転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第三十四話 異変

聖シュバリエ学院での最初の試験であるサバイバル生活も早くも四日目。俺達は順調に進んでいる。試験が始まった日からモンスターや他のパーティーメンバーからの襲撃もない。
念の為に周辺に音が鳴る罠を設置しているもうんともすんとも反応がない。最初はシビアな試験だと思っていたけど俺達はまだまだ余裕があるが他はそうでもないかもしれない。
学院の殆どは貴族や王族の坊ちゃんお嬢様ばかりだ。そんな奴等がいきなりサバイバル生活できるとは思えないから根気のない奴をここで退学させる為の試験かもしれないな。
それに比べてこっちはそれほど苦でもない。
ジャンヌとナンは当然のように森の食材を採取してくるし、テイクもテイクで普通にサバイバル生活に順応して俺と一緒にお手製の釣り竿で釣りをしている。
もはやサバイバルというよりもキャンプに近い。
「これでいいのかね…………………」
「何が?」
「いや、試験。こんなにゆるくて」
「う~~~ん、普通はこうは行かないと思うけど……………いいんじゃないかな?」
苦笑いしながらテイクはそう言ってくる。
一応警戒はしているとはいえ正直暇なんだよな……………。
ただ時間が過ぎるのを待っているなかで俺はふとあることをテイクに訊いてみる。
「なぁ、テイク。お前って魔法が得意って言っていたよな?」
「うん。それがどうしたの?」
「いや、魔法って精霊に魔力を支払って使うだろ? だけどそれは火、水、風、土の四属性だけ。なら召喚魔法や空間魔法も精霊に関係しているのか?」
「ああ、それは色々と説があるよ。人間が知らない精霊が存在するのか、もしくは精霊の血が僅かにでも流れているおかげなのか、それか神から授かった魔法なのかってね。一応は”特殊魔法”に当て嵌まっているけど実際は何も解明されていないんだ」
「ふ~~~ん」
稀な魔法なだけあって謎が多いのかね。
まぁ俺はもう召喚魔法を使ったから実質魔法が使えないから気にしても意味がないか。
それにしても精霊か………………流石は異世界なだけあってファンタジー要素が多いわ。ドラゴンも悪魔も出会ったし、今度は人魚とかハーピーとかにも出会ってみたいな。
カランカラン。
「「「「っ!?」」」」
そんな出会いを想像していると周囲に張っておいた罠に何かかかり、俺達は一斉に武器を手にする。そして俺は魔力探索で位置と人数を確認する。
「あっちだ。人数は一人」
反応した魔力は一人だけ。モンスターなら単独かはぐれの可能性もあるけど同級生の奴等が食料を分けて貰おうと近づいてきた可能性もある。
少なくとも一人で他のパーティーメンバーを襲うなんて馬鹿なことはしないだろうし。
警戒する俺達の前に現れたのは同じ学院の同級生の男性だった。ただし、その姿は血塗れ。今にも死にそうなほど瀕死の状態だった。
「どうしたの!? いえ、その前に誰か治療薬をお願い!」
「う、うん!」
その姿にジャンヌは剣を収めて駆け寄り、男性を支えてゆっくりと地面に寝転がせる。
「た……………た………………たすけ………………………」
「しっかりして! いったい何があったの!?」
「……………殺された……………みんな、あの女に…………殺されたんだ……………………」
「ジャンヌさん! 治療薬!」
テイクから治療薬を受け取り、男性に飲ませるが傷は治らない程に重症だった。
治療薬も万能ではない。身体に受けた傷を癒すことはできるも完全に傷を癒すにはそれだけの量が必要になる。俺達が持っている治療薬全てを使ったとしてもこの男性の傷を癒すことは出来ない。
息が荒く、血色がどんどん青くなっていく男性はもうすぐ死ぬ。
「………………突然、だった…………………俺、たちの、まえに……………現れたと思ったら、急に………………………」
「もういい! もう喋らなくていいから!」
「あの、白髪の、女………………が、俺や………………他のみんな…………………を……………………」
そこで男性は亡くなった。
これは明らかな異常事態。もはや試験とはどうとか言っている場合じゃないな。ここは一度森から出て森の外で待機している教師達に知らせた方がいいか。
「白髪の、女………………まさか」
「おい、テイク。どうし―――」
男性の話を聞いて様子が一変したテイクに声をかけようとするもテイクが男性がやってきた方角に向かっていきなり走り出した。
「テイク!?」
そのテイクの後を追おうとするジャンヌに俺とナンも一緒に行こうとするが。
「二人はこの事を学院の先生達に知らせて!」
ジャンヌが俺達にそう言い残す。
テイクがどうして豹変したのかは知らないが、ジャンヌの言う通りこのことを教師達に知らせる必要はある。
「ナン! すぐに森を出るぞ!」
「……………………んっ」
俺とナンは教師達にこのことを知らせに動く。


「待って! お願いだから止まって!」
私は突然走り出したテイクを止める為に追いかけるも彼は走り続ける。
今まで見たことのない彼の必死の顔。もしかしたら何か心当たりがあるのかもしれないけど、今はそれを彼の口から話して貰う為にはまずは止まって貰うしかない。
だから追いかけながら呼びかけるも彼は私の声が聞こえないのか止まらない。
いったいどうしたの……………………? これまでの彼らしくない。
まだ短い間柄だけどこれまでにこんな行動を取るような素振りは見せなかった。だから余計にわからない。
すると不意にテイクの動きが止まり、私は彼の肩に手をおく。
「ねぇ、いったいどうした…………の………………………よ………………………」
彼の肩に手を置きながら私は見てしまった。
木が、草が人間の血で染まり上げられ、肉塊となった同じ学院の同級生達の姿を。
「う………………」
気持ち悪さのあまり思わず嘔吐感を抱く。
いったい誰がこんな惨いことを………………………。
どの遺体も身体中を何か鋭い何かで斬り裂かれた痕がある。切り傷から見て間違いなくモンスターに襲われた傷じゃない。明らかな人為的犯行だ。
「ねぇ、テイク。これはいったい…………………」
何か事情を知っているかもしれない彼に尋ねてみると彼は周辺を探るように見渡している。
「こっちか」
人の話を聞かずに再びどこかに走り出そうとする彼に私は我慢の限界がきて。
「待ちなさいって言っているでしょうが!?」
「おぐ!?」
剣の腹で思い切り彼の頭を叩いた。
「あ、ごめんなさい! つい」
いつもいつもトム相手にしていたから妙な癖がついちゃった!? これも全部トムが悪い!
「………………………………いや、こっちこそごめん。今の一撃で逆に落ち着いたよ」
頭を擦りながら謝ってくるテイクはやっと私の方を見てくれた。
「テイク。貴方は何か知っているの?」
「………………………………確証はないけど。多分この仕業は僕の姉さんの仕業かもしれない」
「お姉様?」
「僕の旧姓はテイク・アール・スチルメイル。今では没落して爵位を失ったこと元伯爵家の息子なんだ」
「そうだったのね…………………」
自分の素性を明かしてくれたことには少なからず驚きはするもそれがどう姉に繋がるのかわからない。
「もう五年も前のこと。まだ伯爵家の子供だった頃に僕の姉さんは公爵家の人と婚約を結んでいたんだ。二人の関係は誰が見てもお互いを愛しているとしか言えないほど互いを愛していた。見ているこっちとしては何とも言えないけど……………………。けど、その婚約者が事故で命を落としてから姉さんはそのことがショックで髪が白くなり、数日後には行方不明になったんだ」
「そんなことが…………」
「僕は姉さんを探す為に学院に入った。騎士になればそれなりの情報を集められるし、色々と優遇も効くからね」
確かに学院を卒業して本当の騎士になれば世界中のあらゆる情報が手に入るし、この国では騎士は優遇されるのは常識だけど………………………。
「どうして貴方のお姉様がこんなことを?」
どうしてもテイクのお姉様がこんな惨いことができるとは思えない。
「………………………………わからない。けど、それを確かめる為にも急いで探さなと」
「いったい誰を探しているの? テイク」
「「!?」」
突然の声に私達はそちらを見るとそこには一人の女性が立っていた。
白髪の長い髪を後ろに纏めている隻眼の女性。赤いドレスに似た軽装には幾つもの返り血がついていて血塗られた剣を片手に狂気を宿した瞳でこちらを見ている。
「ね、姉さん………………やっぱり姉さんなんだよね?」
「そうね。間違いなく私は貴方の姉、シェイクで間違いなくてよ?」
どうやらこの人がテイクのお姉様で間違いないみたい。けど。
「どうしてこんなことを…………………? あれから何があったの?」
そうこの人は学院の生徒を殺した。大勢の人達の命を奪った張本人。
いったい何が目的でこんなことを………………………?
「あの人を、私を愛してくれるあの人を生き返させる為に必要なことなの」
予想外の返答に私は自分の耳を疑った。
人を、生き返させる…………? 今、そう言ったの?
「そんなことできるわけが」
「できるの。勿論その為には色々必要な物があるの。でも絶対に揃えてみせる。だってあの人の為だもの。私はあの人に会う為ならなんだって耐えられる。なんだってしてみせる。この手がどれだけ汚れても穢れても必ずあの人にもう一度…………………ッ!」
その瞳から狂気を迸らせて語る彼女に私は恐怖を抱いた。
く、狂ってる………………! まともじゃない!!
自分の目的の為なら文字通り何でもする彼女に恐怖を抱く私だけど彼女はそんな私の心情など気にも止めずの剣先を向けてくる。
「でもまだ足りない。まだまだ材料が足りないの。もっと血を、肉を集めないと……………………だから貴女達も死んでもらうわ」
私は咄嗟に剣と盾を持ってテイクの前に立つ。
「姉さん!」
「テイク! 逃げて! この人はもう正気じゃない!」
「実の弟を殺めるのは私も気が引けるけど…………ごめんなさいね、テイク。私の為に死んでちょうだい」
振るわれる彼女の剣は伸びて鞭のようにしなりながら私達に襲いかかってくる。


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