異世界最強の英雄は七人の竜使いでした
第四幕 はじめましてとさようなら
俺は王女ユリアの前に立たされると、彼女は暫く無言で俺を眺めた後、口を開いた。
「貴方が報告にあった、我が領域内に無断で侵入した者ですね?」
「えーっと、無断で侵入したと言うか、気付いたら居たと言うか...」
どう説明していいかわからず困惑した面持ちで返答するとユリアさんは軽く微笑んだ。
「そうですか。では審問の結果、貴方を不問とします」
...はい?確かに俺に非は無いとは言え、余りにもあっさりと不問にされたので肩透かしを食らった。
「へ?いや、それは嬉しいんスけど良いんですか?そんなあっさり」
「貴方は五十嵐隆二さんと言うのですよね?では隆二さん、貴方が何処から来たのか大体察しが付いています。恐らく現世でしょう」
「現世...?」
現世とは現実世界の事なのだろうか?
「隆二さんも何となく察しているとは思いますが、ここは貴方がたで言う異世界と言うことになります」
その意外な言葉に目を見開いた。
ユリアさんは間違いなく俺がいた場所の事を知っている。
「ちょっと待って下さい!と言うことは、ユリアさんは俺の元いた世界を知っているんですね!?だったら帰る方法も知っているのですか?」
するとユリアさんは俺の膨らんだポケットを指差して言った。
レイルと城へ向かう途中ポケットにあの赤い石を入れたのだ。
「えぇ、知っています。ついでに隆二さんが持っている石についても説明いたしましょう」
ユリアさんは一呼吸入れると立て続けに説明してくれた。
「その石の事を我々は『ティアドロップ』と呼称しています。ティアドロップは竜の涙で出来いると言われていますが、具体的な生成方法は分かっていません。」
「ただ分かっていることは二つあります。一つは、ティアドロップは竜と人間を繋ぐ大切な物です。それを介してテイマーやドラグナーは竜に語りかけたり、共に戦ったり出来るのです」
そこで俺は気になっていたワードを思い出す。
「なるほど、ところでテイマーやドラグナーって何なんですか?」
「テイマーは単に竜と共に居る人の俗称で、一部では〈竜使い〉とも呼ばれています。
また、ドラグナーはその中でも騎士団や憲兵団に属する人のことを表します。そしてテイマーの素質がある者がティアドロップに触れると強い反応を示たりもしますね」
つまり俺にはテイマーの素質があり、それが反応して10年前も、そして今回も光ったのか。
「では、俺が異世界に来たのもそれと関係が?」
「はい、それがティアドロップのもう一つの役割なのですが、ティアドロップに素質のある人間が気を送り込む、そうですね、分かりやすく言うならティアドロップを凝視して集中することで隆二さんの世界、現世と私たちの世界、ラニアを結ぶ扉を開くことが出来ます」
じゃあ、このティアドロップを意識して眺めていれば元の世界へ帰れるのか。
「聞きたいことは以上ですか?これ以上無ければ此にて審問は終了と致しますが」
「あ、最後にもう一つだけ聞きたいことがあるんですが」
「はい、何でしょう?」
俺はここに来てからの最大の疑問をぶつけた。
「俺がいた世界と、ここラニアは別の世界何ですよね?じゃあ何故貴方達は俺達の世界の言葉を、それも日本語を話してるのですか?」
「その事については話が長くなると思うので、後日図書館を開けます。そこに文献があると思うのでその時それを覗かれては如何でしょう」
「そうですか、わかりました!色々と教えて下さりありがとうございます!」
ユリアはニコッと笑うとレイルが外へ出るよう促した。
「お前もありがとうな。あそこでお前と出会わなかったら分からない事だらけだったわ」
「気にするな隆二。審問で疑いが晴れたのならお前はもう俺の盟友だからな」
やっぱりコイツ良い奴だ。
「んじゃ、俺もう帰るわ。ありがとうな。」
「あぁ、またどこかで会おう」
俺はポケットに仕舞っていたティアドロップを取り出すとそれを眺めた。
ティアドロップは光り出し、辺りを白一色で包み込む。
「――・・――・・・――ジ」
気付いたら目の前には例の大樹がそびえ立っていた。
どうやら戻ってきたらしい。
「・・――・リュージ」
何か声が聞こえる。この声、あの夢の声だ。
「リュージ」
しかも、今回は直接脳内に話し掛けてくる感じでは無く、頭上から聞こえる。
ーーーん?頭上??
「リュージ!!!」
上を見上げようとした瞬間、何かが俺の頭に激突した。
「いってええぇぇぇ!!」
「リュージ!さっきから呼んでいるのに酷い人間だな君は!」
俺は改めて声のする方を見上げた。
すると其処には赤い子供の竜が浮いている。
「は...?ドラゴンが何で此処に...?」
いやいやいや、俺は確かに現世に帰ってきたはずだ。この場所は見間違える筈がねぇ。
じゃあ、なんでドラゴンが此処に?
「この世界に僕がいちゃいけない理由でもあるのかな?それにドラゴンなんてこの世界にも結構居る物だよ」
俺はその言葉に疑問を抱いた。
「そんな話人生で只の一度も見たことも聞いたことも無いぞ」
そして俺は一つため息を付くとミルを問いただした。
「まぁそれは一旦置いておくとしてさ...お前か、あの時からずっと俺に声かけてたのは」
「そうだよ。僕はミルって言うんだ。今日から僕は君の相棒だから。今後とも宜しくね!」
まるで当たり前だとでも言いたげにミルは俺を勝手に相棒と決めつけた。
「いやまて、誰もお前を飼うなんて言ってない。それにドラゴンなんて俺が連れていたら町中パニックになって報道陣殺到するわ」
「何だそのペットみたいな言い方は!それにその心配はいらないよ!僕たちドラゴンは姿を消せるからね。人間にだって擬態できる」
じゃああれか、レイルのドラゴンが突然出てきたり消えたりしてたのは姿を消しているだけだったのか。
「まぁ兎に角だな、俺はお前を連れて行く気なんてさらさら」
言い掛けた瞬間、俺のスマホが鳴った。
花梨からだ。
「あ?花梨如何した。今こっち取り込んで...」
「ーーー助けて・・・隆ちゃん・・・!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時は少し遡り、私が隆ちゃんを見送り出した後、自室に戻り一人の友達と『ホルスター』と言う最近話題のSNSで通話していた。
「あ、翔子?今日10時にハチ公前だよね?」
通話の相手は西村 翔子。
私の高校での友人だ。
「うんうん、遅れないでよねー。あ、加奈子にも伝えてあるよね?」
「加奈子にもホルスターのチャットで伝えてあるよ」
「オッケー!じゃあ待ってるからね!」
この日は私と翔子と加奈子の三人で映画を見に行く事になっていた。
自室を出てリビングのテレビを見ながら一人朝食を食べていると、私のスマホに通話が入った。
隆ちゃんのママからだ。
「ママ?如何したの?」
「花梨ちゃん、今日何処か行くんだっけ?」
「うん、友達と遊びに行くよ」
すると電話の向こうのママが心配そうに言う。
「ちゃんと鍵締めて行きなさいよ。それと夜暗くなる前には帰りなさいね。最近物騒だし特に花梨ちゃん女の子だから心配なのよ」
頭の中では心配性だなーと思いながら軽い気持ちで返した。
「あはは、ママ心配しすぎだって」
「そ、そうかしらね...まぁ兎に角気を付けて行ってらっしゃい」
「はい、ありがとね」
通話が切れて私も朝食を終えると私服に着替えて身支度をして外に出た。
電車に揺られて20分。渋谷のハチ公前に着くと既に翔子と加奈子が待っていた。
翔子が手を大きく振ってアピールしている。
「あ、やっときた、おーい!」
「ごめーん、まったー?」
「私達も今来たところだよ。ね?翔子」
「うんうん、じゃあ行こっか」
事前購入していたチケットの時間までには後1時間程あったのでどこかで適当に時間を潰す事にした。
私は特に行きたい所が思い付かず、二人に振ってみる。
「どこいこっかー」
「んー翔子どっか行きたい所無い?」
加奈子が翔子に話を振ると、翔子は意外な提案をしてきた。
「ゲーセン行きたいー」
その提案に私は目を丸くした。
「ゲーセン?翔子ゲーセン何て行くっけ?」
「ちょっと前から音ゲーにハマっちゃってさ、加奈子と花梨もやってみなよ」
翔子は最近音ゲーが趣味でゲーセンに通っていたらしい。
「うーん、まぁ、そこら辺ブラブラしてるよりは良いかな」
「でもこの辺りゲーセン何てあった?」
「あるよ、すぐそこに」
割とすぐ近くにあったらしく私達はそのゲーセンで初めて音ゲーなるものをやっていた。
最近人気のJ-popやアニソン等色々入っている。
やってみると意外と結構楽しい。
しかし、翔子が音ゲーやると私達はドン引きするほど驚いた。
曲は聴いたことがなく、そのゲームのオリジナル楽曲だったらしいが、譜面が訳分からないことになっている。
私達二人が見ても、目でも頭でも追いつけない物だった。
しかし翔子はそれを平然とやってのけ、ランクはSを取っていた。
「翔子やば・・・なにそれ、いつからやってたの?」
「もう1年は経つかなー」
ベテランだった。
そこへ加奈子が割って入る。
「あ、そろそろ時間だよ。行かなくちゃ」
言われて気付いた。時間まで後10分もない。
私達は急いで映画館へ向って走りだす。
映画館に着くとそれなりに人が賑わっている。
私達はポップコーンとコーラを頼み、劇場へ入る。
アクション映画で4DXと言うタイプの劇場だった。
アトラクション型の劇場で、赤と青の眼鏡をかけて3D映像を楽しみながら映画の展開に合わせて椅子が動いたり水飛沫が上がったり、煙のような匂いに包まれたりとまさにアトラクションその物だった。
2時間程の時間が経っただろうか。
映画は終わり、私達は外に出る。
私は伸びをしながら言った。
「うっはー、最っ高!4DXって良いね!」
「ねーヤバかったよね!めっちゃ楽しい!」
「また来ようよ!」
「行く!その時また誘ってー」
私達はその後もカフェに寄ったり、翔子の提案でまたゲーセン行ったりと、とにかく遊んだ。
日が陰ってきてそろそろ夕暮れになる頃、私達は休憩がてら近くの国立公園に寄ってベンチに座っていた。
後ろには池があり、鴨や鯉が泳いでいる。
「はぁ~今日楽しかったね」
今日一日の思い出を振り返るように加奈子は空を見上げた。
「やっぱこの3人で遊ぶと楽しいよ」
「そう言って貰えるとウチも翔子も報われますわー」
「あはは、なにってんだか」
すると加奈子が話を切り替える。
「あ~それよりさ、喉渇いちゃった近くに自販機無かったっけ?」
辺りを見回すがそれっぽい物は見当たらない。
「じゃあ私ちょっと探してくるよ」
「いいよいいよ、花梨一人に行かせるのも悪いから私達も一緒に行く」
「あ、座ってて良いよ。すぐに戻るから」
そう言うと私は一人自販機を探しに行った。
「んー自販機、自販機はーっと」
暫く徘徊していると幾つか垣根を超えた先にポツンと自販機が置いてあった。
「あ、あったあった。ついでに二人の分も買っていっちゃお」
私は自販機のラインナップを見て、考え込む。
「あー何買ったら良いかなー。聞いてくれば良かった」
ザッ ザッ ザッ
ーーー何かが近づいてくる。
私は背後に気配を感じ、後ろを振り向いた。
「こんな所にいたんですね、花梨さん」
そこに居たのは龍君だった。
そしてゆったりとした足取りで私に近づいてくる。
「あ、龍くん!こんな所で会うなんてね奇遇じゃん!」
「はい、花梨さんを探していたもので」
「へ?私を探していた?」
急にどうしたのだろうとキョトンとした表情で返した。
「えぇ、ちょっとお願い事があるんです」
「お願い事?うん、私に出来ることなら何でも聞くよ?」
「そうですか。有難う御座います」
「ーーーでは」
「ーーー死んでください」
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