転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第十八話 秘剣

「………………………………うぅ、私は、確か……………」
気を失っていたのか、私は目を開けながらどうして意識を失っていたのかを思い出す。
「そうだ! トムは!?」
私は確かまだ生きていた灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの尾を受けて吹き飛ばされた。咄嗟に剣を盾にしたから即死は免れたけどトムは…………………ッ!
心配になって私は当たりを見渡したその時、見てしまった。
「グァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
咆哮を上げる灼熱竜ヴォルケーノドラゴンを剣一本で相手にしているトムの姿を。
「うそ…………………」
私はその光景を見てそれが現実だと受け入れられなかった。
トムの魔法適性は召喚魔法。でももうリリスさんを召喚しているから実質トムは魔法が使えない。それでも巧みな魔力制御と魔力放出でその差を埋めている。
だけど今のトムにはその魔力すら残っていない筈。魔力制御だってできない筈なのに、それなのにどうして灼熱竜ヴォルケーノドラゴンと互角、いえ、それ以上に戦えているのか私には理解することもできなかった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
炎の息吹ブレスを吐く灼熱竜ヴォルケーノドラゴン。トムはその炎を前にしても表情一つ変えることなく剣の剣身を鞘に収めたと思ったら――
「秘剣 炎魔の太刀」
抜剣してその炎を斬り裂いた。
剣一本でドラゴンの炎の息吹ブレスを斬り裂くという現象に私は夢でも見ているのかと自分の正気を疑った。
だけど灼熱竜ヴォルケーノドラゴンは炎の息吹ブレスが効かないとわかれば突貫する。トムを食い殺そうとその大顎を開けて襲ってくるもトムはまるで流れる水のような流麗な動きで躱すと同時にドラゴンの背に跨り、その翼を斬り落とした。
地響きと共に落ちる灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの両翼。
自分の翼を斬り落とされた灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの隻眼は怒りよりも警戒が見える。
恐らくだけど、灼熱竜ヴォルケーノドラゴンは認めたんだと思う。
たった一人の人間であるトムを自分の命を脅かす敵として。
「………………………………」
そんな灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの前にトムはただ無表情で剣を構えるだけだった。その瞳からは感情なんて感じられない。一言で表すなら無そのもの。
「いったい、貴方の身に何が起きたの……………………?」
私の言葉を他所に灼熱竜ヴォルケーノドラゴンとトムはぶつかり合う。
たった一人、たった一つの剣でドラゴンと戦うその姿はまるで御伽噺に出てくる悪しきドラゴンを退治する英雄のようだった。
英雄…………………? そういえば彼のスキルは確か『剣心一体』。かつて剣神と呼ばれた世界最強の剣士が持っていたレアスキル。
持っているだけで一流の剣術が使えるとされる剣の最上位スキル。
「そういえば………………」
聞いたことがある。スキルの中には特殊な能力を持ったスキルが存在するということを。
もしかしたらトムが持っているそのスキルがそうなのかもしれない。いいえ、きっとそう。
それがここにきて覚醒したとでも言うの……………………?
何がどうなっているのか私にはわからない。ただ今の私にはそこに入れるだけの力はない。
見ることしかできない。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
炎の息吹ブレスを辺り一帯に放つ灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの炎を斬り裂きながら全身するトムは溶岩を足場にして跳躍してドラゴンの顔と同じ高さまで跳んだ。
そして―――
「秘剣 竜斬りの太刀」
放たれたその一閃が灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの首を切断した。
地面に落ちる首に倒れる胴体。そして地面に着地して剣を鞘に収める彼は倒れた。
「トム…………………ッ!」
私は痛む身体を無理に動かしながら彼の傍に到着して抱き起すも生きていることに安堵する。
「よかった………………」
ほっと息を吐く私。すると遠くの方からリリスさんやお兄様の声が聞こえてくる。
私達は灼熱竜ヴォルケーノドラゴンと遭遇しても誰一人欠けることなく地上に帰還することができた。





「全身が痛い…………………」
気が付けば俺は見慣れた天井の下で目を覚ましたと同時に俺には拷問が待っていた。
全身筋肉痛という拷問が………………。
「ご主人様、あ~ん」
「あ~ん」
だけど怪我の功名と言えばいいのか、リリスという美女に手厚く看病されるのも悪くはない。
「まったく、暢気なものね………………」
呆れるジャンヌも身体の所々を怪我をしている為に包帯をしている。それでも俺ほどではないらしい。
「三日も目を覚まさなかったんだから心配したじゃない」
ジャンヌの言う通り、俺はあのドラゴンの息吹ブレスを目前にしてから先の記憶がない。ジャンヌが言うには俺が灼熱竜ヴォルケーノドラゴンを倒したようだけどまったく覚えがない。
だけどその後、ダンジョンから脱出してから治療を受けて俺は丸三日も目を覚まさなかったらしい。
「心配かけて悪い………………」
「べ、別に心配なんてしていないわよ」
そっぽを向くジャンヌ。ふ、相変わらずのツンデレめ。
「ジャンヌ様。ご主人様の傍から片時も離れようともしなかったのですよ?」
「ほう…………」
リリスが耳打ちでそう教えてくれる。
やれやれ、俺もついにリア充か…………。長いようで短い非リア生活だったけどそれももう終わり。俺は前世では叶えられなかった彼女が遂に。
「よしジャンヌ。結婚いたたたたたたたたた! ストップ! ヘルプ! せめて最後まで言わせてくれ!!」
「うっさい! あまり騒ぐのなら気絶させるわよ!?」
「理不尽!」
筋肉痛の身体をぐりぐりされて更には剣を持って脅してくるこのツンデレ様をデレさせる日はまだまだ先になりそうだ。
「あ~それにしてもせっかく苦労して倒したのに持って帰れなかったな………………」
ドラゴンの素材を剥ぎ取る余裕も猶予もなくダンジョンから脱出したようなので剣を打つ材料は手に入らず仕舞い。偶然通りかかった冒険者か探索者が今頃鱗も牙も剥ぎ取って金に換えているに違いない。
そのことに悔やむ俺にリリスが。
「それでしたらご安心してください。私はしっかりとお持ち帰りしました」
「「え?」」
俺とジャンヌは口を揃えて呆気を取るとリリスが何もないところからあのドラゴンの首を出した。
おおっ、間違いなくあのドラゴンだ。
「そういえばまだお教えしておりませんでしたね。私の魔法適性は空間。あらゆる空間を操ることができる魔法です。ご主人様の召喚魔法と同じ稀な魔法の一つです。ですので灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの死体は全て私の魔法で別空間に収納しております」
なるほど。つまりいつも見るあのは早着替えもその魔法の力によるものだったか……………。
「流石は俺のリリス。出来る女は違うな」
「恐縮です」
「………………………………」
「あぐっ! おい、ジャンヌ。なんで無言で横腹に肘打ちする………………?」
「別に」
「あらあら」
「………………………?」
ま、まぁ理由はわからないが怒っているジャンヌは置いておいてドラゴンの素材が手に入った。
早速新しい剣を打ってみる。
………………筋肉痛が治ったら。

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