転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第八話 試験

聖シュバリエ学院。そこの生徒になる為に試験を受けに来た俺達はその学院に足を踏み入れた。
「でけぇ……………」
聖シュバリエ学院を見て最初の感想がこれだ。もはや学校というよりも王様が住む城のようだ。
「何しているの? 入るわよ」
「おう」
ジャンヌに呼ばれて試験の試験官と思われる教師に試験を受けることを伝えると名前を書いて受験票を貰った。
「では始まるまではあちらでお待ちください」
指示に従ってそこに行くとそこには俺達と同じようにこの試験を受けに来た受験者が大勢いる。
品性が好さそうな人から如何にも荒くれ者のような人まで数多くの人がこの学院の生徒になろうと特別枠を狙ってこの試験を受けに来たのだろう。
「ん?」
「どうしたの?」
「あそこにいるのお前の兄貴じゃないか?」
「え?」
学院の内部からこちらを見下ろす形で見ているのはジャンヌの兄。しかし、すぐさまどこかに消えて行った。何がしたかったんだ? ジャンヌが試験に受けに来たことでも確認に来たのか?
どちらにしろ俺もジャンヌもここ数日しっかりと鍛えた。
誰にも負ける気がしねえ……………。
そう意気込むと遂に試験が始まり、俺達は一つの部屋に集められて受験票に記された席に座る。
「ではこれより筆記試験を始める。制限時間はこの砂時計が落ちるまでだ。では始め!」
前に巨大な砂時計を反転させて筆記試験が行われた。
皆、この日の為に勉強してきたのかガリガリと羽ペンを動かしているなかで俺は少しも動かせれない。何故なら俺はこの世界に関する知識がほぼない。
歴史問題でも出されたら即アウトの状態だ。正直筆記はお手上げといってもいい。
だが、俺には心強い味方がいる。
(ご主人様。ここの問題の答えは)
魔法道具で姿を消して耳打ちで問題の答えを教えてくれるリリス。流石は魔王の娘だけあってその知識量は膨大。みるみると答えを埋めていける。
カンニング? イカサマ? 何を馬鹿なことを……………召喚魔から答えを教えて貰ってはいけないなんてルールはない。つまり合法なのだよ。文句があるのなら次からはそういうルールを付け加えておくのだな! ハッハハハハハハ―――――――ッ!
思わず高笑いしそうな気持ちを抑えて俺は問題を全て埋めた。そしてジャンヌも元々の教養がよかった甲斐もあって全問埋めれたようだ。



「二次試験はモンスターの討伐だ! 証拠品としてそのモンスターの一部を剥ぎ取ってくること! 期限は二日とする!」
第二試験はモンスターの討伐。くじ引きから引いたモンスターを倒してその素材をこの場所まで持って帰ること。
「えーと、俺はオーク五体とハウンドウルフ六体。ジャンヌは?」
「…………………コボルトが六体とトレントが七体」
それなら今の俺達の実力だと特に問題はない。問題は二日で遭遇できるかだ。
最悪は二日間遭遇出来ずに不合格になる。
「まずは貴方の方から終わらせましょう。オークやハウンドウルフならすぐに見つけられるわ」
「了解。というかリリス。索敵の魔法道具とかないの?」
「ありますよ?」
あるのか……………もはや何でもありだな。
「よしじゃまずはオークとハウンドウルフ。次にコボルトとトレント。時間がなかったらリリスの索敵の魔法道具に頼るってことで」
「ええそうしましょう」
「じゃまずは腹ごしらえだ。飯にしようぜ」
筆記試験が終えて次の試験を始める前に腹ごしらえを済ませる為に飯屋に入って飯にする。
「ご主人様。あ~ん」
「うむ」
と、リリスが俺の料理を一口サイズに切って食べさせてくれるのでそれに甘えて口を開けようとするがジャンヌに先に食べられた。
「んぐんぐ、ゴクン…………人前でなにしてるのよ!?」
「メイドとしてご主人様に食事を食べさせてあげようかと思いまして」
「子供じゃないのだから一人で食べさせなさい!」
テーブルを叩いて大声を張り上げるジャンヌにリリスは何かに気付いたかのように優しい眼差しで自分の料理を少し切ってフォークで刺すとそれをジャンヌに向ける。
「ジャンヌ様、あ~ん」
「なんでそうなるのよ!?」
「して欲しかったのですよね? いいんですよ? 遠慮なさらなくても」
「なんだそうだったのか? ジャンヌもまだまだ甘えたい年頃だったんだな。ほれ、俺も。あ~ん」
「だから違うわよ!!」
俺とリリスは互いの料理をジャンヌに食べさせようとするけどジャンヌは頑なに食べようとはしなかった。
まぁ、人目を気にしろって言いたいのだろうけど完全に注目されているのは俺達よりジャンヌの方だけどな。声が大きいから。
流石にこれ以上は可哀想だし、ジャンヌ弄りはこのぐらいにしておこう。
「話は変わるけどジャンヌ。剣はそろそろ変えた方がいいんじゃないか?」
ジャンヌの腰にある剣。いい剣なのはわかるけどかなり年季が入った代物だ。だけどジャンヌはその剣を変えようとはせずとても大事に扱っている。
俺も自分の武器と一緒に工房で研いだりしているけど、流石にそろそろ限界じゃないかと思う。
「モンスターを倒す前に今ある金で新しい剣を買った方が良いと思うぞ? 足りない分は俺も出すし、予備もあった方が良いだろう?」
そう言ってみるもジャンヌは首を横に振った。
「私はこの剣で試験に合格したいの。この剣は騎士であった御爺様から貰った剣。だから私はこの剣と共に合格を手に入れたいの」
「そっか………………………」
思い入れがあるんだな。まぁ、ジャンヌが危なかったら俺やリリスがサポートすればいいだけの話か。二人一緒に合格して学院に通いたいし。
「よしそれじゃ行くとしますか」
「ええ」
「はい」
そうして俺達は二次試験のモンスター討伐を行う為に都市の外にある森へと足を踏み入れると――
「おっ、早速オーク発見」
前方にオークを確認すると俺はリリスから教わった魔力操作で足に魔力を纏わせて脚力を上げ、爆発的な速度でオークに接近。それと同時にオークの首を刎ね飛ばす。
「まずは一体」
リリスの指導がよかったおかげもあってここ数日で魔力操作のイメージもつかめてきた。これぐらいならまだなんとかいけるな。
しかし、流石は魔力。万能というかなんというか色々と応用に使えるな。
「「「ブモォォォオオオオオオオオオッッ!!」」」
今倒したオークのお仲間か。今度は三体同時に俺に向かってきた。
…………………少し試してみるか。
俺は刀を後ろに置くように構えて刀に魔力を纏わせる。そこから薙ぎ払うと同時に斬撃を飛ばすイメージを固めて刀を振るう。
そしたら刀から魔力の斬撃が放たれてオークを纏めて両断した。
おお、できた………………。
漫画などでよく出てくる魔力放出。魔力操作があるのならもしかしてと思ったけどできるものだな。
「今のは魔力放出……………いつの間にその技を?」
リリスが驚きながら尋ねてくる。
あ、魔力放出という技そのものは既に存在しているのね。
「魔力放出は全身、武器に魔力を纏う魔力操作とは違って文字通り魔力を体外に放出する技です。ですが、魔力を体外に放出するイメージが掴めにくい為に難しい技なのですが…………流石はご主人様。何時の間にかその技を取得していたとは」
感心しながら説明するリリスに俺は怪訝する。
そんなに難しい技なの? ……………いや、この世界の人達にとってはそうかもしれない。
俺は魔力操作も魔力放出もアニメや漫画で見ているからイメージがしやすかったかもしれない。だけど、この世界にはそれがない。それが俺とこの世界の違いなのだろう。
「………………………………私も負けていられないわ」
リリスの後ろでメラメラと対抗心を燃やすジャンヌ。
流石に試したらできた。とは言えずに俺は二人にこっそり練習していたとだけ伝えておいた。
それから俺達は順調にモンスターを討伐し、証拠品と魔石を集める。
一日目で俺に課せられたモンスターは討伐し、二日目のジャンヌに課せられたモンスターも順調に倒していく。
「トム!」
「了解!」
トレント。木に擬態して人を襲うモンスター。ぱっと見はわからないけどそこはリリスの魔法道具のおかげで簡単に対処できた。いや、マジで魔法道具って凄いな。
「これで全部だったっけ?」
「ええ、後はこれを学院までも持って帰れば二次試験はクリアよ」
無事にモンスターを討伐して俺達が学院に戻るべく森を出る。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」
その時だった。悲鳴が聞こえたのは。
「っ!」
「ジャンヌ!?」
ジャンヌは悲鳴が聞こえた方へ駆け出し、俺も遅れながらもリリスと共に走り出す。
そして同じ受験者と思われる男性がモンスターに襲われていた。
「あれはオーガですね」
そのモンスターを見てリリスがそう口にする。
オーガは鬼のような姿をしたモンスター。怪力と耐久力を誇る為に倒しにくいモンスターってジャンヌから聞いたことがあったな。
オーガは受験者の男性に向けて拳を振り上げて攻撃する。腰を抜かして碌に動けない今の男性がオーガの一撃を受けたら間違いなく死ぬ。
だが、ジャンヌが魔力操作で全身に魔力を覆わせ剣を盾にオーガの一撃を防いだ。
「ぐぅ……………ッ!」
「ジャンヌ! 伏せろ!」
俺は居合い抜きの要領で魔力放出を行い、斬撃を飛ばしてオーガを斬りつける。だが、オーガの身体は俺の予想以上に硬いのか、一撃で仕留めることはできなかった。
もう一度魔力放出を行おうとする前に俺の横を過る影が見えた。
「お任せを」
俺の横を過ぎ去り、レイピアを持ってオーガの脳天を突き刺して一撃で絶命させたリリスは剣身についた血を振るって血を払う。
流石は魔王の娘……………オーガを一撃かよ。
戦慄するも今はそれどころじゃない。俺はジャンヌの元へ駆け寄る。
「ジャンヌ。大丈夫か?」
「………………………………ええ、私は大丈夫よ。だけど」
ジャンヌの視線が下に向けられ俺もつられて視線を下に向けるとそこには剣身が砕けて剣の破片が地面に散らばっている。
さっきのオーガの一撃。魔力操作で防御したから怪我はないようだけどジャンヌが大切にしている剣が砕けた。
元々限界は近づいていた。その上でオーガの一撃を受けたんだ。無理もない。
「………………………………とにかく今は学院に戻ろう。気絶しているこいつも運ばないといけないしな」
「そうね…………」
俺は気絶している受験者の男性を担いで学院に向かって歩き出す。その間、ジャンヌは口を開くことは無かった。
二次試験を突破して残すは最後の三次試験。それは学院の生徒との模擬戦。
試合の内容で合否を決めるらしい。俺は二年生の生徒で一番最初。そしてジャンヌは…………。
「うそ……でしょ………………?」
ジャンヌの試験は一番最後。問題はその相手。ジャンヌの対戦相手はジャンヌの兄貴だった。
まるで定められた運命に従っているかのように最後の難関がジャンヌを待ち構えていた。

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