転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第十六話 灼熱竜

極寒エリアで楽園を堪能した俺は気力Maxまで回復して極寒エリアの寒さを気合と根性で乗り切り、第四階層である灼熱エリアにやってきた。
「熱い………………………」
その場にいるだけ汗がやばいほど出てくる。
というよりもこの灼熱エリアは見渡す限りのマグマや溶岩だらけ。おまけに人が通れる道にはマグマが間欠泉のように噴き上がっている。
マグマに落ちても即死の上に下手に動きを止めたら足元から噴き上がるマグマの餌食になりかねない。
ああ、モン○ンにあるあのドリンクが欲しい………………。
「この階層は危険度が高い。五階層に急ぐぞ」
全員にそう指示を投げるあのクール先輩も流石に汗が酷いが、水も滴るいい男ならぬ汗も滴るいい男になっている。
イケメンはどうなってもイケメンか………………ケッ、顔にマグマがかかってブサ面になりやがれ! イケメン死すべし慈悲はない!
「はぁ、熱いね………………………」
「ああ………………」
テイクもこの階層の熱さに参っているようだけどまだ涼しい顔をしている。
自信なさげの性格に見えるけどこいつも結構強かだよな。
それよりもこの暑さで平然と進んでいるジャンヌとリリスが羨ましい…………………。
ジャンヌは火に対する耐性があるからきっと熱にも耐性があるのだろう。リリスは種族が違うから問題はない。
「と」
俺は咄嗟に足を止めると眼前にマグマが噴き上がってきた。神様から貰ったスキルのおかげで勘がよくなったというべきかともかく事前に回避することができた。
危ねぇ…………………。
そんな危険エリアを進みながら俺は遠くの方にいるモンスター、マグマリザードを見る。遠くにいるからまだこちらの存在に気付いていないのか悠々とマグマの中を泳いでいる。
このエリアにいるモンスターだけどこの階層にはもっと恐ろしいモンスターが存在している。
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンが現れなければいいが………………」
先輩が周囲を警戒しながらそう呟く。
これまでの階層とは違ってこの階層にはドラゴンがいる。それでもこの階層の奥の奥を縄張りとしている為に滅多に現れることはない。一応カイドラ先生の話ではこの時期はドラゴンは冬眠しているかのように長い眠りについている。姿を現すことはまずない。
だけどやはりドラゴンは最強の存在なのだろう。
万が一に遭遇しそうになれば荷物を全て捨てて逃げることに専念する。事前に先輩がそう警告を促すほどだ。それに灼熱竜ヴォルケーノドラゴンは炎を吐き、火に対する高い耐性を持っている為にまず炎は効かないのは当然として。この階層の熱で水や氷の魔法の効果を激減させてしまう。
更には全身に覆われた鱗は硬くて剣が通りにくい上に空も飛び、高い生命力も持っている。
今の俺達が遭遇してしまったらまず間違いなく死ぬ。
流石はドラゴン。自然界最強で弱肉強食の王者だ。
その圧倒的存在に呆れながら足を進ませる俺達なのだが、俺は妙な感覚に襲われる。
まるで今すぐここから逃げろ、と本能がそう警戒しているかのように。
「………………………………先輩。引き返し―――」
俺は自分の勘に従って来た道を引き返す提案を先輩にしようとしたその瞬間――
「グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
鼓膜を破壊するかのような咆哮が俺達を襲った。
「これは………………ッ!?」
リリスが上空を見て心底驚く。俺達もリリスに続いて上空を見ると目を見開いた。
灼熱竜ヴォルケーノドラゴン………………………」
顔を青ざめながらジャンヌはそうぼやいた。
赤黒い鱗に覆われ、その巨大な翼を羽ばたかせながら鋭い牙と鋭利な鉤爪を覗かせながら地に降りてくる。その絶対的なまでの強者の眼は俺達を見据えて灼熱竜ヴォルケーノドラゴンは再び高らかな咆哮を上げる。
「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
その咆哮は地を響もし、生物にある死の恐怖を呼び起こす。
全身が石になったかのように動かない。恐怖で身体を支配された俺達にドラゴンは大きく息を吸って炎の息吹ブレスを放った。
死――――――
蘇る記憶。これまで歩んできた半生が一瞬で頭の中を過る。
走馬灯と気付いたその時には既に炎がもう回避できないぐらいまで近くまで迫ってきた。
聖焔の煌火セイクリッド・ティリア!!」
だが、俺の横から現れた聖なる炎がドラゴンの炎を相殺した。
「しっかりしなさい!!」
パン! と乾いた音が響く。
ジャンヌが必死の表情で俺の頬を叩いた。
「私があのドラゴンを引きつける! その間に皆を連れて逃げて!」
「ジャ、ジャンヌ………………………」
「あのドラゴンと戦えるのは私だけ! だから早く!!」
―――スキル『不屈』。
ジャンヌが持つそのスキルはあらゆるものにも屈しない。だからこそドラゴンの恐怖に耐えることが出来たのだろうが。
「ば、馬鹿か!? お前一人を置いて行けるか!? 相手はドラゴンなんだぞ!?」
ジャンヌのおかげで正気に戻れた。
「ドラゴンがお前の炎を見て警戒している! 今のなら全員で―――」
「無理よ」
逃げるぞ、と言う前にジャンヌがドラゴンを、正確にはドラゴンの足に突き刺さっている剣を指す。
「あの剣は………………………」
見覚えがある剣。あの剣は確か俺に決闘を申し込んできたナビルって先輩の魔法剣。
まさか…………ドラゴンが俺達の前に現れたのは………………。
「きっと貴方が倒した先輩が眠っていたあのドラゴンを起こしたのね。どうしてそんなことをしたのかはわからないけど、あのドラゴンの怒りが伝わってくるわ………。逃げてもきっとしぶとく追いかけてくるに違いないわね」
「なら尚更だ! お前を一人で置いていくわけには―――」
「私は騎士よ」
「!」
「まだ学生の身ではあるけど、心は立派な騎士のつもり。だから皆が逃げる時間を稼がないといけない。大丈夫、私には貴方が打ってくれた心強い剣があるし、皆が逃げたら私もすぐに逃げるわ」
「…………………だけど」
「ジャンヌの言う通りだ」
どうにかジャンヌを説得しようとする俺の肩を先輩が掴んだ。
「今の私達ではあのドラゴンを倒すことは出来ない。ジャンヌが時間を稼いでくれる間にこのエリアから脱出する」
冷静で正しい物言いだ。だが、俺は先輩の胸ぐらを掴んだ。
「妹を見捨てるのかよ!? お前、それでも兄貴か!?」
ブチ切れたその怒りを俺は先輩にぶつけた。だが、先輩の瞳からは怒りと憎悪に満ちていることに気づいた。
「私とて好き好んでこんなことを口にはしない。恨むなら恨め。妹に犠牲を強いる無力な私を………………………」
先輩は手から血が出るほど強く握りしめていた。
「ご主人様」
俺の手を取って宥めるように告げるリリスに俺は先輩の胸ぐらから手を離した。
「すまない………」
謝罪を口にして背を向ける先輩はまだ放心しているテイクを抱えて三階層に戻る道を走り出す。
「ご主人様。私達も」
「………………………………」
俺はリリスに手を引かれながら先輩を追う。
「ジャンヌ。絶対に追いついて来いよ……………」
「ええ」
俺はそれだけを告げて先輩の後を追いかける。
背後から聞こえてくるドラゴンの叫びと地響きを聞きながら駆け出す俺は自分の無力さと後悔に苛まれながら三階層を目指す。
………………………本当にこれでいいのか?
ジャンヌを一人残して逃げるなんて……………だけど、今の俺じゃ傍にいてもジャンヌの足を引っ張るだけだ。魔法で攻撃も援護もできない。いくら強力な剣のスキルを持っていてもドラゴンの前では掠り傷程度が精一杯。
そんな俺がいてもいったい何ができる?
俺に、もっと力があれば………………………。
「!?」
「ご主人様………………………?」
「………………………………ぅ」
「はい?」
「………………………違う。そうじゃないだろうが! あいつだって、ジャンヌだって同じじゃねえか!?」
力があれば倒せれるじゃない。そんなの言い訳だ。
ジャンヌだってドラゴンを倒せれる力だって持っていない。特別に強いわけでもなんでもない。
恐怖で震える手を必死に誤魔化す一人の女なんだ! 
それを力があれば助けられるなんて男として情けないってもんじゃない! ただの屑だ!
「ご主人様!?」
リリスの手を振り払って俺はジャンヌの元に向かって走る。
「待ってろ! ジャンヌ!」

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