転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第二話 騎士志望

俺の名前は伯耆十夢。ひょんなことから異世界に転生した武器マニアだ。
現代社会では諦めるしかなかった夢、鍛冶師になる為に神様からその為の願いを叶えて貰って俺は剣と魔法の世界に転生を果たした。
そして、転生してから早くも一時間―――
「モンスターの餌になるか、私に斬られるか。好きな方を選びなさい」
絶体絶命のピンチを迎えています。
剣の腹でボコボコにされて縄で縛られ、剣先を喉元に突き刺して絶対零度の眼差しで向けながら死刑宣告をしてくる美少女に俺は選択を迫られていた。
俺を見下ろす彼女は既に軽装を装備して万全の状態。一瞬でも怪しい動きをすれば俺の首と胴は永遠にさよならになるだろう。
まずい、これは非常にまずい。このままでは転生して早くもデッドエンドを迎えてしまう。
せっかく異世界に転生できたのにこんなところでまだ死にたくない。
「……………裸を見たことには素直に謝る。ごめん。だけど、こんなところで水浴びをしているそちらにも非があるんじゃないか? そんなに見られたくなかったら他に方法もあっただろう?」
「それは…………モンスターの返り血が気持ち悪くて」
「返り血を早く落としたい気持ちはわからなくはないけど、それなら注意を怠ったのはそっちだろう? それなのに裸を見たからと言って殺すのか?」
「う…………」
強気に話す俺に彼女は悩み始める。流石に殺すのはやり過ぎかもしれない自覚もあったのかもしれないが今はこのまま押し続ける。
「俺だってまさか女の人がいるとは思わなかったんだ。ただ少し喉が渇いたから水を飲もうと川に近づいた。事故だから許せ、とは言わないけど俺は見たことに関して謝罪し、そちらの気が済むまでの罰も受けた。これ以上は流石に非道だとは思うが?」
我ながらよく口が回る。
助かりたい一心で必死に命乞いをする人の気持ち、わかったかもしれない。
暫し苦悩する彼女は渋々と剣を下ろして縄を解いてくれた。
「裸を見たのは許さないけど、そうね。流石に殺すのはやり過ぎね。ごめんなさい」
申し訳なさそうに謝ってくる。
「いや、こっちも悪いからお互い様ということで」
どうにか絶体絶命のピンチを回避できて首の皮が一枚繋がった。本当にまた死ぬかと思ったぜ。
まぁ、命は助かったけどその代わりにボコボコにされたけど。
美少女の裸を見た対価とはいえあまりにも不平等だ。
「でも、それなら貴方はどうしてこの森に? もしかして貴方も聖シュバリエ学院の入学試験を受ける為にこの森で特訓をしているの?」
「聖、なに?」
「聖シュバリエ学院。この国一番の騎士学院。知らないの?」
「まったく」
無知な俺に彼女は呆れながら説明してくれた。
聖シュバリエ学院。バシレイア王国の南地方にあるヴァレイと呼ばれる都市。
その都市最大の特徴とされるのが聖シュバリエ学院。騎士育成専門学校。多くの名家、貴族、王族の誰もが高い金を払ってまで入学するほどの名門。
本来なら平民、一般人が入学することもできないその学院が特別枠という平民向けの試験を一週間後に行うらしい。厳しい試験だけど合格できれば学費免除。
そして彼女はその特別枠を狙って現在はその試験に向けて特訓中らしい。
「剣を持ってこんなところにいるからてっきりそうだと思ったのだけど」
「俺は騎士より鍛冶師希望だよ」
早く色んな剣を作って部屋に飾りたい。
「………………………………」
そう答えた俺を彼女はじっと見てくると思ったら不意に剣を持って構え出した。
「ねぇ、私と勝負しましょう?」
「はい?」
急に何言ってんの、この美少女は?
「もしかしたら試験で模擬戦をするかもしれないから対人の練習もしておきたいのよ。それにちょっと貴方が持つ剣にも興味が湧いたわ」
そう言ってくる彼女は見る目があると思う。だってこれは神様から貰ったものだから。
「もちろん無料タダとは言わないわ」
彼女はパンパンに入った袋を取り出して見せてくる。
「今日私が倒したモンスターの魔石。私に勝ったらこれを貴方にあげる。結構倒したから五万ゲルトは固いわ」
「俺が負けたら?」
「こっちが頼んでいるのだから何もないわ」
こっちはリスクなしか。まぁ、賭けれるものなんて持ってないから助かるけど正直勝てるかどうかもわからん。
一応中学校まで剣道を続けて初段までは取れたけど、向こうとこっちとでは勝手も違うだろうし、いくら剣のスキルを持っているからとはいえ勝てるとも限らない。だが、無一文の俺に五万は大きい。是非にも手に入れたい。
「わかった」
俺は鞘から刀身を見せる。波打つ刃文、乱刃が浮かぶ太刀。一目見るだけでそれがどれほど美しいのかを口に出すことさえ憚れる。それほどまでにこの刀は美しい。
流石は神様が貰った刀。今後はこの刀を目標として作り上げることを目指そう。
「さて、いいわね?」
「ああ」
剣と刀。互いの得物を向け合い構える。
「行くわよ!」
彼女が一歩踏み出すと同時に剣を振るう。右上から振り下ろされる剣を俺は刀を受け流してそのまま斬り上げるように刀を振り上げるも彼女はそれを読んでいたのか後ろに跳んで避けた。
あれ……………………?
「まだまだ!」
今度は一撃の重さよりも手数を優先した攻撃。一撃一撃は軽いも振り下ろし、振り上げ、薙ぎ払い、突きと隙のない連続攻撃を繰り出す。
だが、妙なことに俺は彼女の攻撃が手に取るようにわかり、尚且つその攻撃を全て紙一重で回避している。模擬戦とはいえ実物を使っての模擬戦は初めてなのに想像以上に冷静に対処できる。
多分これが神様がくれた剣のスキルの効果なのだろう。
そう分かった瞬間、上段からの振り下ろしに刀を振り上げて彼女の剣を宙に舞わせ切っ先を彼女の首筋に突き付ける。
「うわお」
自分でも驚くほど綺麗に決まった。
「ま、負けた………………………」
よほど自分の腕に自信があったのか、それとも俺になら勝てると踏んでいたのか。どちらにしろ自分が負けるとは思っていなかった彼女の表情は驚愕に包まれる。
刀をどかして刀身を鞘に収める。
彼女は脱力したかのようにその場で尻をつける。
「えっと、悪いけどこれは貰いな…………」
勝負は勝負。なにより今日を生きる為に必要な資金を一時の感情で手放したくはない俺はちゃっかりと五万は入った袋を手にする。
さて、ではさっさとこの場からおさらばするとしよう。
勝者が敗者にかける言葉などないのだから。
その場から逃げようとする俺の服を彼女は掴んで止めた。
「もう一度よ…………ッ!」
彼女からメラメラと闘志が燃えてる幻覚が見える気がする。
この子ってもしかして負けず嫌い?
「もう一度私と勝負しなさい!!」
うん、負けず嫌いだ。
ここで断っても自分が納得するまで離してくれないだろう。仕方がなく俺は彼女の気が済むまで模擬戦を繰り返す。俺が勝ったらもう一度と言ってきてまた剣を交える。それを繰り返す。
二桁は余裕に超えて遂に俺も彼女も体力の方に限界を迎えて二人して一緒に地面に倒れる。
「はぁ、はぁ」
「ぜーぜー」
疲れた。その一言に限る。
何で異世界転生初日に倒れるまで美少女と剣を交えてるんだ、俺は………………。
「はぁ、はぁ…………ねぇ、一つお願いがあるのだけど………………………」
「な、なに……………?」
「私と一緒に試験を受けて。私はどうしても合格しないといけない理由があるの」
突然の懇願はあまりにも意味深に聞こえた。
きっと何か深い事情ってものがあるのだろう。だが、断らせて貰おう。
多少の協力ぐらいなら引き受けてもいいけど、俺が目指しているのは騎士ではなく鍛冶師。騎士になるつもりは微塵もない。
どんな事情があるにせよ、俺は自分の夢を最優先させてもらう。
「断ったら貴方に裸を見られたって噂を広めるわ」
「喜んで協力させて頂きます…………」
男の子ってこういうときは辛いな……………。
シクシクと涙を流しながら俺は首を縦に振るしかなかった。
「あ、まだ自己紹介をしていなかったわね。私はジャンヌ。騎士志望よ。貴方は?」
「伯耆十夢……………鍛冶師志望です」
異世界転生初日。俺は美少女に脅され、渋々聖シュバリエ学院の試験を受けることになった。

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