異世界最強の英雄は七人の竜使いでした
第二幕 黎明の呼声
部屋の窓はカーテンを閉めているが、それでも朝日はカーテンの隙間から漏れ出してくる。
俺のベッドの横に充電しながら置いてあった携帯のアラームが鳴り響いた。
「~♪~♪~♪~♪~♪」
「うっせ...」
朝は余り得意じゃない。
鳴り響くスマホのアラームを無視しようとしたが、耳障り過ぎて無視できずにアラームを止める。
スマホが示すその時刻は7:50だった。
学校が始まるのは9:00。
家から学校までは4、50分掛かる。
つまりこの時間は割とギリギリなのだーーー。
だが、俺は一分一秒でも長く寝ていたいので此処だけは譲れない。
俺はまだ覚醒しきっていない重い瞼を擦りながら部屋を後にする。
いつものように制服に着替えて歯を磨いて飯食うといった一連の流れをこなそうと、例に習って制服に着替えて洗面所へ向かう。
洗面所の奥は風呂場になっており、その風呂場から叩きつけるような強い水音が響いていた。
花梨がシャワーでも浴びてんだろう。洗面所の横に並んでる洗濯機の上には花梨の制服が置いてあった。
俺も歯を磨き顔を洗ってリビングに出ると、既にテーブルの上には朝飯がいつも通りの配置で並んでいる。
今日も食パンにベーコンと質素な朝飯だ。
俺はソファーに腰掛け、手元に転がっていたリモコンで無造作にテレビの電源を入れると、お天気お姉さんが今日の天気予報を報道している様子が映った。
「今日は一日快晴でしょう。しかし気温が35C゜と高く、日焼けや熱中症には十分注意して下さい。」
「うげっ、今日そんなに熱くなんのかよ...」
寒いのも苦手だが、暑いのはもっと嫌いだ。
汗のせいで服と体がへばり付いて気持ちわるい。
学校に行くことが億劫になるが、今日暑いから外出たくない言ったところで花梨と母さんにぶん殴られるだけなのでこの愚痴は心の中に仕舞っておくとしよう。
すると花梨が風呂から出てきた様で洗面所の方でバタバタとしてる。
「やばっ、のんびりし過ぎたわ。」
時刻は8:00を回っていた。
あと10分で出なければ恐らく間に合わない。
俺はパンを囓りながら洗面所にいる花梨に聞こえるように言ってやった。
「朝飯ちゃんと食ってけよ」
「わかってるっつーの。あ、隆ちゃん、私も一緒に行くからちょっと待ってて」
「は?俺を遅刻の道連れにしようという魂胆か?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ。すぐに食べるから」
「わかったよ。待っててやるからあくしろ」
花梨は予め用意してあった制服に着替えており、急いで食卓に着くと朝食を超スピードで平らげていた。
俺は余裕をもって朝食を食い終わり、食器を台所へ持って行くと部屋に置いてきた鞄を取りに行く。
鞄を持ってリビングに戻ると既に花梨も朝食を終えていた。
いや、早すぎかっ!!
「じゃ、いこっか」
「おう」
だが時間も割とギリギリだったので早足で歩いて行く。
学校へはバスでも行けるが、バスはしょっちゅう時間がずれるし金も掛かるのでいつも乗らないで歩いているのだ。
道中他愛も無い話をしながら歩いていたら、時間が押し迫っていたらしく学校を目の前にして予鈴のチャイムが鳴った。
「まじか!走るぞ花梨!」
「うん!」
その場にいた他の生徒同様全力ダッシュ。
走って、走って、何とかギリギリで教室に滑り込んだ。
担任の先生はまだ来ていない。セーフ。
「おう、おせーじゃねーかよ隆二」
「二人で朝からイチャついてたのかリア充め!」
席に座るや否や、俺と花梨をみて後ろから冷やかして来たのは高野仁志。
中学時代からの友人だ。
「は?高野あのな、そんなわけねぇだろ...誰がこんな鬼女...」
「隆ちゃん?何か言った?ごめん聞こえなかったー」
言うまでも無く花梨は言葉を遮ると満面の笑みで俺に向き直った。
「いえ、何でもないです。多分今の空耳」
「そ、ならいいけど(ニコッ)」
顔は笑っているが目が笑っていない。
「けど、いいよなぁー花梨ちゃん可愛いじゃん。俺、殴られても良いから一緒に暮らしたいわ...」
高野の横から話し掛けてきたのは山口要(かなめ)。
この二人は高校からの知り合いだ。
そして、俺に向かってドヤ顔する花梨。
俺は「はぁ、、」とため息をつく。
そこで先生が教室に入ってきた。
「はい、席に着けー。後静かにしろー」
「ホームルームを始めるぞ」
朝の活気で満ちていた教室が段々大人しくなっていく。
先生がそれを確認すると続けた。
「えー今日は新しい仲間がこのクラスに転校してきた。入って良いぞ」
「あ、はい。」
カララッ...と申し訳なさそうに教室のドアを開け、怖ず怖ずと入ってくる。
その見た目はまるで中学生かと思うくらい童顔だった。
「えー、今日からこのクラスで世話になる神明龍(しんみょうりゅう)君だ。皆仲良くしてやってくれ。龍君、何か一言良いかな?」
「あ、はい。えと、神明 龍です。今日から皆さん宜しくお願いします」
パチパチパチと拍手が教室全体に響く。
何やら女子同士がヒソヒソとしているが、本人は気付いていないみたいだ。
「じゃあ、高野の後ろの席空けてあるから其処に座ってくれ。」
「えっと、はい、わかりました。」
皆が彼に注目する中、彼は椅子に座った。
何故だろう、特に女子の視線が熱いように見える。
ホームルームが終わり先生が教室を出ると女子が数人、龍の元へ寄ってきた。
「神明 龍君って言うの?かっこいい名前だね!」
「家どこら辺に住んでるの?」
「ねぇ、彼女いる!?」
女子の輪に囲まれて龍は明らかに困惑している。
そこで高野が割って入った。
「おいおい、龍困ってんだろ。一旦離れた、離れた。」
龍が困ってる事に気付いたのか寄ってきた女子が渋々離れていく。
「大丈夫か?まぁまだ慣れないよな」
「あ、はい、ありがとう。えと、名前聞いていいですか?」
「おう、俺は高野仁志、よろしくな」
「うん、宜しくお願いします」
その流れに乗って要も自己紹介を始めた。
「俺は山口要な!よろ!」
「よろしくです」
高野と要が揃って俺の顔を見る。
完全に自己紹介しろと言う流れだ。
「あ、俺は五十嵐隆二。仲良くやっていこうぜ」
それに花梨も続く。
「私は華園花梨。わからないことがあったら聞いてね。あ、後で校舎案内しようか?」
花梨の名前を聞いたとたん、龍が一瞬ピクッと反応したように見えたが何事も無かったかのようにすぐに返してきた。
「隆二君に、花梨さんですね。ありがとう、じゃあお願いしても良いですか?」
「任せて、私と隆ちゃんが責任持って案内するから」
何故か俺の名前も入ってるが、断っても首根っこ掴まれて連れて行かれるに決まってるので敢えて突っ込まずにいた。
龍がやって来てから授業が幾つか終わり、昼の休憩時間を利用して校舎を案内する事になった。
保健室、理科室、視聴覚室、職員室、一通りぐるっと回る。
その間に関係の無い雑談なども交えていた。
「あの、お二人の家は近いんですか?随分仲良さそうだったので」
「まぁ、近いと言うかーその...」
俺は花梨の方を見て言って良いのかアイコンタクトを取ると、花梨が自ら話し始めた。
「一応、一緒に暮らしているよ。
でも勘違いしないでね。隆ちゃんのお母さんやお父さんも居るし変なことはないから」
「何だし、変な事って」
「べっつにー」
龍がくすっと笑い始めた。
「ふふっ、本当に仲が良いんですね」
「まぁ、悪かったら喋ってないしな」
「ところで、花梨さんは如何して隆二君の家に?」
その質問聞いて二人の顔が一瞬暗くなる。それを察したのか龍が自ら制した。
「あ、いえ、ごめんなさい。ただ、僕は花梨さんのお母さんにちょっと面識があって。金糸雀さん...でしたよね?」
花梨が驚いて目を見開く。
勿論俺も驚いた。
「え?お母さんを知ってるの!?」
「はい、昔少し世話になりまして。その時に花梨と言う娘が居ると聞いたことがありました」
なるほど、花梨の名前を聞いて反応した訳だ。
そんなこんなで昼の休憩が終わり、また退屈な授業が始まると例の如く俺はうつ伏せになって寝ていた。
ーーー目が覚める。
瞼を開いて俺は言葉を失った。
「え...?」
何処だ此処は。
見たことの無い景色。
そこは丘の上のようで一面原っぱだが左手の方に、ある程度土で整備された小道が出来ている。
その更に向こう側には海に囲まれた大きな城が建っている様だった。
城は少し距離があるみたいで手を伸ばせば掴めそうな程小さく見えた。
「僕は此処に居るよ―――君を待っていた。」
突然声が頭の中に響く。
例の謎の声だった。
俺は、すかさずその声に向かって誰も居ない空間に話し掛ける。
「お前は、誰なんだ!?」
「僕は...」
ガンッ!!
頭に強い衝撃を受けた。
身に覚えのある痛みだ。
「いってぇ!」
「お前は誰だって!?先生だよ!何回目だお前は!」
今度は本当に目が覚めた。
「今度寝やがったら単位やらんぞ」
そう言って先生は教壇に戻った。
隣で花梨が囁く。
「また先生に怒られてるじゃん。
いい加減昼寝癖直さないと頭蓋骨割られるよ」
「お、おう...いって」
花梨は「やれやれ」とでも言いたげに、肩を竦めため息をつく。
そして後ろから高野にもちょっかいを出された。
「ブフォッ!いったそー」
俺は未だ頭に響く痛みを抑えるように手を当てている。
「お前もこの痛み味わってみろ」
「嫌だね。それに俺はお前みたいに寝ないし」
「隠れて漫画読む奴がよく言うぜ」
ちょっかいを出した高野は教科書を盾にして漫画を読んでいた。
だが、そんなことは今はどうでも良い。
いよいよ、あの夢が本格的になってきた。
知らない場所だったし、声のセリフも変わってる。
そして俺は頭のなかで独り言のように呟いた。
「夏休みになったら延原戻るついでに寄ってみるか、あの森へ」
授業を終えて日が暮れる頃、今日も花梨と一緒に帰った。
家に着くと早速自室に篭もって同じ様な体験をしてる奴は居ないか調べてみている。
だが、そんな体験をしたと言うスレッドが無ければ、あらゆるサイトを見て回ってもやはり見つからない。
「やっぱ実際に行ってみるのが一番かなぁ」
確信は無かったが、あそこへ行けばあの夢が何なのかわかる気がした。
俺は兎に角、夏休みになるのを待った。
ーーーーーーーーー
あれから何日か経過して時は既に夏休み。
しかし、今度は逆の意味で悩まされる事になる。
俺は自室のベッドで朝、目が覚めると考えていた。
今度は逆にあの夢を見なくなったのだ。
それはそれで良いのだが、今まで起きていた事が何の前触れも無く急にパタリと止むと逆に気になってしまう。
俺はまだ眠気は覚めていないが起きることにした。
今日は延原町へ帰省する日だ。
俺は身支度を調えて玄関で靴を履いていると花梨が声を掛けてきた。
「パパとママが隆ちゃん待ってたよ。いってらっしゃい」
「おう、いってくる」
元々両親も帰省するつもりだったらしく、俺も一緒に連れて行って貰うことにしたのだ。
玄関を開けると父さんと母さんが車に荷物を詰め込んでいる。
「やっと起きたか。お前も手伝え」
泊まる事になるので替えの服や、爺ちゃんち近くの河川敷でBBQをやる事になっているので、その機材を詰め込んでいた。
俺もその手伝いをする。
荷物を詰め終わるとすぐに車は延原に向かって走り出した。
高速道路を使っておよそ2時間。
延原の爺ちゃんちに到着した。割と田舎だ。
車を降りて爺ちゃんちを眺める。
デカい。と言うか屋敷だなこりゃ。
「相変わらずでけぇな」
「まぁ、先祖がお偉いさんだっただとよ。その家を代々引き継いで来たらしい」
「ほーん。俺の先祖が偉い人だったとはねぇ」
荘厳たる門の前にある呼び鈴を鳴らしてしばらくするとデカい門の端にあった勝手口から爺ちゃんが出てきた。
「待っとったぞ。まぁ上がれや」
爺ちゃんは頑固気質で爺ちゃん自体も荘厳の権化みたいな見た目だったので、よく893のボスだと思われるが実際には何の関わりも無く寧ろ爺ちゃん自身「風評被害だバカタレ!」と怒鳴り散らする程だった。
屋敷に入るとそこは2階建てになっていて、中庭に枯山水やししおどし、更には離れに水車小屋まで置いてある。
俺は車に積んできた替えの服等を爺ちゃんちの部屋に置いてきた。
2階の和室で高級そうな壺があり、その上に掛け軸が掛かっている。
移動の疲れもあり、その部屋で横になって暫くスマホのソシャゲを弄ってると父さんが入ってきた。
「BBQの食材買い出しに行くけどお前も来るか?」
「いや、ちょっと寄りたいところがあるからいいや」
「そうか、余り遅くなるなよ」
父さんが部屋を出て行くと俺も本来の目的に移ることにして腰を上げた。
爺ちゃんちを出て田園風景の広がった、のどかな風景を堪能しながら暫く歩くと、俺が前に住んでいた家が見えた。
懐かしいなぁ。こんなところもあったわ。
と感傷に浸りながら、あの森へ続く林道への道を思い出し歩いて行く。
俺は森の入り口を見つけ、その林道を辿りながら森へ入った。
林道を外れ獣道へ入るとーーー懐かしき二人だけの秘密基地がまだ存在していた。
あの大樹の場所は正確な所まで把握していなかったが何故だか秘密基地を見た瞬間、何処にあるのか分かる気がしたのだ。
俺はその直感に従い歩を進める。
腰まであろう草をかき分け進んでいると、開けた空間に出た。
「ここだ...」
眼前いっぱいに広がる大樹。
木漏れ日が差し込み、光と影が入り交じって、それはまるで画家が描いた作品の様に幻想的だった。
今見てもやはり大きい。
俺は木の裏へ回り込み、赤い石を確認してみる。
ーーーあった。
石は未だに窪みに埋め込まれていて、俺を待っていたとでも言うように、光の反射でキラリと光る。
(やっぱ今見てもルビーみたいだ...)
俺はゴクリと喉を鳴らし、赤い石に触れたーーー。
「!!?」
突如赤い石が光り出したかと思うと光は段々強くなり、やがて俺を包み込むようにして景色が真っ白になる。
俺は眩しさに片手で目を遮り、光が弱くなったのを確認すると手を降ろした。
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