2.5D/リアル世界の異世界リアル
第43話
43
昼食を終えて、トピアと俺は向かい合っていた。
「だいぶ遅れましたが。本日の特訓を始めましょう。よろしくお願いします」
俺は「……おう」とやつれ気味に返答する。アリスリバース(技名)が原因で気力を根こそぎ奪われていた。
「シュレディンガーの空箱、発効」
トピアの一声で倉庫内のありとあらゆる面に黄色い紗がかかっていく。
これによって倉庫外から俺達を観測するのは不可能。まさに俺達はシュレディンガーの猫となった。
「さて、憑々谷君。君に悲しいお知らせがあります。昨日君が妹の熾兎さんから聞いた話、その事実確認の結果です」
「あぁ、大会で優勝しなければ退学、ってやつな。でもどうせ事実なんだろ?」
「はい。監視部から学園に問い合わせてみたところ、事実と判明しました。優勝以外は君の退学処分が確定するそうです」
「へえ。まぁ、調べてくれてサンキュな」
特に悲しくはなかった。あるがままを受け入れた気分だった。
それにやはり……あちらの問題が先に降りかかってくるので、俺はそちらが気になってしまっていた。
「なぁ、大和先生が俺を殺すのって……。明後日なんだよな」
「そうですね。君には秘密にしていましたが……どうしましょうかね」
「……は!? まさかの対策ナシだったりするのか!?」
「冗談です。ちゃんと用意できてますよ。君が大会前に殺されたら元も子もないですからね」
トピアが無表情のまま言う。
だがその無表情こそが俺の不安を加速させた。
「じゃあ、特訓の前に教えてくれよ。お前は大和先生の暴走を、どうやって止める気なんだ?」
「詳細、ですか。構いませんよ。元々お話しするつもりでしたし」
あっさりとトピアは許諾してくれたが、
「ただひとつ、こちらからもお願いがあります。大和先生対策。どうかその成功率を上げるために君とアリスにも協力して欲しいんです」
「俺達がいれば助かるってことだな?」
「はい。お願いできますか?」
俺達には断る理由がない。
すでに感謝してもしきれないほど助けてもらっている。
「わかった。トピアに協力すんぞ、アリス?」
「…………うぅ……。どっちでもいいれす…………」
大量のお菓子をリバースして以降、アリスは俺の私服の胸ポケットの中でぐったりしていた。フラップをめくって血色のない顔を出したものの、すぐに引き籠ってしまった。
「……、しばらく休憩させてやるか」
「そうしましょう。あと1度に与えるお菓子は300円までとしましょう」
「遠足かよ。人間の子供基準なのもどうなんだ。50円でいいだろ50円で」
これだけ体調を壊しているのだ。アリスだって文句は言わないだろう。
「そのあたりの金額調整は君にお任せします。ですがくれぐれも大会での命運がアリスにかかっているのを忘れないでください」
「ああ、さっきのでコイツの自己管理のできなさをよく理解した。目を光らせておく」
俺は胸ポケットを指で小突く。中で「ぐえっ」とえずく声がした。
「それでは君もアリスも協力していただける、という前提で、大和先生対策をお話ししますね」
ごくり、と。俺は緊張で喉を鳴らした。
彼女の具体的な対策を聞いて、ますます不安になってしまう可能性もあるからだ。
「まず大和先生をどうするかですが。口で説得しても無駄とわかり切っていますので、拘束します」
「……いいのか? 仕事仲間なんだろ?」
「だからこそですよ憑々谷君。大和先生の暴走は身内であるこのわたしが責任をもって止めなければならないんです。……たとえ勝算がなかったとしても、このわたしが」
さもそれが自分の宿命であるかのようにトピアは言った。
「じゃあ……戦うのか」
「いえ、できれば戦いたくないので、不意打ちを狙います。つまりチャンスは1度だけ。それで失敗したら、戦闘に持ち込みます」
「けど先生は強いんだろ? そもそも不意打ちなんてできるのか?」
「できますよ。だって君は大和先生を第三支配で拘束できたじゃないですか」
「いや、あれは著者がそうさせたんであってだな。必ずしもお前の不意打ちもいけるとは―――」
しかしそこで俺は思い出した。非常に忘れてしまいがちなのだが、目の前のトピアも著者の創作物にすぎないことを。
そう。著者がトピアに不意打ちをさせたいと考えているわけだ。
そしてその不意打ちが成功する理由として、以前著者が俺の体で使った第三支配を挙げている。ということは。
「でもそうか……。もしかしたら『著者の自粛』が発動できるかもしれない……!」
『―――つまりネ? 読者様によって捉え方は千差万別ではあるけど、客観的に「絶対ありえない・絶対おかしい」と断定される展開に関しては、さすがの僕も自粛するって話ダ』
著者は確かにそう言っていた。
小説は読者のためにあって、その読者にノーと言わせない配慮が不可欠とも。
(だから単純な話、今のトピアの発言によって、著者自身が『前回が成功したから今回も成功する』と読者に確約していると言っても過言ではない……ッ!)
――いやいやいヤ!? 完全に過言ですヨ!?
勝手に成功するって断定しないでくれませんカ!?
(あぁ、読者も俺の意図が理解できたはずだ。理解できなかったら何度もこのあたりを読み返してくれ。そして心置きなく断定してくれ。トピアの不意打ちは絶対に成功するって。失敗するのは絶対にありえない・おかしい展開だってな!)
―――ええッ!? 僕の声無視ですかッ!?
あ、あの、一応僕どうやってトピアちゃんの不意打ち失敗させるか、決めてあるんですけドッ!?
(そんなの知らん。早く消えろ!)
―――こ、こればっかりは自粛しないヨ!? ゼッタイ不意打ち失敗するからネ!?
え、ちょっと待っテ、僕ってば主人公に致命的なネタバレさせられてるゥー!?
…………はい、そんなわけで不意打ちは失敗するみたいだぞ読者諸君。
著者が自らネタバレしたせいで恐ろしくつまらなくなったよな。
今度こそこの小説、見納めするべきだろ(常考)。
「つ、憑々谷君? えっと、その……なんの話でしたっけ? えへへへ……」
「おいテンパりすぎだろ! もちお前だよ著者!」
せめてキャラ崩壊をさせるな! 俺の知っているトピアがこんな恥ずかしそうにエヘ顔するわけないだろうが! 俺を萌え死させる気かっ!
「こ、こほん。不意打ちについてですが、了解いただけますか?」
「…………。まぁやるだけやってみればいいんじゃないかな」
著者が自粛しないということは結局トピアは大和先生と戦うことになるわけだ。
はぁ……とてつもなく嫌な予感がする(鬱)。
「それで? いつどこで不意打ちを狙うんだ?」
「決行日は明日の夜、場所はこの別荘ですね」
「えっ、明日?」
「そうです、明日23時頃に先生をここへ呼び出します。……明後日ではいつどこで君が襲われるかわからないので、そうするしかないんです」
「な、なるほど。あっちが動く前にこっちが動かないと計画倒れになるか。いきなりすぎてびびったが」
たった1日、されど1日だ。
この早まった感覚は地味に心臓に悪い。
「続いて不意打ちの作戦内容ですが。これには君にもしてもらわなければならないことがありまして」
「……、それは?」
「大丈夫です。簡単なことですから」
渋面を作った俺が訊ねてすぐ、トピアの左手には流麗なフォルムの長剣が出現していた。
そしてトピアは……どこか楽しそうに言った。
「さあ、憑々谷君。死んでください」
昼食を終えて、トピアと俺は向かい合っていた。
「だいぶ遅れましたが。本日の特訓を始めましょう。よろしくお願いします」
俺は「……おう」とやつれ気味に返答する。アリスリバース(技名)が原因で気力を根こそぎ奪われていた。
「シュレディンガーの空箱、発効」
トピアの一声で倉庫内のありとあらゆる面に黄色い紗がかかっていく。
これによって倉庫外から俺達を観測するのは不可能。まさに俺達はシュレディンガーの猫となった。
「さて、憑々谷君。君に悲しいお知らせがあります。昨日君が妹の熾兎さんから聞いた話、その事実確認の結果です」
「あぁ、大会で優勝しなければ退学、ってやつな。でもどうせ事実なんだろ?」
「はい。監視部から学園に問い合わせてみたところ、事実と判明しました。優勝以外は君の退学処分が確定するそうです」
「へえ。まぁ、調べてくれてサンキュな」
特に悲しくはなかった。あるがままを受け入れた気分だった。
それにやはり……あちらの問題が先に降りかかってくるので、俺はそちらが気になってしまっていた。
「なぁ、大和先生が俺を殺すのって……。明後日なんだよな」
「そうですね。君には秘密にしていましたが……どうしましょうかね」
「……は!? まさかの対策ナシだったりするのか!?」
「冗談です。ちゃんと用意できてますよ。君が大会前に殺されたら元も子もないですからね」
トピアが無表情のまま言う。
だがその無表情こそが俺の不安を加速させた。
「じゃあ、特訓の前に教えてくれよ。お前は大和先生の暴走を、どうやって止める気なんだ?」
「詳細、ですか。構いませんよ。元々お話しするつもりでしたし」
あっさりとトピアは許諾してくれたが、
「ただひとつ、こちらからもお願いがあります。大和先生対策。どうかその成功率を上げるために君とアリスにも協力して欲しいんです」
「俺達がいれば助かるってことだな?」
「はい。お願いできますか?」
俺達には断る理由がない。
すでに感謝してもしきれないほど助けてもらっている。
「わかった。トピアに協力すんぞ、アリス?」
「…………うぅ……。どっちでもいいれす…………」
大量のお菓子をリバースして以降、アリスは俺の私服の胸ポケットの中でぐったりしていた。フラップをめくって血色のない顔を出したものの、すぐに引き籠ってしまった。
「……、しばらく休憩させてやるか」
「そうしましょう。あと1度に与えるお菓子は300円までとしましょう」
「遠足かよ。人間の子供基準なのもどうなんだ。50円でいいだろ50円で」
これだけ体調を壊しているのだ。アリスだって文句は言わないだろう。
「そのあたりの金額調整は君にお任せします。ですがくれぐれも大会での命運がアリスにかかっているのを忘れないでください」
「ああ、さっきのでコイツの自己管理のできなさをよく理解した。目を光らせておく」
俺は胸ポケットを指で小突く。中で「ぐえっ」とえずく声がした。
「それでは君もアリスも協力していただける、という前提で、大和先生対策をお話ししますね」
ごくり、と。俺は緊張で喉を鳴らした。
彼女の具体的な対策を聞いて、ますます不安になってしまう可能性もあるからだ。
「まず大和先生をどうするかですが。口で説得しても無駄とわかり切っていますので、拘束します」
「……いいのか? 仕事仲間なんだろ?」
「だからこそですよ憑々谷君。大和先生の暴走は身内であるこのわたしが責任をもって止めなければならないんです。……たとえ勝算がなかったとしても、このわたしが」
さもそれが自分の宿命であるかのようにトピアは言った。
「じゃあ……戦うのか」
「いえ、できれば戦いたくないので、不意打ちを狙います。つまりチャンスは1度だけ。それで失敗したら、戦闘に持ち込みます」
「けど先生は強いんだろ? そもそも不意打ちなんてできるのか?」
「できますよ。だって君は大和先生を第三支配で拘束できたじゃないですか」
「いや、あれは著者がそうさせたんであってだな。必ずしもお前の不意打ちもいけるとは―――」
しかしそこで俺は思い出した。非常に忘れてしまいがちなのだが、目の前のトピアも著者の創作物にすぎないことを。
そう。著者がトピアに不意打ちをさせたいと考えているわけだ。
そしてその不意打ちが成功する理由として、以前著者が俺の体で使った第三支配を挙げている。ということは。
「でもそうか……。もしかしたら『著者の自粛』が発動できるかもしれない……!」
『―――つまりネ? 読者様によって捉え方は千差万別ではあるけど、客観的に「絶対ありえない・絶対おかしい」と断定される展開に関しては、さすがの僕も自粛するって話ダ』
著者は確かにそう言っていた。
小説は読者のためにあって、その読者にノーと言わせない配慮が不可欠とも。
(だから単純な話、今のトピアの発言によって、著者自身が『前回が成功したから今回も成功する』と読者に確約していると言っても過言ではない……ッ!)
――いやいやいヤ!? 完全に過言ですヨ!?
勝手に成功するって断定しないでくれませんカ!?
(あぁ、読者も俺の意図が理解できたはずだ。理解できなかったら何度もこのあたりを読み返してくれ。そして心置きなく断定してくれ。トピアの不意打ちは絶対に成功するって。失敗するのは絶対にありえない・おかしい展開だってな!)
―――ええッ!? 僕の声無視ですかッ!?
あ、あの、一応僕どうやってトピアちゃんの不意打ち失敗させるか、決めてあるんですけドッ!?
(そんなの知らん。早く消えろ!)
―――こ、こればっかりは自粛しないヨ!? ゼッタイ不意打ち失敗するからネ!?
え、ちょっと待っテ、僕ってば主人公に致命的なネタバレさせられてるゥー!?
…………はい、そんなわけで不意打ちは失敗するみたいだぞ読者諸君。
著者が自らネタバレしたせいで恐ろしくつまらなくなったよな。
今度こそこの小説、見納めするべきだろ(常考)。
「つ、憑々谷君? えっと、その……なんの話でしたっけ? えへへへ……」
「おいテンパりすぎだろ! もちお前だよ著者!」
せめてキャラ崩壊をさせるな! 俺の知っているトピアがこんな恥ずかしそうにエヘ顔するわけないだろうが! 俺を萌え死させる気かっ!
「こ、こほん。不意打ちについてですが、了解いただけますか?」
「…………。まぁやるだけやってみればいいんじゃないかな」
著者が自粛しないということは結局トピアは大和先生と戦うことになるわけだ。
はぁ……とてつもなく嫌な予感がする(鬱)。
「それで? いつどこで不意打ちを狙うんだ?」
「決行日は明日の夜、場所はこの別荘ですね」
「えっ、明日?」
「そうです、明日23時頃に先生をここへ呼び出します。……明後日ではいつどこで君が襲われるかわからないので、そうするしかないんです」
「な、なるほど。あっちが動く前にこっちが動かないと計画倒れになるか。いきなりすぎてびびったが」
たった1日、されど1日だ。
この早まった感覚は地味に心臓に悪い。
「続いて不意打ちの作戦内容ですが。これには君にもしてもらわなければならないことがありまして」
「……、それは?」
「大丈夫です。簡単なことですから」
渋面を作った俺が訊ねてすぐ、トピアの左手には流麗なフォルムの長剣が出現していた。
そしてトピアは……どこか楽しそうに言った。
「さあ、憑々谷君。死んでください」
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