転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第二十四話 旅路

俺達は馬車に揺られながらレギュレーンという街に向かっている。その理由はエルフの仲間を助けに行く為に盗賊達が向かうであろうその街を目指す。
俺は馬車に揺られながら数時間前の事を思い出す。
「レギュレーンに向かいましょう」
エルフの罰を終えたリリスはどこか満足した笑みと共に地図を広げてそう言った。
というよりもあのエルフは大丈夫か? なんか目が死んでいるんだが…………?
アレだな。エロ同人誌に出てくる借金を背負った女性がお金の為に好きでもない男と一晩共にしたみたいな顔でぐったりしている。
「今から私達が里に向かっても誰もいないでしょう。ですが捕縛した以上は盗賊の目的は奴隷売買ということは間違いはありません。なら、一度はどこかの街に入る筈です」
「なるほど。奴隷として売る以上は街に入らないといけないから…………」
「はい。里から一番近い街がこのレギュレーンです。ですので私達は先回りして盗賊より一足早くこの街に足を運び、そこから里に向かう道を探して盗賊を見つけ、エルフ達を救助します」
リリスの作戦に不備はないと俺も思う。だけど…………。
「もし、盗賊が別の街に行ったら…………」
そうこれはあくまでリリスが立てた推測でしかない。もし外してしまえばまた一から捜索しないといけなくなる。
「その可能性も十分あります。ですが、情報が少ない以上はこれに賭けるしかありません」
他に手がない以上はその案で行くしかなかった。
そうして俺達はレギュレーンに向かう為に学院から馬車を借りて都市を出たまではよかったのだが…………。
「………………………まさか魔族に穢されることになるとは」
馬車の空気が悪い。
リリスに責められて暗黒を背負っているエルフは自虐の笑みを浮かばせながらそう言う。
よほど堪えたのだろうな…………。
「~♪」
それに比べてリリスは凄いご機嫌で手綱を握っているし。
「あの、これ…………」
するとジャンヌが落ち込んでいるエルフにクッキーを差し出した。
「甘くて美味しいからエルフでもお口に合うと思うから…………」
人間を嫌悪しているエルフとの距離を縮めようと気を遣って接している。いや、見ていられない程痛々しいから放っておけなかっただけかもしれないけど。
「………………………………ありがとう」
それでもエルフはジャンヌの優しさに感謝して一つだけクッキーを口にした。
「なぁ、ジャンヌ。俺のは?」
「ちゃんとあるから後でね」
「ほーい」
こういう時のジャンヌの騎士道は素直に尊敬する。本当に優しい騎士様だよ。
まぁ、でもそれと同じぐらい無茶をしそうで怖いから心配でもあるんだけどな。妹がいたらこんな気持ちになるのかね? だとしたら先輩が羨ましい。ちょっとそこのポジションを譲って欲しいぞ。
目的地であるレギュレーンに向かいながらジャンヌは少しずつエルフとの距離を縮めようと声をかけたりしているなか、俺はリリスが話していたことについて思い返す。
俺を魔王に、か…………。
リリスは俺を魔王にしてハーレムを作るのに協力してくれる。それには驚いたけど正直すぐには首を縦には振れなかった。
ハーレムは俺も作ってみたい。一人の浪漫を追い求める男として多くの女性を囲んで生活してみたいという気持ちはある。それを自ら進んで協力してくれるのなら断る理由はどこにもない。
でも、リリスは俺の事を慕っていると言ってくれた。
それは雄叫びでもあげたいぐらいに嬉しかった。だって美人で性格もよくておっぱいも大きくてエロいことにも寛容な完璧な美女からそう言われたら雄叫びの一つぐらいあげたくなる。
そんなリリスが他の女を侍らせてもいいって言っているのなら別にいいと思うけど…………なんだかなぁ、この気持ちは…………? win-winの関係なのにどうしてこんなにも悩んでいるんだろうか、俺は………………………。
悶々と悩むなか、俺にジャンヌが声をかけてきた。
「どうしたの? いつもの貴方らしくないじゃない。悩み事があるなら聞いてあげるけど?」
心配そうに顔を覗いてくるジャンヌ。
ああ、本当に優しいなこの子は……………。ならお言葉に甘えさせてもらうとしよう。
「おっぱいを揉ませてください」
「……………………………………………………」
「ちょ、まっ、待ってごめん! ごめんなさい! 言ってみたかっただけなんです! だから無言で馬車から放り投げようとしないで!!」
笑顔のまま俺の襟首を掴んで持ち上げて馬車の外に放り投げようとするジャンヌに必死に許しを請う。スキルまで使うなんて反則だぞ!?
「………………次はないわよ?」
「イエッサー!!」
ゴミを見る目を向けられながらとりあえずは下ろしてくれたことに一安心。
ふぅーやれやれ…………。からかうのも一苦労だぜ。
「それで? 何に悩んでいたのよ?」
「いや、その………悪魔に俺達の剣が通用するかなって思って……………」
流石にハーレムについて悩んでいたとは言えずにそう誤魔化す。するとエルフが。
「貴方がその魔剣を振るえるのなら少なくとも不利にはならない。聖剣ほどでなくとも悪魔に魔剣は有効だ。魔法剣とは違って魔剣は肉体のみならず精神にまで影響を及ぼす」
そう教えてくれた。
へぇ~魔剣ってそんな感じなんだな。打った俺が言うのもなんだけど聖剣や魔剣のことについてもそんなに知らないからな。…………っていうか聖剣もあるのか。聖剣を打つ為の材料っていったいなんだろう? ちょっと聞いてみるか。
「聖剣ってあの選ばれた者にしか抜けない剣のことか?」
「………………貴方が言っている聖剣については知りませんが、聖剣は特別な剣だ。私も詳しくは知りませんが聖剣には聖なる神の力を宿すという伝承があります。本当かどうかは定かではありませんが…………………」
聖なる神の力を宿す、か……………………………んん? それってつまり聖剣は神の力が宿す何かを使えば聖剣になるってことだよな? ならもしかして………………………。
俺はジャンヌの腰にある剣を見てもしやと思った。
あの時、ジャンヌの剣を打つ為にあの工房にある神様からの贈り物を剣の材料にして打った。
ということはジャンヌが持っている剣は聖剣になるのか?
確かに魔法剣よりも強い火力を出したり、頑丈で鋭い切れ味も持っている。
ただの剣ではないことはわかっていたけどまさか魔剣よりも先に聖剣を打っていたとは………。
このことはジャンヌには内緒にしておこう。教えたら遠慮しそうだ。
「ご主人様。この辺りで一度休憩を取ってもよろしいでしょうか? 馬を休ませたいのですが」
「ああ、そうだな」
馬を休ませる為に一度馬車を止めて休憩に入る。
馬の世話に関しては全く知らないのでリリスとジャンヌに任せる。
俺も馬に乗れるようになった方が良いのかな………………? 今度暇ができたらリリスにでも教えて貰おう。
「一つ聞きたい」
乗馬のことについて考えているとエルフが声をかけてきた。
「何故戦う? 貴方方が我々エルフの為に危険を冒す理由がどこにある? いや、それ以前に私を捕えた時点でどうして奴隷商に売り払わなかった? そちらの方が貴方方人間にとって有益のはずだ」
疑問と警戒を交った質問をしてくるエルフに俺は言う。
「んーまぁ、訳アリそうに見えたから? それにいくらエルフが金になるからって奴隷商に売り払うのは人としてどうかと思うし」
「何を今更、貴方方人間は私達を金儲けの為に売り払う。強欲で狡猾な種族だ」
「あー、そう言われたら否定しづらいなぁ…………けど、全ての人間がそうとは限らないだろう? 全ての人間がエルフを金儲けにしようとは思っていない。その証拠にお前はここにいる」
「…………それはそうですが」
それでも何か言いたそうに言葉を濁らせる。
無理もない。エルフにとって人間は嫌悪する種族。人間はそういう生物だと言い聞かされて生きてきたのならすぐには俺達を信用することはできないだろう。 
俺だって立場が逆なら絶対に信用しない。
「…………………じゃ、これをお前に渡しておく」
俺は神様から貰った刀をエルフに手渡す。
「その武器は俺にとって大切なものだ。この魔剣よりも遥かに。それを渡す意味がわかるよな?」
「……………………私から信用を得る。そういう意味ですか?」
「ああ、俺達のことが信用できると思ったら返してくれ。それまではお前に預けておく」
「馬鹿なのですか? 貴方は」
心底あり得ない顔で馬鹿にされた。
いきなり酷いな………………。
「これから戦いに赴くというのに剣を私に預けるなんて…………そこまでする必要がどこにあるというのです? それに私がこの剣を捨てるとは思わないのですか?」
「その時はその時だ。それにこれから戦う仲間を俺は信じたい」
「仲間……………? 私達が? 私はエルフで貴方方は人間なのですよ?」
「それが? 別に種族が違うだけで仲間になれないわけじゃないだろう? 現に俺達とリリスは普通に一緒にいるぞ?」
「そう、でしょうが………………」
「変にいがみ合って仲良く共倒れなんか嫌だし、それで他のエルフも救えなかったは嫌だろう? だから俺はお前を信用する。それだけだ」
変にギスギスした関係も嫌だし、綺麗な女性とは是非とも仲良くしたいという下心もあるけどそれは別に言う必要はない。まぁ、本当に刀を捨てられたら困るけどエルフ美少女からの信用を得る為だ。そこは捨てないでいることを祈ろう。
「………………………………貴方は変わった人間だ」
「そりゃどうも」
「ですが、それでもまだ貴方方を信用はできない。ですがその代わりに私の名を教えます」
まずは信用の代わりってことか…………というかまだこのエルフの名前知らなかったな。
エルフは自身に胸元に手を当て自分の名前を告げる。
「私はセシリア。セシリア・ミサナ・フォレスタ。フォレスタの森のエルフです」
初めて聞いた彼女の名前。
まだ信用はされていないけど名前を教えてくれるということは欠片ぐらいは信じてくれていると思ってもいいよな?
「ああ、改めてよろしく」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品