転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第三十三話 試験開始

「ではこれより一学年による試験を開始する!」
いよいよこの学院での試験当日日。今日から一週間サバイバル生活が始まる。
前日にテイクから聞いていた通り、指定された森でのサバイバル生活を行い、森から出たり、ギブアップすればその時点で退学処分という思っていたより結構シビアな試験だった。
「それじゃ行きましょう」
気合入れまくりのジャンヌと一緒に指定された森に入り、他の学院の生徒達もそれぞれのパーティーメンバーと一緒に森に入る。
「まずは水の確保ね」
「だな」
サバイバルで必要なのは食料もそうだけど水だ。例え食料がなくても水さえあれば一週間は凌ぎきれると聞いたことがある。
ジャンヌの言葉に反対する人もいない。すると早速モンスターが俺達の前に現れる。
「ぶぅぅぅ」
鼻息を荒げるオーク。武器を手にする俺達よりも速くナンが動いた。
その小柄な体格とは裏腹に手に持つ武器は重量感たっぷりの戦斧。その戦斧を片手で操ってオークを一刀両断。
流石はドワーフの血を引いているだけあって見事なパワーファイターだ。
ナンのパワーに関心を抱いていると今度は数体のコボルトが襲ってくる。
「任せて」
斬ろうと思ったけど先にテイクがそう言ったので一任するとテイクは詠唱を口にする。
「【風の精霊よ。我が呼び声に応じてその力を貸し賜え。風をここに。我が敵を斬り裂く風よ刃よ】」
風の魔法を使って半月状の巨大な風の刃を放ってこぼるコボルトを一発で仕留めた。
「ふぅ」
「お疲れさん。ナンもな」
「………………………………んっ」
戦った二人に労いの言葉を送る。
それにしても早速戦闘になってしまうとはついていないな。まぁ、モンスターにこっちの都合なんて関係ないから仕方がないけど。
「次にモンスターと遭遇したら俺とジャンヌでやるか」
「ええ。負担は平等にしないと」
周囲を警戒しながら俺達は川を探す。
「おっ、あったあった」
しばらく歩いてようやく川を発見する。見た感じ綺麗だからそのまま飲んでも腹を壊すことはないとは思うが一応は沸騰殺菌してから飲み水にするか。
「この近くでテントを張るか?」
「そうね。一応周囲を確認してよかったらここを拠点にしましょう。二人もそれでいいかしら?」
「うん、問題ないよ」
「…………………うん」
この場所を拠点にしようと周囲に何か異常がないかを探るも特に何もない。魔力探知で確認してもこの辺りにモンスターもいない。
全員異常なしと判断してテントを設置する。こんなもんか………………………。
「さてこれからどうする?」
「今回の試験は討伐でも採取でもないから無理にモンスターと戦う必要もないし、体力も温存しておきたいから下手に動かない方が良いわね」
「それなら周囲を警戒しつつこの場で待機でいいと思うよ。万が一の際はどうするかも相談しておきたいし」
「そうしましょうか」
テイクの提案に頷くジャンヌ。とりあえず水も確保でき、テントも張った以上はすることはなにもない。後はここで一週間が過ぎるのを待っていればいい。
「他の奴等が襲ってくる可能性はあるか?」
「一応、他のパーティーメンバーに手を出すのは禁止だけど……………それがどうしたの?」
「いや、今はまだ心身共に余裕があるから問題はないとは思うけど追い詰められた奴等が他のパーティーメンバーから食料を強奪する可能性も考えとかないとダメだろう?」
「そうだね。可能性としてはないとは言い切れない。夜襲してくる可能性が高いから見張りは二人一組の方がいいかもね」
俺の言葉にテイクも同意するように頷く。
「見張りなら男女一緒にするか? ちょうど男女二人ずついるし」
「それがいいわね。それなら私とトムは別々の方が――」
「あ、二人は一緒でいいよ」
戦力を考えて俺とジャンヌは分かれて休もうとしたけどテイクがそう促す。
「二人が一緒に見張りをしてくれた方が僕も安心してぐっすり休めるし、休めた分しっかり見張りもできる。それに僕は剣より魔法の方が得意なんだ。だからさっきの戦闘でオークを一撃で両断できるほどの実力を持つナンさんとは相性もいい筈だから。ナンさんもそれでいいかな?」
「…………………大丈夫です」
「…………まぁ、二人がそう言うのならそうしましょうか。順番はどうする?」
「先に休んでもいいかな? 先に寝ていた方が見張りにも集中できる」
そう言うテイクにジャンヌはナンに視線を向けるとナンも問題ないように頷く。
「それならそうしましょう。それじゃ日が暮れる前に食材の確保と食事の用意をしておきましょうか」
まだ食料はあるとはいえ余裕は持っておきたい為に森にある茸や山菜を集め、今日の夕飯にする。
とはいえ、俺は森の食材についてどれが食べられるのか見分けができないので神様から貰った工房に置いておいた調理器具や椅子やテーブルなどを取り出して食事の準備をする。
そして手にいっぱいの茸や山菜、川で取った魚などを使って料理する。ジャンヌが。
「~~~~~~♪」
鼻歌まじりで料理するジャンヌの手際はよく、手慣れた動きで料理を完成させていく。
「意外だな。ジャンヌって料理できたんだ」
「失礼ね。私だってこれでも花嫁修業をしていたのだからむしろ料理は得意な方よ」
貴族だから料理とか出来ないと思っていたけどそうでもないようだ。
ちなみに俺とテイクも一応はできる方だけど完全な男料理でナンに至っては食べる専門。
俺達は料理ができるジャンヌのありがたさに感謝する。
「さ、召し上がれ」
「おおっ……………」
テーブルの上に置かれた食事に思わず声を出してしまう。流石にサバイバル中はまともな食事ができないと思っていたけどジャンヌのおかげでそれも解消。しかも美味しい。
「お前どうして家でも料理しないんだよ。こんなに美味しいのに」
「セシリア達がさせてくれないのよ。これは自分達の仕事だって言って」
ああ、納得。確かにセシリア達ならそう言うな。しかし本当に美味いな。
「これなら毎日食べたいんだけどな………………」
思った口にすると隣からガシャンと音がして見てみるとジャンヌが顔を赤くして皿を落としていた。おいおい、まだ残っているのにもったいない。
「な、なななな…………何を、言って……………………」
「ん? いや、こんなに美味い飯なら毎日食べたいって言っただけだが?」
「~~~~~~~~~~~~~ッッ」
今にも爆発しそうなほどに顔を真っ赤にする。
おいおい、本当にどうしたんだよ。テイクもどうしてそんな苦笑いしてんだ? 俺、そんなにおかしなこと言ったか?
首を傾げる俺の隣でジャンヌは食事に手をつけずずっと俯いたままだった。
「それじゃお先に」
「……………………お休みなさい」
「おう」
テイクとナンは先に寝て後ほど俺達と交代する。焚火を消えない様にしながら周囲を警戒する俺達なのだが、ジャンヌはさっきから固まっている。
「おい」
「な、なに!? 敵!? モンスター!?」
「いや、少し落ち着けよ。どうしたんだ?」
「べ、別に何もないわよ!!」
嘘つけ、と言いたいけどその言葉は飲み込んだ。
「剣を研いでおくから貸してくれ。使っていないとしてもしていないよりかはマシだろ?」
「そ、そうね。お願いするわ…………」
剣を渡されて俺は早速砥石でジャンヌの剣を研いでいく。
「………………………………」
「………………………………」
互いに無言になり、焚火の音と剣を研ぐ音だけが聞こえてくるなかでジャンヌが口を開いた。
「ねぇ、聞いてもいい?」
「いいぞ」
「もし、もしよ? もし私が騎士の道を諦めて普通の女の子としての幸せを取ったら貴方はどうするの?」
「それはまた意外な質問だな。騎士になる為に学院に入ったんだろ?」
「そうだけど………でも、女性で騎士になる人は少ないしなれても結婚をしたら家庭を優先しないといけないから辞める人もいるの」
「ふーん、まぁそりゃそうかもな。仕事と家庭の両立は難しいだろうし」
「だからもし、私が騎士になって誰かと結婚することになったら貴方はどうして欲しいと思う?」
「そうだな。まずはその結婚相手を夜襲して縛り付けてモンスターの巣に放り投げるな」
「真面目に答えて」
冗談を言ったつもりだが真顔で返された。どうやら真面目な質問だったらしい。
「ん~実際にそうなってみねえとわからねえし、仮にその時が来ても俺はジャンヌの意思を尊重する。騎士を続けるというのなら俺は全力で応援するし、家庭を優先したいのならそれはそれでいい。まぁ、お前が騎士の道を諦めるとは思ってないがな」
「………………………………どうして?」
「お前がここにいるからだ。騎士になる為に努力を積み重ねてこの場にいるお前が今更騎士になる道を途中で諦めるとは思えんし、仮にそうなろうとしたとしてもお前の事だ。なんだかんだ言いつつも騎士を辞めないと思ってる。意地でも騎士も家庭も両立させようとするだろうな」
「………………………………う、確かにそうかも」
「だろ? それに本当に騎士になることを諦めたその時は次に託せばいい。自分のなりたかったその想い、騎士道を自分の子供に託せばいい。お前の爺さんが騎士でこの剣をお前に託したようにな」
「あ…………」
研ぎ終えた剣をジャンヌに渡すとジャンヌはその剣を大事そうに抱える。
「だから今はそんな先のことよりも目の前の試験に集中するべきだ。本当の騎士になってからそのことを考えても遅くはないだろう」
「………………………………ええ、そうね。ありがとう、トム。スッキリしたわ」
「そりゃどういたしまして。お礼は膝枕でいいぞ?」
「ええいいわよ」
「なんて冗談……………ええ? いいの?」
いつものようにジャンヌをからかおうと冗談を言ったけどジャンヌは自分の膝の上を叩く。
「ほら、してあげるから頭を貸しなさい」
「マジで?」
「マジよ。私だってそれぐらい許容するわよ。ただいつもの貴方が変態過ぎるだけ。女性の胸はそう易々と触っていいものじゃないのよ」
「いやまぁ、それはそうなんだけど………………………」
いつもならここで怒ると思っていたが、どういうわけか受け入れたジャンヌに戸惑いながらもせっかくの好機に甘えることにした。
「そ、それじゃお邪魔します………」
ジャンヌの膝の上に頭を乗せて後頭部に柔らかく温かい太ももの感触が伝わってくる。それに上を見上げればジャンヌの顔の半分はその立派な双丘で見えないほど大きい。
そこにジャンヌが子供をあやすような優しい手つきで頭を撫でてくると欲情以上に不思議な安らぎあった。
気恥ずかしさのあまり何も話せず、ジャンヌもまた何も話してこない。そのまま俺達は見張りを交代するまでただ時間が過ぎるのを待っていた。



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