転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第二十七話 番外の悪魔

盗賊からアジトを聞き出した俺達は森の中にあるそのアジトを発見する。
「あそこみたいね………」
ざっと見て十人以上はいる盗賊達が奪ったと思われる食料や酒で盛り上がっていたが、目的であるエルフ達と問題の悪魔の姿が見えない。
「あちらの洞窟に隠しているのでしょう。恐らくはボスと悪魔も」
盗賊達の奥にある洞窟。確かに隠しているとしたらあそこしかないな……………。
茂みに隠れながら様子を窺う俺達だがセシリアが短剣を持って茂みから出ようとするけど止める。
「離してください! 急がなければ同胞が、仲間が…………ッ!」
「落ち着け。せっかくの奇襲のチャンスを無駄にするつもりか? それにもしエルフを人質に取られたらどうする?」
俺の言葉に取りあえずは落ち着きを見せるセシリアだけど内心は今すぐにでも駆け出したい気持ちでいっぱいの筈だ。だけどこの奇襲のチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「……………………リリス。確か姿を消せる魔法道具があったよな? 試験の時に使った」
「はい。ありますよ」
「なら俺とジャンヌが盗賊を引きつけている間に姿を消してエルフ達を救出することはできるか?」
「お任せください。しかしそれでしたら悪魔の対処は如何様に?」
「俺とジャンヌでどうにかする。できるか? ジャンヌ。できなかったらここにいてもいいぞ?」
「誰に言っているのよ? 私は騎士よ。逃げるつもりも隠れるつもりもないわ」
「………………………………今度の相手はドラゴンじゃなくて人間だぞ?」
「それは貴方も一緒でしょう?」
「まぁそうだけど………………」
俺も人を斬ることに抵抗がないわけではない。日本ではそんなことしたことないし、すれば犯罪者だ。だけど不思議に俺はこれから人を斬るかもしれないというのに何も感じない。
スキルの影響か? もしくは俺自身に問題があるのかはわからないけどもしかしたら既に俺はこの弱肉強食の世界に適応しているのかもしれない。
どちらにしろ、深くは考えない様にしておこう。
「……………問題ないのなら今言った通りに行くぞ? 最悪の場合は各自で逃げるで」
「ええ」
「はい」
「わかりました」
全員が首を縦に振って同意すると共に俺とジャンヌは鞘から剣を取り出して茂みから出る。
「あぁ? なんだてめえら?」
茂みから姿を現すと早速盗賊達は俺達の存在に気付いた。
開戦の狼煙は俺が上げるぞ?
俺は魔剣の炎を放出させてそのまま地面に叩きつける。
「黒竜炎!!」
次の瞬間、地面から竜の顎をした黒い炎が盗賊達に襲いかかる……………のだが。
「あ、やべ………やりすぎた」
俺の想像以上に魔剣の力は強くて加減を間違えて一発で盗賊達を丸焦げにしてしまった。
やり過ぎたことにたらりと冷汗を垂らしながら横目でジャンヌを見ると呆れてものが言えないような顔でこちらを見ていた。
一応弁明するとしたら一応今のは威嚇用というか数人倒せればいい程度で放ったつもりだったのだけどどうやらこの魔剣は強い上に手加減が難しいらしい。
「も、もしも~し。生きてますか~?」
近くにいた丸焦げ盗賊を木の棒で突いてみると一応は生きていた。
ま、まぁ一応は盗賊は全て退治するつもりだったんだ。結果オーライってやつだ。
うんうんと一人納得する俺の横から深い溜息が聞こえたのはきっと気のせいだ。
「おい! 何の騒ぎだ!?」
すると洞窟の中から中年ぐらいの左眼に眼帯を付けた男性が現れた。そして―――
「あれが番外の悪魔エキストラデーモンか…………」
その隣には三メートルぐらいのヒト型の悪魔が男性の従者のように付き従っていた。
頭は山羊、身体は人間。筋骨隆々の肉体を持つその悪魔の右手には背丈と同じぐらいの巨剣を引きずっている。その悪魔を見て俺もジャンヌも身を引き締めて臨戦態勢を取る。
悪魔を連れているということはこの男性が盗賊のボスなんだろう。
「あんたが盗賊の頭か?」
「あぁ? 俺の顔を知らねえのか?」
男の顔など知らん。そもそも覚える気もない。
一応ジャンヌの方も見て知っているかどうかアイコンタクトで確かめるもジャンヌも首を横に振った。
「チッ。なら特別に教えてやる。俺の名はボルス。この最強の悪魔の主人で賞金首700万ゲルドの隻眼のボルスだ! 俺の名を恐怖と共に覚えるがいい!」
お前はどこの海賊王の海賊だ。盗賊なのに。あと700万は低いのか高いのか俺にはわからん。
「………………その悪魔は召喚魔法で召喚した召喚魔なのか?」
「おうよ。一回しか使えない魔法だが俺はこの悪魔を召喚し、俺の思うがままに操れる。運に恵まれていたぜ。おかげで盗賊稼業も楽でいい」
「お仲間はもう倒しちまったけどな」
「ハッ。こんな何の役にも立たない屑など使い捨てで十分だ。こいつさえいればどうとでもなる!」
強い召喚魔を使役しているからペラペラと話してくれる辺り楽でいいな。まぁその悪魔が強いのは間違いないから話したくもなるものか………………………。
しかしこんな悪魔も召喚できるあたり召喚魔法は完全にガチャ魔法だな。俺、リリスを召喚できてマジでよかった。こんな悪魔を召喚魔として傍に置きたくないもん。
可愛ければまだいいけど、全然可愛くもないし無駄にデカいから場所も取られそうだし。
「たくっ俺の楽しみを邪魔しやがっててめえらもこいつの手でぶっ殺してやる! やれ!」
「ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
主人の合図に悪魔は雄叫びを上げて巨剣を片腕で持ち上げて上段から振り下ろす。
一撃で地面を割り、土を抉るその一撃をまともに受ければまず間違いなく即死だろう。
だけど、灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの比べればたいしたことはない。
気迫も威力もあのドラゴンよりは遥かに劣る。
俺とジャンヌは左右から悪魔の懐に潜り込んで同時に一太刀浴びさせる。致命傷ではなけど流石にドラゴンの鱗ほどじゃない。容易く刃が通る。
「ヴゥゥゥゥ!!」
巨剣を振り回すも俺とジャンヌには当たらない。巨剣は威力はあるけどその分どうしても大振りにつてしまう。だから多人数相手ならともかく悪魔にとって人間の一人や二人は動き回る小さな的にその巨剣を当てようとしているものだ。
そして俺は腕をジャンヌは足を再び斬りつける。
だけどこれもジャンヌの剣とこの魔剣があってこそだ。普通の剣や魔法ならきっとこの悪魔には通用しなかったろうな。
圧倒的な膂力に高い物理・魔法耐性を持っているってリリスも言っていたし。
「クソ! おい! 何してやがる! さっさとこのガキどもをぶっ殺せ!!」
盗賊の頭であるボルスが苛立ちを吐き散らすように悪魔に怒鳴りつけるも悪魔の目はまるでボルスを殺したいかのように殺意に満ちている。
そうか。召喚魔は召喚主に絶対服従だから逆らうことが出来ない。本当はこの悪魔も従いたくはないんだな。
なら………………………。
俺はボルスに向けて魔力の斬撃を放つ。
「へぁ?」
その斬撃はボルスの頭と胴を切断させてボルスは変な声と共に地に伏せて絶命する。
「これでお前は自由だ」
召喚主が死ねば召喚魔は隷属から解放される。俺がボルスを殺したことで悪魔を縛り付けていた見えない鎖は全て断ち切れた。
「ヴゥゥゥ…………」
悪魔は自分の姿を見て解放されたことを知ると俺に向けて頭を下げた。
おぉ、この悪魔。凄く礼儀正しい。
そう思いきや、今度は巨剣を俺に向けてきた。
「ヴオオオオオオオオオオオ」
なんて言っているのかはわからない。だけどお前の瞳が教えてくれる。
これでようやく全力で戦える。そう言いたいんだな。
「トム………………?」
「ジャンヌ。悪いがお前の剣を貸してくれ」
「え? どういう意味? よくわからないのだけど………………」
「正面から堂々と決闘を申し込まれたら男として断るわけには行かないだろう?」
「悪魔の言葉がわかるの?」
「いやわからねえよ。けどこいつの目が訴えてんだ。俺と戦えって。盗賊も倒したし、エルフ達もリリス達が助けてくれているだ。だから今まで縛られていたこいつの全力を全力を持って受け止めてやらねえと男が廃る」
きっとお前は自分の意思で自由に戦うことが好きなだけなんだろう。だけど、召喚魔法に召喚されて召喚魔として縛られて人間の欲を満たす道具にされていた。けれどそれはもうない。
だから久しぶりの全力を俺にぶつけたい。そうなんだろう?
俺が笑うと悪魔も笑う。
ジャンヌはまだどこか納得していない顔をするけど深い溜息と共に剣を俺に手渡す。
「貸すからには絶対に勝ちなさい」
「ああ」
左手に魔剣。右手に聖剣。どちらもこの悪魔に通用する武器なのはもう確認済み。そして悪魔が持つ巨剣は人間である俺が一撃でも受ければまず死ぬ。
ドラゴンの時とはまた違った自分の全力をぶつけ合う戦いに俺達は武器を構えて動く。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
「ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
俺達は全力の叫びを上げる。

コメント

  • 姉川京

    やっぱ神作w

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