転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第二十八話 聖魔の炎

召喚主であるボルスを殺したことによって自由の身となった番外の悪魔エキストラデーモン相手に俺は一騎打ちで勝負している。
ジャンヌから聖剣を借りての二刀流。どこかの黒の剣士のように両手に剣を持って二刀流の剣撃を悪魔に与える。
「ヴォオオオッッ!!」
「とっ!」
ジャンヌと一緒に戦っていた時と違って今度は素手や脚で攻撃してくる。今も巨剣を躱して近づいたと思ったら蹴りが飛んできた。
距離を取れば巨剣。近づいたら徒手空拳。これが本来のこの悪魔の戦い方なのだろう。
ボルスっていう盗賊は完全にこの悪魔を使役することはできなかったみたいだな。そりゃ、この悪魔も存分に戦えないのならフラストレーションが溜まる筈だ。
まぁそれは置いておいて………………そろそろこの剣達の本領を発揮してみましょうかね。
俺は剣に炎を纏わせてそれを交差させて放つ。
聖魔炎の十字架グローリー・クロス!」
聖なる炎の魔剣の炎を十字架の形にして放つ。聖と魔の炎を悪魔に向けて放つと悪魔は巨剣をまるでバットのように構えて………………まさか………………………。
「ヴゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!!」
「嘘!?」
巨剣を使って炎を打ち返した。俺の炎はボールじゃねぇ!!
撃ち返された十字架の炎を俺は更に強い炎で消し去ろうとする。だが、悪魔が突貫する。
「ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
巨剣を振り上げながら突貫してくる悪魔。このまま炎を放って炎を相殺しても悪魔の巨剣が隙だらけの俺に振り下ろされる。そうなれば俺の右半身と左半身はさよならだ。
「これならどうだ!!」
俺は魔剣と聖剣を地面に突き刺す。
聖魔竜炎哮グローリー・ドラグ・イラプション!!」
地面から聖と魔の炎を大噴出。真下から巻き起こる炎の噴出に打ち返された炎は掻き消されて悪魔は炎に包まれる。俺の足元に突き刺した二つの剣の炎が地面を伝ってこの辺りに火柱を上げる。
流石の悪魔のこの炎を直撃して無事では済まないはず………………………。
「ヴォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「な!?」
だが悪魔は炎に包まれながらも怯むことなくその巨剣を振り下ろす。
その巨剣を紙一重で回避する俺の前に悪魔の拳が迫る。
「――――――――――――――――っ」
悪魔の一撃を受けて俺は派手に殴り飛ばされて木に背中を強打する。
「かは…………」
口から酸素が全部出ていく。それに背中から激痛と口の中に血の味が広がっていく。
多分、今の一撃で内臓を痛めたんだろう。それでも咄嗟に後ろに跳んで威力を弱めた上でこの威力かよ。直撃だったら今ので死んでたぞ………………………。
「ヴゥゥゥ………………」
得意気に笑みを見せる悪魔。如何にもかかって来いって言いたげだ。
ドラゴンの時は生きる為の本能による戦いだった。だけどこの悪魔との戦いは勝つ為に知恵も巡らせる。勝つ為なら多少のダメージは覚悟の上。まさに肉を切らせて骨を切る。
「トム!?」
「あー大丈夫大丈夫。心配すんな」
心配してくれるジャンヌに軽く手を振って答えるも正直今の一撃は効いた。次に悪魔の攻撃を喰らえば間違いなく死ぬ。かといって逃げるのは男が廃る。
魔力操作や魔力放出も悪魔に決定的なダメージを与えることは出来ないし、聖剣と魔剣を悪魔は警戒しているから易々受けてはくれない。
なら、試してみるか………………………。
「すぅーはぁー」
息を整えて瞳を閉ざす。
あの時、灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの炎が俺とジャンヌに迫った時、俺の中で何かスイッチみたいなのが入ってから記憶がない。けど、感覚は覚えてる。
研ぎ澄まされた剣のように自分自身も剣と一体化する。
昔、剣道の先生から聞いたことがあったな。剣は己の身体の一部。己自身の身体だと思え。
今ならその意味がわかる気がする。
視界を開けるとさっきまでと見る景色が一変した。
「ヴォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」
遅い………………。
突進してくる悪魔がほとんど止まって見える。もう眼前に巨剣が迫ってきているというのに余裕で避けたり戻ったりできる。
それにわかる。
どこをどう避ければいいのか、斬ればいいのか。それが手に取るようにわかる。
これが剣の最上位スキル『剣心一体』の本当の力。
魔剣で巨剣を最小限の力で受け流して聖剣で悪魔の腕を斬り落とす。
「ヴォォォオオオオオオオオオオオッッ!!」
腕を斬られても悪魔は攻撃の手を緩めない。斬られていないもう片方の腕で殴りかかってくるも俺は舞い落ちる木の葉のようにひらりと避けると同時に悪魔の胴体に二本の赤い線を走らせる。
「遅い」
さっきまでとまるで違う。
なるほど確かに。世界最強の剣士が持っていただけのスキルなだけはある。
胴体から流れる血を筋肉で止血する悪魔はどういうことか巨剣を半分にへし折った。威力とリーチを減らして軽量化と振りやすさを優先したか。
「っ!? ……………どうやら長期戦は無理みたいだな」
頬に冷汗が流れる。
ドラゴンを倒した後の筋肉痛の原因は俺がまだこのスキルを使いこなせていない為に肉体の負担が大きい。この戦いが終わったらジャンヌと一緒に騎士の訓練にでも参加してみるか。
「悪いが、この一撃で終わらせて貰うぞ」
お前はもっと戦いたいのだろうけど悪い。俺が未熟なせいでお前の気が済むまで戦ってやれることはできない。だからこそ全力の一撃をお前にくれてやる。
そんな俺の意思が通じたかのように悪魔は折れた巨剣を構える。
静寂の時。互いの瞳を逸らすことなく見据えながらただ決着の一瞬を待つ。
そして―――
俺と悪魔が動いたのは同時だった。互いにこの一撃で決着をつける必殺の間合いに入り、互いの得物を振りかざして交差する。
「………………………………終わりだ」
悪魔は斬られた箇所から聖魔の炎に包まれて倒れる。けど、交差する最後の瞬間、悪魔は笑っていた。自分の全力を出して負けたことに何の悔いもないように。
決着がついた瞬間に俺の身体に疲労感と倦怠感が襲ってくる。このスキルを使いこなせるまでまだまだ時間がかかりそうだ。
「あ、やべ………」
ぐらりと視界が傾き、倒れそうになる俺をジャンヌが受け止めてくれた。
「お疲れ様」
「疲れたからジャンヌのおっぱいで癒して……………」
「絞めるわよ?」
「ごめんなさい」
といいつつも肩を貸してくれるジャンヌは本当に優しい騎士様だよ。
「ご主人様」
「あ、お疲れ」
リリスとセシリアが捕らわれていたエルフ達を無事…………とは言えないか。何人か全身を毛布で隠している女性のエルフがいる。訊かなくてもその原因は想像はつく。
それにしても捕まったのは全員女の所を見ると男は盗賊に殺されでもしたか。
「人間………………」
「どうして人間が……………」
「また私達に酷いことをするのでは…………………」
俺とジャンヌを見て怯えるエルフ達。
そりゃそうか。助けたとはいえ元からエルフは人間に嫌悪感を抱いている。そこに人間の盗賊が友達や家族を殺され、辱めを受ければそういう目で見てくるのも無理はない。
「エルフの皆さん。私達はそちらにいるセシリアさんの声を聞いて助けに参りました。どうかご安心ください」
ジャンヌがエルフ達を安心させようと優しく声をかけるも誰もその言葉を信じようとはしなかった。それどころか一層に警戒されてしまった。
こりゃ根が深い問題だな。
「皆、落ち着いて聞いて欲しい。彼等は我々の味方です。現に私がこうしているのがその証拠。もし彼等に邪な感情を抱いていれば私はここにはいない」
「けど、セシリア………………」
「盗賊を倒し、悪魔も倒してくれたのは紛れもない彼等人間で彼等は信用できる」
同じエルフであるセシリアがそう言ってもまだ納得できないように渋む。
んーこりゃ難しいな………………………。
「ところでお前等はこれからどうするの?」
『………………………』
俺の言葉にエルフ達は黙り込む。
「行くアテがないなら俺の奴隷にならないか?」
「ちょっとトム!?」
俺の提案に声を荒げるジャンヌ。エルフ達は親の仇でも見ているかのような目で見てくる。
「あー、言い方が雑だったな。奴隷と言っても形だけの奴隷だ。既に誰かの所有物になっていればエルフだからと狙われる可能性が減るし、襲われる心配だってない筈だ」
「ですが………………」
「勿論里に帰るというのなら止めはしない。俺は単に選択肢を増やしているだけだ。あ、言っておくけど奴隷だからと命令する気も何かを強制させるつもりは一切ない。本当に形だけの奴隷だ。後は好きにすればいい」
無理矢理は俺の趣味ではありませんから。
「確かにその案でしたらエルフ達が狙われる可能性は減るでしょう。しかしご主人様。奴隷にするということは彼女達が生活する為の資金はどうするおつもりで?」
「その点に関してはリリス。お前にちょっと話がある」
手招きする俺にリリスは怪訝の表情を浮かべながら耳を貸してくれるリリスにある提案を持ち掛ける。一部の内容を教えるとリリスは顎に手を当ててしばし思案すると通信の魔法道具を取り出して何かしらの連絡を取り合う。
上手く行くか…………? と心配だったけどリリスは微笑みながら頷いてくれた。
「どうやら問題はないようです。後ほど詳しい話が必要になるようですけど利益の一部をこちらに振り払って頂けるようです。勿論エルフ達が生活できるだけの十分の資金にはなります」
よし。これで金の問題はなくなった。
「何の話をしたの………………?」
「後で教える。ということだ。どうするかどうかはお前達で決めてくれ。里に帰るか、共に来るかを」
俺の提案にエルフ達は互いに顔を見合わせて答えを出すので渋る。けど。
「…………………私はこの人について行きます」
セシリアが一番にそう言って俺に刀を返してくれた。
「貴方達は信用に足る人間だ。それに同胞を救ってくれた恩義もある。だから貴方に忠を尽くすことを約束する」
なんか重い忠義心だけどまぁ信用してくれるようになったことだけはわかった。
「ああ、これからもよろしくな」
手を交わす俺達。すると他のエルフ達も次々と共に来ることを選んだ。
助けてくれた恩を返すまでとか、セシリアが言うのならと、色々自分を納得させる理由をつけてはいるが、共に来る道を選んでくれた彼女達の信用には応えよう。
「それじゃ盗賊の身柄を拘束して一度レギュレーンに戻るか」
そうして俺達はセシリアを始めとする多くの女性エルフ達と共にレギュレーンに赴いて盗賊の身柄を騎士達に渡して賞金首であるボルスの700万ゲルトを入手してまた奴隷市場にやってくる。
そこで奴隷が嵌める首輪をエルフ達につける。一応主は俺だ。
そして勿論俺は………………………。
「お待たせしました。こちらがお目当ての奴隷である牛人キャトルです」
300万ゲルトで魔乳美女である牛人キャトルを買いました。
「は、初めまして…………シュティアと言います。主様、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。後敬語じゃなくていいぞ? 呼び方も好きに呼んでくれ。俺はそっちの方が良い」
「は、いえ、うん………よろしくね? えっと」
「伯耆十夢。伯耆でも十夢でもどっちでもいい」
「じゃトムくん。よろしくね」
「ああ、よろしく。シュティア」
少し動いただけでぷるんぷるんと揺れるシュティアのおっぱいに思わず目がいってしまうのは男の子として仕方がないことだ。
だからジャンヌそれにエルフ達。そんな冷ややかな目で俺を見ないでおくれ。
するとリリスが微笑みながら耳打ち。
「流石はご主人様。私の助力無しでハーレムを築かれるとは。流石は未来の魔王様」
「ありがとう」
それは褒め言葉として受け取っておくよ。
無事にエルフ達の問題を解決した俺達は新しい仲間達と共に俺達が住んでいる都市に向けて馬車を動かす。

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