転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第三十一話 盾

今日は剣ではなく盾を作っている。
今まで剣を打ってきたけどこれからは盾や防具方面も作って自身の鍛冶の技量を向上させる。
いずれは自分専用の防具を作るのもいいものだ。
剣とはまた違った創作欲を燃やしながらドラゴンの鱗を盛大に使って盾を作る。
「………………………………」
作っているのはいいのだが、さっきからナンが物陰に隠れながらこっちを凝視している。
「……………………なぁ」
声をかけてみるも慌てて顔を隠すナンに俺は息を吐く。
やっぱりカイドラ先生の娘さんなだけあって鍛冶に興味があるのかな? 先生も一度武具について話しだすと中々止まらないし。
「見たいならもっと近く来てもいいぞ」
「………………………………でも」
「迷惑とか思わないから。むしろ何か意見があれば教えてくれ。自分以外の視点から見て貰って気づくことだってあるし」
試験に向けて親睦を深めることができるし、鍛冶をきっかけに仲良くなれるのならしたい。
そこまで言っておどおどしながらも工房の中に入ってきたナンに俺は途中までの盾を見せる。
「これどう思う?」
「………………………………えっと」
盾を見せるとナンは急に驚いた顔になる。
え? どうした?
「…………………これ、竜の鱗?」
「そうだけど?」
「………………………初めて見た。凄く硬い、それに軽い」
興味津々に見て触るナンに思わず笑みを作ってしまう。
なんか見ているだけで癒される……………。
「竜の鱗、それも色から見て恐らくは灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの鱗。耐火耐熱はもちろんのことその鱗は見た目以上に軽いのに強度は鋼を超えていて防具に最適。けどその強度故に鍛錬が非常に難しいとされるけどこれは恐ろしいほど丁寧にできている。でも盾としての使うならもう少し軽量もしくは小型な盾にしてみて………………………」
盾を見ながらなんかぶつぶつと一人で語り始めた。
普段は無口な人が興味があることに関しては饒舌になるって聞いたことはあるけどナンはそういうタイプの人みたいだな。流石は先生の娘さんだ。
語るナンは不意に自分がどういう状態だったかを思い出して謝ってきた。
「……………ご、ごめんなさい」
「いやいいよ。俺も鍛冶のことで話せる人ができて嬉しいし。あ、そうだ。この盾をこういう風にしてみようと思ってんだけど意見を聞かせてくれないか?」
「えっと…………これなら」
盾を作ることを話題にして二人で語り始める。思考錯誤を繰り返しながら俺とナンは共に盾を作り始める。ナンの技量は幼い見た目とは裏腹に槌を振るう力は強く、その上繊細。
鍛冶の腕も相当先生に仕込まれているみたいだ。
そして俺とナンは意気投合しながら盾を完成させた。



「それがこれだ」
家の庭で俺はナンと共に完成させた盾をジャンヌ達に見せる。
盾に面は灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの顔をモチーフにした小型盾バックラー。モチーフにした顔は実際に見た俺だからわかるほどリアリティが高い。
「よしジャンヌ。お前の炎で攻撃してみてくれ」
「…………………本当にいいの? 下手をしたら火傷じゃ済まなくなるわよ?」
「大丈夫。問題はない」
万が一のことを思って注意するジャンヌだけど俺の言葉を信じてくれたのか剣に炎を纏わせて放って来た。
俺の全身を包み込むほどの質量。普通の小型盾バックラーなら防ぐことはできない。
けど―――
「バージョン2 堅牢なる竜の加護ハード・ドラグ・シールド
声に呼応するように盾から結界が展開されてジャンヌの炎を防いだ。
よし、実験成功だな。
「なにそれ……………?」
「驚くのはまだ早いぞ?」
目を見開いて驚くジャンヌに俺は新たな形態を見せる。
「バージョン3 斬り裂く竜の爪牙ナ―ゲル・ドラグ・タロン
続けて盾の側面から刃が出て来て俺は盾を円盤投げのように投げる。
「どりゃあああああああああ!!」
「きゃ!?」
避けるジャンヌ。だが、甘い。その形状状態の盾は狙った相手を追いかける。
追尾してくる盾にジャンヌは一瞬反応が遅れて剣で盾にするも完全に防ぐことが出来ず地面に尻を付ける。
戻ってきた盾を手にするとジャンヌは尻を擦りながらこっちを睨む。
「危ないじゃない!? 下手をしたら大怪我よ!!」
「ジャンヌがこの程度で怪我するわけないだろう? そう信じたから相手を頼んだんだ」
実際に怪我をしていないし、結果オーライ。
「それでご主人様。その盾はどういう仕組みで?」
リリスが興味本心にこの盾の仕組みを尋ねてくる。
「ああ、この盾の内部にはミスリルとレジストル金属が組み込んでいるんだ」
「レジストル金属…………形状記憶金属ですか」
流石リリス。使った金属を教えただけで気付いたか。
「レジストル金属……………?」
リリス以外の人達は全員首を傾げる。まぁそれが普通の反応だよな。
「レジストル金属。別名形状記憶金属。この金属は触れてイメージと共に魔力を送り込むとそのイメージした形状に変化する。そうすると金属はそのイメージを覚えて後は魔力を送り込むだけ決められていた形状に変化する金属。だけどこの金属は一度イメージした形態以外は変化しないし、鮮明にイメージしないといけないから誰も使いたがらない不人気金属なんだ」
「だから聞いたことがないのね………………」
納得するジャンヌ達。だけどこの盾にはそれが使われている。
ナンは技量だけではなく金属に関する知識も豊富だった。俺も鍛冶師としてまだまだ学ぶことは多い。もっと勉強しておかないと。
「バージョン2の状態では盾に内蔵されているミスリルを媒介にしている。ミスリルは魔法吸収率が高いだけじゃなく魔力の吸収率も高い。そこにリリスから教わった魔法道具の知識を応用して魔力を送るだけで結界を展開させる機能をつけてバージョン3ではレジストル金属を使った形状変化共に側面から竜の牙と爪をふんだんに使った刃が出現すると同時に投擲することで飛び道具にも使える優れものだ。もちろん普通の盾としても使える」
そして俺はその盾をジャンヌに差し出す。
「そしてこれはお前のもう一つの相棒だ」
「え……………? 私…………………?」
「ああ、その為にナンと一緒に考えて作ったんだよ。正直俺一人じゃこんないい盾なんか作れなかった」
鍛冶師になって店を開いたらナンを助手として雇いたいと思えるぐらいいい腕だったよ、ナンは。
「わ、悪いわよ……………。私はもう貴方が打ってくれた剣だけでも十分なのに…………」
「いや、前々からジャンヌには盾がいるとは思っていたんだ。ジャンヌの戦い方は剣一本で戦うよりも盾があった方が戦いやすい筈だ。それに困っている人がいたら誰よりも早く動いて自分を盾にしてでも守ろうとするだろ? バージョン2はジャンヌ自身も守る為の形態だし、ジャンヌの『剛力』のスキルがあればバージョン3でもっと威力のある遠距離攻撃も可能の筈だ」
前々から剣を盾代わりにして戦う場面も多かったし、盾があった方がもっといい筈だ。
なにより。
「ジャンヌも女の子なんだからできるだけ傷ついて欲しくないんだよ。男にとって傷は勲章だが、女の子は気にするだろう? だから俺の気持ちも汲んでこの盾を使ってくれ」
そんな綺麗な肌に傷なんてついて欲しくないしな。
でもジャンヌの場合は自分を犠牲にしてでも無理をするから不安なんだよな。だから少しでもこの不安を解消する為に盾を作ったんだ。無理にでも受け取って貰わないとこっちが困る。
そう思って盾を渡そうとするけどジャンヌはどういうことか俯いている。
「うぅ………………どうしてこういう時だけ変態じゃないのよ……………………」
何かぶつぶつ言っているみたいだけどもしかして気に入らなかったのか? それになんでリリス達はそんなに微笑ましい顔をしているの?
「なんだ? 気に入らなかったのか? それともデザインが悪かったのか?」
「そ、そうじゃないわよ! ただ………そう! そんな凄い盾を買うお金なんてないのよ。無料タダで貰うのも気が引けるし」
なんだそんなことか。
「気にすんな。これは先行投資のつもりだ。これから騎士になるお前が有名になればその分鍛冶師としての俺の名前が上がり、店を開いたら大儲けできるからな。まぁどうしても払わないと気が済まないというのなら金は出来た時でもいいぞ? 今はそこまで金に困ってないし」
「な、なんでそこで身体で払えって言わないのよ、この変態は…………………」
さっきからいったいどうしたんだ? そんなに遠慮することなんてないのに。
猫のようにうぅ~~~と唸り始めるジャンヌとそんなジャンヌにリリス達は慈愛に満ちた目で見守っていることに俺は首を傾げる。
そして何か納得したかのように盾を手にする。
「い、いつか払うから……………絶対」
「おう。他に作って欲しいものや要望があれば言えよ?」
コクリ、と頷くジャンヌに俺は満足だ。
今度はレジストル金属で変形する防具でも作ってみようかな。その時は採寸と称してジャンヌのスリーサイズを測ることができるし。

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