転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第十一話 入学

俺とジャンヌは無事に聖シュバリエ学院の試験に合格してこの学院の生徒となった。
学院長の長ったらしい話を聞き流しながら俺とジャンヌは教室に向かって廊下を歩いているのだが、異様に目立っているのがよくわかる。さっきからこっちを見る生徒達が多い。
「なぁ、俺達目立ってないか?」
「そうね」
ジャンヌも少しうんざりとしている。
まぁ俺も似たようなものだ。流石にこうも好奇な眼差しを向けられたら嫌になる。
気を紛らわせる為に俺は教師から貰った学生証を取り出すが、少し気になるところがある。
「ジャンヌ。この443番って数字って何か意味があるのか?」
俺がそう尋ねるとジャンヌは呆れたように息を吐いた。
「学院長がさっき説明していたでしょうが……………聞いていなかったの?」
「全部聞き流した」
正直に答えるとジャンヌは深い溜息を吐いて説明してくれた。
「この学生証は私達の身分を証明するものでもあり、この学院の生徒である証明でもあるの。それとは別にこの学生証に記されている数字は学院内での個人の強さを示し、数字の数が少ない程強いという証でもあるわね」
「なるほど。俺達は新入生だから順位は低いと」
「そうなるわね」
ジャンヌはそう説明して自分の学生証を俺に見せる。順位は442番だった。
べ、別に悔しくなんかない………………。
「そう、しかし君達は試験で二桁、それも前半に位置する先輩達に勝利した」
突然聞こえた声に後ろに振り返るとそこには俺達と同じ制服を着た男子生徒が立っていた。
「27位〈貴炎〉のナビル・リスト・ノーブル。その相手に一瞬で勝敗を決めた新入生ホウキ・トムに21位〈氷魔〉クリュス・ラス・フィルストに勝利したジャンヌ・ラス・フィルスト。君達二人の話題でどこも賑わっているよ」
それが原因か………………。
俺はともかくジャンヌは目立っていたもんな。
てか、俺の対戦相手ってそんな実力者だったのか? 如何にもやられキャラって感じしかしなかったが………………………。
「申し遅れた。僕はテイク。君達のクラスメイトだよ。仲良くしてくれると嬉しいかな」
「ああ、俺は十夢。こっちこそ仲良くしてくれ」
「私はジャンヌよ。よろしくね」
俺はクラスメイトであるテイクと友好を結ぼうと握手する。
「ここにいたか!! ホウキ・トム!」
その前に俺を呼ぶ声が聞こえた。
「よくも僕に恥をかかせてくれたな! たまたま偶然、僕に勝ったからって調子になるなよ!?」
今にも頭が沸騰しそうなほど怒りで心頭している男性。
「あ~え~と」
「さっき話したナビル・リスト・ノーブル先輩だよ」
「あっ」
完全に思い出した。三次試験で俺の相手をした先輩だった。炎の魔法剣しか覚えてなかったわ。
「あ~~なんか用っすか?」
「僕と決闘しろ! たかが平民如きに僕が負けるわけがないんだ!!」
いや負けてんじゃん。
心の中でツッコミを入れる。しかし、決闘とは穏やかではないな…………というか面倒だな。
わざわざ受けるメリットなんてないし、それよりも俺はさっさと学院にある鍛冶場に行ってみたいんだよ。
どう流そうかと考えているとテイクが耳打ちしてくる。
(学院はその順位に応じた待遇措置があるんだ。もし先輩に勝てたらそれ相応の待遇があるはずだよ)
(マジか……………)
この学院にはそんな制度があるのかよ。実力主義ってやつか? 
それなら俺がここで先輩の決闘を受けて勝てば入学早々いい思いができるという訳だな。
思いついた新しい技も試してみたいし、よし。
「その決闘受けて立つ!」
俺は先輩の決闘を受けて早速試験で使われた競技場へと向かうと予め先輩が読んでおいたのか観客席は既に満席。試験の時以上の人に見られながら決闘をすることになった。
「以前のように行くと思うなよ」
既に抜剣して剣から炎を噴出させている先輩は前の時と違って油断の欠片もなかった。
そんなに負けるのが嫌なら油断なんかするなよ、と言いたいが言わないが華だろう。
「ではこれより決闘を行う。双方構え」
そして決闘の審判役がどうしてあんたなんだ? ジャンヌの兄貴よ……………。
なにか? 実は妹大好きってか? 審判役を引き受けたのもジャンヌの様子を見る為か?
というよりも結構酷い火傷をしていたはずなのにもう治したのか。
色々と思いながら刀を構える。
「始め!」
ジャンヌ兄の開始の合図と共に先輩は動いた。先手必勝の一撃。それから流れるような連撃を繰り出す。
「ハァ!」
「と」
フェイントをかけての一閃を紙一重で躱す。しかし、それを読んでいたかのように死角から剣が襲いかかってくる。俺はそれを刀で受け止める。
なんだよ、やればできるじゃん。どうしてそれを試験の時に発揮しなかったんだろう?
鍔迫り合いながら先輩の評価を改めつつ炎の魔法剣を見る。
確かに至近距離で炎があると熱いが鍛冶場ですっかり熱には慣れてしまったし、別段殺傷能力が高まったわけでもない。
「どうした!? 手も足も出ないか!?」
自分が押していると思っているのか見下すような嘲笑を見せる先輩に俺は笑みで返す。
「では今度は俺の番です」
魔力操作で刀に魔力を纏わせて弾く。そして指先から魔力の糸を放出させて先輩を捕捉する。
「な、なんだこれは!?」
「魔力操作と魔力放出の応用版です。魔力糸とでも名付けますかね」
指先から糸のように細く魔力を放出させてそれを魔力操作でコントロールすることで魔力でできた糸が完成する。
これもアニメや漫画で見た知識だけど上手くいくもんだな。
「くっ、この!」
糸から抜け出そうとする先輩に俺は笑みを見せる。
この(自称)糸使いの本領を見せて進ぜよう。
まずはキリキリと締め付ける。苦痛に表情を歪ませる先輩は俺に向かって叫ぶ。
「ひ、卑怯だぞ! それでも騎士の端くれか!? 正々堂々と剣で戦え!」
いや、そんなこと言われましても…………………俺、鍛冶師を目指してますし、騎士なんてこれっぽちも目指してないんだがな……………。
それに正々堂々って戦いに剣だけでしか戦ってはダメなんてこともないだろうに何を言ってんだ?
俺は使える手段は全部使うぞ?
まぁいいや。拘束した以上はこれ以上先輩に何かができるとは思えないが、逆恨みしてきそうで怖いし、見せしめになってもらうか。
「先輩。こんな時になんですけど俺って実はサドなんです」
「はぁ?」
突然の自白に呆気を取られる先輩に俺は言葉を続ける。
「泣き叫ぶ顔が、苦痛に歪む顔が見るのが割と好きでしてね。特に自分が強いと勘違いして調子に乗っている勘違い野郎のプライドを粉々にするのが結構好きでしてね。その時の顔を思い出すだけでゾクゾクするんです………………………」
おやおや、何を顔を青くしていらっしゃるのですか? 先輩。別に先輩をどうこうするとは言っていませんよ? 今はまだ、ですけど。
「わかりません? 自分よりも強い奴なんていないと思い込んでいる自信満々のその顔が絶望に染まるその一瞬が堪らなく気持ちがいいんですよ?」
ククク、と笑う。
「どんな気持ちになるのでしょうかね? 是非とも感想が知りたいので協力しては頂けませんか?」
「ぐぅ、ぅぅ…………」
締め上げて苦痛に歪む先輩の表情に俺は笑みを溢しながら近づく。
「さぁ先輩。貴方はどんな声で鳴き叫んでくれますか?」
それから数分後に審判役であるジャンヌの兄貴が割って入って決闘は俺の勝利で決着はついた。
そしてその日を境に俺には二つ名がついた。〈悪魔騎士デビルナイト〉と。
騎士とは思えない悪のような非道な行いを繊細な魔力操作と魔力放出を使ってするその姿からその二つ名が付けられた。そして、先輩に勝ったことで順位は一気に27位まで昇り上がった。
それとは別の日に二年の先輩がジャンヌに決闘を申し込み、ジャンヌはそれを了承。互いに騎士として一歩も引かず戦い続けて最後はジャンヌが勝利した。
その騎士に相応しいその姿にジャンヌには〈聖導騎士ホーリーナイト〉という二つ名が与えられた。順位は俺より少し下の29位。
なかなか刺激的な学院生活が送れそうだけど俺はそんなことよりも鍛冶場へ行く。

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