2.5D/リアル世界の異世界リアル
第58話
58
アリスの居候はトピアと1日交代とする決め事だったが、結局は彼女にばかり世話(というか地獄の特訓!)をさせてしまっていたので、今晩は俺の寮部屋での居候になった。
「それでは憑々谷君、アリスをお願いしますね。お休みなさい」
「おう! 明日も宜しくな!」
「バイバイキ~ン!」
学園の男子寮に到着したところでトピアと別れ、俺は自分の寮部屋に入った。
それから最初に確認したのは、この3日間ずっと部屋に置きっぱにしていたスマホだ。
「…………ん。メールも電話もナシか」
少々複雑な気持ちになる。連絡があったらあったで申し訳ないのだが、しかし1件もきてないってのもどうなんだろう(悲報)。
続いて俺は冷蔵庫を開き、所蔵品を見てみる。
「あれ。なにもないじゃーん」
「だな……。そんで俺、中途半端に腹減ってきてるんだよな」
大和先生のオムライスは食べた心地がほとんどしなかったからだ。
これはある意味、先生の愛のパワーの勝利だ……。
「どーすんの? 買い物、いっとく?」
「そうだなぁ。まだ寝るには早いし。ってか、しばらくは眠れる気がしない」
というわけで、到着から数分しない内に財布だけ持って男子寮を発った。
なおアリスは「お菓子買ってー! 買ってちょんまげー!」とうるさかったので、自宅待機命令を下してやった(常考)。
とぼとぼと学園の敷地を歩きながら、ある物思いに耽る。
(…………ううむ。トピアが言ってたこと、あながち間違ってないのかもな……)
自分は著者から卒業している、という斬新な着想。
それに対しあの時の俺は『信じたい』と前向きにとらえるだけだったが―――。
しかしだ。
これが案外、ありえるんじゃないだろうか?
だってそうだろう。強制イベント同然のヘタな巡り合わせや、俺自身が俺の意志とは勝手に行動させられた経験。つまるところ著者の仕業としか言いようがないそれらは、きちんとトピアにも起こっているわけで。
そう。読者は気づいていただろうか。実は彼女も見かけだけなら……本物の人間である俺と、平等の仕打ちを受けていたのだ。
(そりゃゲームのNPCがゲームマスターから主人公とまんま同じ扱い受けてたら、そのNPCも別視点の主人公なんじゃないかって疑うのが道理だろ。それと同じだ。……あぁ、同じではあるんだが……)
ただ、残念ながら。
彼女は元からこの小説の中の住民だ。そこは要注意。
その事実は揺らぎようがない。
なぜなら彼女は、著者の仕業どころか著者の存在に対し、無自覚だからだ。
俺のように元いた世界からここにやって来ていたなら、そんなことにはならない。
(ともあれ、だ。現在の彼女が『著者の完全支配下にある』と100パーセント断じるのは難しい。だいぶ難しくなってくるよな。本物の人間に近づいてる可能性も、ゼロじゃない気がする……)
そもそも著者は以前このように言っていた。この小説では自分以外の誰かが文章を打ち込んでいるみたいな怪奇現象が起きている、と。
無論それは俺のせいだろう。俺が自分の意志で勝手に行動するから、それが文章として打ち込まれているのだ。だから著者の言う『自分以外の誰か』ってのは、実際のところこの小説の中にいる俺のことなんだと思う(←たぶん正解。by著者)。
(その怪奇現象自体がもう現実的にありえないわけだよな……。なら尚更、トピアが俺と同じように自分の意志で勝手に動き出すことも、決してありえなくはないんじゃないか……?)
どうなんだろう。ちょっとした興味本位で確かめてみたいが、なにか方法があるだろうか。正直さっぱり思いつかない。
こればっかりは著者じゃないとわからないよなぁ……うーん。
と、そんな風に物思いに耽っていると、視界の先に学園のコンビニが見えてきた。
「お。まだやってたか―――」
幸いにも営業中だった。俺はラッキーと喜びかけたものの、店先を見やれば男女の生徒が6、7人ほどたむろしていた。ジュースを飲んだりスマホを弄ったりと、いかにも愉快そうな雰囲気だ。
「ちっ、リア充達め……。談笑すんなとは言わんが、場所を選べってんだ……」
おかげでコンビニの出入口は封鎖されているような有様だった。彼彼女らに近づく気すらしなかった俺は、大変不本意ながら学園を出て他のコンビニを探すことに。
「…………ん?」
コンビニの前を通りすぎてすぐ、俺はその気配に気づいた。
あれは―――。
「熾兎ちゃ~ん? もう大会が近いんだからさぁ~? 今から俺らと朝まで特訓しね~?」
「んだよそんだよぅ。熾兎ちんだって時間惜しいんだろぅ。丁度いいんだろぅ?」
「ウサウサのそのちっぱい、ワイらに借りさせてくれーや? 激しく揉んでやっからよぉ……。んあ、ちゃうか。特訓で揉まれるのはワイらか。ギャハハハハ!」
……やや暗がりな、コンビニの建物脇で。チビにデブにノッポの男子生徒達が、熾兎を壁際に追い込み取り囲んでいたのだ。
男子生徒達は皆私服であり、下卑た発言の内容とは裏腹、これから特訓しようという印象はない。それに対して熾兎は赤のジャージ姿だったが、手にコンビニ袋を提げているので女子寮に戻ろうとしていたのだろう。彼らの誘いに乗る気はなさそうだ。
「おいおい……。なんつーベタな展開なんだ……」
オチが読めてしまう。まさかだが『女の子が大ピーンチ!?』と認識する読者はいないだろう。いたらちょっとビビる。これはどう見ても逆で『男の子達が大ピーンチ!!』だ。変人3兄弟が熾兎1人に返り討ちにされるオチだ。
「はあ? いきなりなに? あんた達、誰よ?」
「決まってるじゃんかぁ~。キミの兄ちゃんのお友達さぁ~」
「あー……。言われてみればそんな感じするわね……」
どんな感じだッ(遺憾)!
(いやはや、このイベントに関してはシカト一択だろ! 相変わらず妹からの扱いがこんなんだしなっ! それにむしろ全力でシカトかますのが彼らの救済になる予感がしてならない!)
ここまで付き合ってくれた物好きの読者なら、この俺の考え、察してくれるだろう……!?
「ふ、不純異性交遊は許さないわよ!?」
……………………、うん。はいはい。はーいはい。
デジャヴではあるんだが、もうね、このハチャメチャっぷりに全く付いていける気がしませーん……(困惑)。
言わずもがな、新たに登場したのは奇姫その人だ。こんな夜遅くまで保安委員のパトロールだろうか。真っ白な制服が夜陰によく映えていた。
彼女はモデルのようなキリリとした姿勢で4人に歩み寄ると、紅蓮の髪を一度ぶわっと炎が揺らめくように手で靡かせた。そして一言。
「んで?」
……んで? じゃないだろ。だからそのなぞなぞを超越したナゾ問いかけ、誰が反応できるってんだよ……。
「あなた達は、保安委員のわたしを怒らせたいから、この学園の風紀を乱そうとしているのよね? そうなのよね?」
「「「…………………………」」」」
「なんか言ったらどうなのよ!」
いやそら全員ダンマリにもなるだろう。まずお前の登場決め台詞(?)の破壊力ハンパないからな。どうしたら不純異性交遊に見えたんだ? 色眼鏡ならぬエロ眼鏡でも掛けているのか? だとしたら最強のひみつ道具だぞそれ。欲しいランキング1位余裕で奪取可能だ。
そんでもってだな、とにかくお前の被害妄想が過ぎるんだよ。なぜお前を怒らす目的で風紀乱したがるってんだ? そんな手間かけなくたってどうせお前は怒るじゃないか。というより登場する度に怒っているじゃないか。
(…………。やべ。ツッコミすぎてどっと疲れた。さっさと他のコンビニ行こ。そうだそうしよう。俺には関係ない。ゼーンゼン関係ないんだ)
ほんじゃま、皆さんお休みなさ、
「つ、憑々谷子童ッ!? あんたそんなトコでナニ突っ立ってんのよ――ッ!?」
やべ、見つけられた! って、ねーよ!
ああもうツッコむの超面倒だから逃げる!
逃げちまうが勝ちだッ!
「ちょ、止まりなさい憑々谷子童ッ! あんたもうわかってんでしょ、これは強制イベなのよッ!?」
「ええい黙れクソったれ著者ッ! ンなことぶっちゃけるNPCに従ってたまるかってんだッ!」
と、そんな風に。
俺が奇姫に向けて吐き捨ててすぐだった。
―――ザ・反抗期ラノベ主人公! 著者の思惑にリアルで反抗できるラノベ主人公は、拙作ならではですネ!
「………………あ」
しまっ、た……。
著者にはその手があったんだ……。
動けない。
奇姫から逃げたくても、俺の体が動いてくれない。…………やられた。
【―――ったく、厄日だな……。それで? 俺にどうしろってんだ、奇姫?】
言ってすぐ、著者モードの俺は背後を振り返ると駆け出した。
途中まで追いかけてきていた奇姫を通り越し、熾兎と変人3兄弟のいるコンビニ脇まで猛移動する。
……諦め方が狂ってやがるっ。
「あんた、あたしがここに来るより前に見てたりする?」
【……かもな】
「じゃあ知ってることだけでいいから教えなさいよ。この人達がしてた不純異性交遊のあらましをね」
【あらまし……いや、そもそも俺の妹はコイツらに一緒に特訓しようと誘われて、それを嫌がってたぽいだけなんだが?】
「! な、なんですってぇ? えぇー、じゃああたしの勘違いだったのねぇ。びっくりぃー」
おいこら奇姫が完璧に棒読みじゃないか。なんだこのコント。
空前絶後のつまらなさと評されても不思議じゃないレベル。
「こ、こほん! わ、わかったわ。ならあんたは妹さんを女子寮まで送り届けなさい。あたしはこのチビとデブとノッポを処理しとくから」
……処理て。
一応、俺の友達って設定なのでは……。
【了解だ。コイツらは煮るなり焼くなり好きにすればいい。所詮は使い切りだしな】
「「「…………………………」」」」
うん、だからって変人3兄弟の息の根を止めているのはどうかと思う。
まぁNPCじゃなくても真顔でそんなこと友達に言われたら息止まるだろうけど。
「ったく、あんたの妹さんが襲われてたってのに……いや、やっぱりなんでもないわ。いいからさっさと行って。大会まで時間がないんだから」
【すまない】
と著者モードの俺が言い返す前には。
熾兎はつまらなさそうにそっぽを向き、無言で歩き出している。
【―――っと、そうだ。奇姫?】
「? なによ?」
【その武闘大会だが。俺は、やれることだけのことはやるつもりだ】
「当たり前でしょ。ってか、優勝してもらわないと困るわ。絶対にね」
【……、なぜだ? お前が俺に大会をエントリーさせたのは、そもそも『俺が偽者かどうか』を探るためだったんだろう?】
そうだな。学籍番号の入力とか指紋認証とか。つまるところ俺本人じゃないと難しそうなことを要求していた。
あの時の奇姫の真の目的は、俺に大会のエントリーをさせてみて、学園侵入者の変装を見破ることだった、はず。
「そうよ? それがなんだっての?」
【いや、だったらよ……。お前にとって俺が本当に優勝する必要性は、ないよな?】
……あれ?
言われてみれば確かにその通りだな?
著者モードの俺と同じだ。疑問はただひとつ。
なぜ彼女が俺に大会優勝を指示したのか、だ。
『もう2度と心を開かない、絶対に容赦しない』―――。
ああ、読者も覚えていることだろう。
彼女が俺に優勝を指示した理由は、以前トピアが言及していた。
彼女が立てたその誓いのせいだろうと。
(だけど彼女にとってそれほど俺の優勝は大事なことか? 学園最強という噂を俺が大会で証明してみせたところで、別に彼女にはメリットなんてなにもない気がする)
「……ふん。なんか色々と考えてるみたいだけど。まだ教えるわけにはいかないわ。いわゆる伏線よ。あたしがあんたに優勝を指示した真の理由は、大会が始まってから教えてあげる」
……トピアの棄権に続いてこれも伏線なのか。だとしたら相当長いこと張ったままじゃないか。
大丈夫か著者。これで読者ガッカリさせたらいよいよ見切りつけられるぞ。
「! で、でも、まぁ、そうね。余所からしたら別に大した理由じゃないのよ。あたし個人にとっては大事ってこと。死活問題なのよ。それだけは理解しておいてくれる?」
……うわぁ、プレッシャーかけられて完全にビビってるなこの著者。
そんなに自信ないんだったら伏線なんて宣言しなければいいのに(呆)。
「って、あんた!? とっくに妹さんの姿が消えかかってるじゃない! 急いで追いかけなさいよ! 見失ったらタダじゃおかないわよ!?」
【あ、ああ。風呂覗きの件があるからな……。指示は守る、安心してくれ】
そこで著者モードの俺は奇姫に頷いてみせると、小さくなった熾兎の背を追い始めた。
アリスの居候はトピアと1日交代とする決め事だったが、結局は彼女にばかり世話(というか地獄の特訓!)をさせてしまっていたので、今晩は俺の寮部屋での居候になった。
「それでは憑々谷君、アリスをお願いしますね。お休みなさい」
「おう! 明日も宜しくな!」
「バイバイキ~ン!」
学園の男子寮に到着したところでトピアと別れ、俺は自分の寮部屋に入った。
それから最初に確認したのは、この3日間ずっと部屋に置きっぱにしていたスマホだ。
「…………ん。メールも電話もナシか」
少々複雑な気持ちになる。連絡があったらあったで申し訳ないのだが、しかし1件もきてないってのもどうなんだろう(悲報)。
続いて俺は冷蔵庫を開き、所蔵品を見てみる。
「あれ。なにもないじゃーん」
「だな……。そんで俺、中途半端に腹減ってきてるんだよな」
大和先生のオムライスは食べた心地がほとんどしなかったからだ。
これはある意味、先生の愛のパワーの勝利だ……。
「どーすんの? 買い物、いっとく?」
「そうだなぁ。まだ寝るには早いし。ってか、しばらくは眠れる気がしない」
というわけで、到着から数分しない内に財布だけ持って男子寮を発った。
なおアリスは「お菓子買ってー! 買ってちょんまげー!」とうるさかったので、自宅待機命令を下してやった(常考)。
とぼとぼと学園の敷地を歩きながら、ある物思いに耽る。
(…………ううむ。トピアが言ってたこと、あながち間違ってないのかもな……)
自分は著者から卒業している、という斬新な着想。
それに対しあの時の俺は『信じたい』と前向きにとらえるだけだったが―――。
しかしだ。
これが案外、ありえるんじゃないだろうか?
だってそうだろう。強制イベント同然のヘタな巡り合わせや、俺自身が俺の意志とは勝手に行動させられた経験。つまるところ著者の仕業としか言いようがないそれらは、きちんとトピアにも起こっているわけで。
そう。読者は気づいていただろうか。実は彼女も見かけだけなら……本物の人間である俺と、平等の仕打ちを受けていたのだ。
(そりゃゲームのNPCがゲームマスターから主人公とまんま同じ扱い受けてたら、そのNPCも別視点の主人公なんじゃないかって疑うのが道理だろ。それと同じだ。……あぁ、同じではあるんだが……)
ただ、残念ながら。
彼女は元からこの小説の中の住民だ。そこは要注意。
その事実は揺らぎようがない。
なぜなら彼女は、著者の仕業どころか著者の存在に対し、無自覚だからだ。
俺のように元いた世界からここにやって来ていたなら、そんなことにはならない。
(ともあれ、だ。現在の彼女が『著者の完全支配下にある』と100パーセント断じるのは難しい。だいぶ難しくなってくるよな。本物の人間に近づいてる可能性も、ゼロじゃない気がする……)
そもそも著者は以前このように言っていた。この小説では自分以外の誰かが文章を打ち込んでいるみたいな怪奇現象が起きている、と。
無論それは俺のせいだろう。俺が自分の意志で勝手に行動するから、それが文章として打ち込まれているのだ。だから著者の言う『自分以外の誰か』ってのは、実際のところこの小説の中にいる俺のことなんだと思う(←たぶん正解。by著者)。
(その怪奇現象自体がもう現実的にありえないわけだよな……。なら尚更、トピアが俺と同じように自分の意志で勝手に動き出すことも、決してありえなくはないんじゃないか……?)
どうなんだろう。ちょっとした興味本位で確かめてみたいが、なにか方法があるだろうか。正直さっぱり思いつかない。
こればっかりは著者じゃないとわからないよなぁ……うーん。
と、そんな風に物思いに耽っていると、視界の先に学園のコンビニが見えてきた。
「お。まだやってたか―――」
幸いにも営業中だった。俺はラッキーと喜びかけたものの、店先を見やれば男女の生徒が6、7人ほどたむろしていた。ジュースを飲んだりスマホを弄ったりと、いかにも愉快そうな雰囲気だ。
「ちっ、リア充達め……。談笑すんなとは言わんが、場所を選べってんだ……」
おかげでコンビニの出入口は封鎖されているような有様だった。彼彼女らに近づく気すらしなかった俺は、大変不本意ながら学園を出て他のコンビニを探すことに。
「…………ん?」
コンビニの前を通りすぎてすぐ、俺はその気配に気づいた。
あれは―――。
「熾兎ちゃ~ん? もう大会が近いんだからさぁ~? 今から俺らと朝まで特訓しね~?」
「んだよそんだよぅ。熾兎ちんだって時間惜しいんだろぅ。丁度いいんだろぅ?」
「ウサウサのそのちっぱい、ワイらに借りさせてくれーや? 激しく揉んでやっからよぉ……。んあ、ちゃうか。特訓で揉まれるのはワイらか。ギャハハハハ!」
……やや暗がりな、コンビニの建物脇で。チビにデブにノッポの男子生徒達が、熾兎を壁際に追い込み取り囲んでいたのだ。
男子生徒達は皆私服であり、下卑た発言の内容とは裏腹、これから特訓しようという印象はない。それに対して熾兎は赤のジャージ姿だったが、手にコンビニ袋を提げているので女子寮に戻ろうとしていたのだろう。彼らの誘いに乗る気はなさそうだ。
「おいおい……。なんつーベタな展開なんだ……」
オチが読めてしまう。まさかだが『女の子が大ピーンチ!?』と認識する読者はいないだろう。いたらちょっとビビる。これはどう見ても逆で『男の子達が大ピーンチ!!』だ。変人3兄弟が熾兎1人に返り討ちにされるオチだ。
「はあ? いきなりなに? あんた達、誰よ?」
「決まってるじゃんかぁ~。キミの兄ちゃんのお友達さぁ~」
「あー……。言われてみればそんな感じするわね……」
どんな感じだッ(遺憾)!
(いやはや、このイベントに関してはシカト一択だろ! 相変わらず妹からの扱いがこんなんだしなっ! それにむしろ全力でシカトかますのが彼らの救済になる予感がしてならない!)
ここまで付き合ってくれた物好きの読者なら、この俺の考え、察してくれるだろう……!?
「ふ、不純異性交遊は許さないわよ!?」
……………………、うん。はいはい。はーいはい。
デジャヴではあるんだが、もうね、このハチャメチャっぷりに全く付いていける気がしませーん……(困惑)。
言わずもがな、新たに登場したのは奇姫その人だ。こんな夜遅くまで保安委員のパトロールだろうか。真っ白な制服が夜陰によく映えていた。
彼女はモデルのようなキリリとした姿勢で4人に歩み寄ると、紅蓮の髪を一度ぶわっと炎が揺らめくように手で靡かせた。そして一言。
「んで?」
……んで? じゃないだろ。だからそのなぞなぞを超越したナゾ問いかけ、誰が反応できるってんだよ……。
「あなた達は、保安委員のわたしを怒らせたいから、この学園の風紀を乱そうとしているのよね? そうなのよね?」
「「「…………………………」」」」
「なんか言ったらどうなのよ!」
いやそら全員ダンマリにもなるだろう。まずお前の登場決め台詞(?)の破壊力ハンパないからな。どうしたら不純異性交遊に見えたんだ? 色眼鏡ならぬエロ眼鏡でも掛けているのか? だとしたら最強のひみつ道具だぞそれ。欲しいランキング1位余裕で奪取可能だ。
そんでもってだな、とにかくお前の被害妄想が過ぎるんだよ。なぜお前を怒らす目的で風紀乱したがるってんだ? そんな手間かけなくたってどうせお前は怒るじゃないか。というより登場する度に怒っているじゃないか。
(…………。やべ。ツッコミすぎてどっと疲れた。さっさと他のコンビニ行こ。そうだそうしよう。俺には関係ない。ゼーンゼン関係ないんだ)
ほんじゃま、皆さんお休みなさ、
「つ、憑々谷子童ッ!? あんたそんなトコでナニ突っ立ってんのよ――ッ!?」
やべ、見つけられた! って、ねーよ!
ああもうツッコむの超面倒だから逃げる!
逃げちまうが勝ちだッ!
「ちょ、止まりなさい憑々谷子童ッ! あんたもうわかってんでしょ、これは強制イベなのよッ!?」
「ええい黙れクソったれ著者ッ! ンなことぶっちゃけるNPCに従ってたまるかってんだッ!」
と、そんな風に。
俺が奇姫に向けて吐き捨ててすぐだった。
―――ザ・反抗期ラノベ主人公! 著者の思惑にリアルで反抗できるラノベ主人公は、拙作ならではですネ!
「………………あ」
しまっ、た……。
著者にはその手があったんだ……。
動けない。
奇姫から逃げたくても、俺の体が動いてくれない。…………やられた。
【―――ったく、厄日だな……。それで? 俺にどうしろってんだ、奇姫?】
言ってすぐ、著者モードの俺は背後を振り返ると駆け出した。
途中まで追いかけてきていた奇姫を通り越し、熾兎と変人3兄弟のいるコンビニ脇まで猛移動する。
……諦め方が狂ってやがるっ。
「あんた、あたしがここに来るより前に見てたりする?」
【……かもな】
「じゃあ知ってることだけでいいから教えなさいよ。この人達がしてた不純異性交遊のあらましをね」
【あらまし……いや、そもそも俺の妹はコイツらに一緒に特訓しようと誘われて、それを嫌がってたぽいだけなんだが?】
「! な、なんですってぇ? えぇー、じゃああたしの勘違いだったのねぇ。びっくりぃー」
おいこら奇姫が完璧に棒読みじゃないか。なんだこのコント。
空前絶後のつまらなさと評されても不思議じゃないレベル。
「こ、こほん! わ、わかったわ。ならあんたは妹さんを女子寮まで送り届けなさい。あたしはこのチビとデブとノッポを処理しとくから」
……処理て。
一応、俺の友達って設定なのでは……。
【了解だ。コイツらは煮るなり焼くなり好きにすればいい。所詮は使い切りだしな】
「「「…………………………」」」」
うん、だからって変人3兄弟の息の根を止めているのはどうかと思う。
まぁNPCじゃなくても真顔でそんなこと友達に言われたら息止まるだろうけど。
「ったく、あんたの妹さんが襲われてたってのに……いや、やっぱりなんでもないわ。いいからさっさと行って。大会まで時間がないんだから」
【すまない】
と著者モードの俺が言い返す前には。
熾兎はつまらなさそうにそっぽを向き、無言で歩き出している。
【―――っと、そうだ。奇姫?】
「? なによ?」
【その武闘大会だが。俺は、やれることだけのことはやるつもりだ】
「当たり前でしょ。ってか、優勝してもらわないと困るわ。絶対にね」
【……、なぜだ? お前が俺に大会をエントリーさせたのは、そもそも『俺が偽者かどうか』を探るためだったんだろう?】
そうだな。学籍番号の入力とか指紋認証とか。つまるところ俺本人じゃないと難しそうなことを要求していた。
あの時の奇姫の真の目的は、俺に大会のエントリーをさせてみて、学園侵入者の変装を見破ることだった、はず。
「そうよ? それがなんだっての?」
【いや、だったらよ……。お前にとって俺が本当に優勝する必要性は、ないよな?】
……あれ?
言われてみれば確かにその通りだな?
著者モードの俺と同じだ。疑問はただひとつ。
なぜ彼女が俺に大会優勝を指示したのか、だ。
『もう2度と心を開かない、絶対に容赦しない』―――。
ああ、読者も覚えていることだろう。
彼女が俺に優勝を指示した理由は、以前トピアが言及していた。
彼女が立てたその誓いのせいだろうと。
(だけど彼女にとってそれほど俺の優勝は大事なことか? 学園最強という噂を俺が大会で証明してみせたところで、別に彼女にはメリットなんてなにもない気がする)
「……ふん。なんか色々と考えてるみたいだけど。まだ教えるわけにはいかないわ。いわゆる伏線よ。あたしがあんたに優勝を指示した真の理由は、大会が始まってから教えてあげる」
……トピアの棄権に続いてこれも伏線なのか。だとしたら相当長いこと張ったままじゃないか。
大丈夫か著者。これで読者ガッカリさせたらいよいよ見切りつけられるぞ。
「! で、でも、まぁ、そうね。余所からしたら別に大した理由じゃないのよ。あたし個人にとっては大事ってこと。死活問題なのよ。それだけは理解しておいてくれる?」
……うわぁ、プレッシャーかけられて完全にビビってるなこの著者。
そんなに自信ないんだったら伏線なんて宣言しなければいいのに(呆)。
「って、あんた!? とっくに妹さんの姿が消えかかってるじゃない! 急いで追いかけなさいよ! 見失ったらタダじゃおかないわよ!?」
【あ、ああ。風呂覗きの件があるからな……。指示は守る、安心してくれ】
そこで著者モードの俺は奇姫に頷いてみせると、小さくなった熾兎の背を追い始めた。
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