異世界最強の英雄は七人の竜使いでした

えむしすてむ

第一章 黎明の呼声 第一幕 古典の授業は暴力反対


「...し」
「・・・らし」

「五十嵐!!」


ガンっと頭に強い衝撃を受けてビクッと体が反応した。
そして目を覚ます。

「おい!五十嵐!!聞いてるのか?お前の番だぞ、寝てないで早く読め!」

どうやら本の角で頭のてっぺんを打たれたようで、頭上を鈍い痛みが支配した。

「~~~~っ!!」

痛そうに頭を抱え机の上で悶絶するのは俺、五十嵐隆二。何処にでも居るような風貌をした何の特徴もないただの17歳男子高校生。

「っぷ」
「くすくす」

ついでに周りからの苦笑と視線も痛い。

「いっっっつ!」
「ほら、お前の番だ! 142ページ開け!紫式部の短歌のところだ」
「うぃ、え~、、あ?どこだ...」
「はぁ...」

先生は呆れるように肩を落とす。

「もういい、放課後職員室に来なさい。」
「めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月影」
「見たのは月であったのかそれすらわからないうちに雲隠れした夜半の月。あなたはそれと同じくらいあっという間に帰ってしまいましたね」
「まぁ、こう言う意味になる訳なんだが、小倉百人一首においても、「めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな」で入選してる。」

先生が授業の説明をしている中、俺はあの夢の事が気になっていた。
もう10年も前の事だ、忘れたはずなのに。
何故今、それも「この時期」にあの夢を見たのか。

あの変な声が待ってると言ったときから丁度10年経つ。そこが気になって仕方が無かった。
そんなことを考えながら呆けて居ると、今度は横から聞き慣れた声が飛んできた。

「隆ちゃん、あんまりボーッとしてるとまた先生に度突かれるよ」

話し掛けてきたのは華園花梨。
茶髪ロングで花の髪飾りがチャームポイントの幼馴染みの女の子だ。
こいつは幼い頃からの腐れ縁で、現在は訳あって俺の家に居候してる。

「あぁ、うん...ちょっと考え事してただけ」
「もう高校2年なんだから、もうちょっとちゃんとしてよ。あんたが怒られると一緒に暮らしてる私も恥ずかしいんだから」

とりあえず適当に相槌うつ。

「おう」
「今の「おう」は、わかってないわね」

空返事をしたものの、未だに頭からは夢の事が消えず同じように適当な相槌をうった。

「おう」

すると花梨は横から俺の顔を覗きこむようにして椅子に座ったまま前に屈むと目を細めながら言い放った。

「殺すわよ」

殺すとはまた物騒な...

「ごめんなさい、わかってます」
「はぁ、もういいわ。ちゃんと聞いてなさいよ」
「はい」

それからしばらくの間、再び襲っては去っていく睡魔の波長攻撃と闘いながら先生の退屈な授業を聞いていた。
また花梨を怒らすと面倒くさそうだし。

先生の退屈な授業が終わり、その日の学校のカリキュラムを全て終えるとホームルームを行って下校する。

職員室?そんなものは知ったことではない。

俺と花梨は家が一緒なのでいつも一緒に帰っている。
この日もいつものように花梨と二人で帰った。
友達からはよくリア充爆発しろ!なんて言われるが実際そんなことはないし、寧ろ尻に轢かれる事が多いので出来れば変わって欲しいものだ。

家は幼い頃住んでいた延原町では無く、ある出来事があったのと父親の赴任が重なった為、今はこの流紺町(りゅうこんちょう)で暮らしている。
下校途中俺は適当に話題を振ろうと花梨に夢の事を話してみた。

「花梨、実は今日変な夢見てさ、10年前の事覚えてるか?」
「はぁ?何のことよ」
「いや、俺が森で倒れてた事件」

花梨が思い出す様に顎に指を当てて考え込む。

「あぁ、何かそんなこともあったわね。それが如何したの?」
「いや、その時さ、声が聞こえたって言ったと思うんだけど覚えてる?」

今度は腕を組むと再び思い出すように首をかしげながら言った。

「あー、言ってたわねそんなこと。何?夢の中で同じ声が聞こえたとか?」
「おう、まさしくそう言うことだ」

それを聞いた花梨は視線を俺から外し、前方に向き直る。

「へぇーそーなんだー」

あからさまな棒読み。興味ねぇのかよ。

「興味無さ過ぎだろ」
「うん、全く興味ない」
「そこまでドストレートに言われると傷つくわぁ」
「あんたも傷付くんだ。意外」
「意外ってなんだし!」

そんなこんなで話し込んでるとあっという間に家に着いた。
俺は玄関の鍵を開けて「ただいまー」と声を出す。
キッチンの方から母さんの声が聞こえた。

「おかえり、今ご飯作ってるから。それと、冷蔵庫にプリンあるわよ。花梨ちゃんのもあるからね」

「あざっす!」
「うん、ありがとう」

しかし俺達は冷蔵庫へ向かわず別の部屋へ向かった。
家に帰ってきたら毎日必ずやることがあるのだ。

「ただいま、お父さん、お母さん」

仏壇に飾られた花梨の両親の遺影を前に線香を炊き、掌を合わせる。
花梨の両親はとても仲が良く、花梨が産まれてからも二人でデートへ行く程だった。
そのデートの真っ最中―――事故に遭ったのだ。

前方からトラックの衝突事故だった。
父親は即死、母親は遺体すら見つからなかったと言う。
あれから7年も経つが、未だに母親の姿は見つかっておらず警察も未解決失踪事件としてまとめ上げ、この案件を放り出した。

花梨の祖父は既に他界していて祖母は認知症で老人ホーム暮らしだったので、他に身寄りが無く此方で引き取ることになったのだ。
俺も花梨と同じように線香を炊き、両手を合わせる。

「じゃ、プリンたべよ」
「そうだな」

冷蔵庫からプリンを引っ張り出して二人並んでソファーに座ると、リビングのテーブルを二人で陣取り既に付いていたテレビを見る。
何かの番組の特番らしきものがやっていた。
ん?これ、俺の前の家の近くにあったサクランボ農園だな。
映ってるこのコンビ芸人も最近よく見かける。

「もうすぐ夏休みですねー」
「そうですねー」

「今日は延原町に来ていまーす。皆さん、夏!と言えば海や山も良いですけど、自然の恵みを頂くのも楽しみ方の一つです!」

「そこで、今回はサクランボを堪能していきたいと思いまーす!」

場所が前の家の近くで以前住んでいた延原町だった事もあり、少し花梨が気になってちらっと見てみた。

「何?心配してくれてるの?(笑)」

気付かれていた。

「い、いや、べっつに、、心配なんかしてねぇし」
「あんた、昔からそうだけど、感情丸出しよね。何考えてるかすぐわかっちゃうもん」

俺としてはそんなに感情を表に出してるつもりはないんだが、傍から見ればかなり分かりやすいらしい。
まぁ、そう言うものか。

「そうだ、一応誘っておくけどさ、夏休み入ったら爺ちゃんち行くから延原戻ろうと思うんだけど花梨も来るか?」

延原で起きた事故の事を考えるとあまり聞くべきでは無いと思いつつも、出掛ける以上聞かないわけにはいかなかった。

「んー私は良いかなー夏休み行きたい場所もあるしパス」
「そっか。じゃあ俺一人でも行くかな」

すると花梨は俺を茶化してきた。

「良いんじゃない?ついでにサクランボも取りに行きなよ」
「絶対いやだ。一人でサクランボ狩りとかある意味拷問だろ」
「っぷ!あはははは!!そりゃそうだよね!あんた、チェリーボーイだもんね!」

花梨は俺を指さしながら腹を抱えて大爆笑している。
その反応にちょっとムカッとしながら言い返した。

「うっせ!お前も人のこと言えんのかよ!大体そう言う意味じゃなくて一人でサクランボ狩りとか寂しすぎるだろって意味だぞ!」
「え?じゃあ私に付いてきて欲しいの?」
「べっつにー良いです。寧ろうっせぇのが居なくてせいせいするわ」
「はいはい、そーですねー」

とは言え、まだ夏休みまで半月はある。
俺はプリンの容器を空にすると最近趣味のネットサーフィンをするため自室へ篭もった。
部屋のドアを開けると右手に俺のベッドが置いてあり、正面にカーテンと窓がある。

ベッドの傍らの壁にはアイドルのキュアるん☆シスターズこと、狩野姉妹のポスターが貼ってあった。
お気に入りのアイドルだ。

花梨よりずっと可愛い。うん、間違いない。
花梨もぶっちゃけ可愛くない訳ではないが、いかんせん性格に難があるからな。

そんな事を考えながら、ベッドの向かい側に設置されてるPCの前の椅子に座り、電源を入れる。
今日は掲示板やサイトを巡ったりして時間を潰す事にした。

適当に掲示板を開いてはいつも通りネット口論が白熱してるスレッドを見てまたやってるなぁ~。と思いながらそっ閉じ。
それを何度か繰り返していると、とあるスレッドが俺の目に止まった。
神話や伝承を中心に書き込まれてる掲示板のスレッドだ。

「ん?『7人の竜使い』?面白そうだな、ちょっと読んでみるか。」

ギリシャ神話でも無さそうだし、北欧神話でも無さそうだった。
神話は割と好きでたまに色々漁ったりするけど、この話は聞いたことがない。

それからしばらくPCと睨み合い、独り言の様に小声でブツクサと内容を読み上げた。

『遙か遠い昔、アラスタ王国と言う国が栄えていた。
その国は幸福に満ち溢れ、民も王も幸せに暮らしていたのだ。
だが、そんなある時、平和の国に一つの災厄がもたらされる事となる。
終焉の象徴と言われた『邪竜ティアマト』が攻め込んできたのだーーー

ティアマトの力は余りにも強大で人々はこれに為す術も無く、ただ絶望に染まり、神に救いを求める者もいた。

ーーー其処に、彼らは現れた。
7頭の竜を従えた7人の人間だ。
彼らは竜の背に乗り、竜を従え、竜と共にティアマトとの死闘を繰り広げていた。
永い死闘の末、7人と7頭の竜が勝利を収め、
人々は喜びを分かち合い、彼らを英雄として讃えた。』

よくありそうな話だったな、と思ったのが正直な感想だ。
まぁ、それでもそれなりに面白くはあったが。

「隆、ご飯!」

唐突に扉越しから母さんが呼んできた。

「わかった、今行く」

俺は一旦部屋を後にした。

リビングに行くと、既に花梨が座って先に食べている。
今日はチーズハンバーグらしい。
熱々のハンバーグの上に熱によって蕩けたチーズが乗っている。
その見た目と匂いに俺は腹が空いている事に気付かされた。
さっきまで割と腹減ってなかったんだけどな。
ハンバーグ、恐るべし。

俺も席についてハンバーグにかぶり付く。
テレビも付いていたがクイズ番組で余り興味が無くさっさと食べて風呂に入ってまたネットサーフィンを楽しむことにした。

と思った矢先、花梨が既に食べ終わって「隆ちゃん、私先にお風呂入るからね」なんて言う物だから入るに入れなくなった。
しかも花梨が風呂に入ると軽く1時間は出てこない。

マジかよ...と思い飯食ったら部屋に篭もろうとしたが、それはそれで風呂に入るのが遅れそうなので仕方が無いからクイズ番組見ながらノロいペースで飯を食うことにした。
今は漢字のクイズらしい。

「では、次の問題です。」
「この漢字は何て読むでしょうか?」

画面が切り替わり、ある漢字がデカデカと映し出された。

〔小鳥遊〕

見たことのない漢字だ。
何て読むんだこれ?
ことりゆう?んな単純じゃないよな。
すると司会のアナウンサーが言った。

「ヒントは人の名前です。また、小鳥の天敵にも関係していますよ」

テレビに出てるタレントや芸人が悩み出したり、自分の前にあるモニターに答えらしきものを書き込んでる様子が映し出される。

天敵?小鳥の天敵って何だ?
確か、鷲や鷹が天敵だと聞いたことがある。
と、何だかんだでクイズ番組楽しんでんじゃねぇかと思わずフッと鼻で笑った。

「10,9,8,7,6」

画面の右上に映し出されていたカウントが徐々に小さい数になっていった。

「5,4,3,2,1」

カウントが0になり小鳥遊の下にテロップが映し出される。

〔小鳥遊〕

〔たかなし〕

なる程、たかなしか。

司会が解説をする。

「正解は、たかなしです。小鳥が遊ぶ、と言うことは天敵がいない、つまり鷹がいない、だからたかなし、という由来を聞けば、なる程と思える苗字ですね」

ほーう。これは良いことを聞いた。花梨が風呂から出たらこの問題出して吠え面かかせてやろう。

そうこうしてる内に飯も食い終わり、皿を台所へ持って行く。
花梨が出てくるまで漫画でも読んでいようかと一旦自室へ戻り、適当に漫画を引っ張り出してリビングのソファーに座った。
漫画の中盤に差し掛かった辺りで後ろから花梨の声が聞こえた。

「隆ちゃん、入って良いよ」

花梨は裏地がピンクで表面がグレーのフード付きの部屋着姿で、タオルで頭を拭きながらやってきた。


「お、やっと出たのか。そうだ、お前これわかるか?」
「は?何よ急に」

俺はポケットからスマホを取り出し、メモを開き小鳥遊と書いて花梨に見せた。

「おめーこれ何て読むかわかるか?わかんねーだろ」
「たかなし、でしょ?そんなん簡単じゃん」

余りにもあっさりと答えられ、俺は敗北感に包まれうな垂れた。

「あ、そ..風呂入ってくるわ...」
「あーなるほどね、クイズ番組でもみた?」
「おう」

花梨はクスクスッと嘲笑ってるが、気にしないことにしてさっさと風呂へ入った。

風呂に入るとシャンプーの匂いに紛れて若干女の子の香りがする。
やっぱり花梨の後に風呂入ると妙に心拍数あがるんだよなぁ。心臓に悪い。

ドキドキしてる事はわかっているのだが、それを認めたくなくて別の表現にしてみた。
シャワーを浴び、体を洗って湯船に浸かる。

「あ゛ぁ゛~」

銭湯の湯船に浸かるとお湯が零れ落ち、バシャバシャと音をたてた。
それと同時に俺はおっさんの様な声を上げ、ゆったりとしている。
湯温はちょっとぬるいくらいに設定されていて花梨の風呂が長引く理由がそれだった。
まぁ、俺としてもこの湯温が丁度良いのだが。
湯船に浸かりながら静かに瞼を閉じる。


ーーー「10年後で、君を待ってる」

「うわっ!」

バランスを崩し、態勢を立て直そうと反射的に湯船の縁に掴まる。
バシャッとお湯が飛び散った。
どうやら寝ていた様だ。

「また、あの夢か...何なんだマジで」

人によっては同じ夢を繰り返し見たり、夢の続きを見たりすると言うが、俺にはそんな経験は今まで無かった。
益々あの夢が気になる。

風呂から出て部屋着に着替えるとそのまま自室へ向かい、ベッドに転がった。
何だか今は何かをやる気分になれない。
ベッドに転がるとすぐに睡魔が襲ってきて、意識が暗闇に落ちた。

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