転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第一話 転生

物心ついた頃から俺―――伯耆十夢ほうきとむは武器が好きだ。惹かれていると言ってもいい。
何故かはわからない。ただ、一目見たときからその美しさ、存在に心を奪われた。
武器マニアという人種だ。
そんな俺の夢は多くの剣や刀を部屋に飾って眺めてみたい。その武器をこの手に取って使ってみたい。しかし現代社会、日本ではそれは不可能であり、銃刀法違反だ。
厳しい制限や法則。それに刀剣の類は数十万から数百万、数千万の金がかかる。現代社会ではそんな夢は叶わないことぐらいわかっている。
だからせめてアニメや漫画、小説の中だけで満足しよう。そう割り切って生活をしていた。
俺の夢はどうしても叶うことが出来ない夢だ。
妥協し、割り切って趣味で収めないといけない。この手で武器を持つこともなく、ただ眺めるだけで我慢しないといけない。
異世界に行けたら鍛冶師になりたい。
それもまた叶うことが出来ない妄想だと自覚しつつ俺は今日も学校に向かう為に家の扉を開ける。
「行ってきます」
俺は何時ものように徒歩で学校に向かう。その道中で俺は背後から襲ってくる強い衝撃と共に意識が途絶えた。
「へ?」
目を開けると見慣れた天井でも見慣れない天井でもない。真っ白な空間だった。
周囲を見渡しても何もない真っ白な空間にポツンと立ち呆ける俺の前に一人の男性が現れた。妙に威厳のあるその男性は俺を見て口を開けた。
「伯耆十夢で間違いないな?」
「あ、はい」
思わず返事をしてしまう俺に男性は一度頷いた。
「お前は死んだ。学校に向かう道中で背後からの居眠り運転をしていたトラックに撥ねられて命を落とした。即死だ」
「はい?」
え? 何言ってんの? 俺、死んだ? 
確かにあの道に大通りにでる道だから車やトラックが通ることもある。それはわかる。だけど、居眠り運転、つまり交通事故で俺は死んだのか?
自分の死に困惑する俺に察したのか、男性は諭すように話した。
「混乱するのも無理はない。だが、死んだ以上はそれを覆すことは神である私でもできない。理不尽だとは思うが死を受け入れろ」
まぁ、そりゃそうだとは思う……。だけど、はいわかりました。と納得はできない。
そりゃ下手な重症よりも即死だったのは逆に良かったかもしれないけどそれでもこの気持ちは理屈ではない。
………………………………………………いや、待て。今、こいつ何を言った? 
確か神である私でもできない……………って、つまりそれは…………………。
「俺を異世界に転生してくれるのですか!?」
「その通りだが、急に元気になったな…………」
「シャ!」
俺は思わずガッツポーズを取った。
このパターン。よく読む異世界転生モノにそっくりだ。まさか自分がそうなるとは夢にも思わなかったけど、本当にそうなる日が来るとは死んでよかった。
さらば現代社会。こんにちは異世界。俺は今からそちらに向かう。
「それで特典はくれるのですか!? それとも何か使命とかがあるのですか!?」
「少し落ち着け。順を追って説明してやる」
呆れ気味に息を吐いて制止の声を投げる神様に俺は口を閉ざす。
「まず本来ならお前の魂は輪廻転生する予定だったのを私がここまで連れてきた。お前の想像通り、異世界に転生してもらうつもりでな。こちらの都合で連れてきた以上はできる限りのお前の願いを叶えるつもりでいる。ここまではいいか?」
「はい」
「次に使命とかはない。ただそちらの世界で好きに生活するだけでいい」
「それでいいのでしたら俺でなくてもいいのでは? あ、いえ、転生したくないわけじゃないですが………………」
「異世界に転生する際、別世界に対する適応力が必要とされる。お前はその基準を一定以上に満たしているのが主な理由だ」
なるほど、現代社会に馴染み過ぎている人を急に異世界に転生させたらそりゃ馴染めないよな。
電気もガスもない、携帯やネットすらないもん。
下手をすればストレスで死ぬかも……………。
「転生させる際にお前の肉体をこちらで新しく作り直してその肉体にお前の魂を入れるつもりだ。これでわかったか?」
「はい」
とにかく異世界に転生させてくれることぐらいは。
「では望みを言うといい」
「俺に剣を打つ工房を下さい。あ、鍛冶に必要な道具も」
俺は迷うことなく己の望みを口にする。
「…………………そんなものでいいのか? 特殊魔法やスキル、もしくは強靭な肉体。どこかの国の王様や領主にだってなれるぞ?」
「それじゃ剣のスキルも下さい。自分で打った剣を使ってみたいので」
一応異世界だから自分の身も守れる力も必要だしね。
「ふむ。まぁ、お前がそれでいいのならそれで構わん」
すると神様は光る玉? のようなものを手に平から取り出してそれを俺に渡すとその玉は俺の中に入った。
「異空間でどこでも鍛冶ができる工房をお前の体内に入れた。これでお前が打ちたい時にどこでも邪魔されることなく剣を打つことができる。ついでに剣のスキルを入れておいた」
「ありがとうございます」
これで俺は自分の手で武器が作れる。諦めていた鍛冶師になれる。
「ついでに武具に関する知識も入れておいた。剣を打つ材料に関しては自分で何とかしろ。それとこれも渡しておこう」
神様が俺に渡してきたのは一本の刀。
「転生直後に死んでしまったら転生させる意味がないからな。餞別として渡しておこう」
「ありがとうございます。後生大事にします」
「ああ、では達者でな」
その言葉を聞いて俺の意識はまた遠くなった。



気が付くとは俺は神様から貰った刀を持って森の中に立っていた。
見渡す限りの木や植物。顔を上げれば青い空に白い雲。更には空に浮かぶ島まで。
「本当に異世界に来たんだ………………………」
厳しい制限も法律もない異世界。ここでならいくら武器を持っていようが誰にも何にも言われる心配もない。ただひたすらに剣も刀もついでに防具に打って集めることができる。
だけど異世界転生でまずはしなくてはいけないことがある。
それは衣食住。
すぐに剣を打ちたいけど、それはもう少し先まで我慢。まずは生活する為に必要なものを探さないといけない。
その為にはまずは……………。
「人がいるところに行かないと」
この世界の住人にあってできることなら村まで案内してもらおう。それからこの世界の情報も集めないといけないからやることは多いから鍛冶ができるのはまだしばらく先になりそうだ。
だが、諦めていた夢が叶うんだ。あと少しぐらいは我慢しよう。
「さて、まずは動かないとな」
まずは動かないと始まらない。俺はすぐに行動を開始する。
見たこともない動植物を見ながら森の中を歩いていると、水の音が聞こえた。
「川かな? 喉も少し渇いたし行っているか」
水がする方へ俺は突き進み、森の中を歩くこと数十分。川に辿り着いた俺は見た。
太陽の光に反射して爛々と輝く黄金の髪。翡翠色の瞳をし、その肌は穢れを知らない程に純白な美しい肌。すらりと伸びている手足にモデルのような完璧なプロポーション。
目を奪われるほどの見目麗しい端整な顔立ちにどこか神秘的な雰囲気さえ感じさせる。
そんな美少女と俺は出会った。
そして何故、俺が出会ったばかりの美少女のことについてこんなにも詳しいのか、それは至極簡単なことだ。その美少女が全裸だったからだ。
そして今、俺はそんな美少女と目が合ってそんな変な思考に頭が働いた。
「………………………………」
無言でゆらりと動き始める彼女はその美しい裸体を隠すことなく近くに置いていた剣をその手に持って鞘から解き放つ。
彼女が持つ剣あってその剣も美しい。そして豊満な胸を揺らしながら剣を持って近づいてくる彼女に俺は待ったをかける。
「落ち着いてくれ。見たことに関しては言い訳はしない。罰は受ける。だがその前に一言だけ言わせてくれ」
ピタリ、と彼女の動きが止まる。どうやら最後に何か言い残すことぐらいは許されたようだ。
俺は両手を合わせて深々と頭を下げた。
「眼福でしたありがとうございます」
俺の心からのお礼の言葉に彼女は顔を真っ赤にしながら剣を振り上げた。
「この変態!!」
神様。どうやら転生直後にまたそちらに行くかもしれません。

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