む。
「は、離して!」
「いいぜ? ほらよ」
私の言葉に男はあっさりと手を離すも私の身体は指一本も動かすことができなかった。
「な、なんで………………?」
「言ったろ? 気を操るって。相手の動きを封じるぐらいわけじゃねえんだぜ?」
得意げに語る男は私の鎧に手をかけて強引に引き剥がした。
「抵抗したかったらいくらでも抵抗していいぜ?」
こ、この男……………できないことをいいことに……………ッ!
気を操られているせいで身体が言うことを聞かない。
この男がこれから私を犯そうとしている。そう思うだけで背筋に怖気が駆け上がる。
「俺さ。欲しいと思ったもんは絶対に手に入れる主義なんだよ。特にお前さんみたいな気の強い女を強引に組み伏して屈服させるのが一番好きなんだ。だが安心しな。気を使ってお前さんの感覚も高めてやる。そうすりゃ嫌でも気持ちよくなるぜ? こんな風にな」
男の手が私の頬に触れる。するとまるで全身に電気が走ったかのように身体が痺れる。
「ふぁ…………」
「ハハハ、ちょっと高めただけで随分といい声を出すじゃねえか」
甘い声を出してしまった私は咄嗟に口を閉ざすも男はそれすらも愉快そうに笑っている。
「こりゃ思っていた以上に楽しめそうだ」
そう言って男は私の着ている服を引き裂いた。服を引き裂かれ、下着と肌が露にされる。
「ひゅー♪ いい身体してんじゃん」
笑いながら私の胸を乱暴に掴む。
「ひぐ……………んぅ、いや………………………」
痛い筈なのに気を操られているせいで変な気持ちになってしまう自分が嫌でこんな男に胸を触られれていることが気持ち悪くて何もかもが嫌になってきた。
こんな男に純潔を散らさせるぐらいならそれよりもっと前にトムに捧げていればよかった。
もう少し自分の気持ちに素直になれていたら、と。今更ながらの考えが脳裏をよぎる。
瞳から涙が零れ落ち、私は縋るように呟く。
「助けて……………………」
この身が穢される。その時だった。
魔力の斬撃が男を斬り裂こうと飛んできたのは。
「おっと!? あぶねぇあぶねぇ」
男は私の上から離れて魔力の斬撃を躱す。すると。
「おいおい、いくらモテないからといってもやっていいことと悪いことぐらい区別つけろよ」
そんなことを言いながら木々の影から姿を見せるその姿に私は安堵する。
「トム……………ッ」
彼の登場に私の心は救われた気持ちになっていく。
そんな彼は私の姿を見て鋭い眼差しを男に向ける。
「ま、どっちにしろお前をぶっ殺すがな。覚悟しな、強姦魔」
「ハハ、面白れぇ。殺れるもんなら殺ってみな」


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