転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第十二話 スキル名

カン、カンと金属音が響く。
聖シュバリエ学院の生徒となって俺はこの学院にある工房で剣を打っていた。
運がいいことにこの学院は授業は行うも参加は自由。それもどの授業も好きなように参加しても休んでもいい。ただし、定期的に行われるテストに結果を出さなければ退学という生徒の自主性を重んじた学舎だった。
更にここは順位があってその順位が良ければ優遇措置が施されて実力のない者には何もしない実力主義を信条にしている。
環境は与えてやる。後はお前次第。そう言われているのと同じだが俺としてはありがたかった。
俺は朝からずっと鍛冶について勉強もできるし今のように鉄と向かい合って槌を振って剣を打つことができるのだから。
赤くなっている剣を水に浸して少ししてから水から剣を取り出すと自分で一通り確信して鍛冶を担当としている先生に見てもらう。
「先生、どうですか?」
「ふむ」
髭を撫でながら打ったばかりの剣を見るドワーフでありこの学院の鍛冶を担当している教師、カイドラ先生に剣を見てもらいおかしな点があるか確認してもらう。
「………………一流とは呼べんが店に売ってもいい剣じゃ。お主、本当に素人なのか? この剣を見る限りそうとは思えんぞ?」
「素人、の筈なんですけどね…………」
訝しむように言ってくる先生に俺は若干言葉を曇らせながらそう答える。
これまで数本しか剣は打っていないし、素人の筈なんだけど……………でも品物にしてもいい剣が打てるってことはやっぱり俺の知らないもう一つのスキルなのだろうか?
俺には神様から貰った剣のスキルの他にもう一つのスキルがある。それが何かまだ確認していなかったけど素人の俺にそこまでの剣が打てるってことはスキルの影響しか考えられない。
「まぁ、深くは詮索はせんわ。儂もただの名ばかりの仕事で何もせんよりもお主のようなもの好きに付き合っていた方がマシじゃわい」
「あはは………………………」
そりゃそうだよな。騎士の学校で剣の鍛錬よりも鍛冶を集中的に習うもの好きって俺ぐらいなものだな。
「じゃがそうじゃな。お主も普通の剣を打つよりも魔法剣に挑戦してみるか? お主の実力ならあそこでも十分通じるじゃろう」
「あそことは?」
興味深い話に俺は先生の話に耳を傾けていた。



一日の授業が終えて俺は寮…………というよりも豪華なホテルと呼んだ方が正しい部屋に戻る。
順位が27位となって優遇措置が働き、俺はこの部屋を使えるようになった。
トイレ浴室完備。キングサイズのベッドにリビング。更にはベランダからはこの都市を一望できる。まさに金持ちが住むに相応しいホテルだ。俺、金持ちじゃないけど………………。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ああ、ただいま」
俺が帰るとリリスが出迎えてくれる。
優遇措置でこの学院の部外者でも俺の関係者であれば入れることができる。だから俺はリリスをこの学院に入れさせて一緒にこの部屋で住むようになった。
勿論俺がこの順位を維持しているまでだが、もう一人この部屋の住人がいる。
「あ、お帰りなさい。先にシャワーを借りたわよ」
「ただいま。ジャンヌ」
まだ濡れている髪をタイルで拭きながらラフな格好で出てくるジャンヌ。普段は抑制されているその豊満な胸部がジャンヌが動く度に揺れている。
E…………いや、Fか…………?
「………………なんか視線がいやらしいのだけど?」
「いやらしいのはジャンヌのその身体だ。ありがとうございます」
「私、そろそろ本気で貴方を斬ってもいいと思うの」
迫力に満ちた笑みを俺に向けてくる為に俺は視線を逸らして口笛を吹いて誤魔化す。
「お二方。それぐらいで紅茶を淹れましたので飲みませんか?」
リリスナイスタイミング!
「そうね。頂くわ」
「俺も」
ジャンヌの気が逸れて俺達はリビングで紅茶を嗜みながらほっと一息入れる。
俺、紅茶よりコーヒーが好きなんだけどリリスが淹れてくれた紅茶を飲んでから逆になったね。
「リリスが淹れてくれた紅茶は相変わらず美味いな」
「恐縮です」
微笑みを崩さずにリリスも自身が淹れた紅茶を飲む。
「………………私だって紅茶ぐらい美味しく淹れられるわよ」
「ん? 何か言ったか? ジャンヌ」
「別に」
そっぽを向くジャンヌに俺は首を傾げる。
セクハラしたことにまだ怒ってんのか? 後で土下座でもしたほうがいいだろうか?
ジャンヌに許しを得る為にどう謝ろうと考えているとリリスがジャンヌに言う。
「私で良ければ紅茶の美味しい淹れ方をお教えしますよ? 淑女としての嗜みですからジャンヌ様も覚えておいて損はないかと」
「………………………………そうね。私だって女を捨てたわけじゃないし、淑女として、そう淑女として知っておかないとね。お願いするわ」
「ええ、お任せください」
なんか女同士の結束が見えた気がしたが、まぁいい……………。
「なぁリリス。以前にスキルを見る魔法道具があっただろう?」
「はい。スキル・スコープがどうかなさいましたか?」
「あれで俺のスキルを見て教えてくれないか? これまで色々と忙しくて聞きそびれていたから」
「かしこまりました」
リリスはスキル・スコープを取り出して俺のスキルを見てもらうと目を見開いて驚いていた。
「……………………ご主人様のスキルはやはり二つですね。そのうちの一つはがレアスキルとされているスキル『剣心一体』です」
「嘘ッ!?」
そのスキル名にジャンヌは思わず立ち上がるほどに驚いていた。
え? そんなに凄いスキルなの?
そのスキルの凄さがわからない俺にリリスが教えてくれた。
「ご主人様。このスキルは剣の最上位スキルです。かつて剣神と呼ばれた世界最強の剣士が持っていたスキルでもあります」
そんなに凄いスキルなのかよ…………。いや、確かに剣のスキルをくれって言ったのは俺だけどまさかそんな凄いスキルをくれるとは思わなかった。
だけどこれでようやく俺の強さがよくわかった。全部このスキルのおかげだな。
「本来スキルとは神が下界に住む者達に与える祝福のようなもの。ご主人様は剣の神に愛されているのでしょう」
じゃ、この神様は剣の神様だったのか? そんな感じには見えなかったけど…………。
「そしてもう一つ。こちらは私もよくはわかりませんが『精魂鍛錬ソウル・ジィスト』というスキル名があります」
「『精魂鍛錬ソウル・ジィスト』?」
なんだそりゃ………………? これは別に神様から貰った覚えがないぞ?
三人共難しい顔で首を傾げているとリリスが『推測ですが………………』と話を続ける。
「恐らくこのスキルはご主人様の想いを剣に込めることができるスキルではないかと?」
「どういうことなの?」
「ご主人様はこれまで碌に剣を打ってないと仰っておりました。ですが、ジャンヌ様の剣は誰がどう見ても素人が打ったとは思えない業物です。いえ、それ以上のものでしょう。ご主人様、ジャンヌ様の剣を打っている際に何を思われましたか?」
「え………? えっと確かジャンヌを勝たせてやりたいってとにかく必死で槌を振るって気が付いたら剣ができてたな…………」
「ではそれからジャンヌ様の剣と同等かそれ以上の剣は打てましたか?」
「いや、今日打ったのだって品物になる程度って言われたし」
「このスキルは剣を打つ際にご主人様が何を想って剣を打つのか。その想いが強ければその剣も強くなり、弱ければ弱い剣となる。これはきっとそういうスキルではないかと」
えっとつまり…………………。
「つまり俺の想いが剣を打つ際にその剣の力になっていくってことか?」
「あくまで私の推測が正しければですが」
なるほどな、それならどうして素人の俺があそこまで強い剣が打てるわけだ。てっきり神様から貰ったあのアイテムのおかげとばかり………………。
だけどはっきりした。俺が打つ剣は俺の想いに比例して強くも弱くもなる。
想いを剣に込める。そしてその剣が力へと変わる。
それならもしかして属性の剣も俺の想いで打てるかもれないな。今度試してみるか。
俺は自分のスキルの正体を理解して二人にあることについて話をする。
「実は二人に折り入って頼みたいことがあるんだ」
「なによ急に畏まっって………………………」
「何でございましょう?」
二人の視線を浴びながら俺は二人に言う。
「明日、俺と一緒にダンジョンに潜ってくれ」

「転生鍛冶師は剣を打つ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く