2.5D/リアル世界の異世界リアル

ハイゲツナオ

第40話

40


 俺と樋口は学園の敷地を出た。もちろん俺達の後ろをアリスとトピアが尾行してくる。まさしくストーカーだった。


「外出とか久しぶりだな。憑々谷はどうだ?」
「ん……。お前もだよ」


 嘘だ。俺はこの世界に来てから一歩も学園の外に出ていない。
 それどころかこの世界について詳しく調べてもいなかった。一応その気はあったのだが、身の回りのことで精一杯だったのだ。


「それで? どこに行くんだ?」
「ラウンド○ンだ」
「おっ、デートスポットの定番じゃないか。まーこのへんじゃラウンド○ンぐらいしか遊ぶ場所ないけどな!」


 というわけでトピアに教えてもらっていたラウンド○ンの場所へ向かっている。
 ちなみにラウンド○ンとは日本全国に100店舗以上展開している大手ボウリング・アミューズメント施設だ。テレビでは有名人を起用したCMが流れていたりするし、取り扱う人気限定グッズも多い。


 学園を出た時点でラウンド○ンの建物自体は見えており、さほど時間もかからず俺達は到着した。


「スポ○チャ入るぞ」
「! いいな!」


 スポ○チャはラウンド○ン内にあるスポーツとアミューズメントの融合施設だ。
 早速俺達は受付で90分パック遊び放題を選択し、スポ○チャ施設内へ入場した。


「悪いその前にトイレ。なにやるか考えといてくれ」
「おう」


 トイレへと走っていく樋口。とその時、トピア達も受付を済ませスポ○チャに入場してきた。もちろん天使サイズのアリスは胸ポケットに隠れているので無料だったはずだ。


「待たせたな。なにやるか考えたか?」
「こっちだ。バッティングでもやるぞ」


 まずは男らしくそれだと思い、俺はトイレから戻った樋口を誘ったのだが……。


(うん、それはBL的にどうなの!? っていう手厳しい視線を感じる)


 まぁ確かにな。バッティングは1人でやるものだし。


「どうした? バッティングするんじゃないのか?」
「いや……。やっぱりやめとこう」


 俺は渋々断念する。しかし……しかしだ。


(BL要素があるスポ○チャ施設なんてないだろ。ないない、あるわけない。……ローラースケートなんて絶対ない)


 非常に残念だ。BLらしい展開が期待できるスポーツなんて、このスポ○チャに都合よくあるわけがなかった(白目)。


「じゃあ、ローラースケートとかどうだ?」
「ぶっ!?」


 い、言うんじゃねえよちくしょう! 
 せっかくなにも知らない読者に隠し通そうとしてたのに!


「は、ははっ! ローラー、スケート? ンなのゼンゼン面白くないだろ……!?」


 ……うん、うん。ローラースケート行けよ、っていう視線を熱く感じる。
 だが全力で拒否する! だって男2人でローラーだぞ!? 
 この衆人環視で堂々できるもんじゃないだろうが!


「憑々谷はローラー、やったことあるのか?」
「ないに決まってるだろ!」
「だったら面白いかどうかわからないじゃないか。なぁ、ちょっとでいいからやってみようぜ!」
「なんでお前、そんなにノリノリなんだよ……?」


 俺は深く溜息した。
 もちろん諦めの意味でしたのではない。ただの呆れだ。


「グッドタイミングだ。丁度空いてるっぽいぞ」
「だからなんだ! 俺はローラーなんて絶対しねえ!」


 不幸にもローラースケートのブースはバッティングのブースのすぐ隣だった。
 今度は樋口が俺を誘っていた。


「憑々谷ぁー、早く来いよー。靴履き替えようぜー」
「だからなんでお前はそんなノリノリなんだよ!?」


 すでに樋口はスケートリンク前の貸出コーナーで自分に合ったスケートシューズを探し始めていた。


(……って、おかしくね!? 俺まだ一言もローラーやるって言ってないんだが!? ってかやらないって言ったんだけど!? イケメンのくせにバカなの!? アスペなの!?)


 ……うん、うん! いいからもう行けや! っていうブチ切れ寸前の視線だ! 
 くそっ、覚悟を決めるしかないのか……!?


「憑々谷ぁー、まだかぁー?」


 見るとすでに樋口は準備万端のようだった。上から順にヘルメット、エルボーパッド、アームガード、ニーパッド、そしてスケートシューズを身に着け、椅子に座って俺を待っている。


(コイツやっぱ頭いかれてるだろ……)


 俺は1人でやってろ! と言い残して帰りたかったが、ここで逃げたら愛しのトピアに幻滅されそうだったので、泣く泣く俺もローラースケートの装いに着替えた(泣)。


 で、そのままスケート場へと移動。
 多くの家族連れや男女カップル、若者達が楽しげに滑っていたが―――。


「……うぼっ!?」


 手摺に頼らず黒光りしている床に足を踏み入れた途端、俺は豪快に素っ転んでしまった。


「はは、もうバランス崩したのか?」


 先行していた樋口が俺の元に戻ってくる。爽やかに笑いながら。
 そして次の瞬間―――。


「ほら、立てるか?」
「……っ!?」


 樋口の右手が、転倒したままの俺の眼前に差し出されている。
 ……うん、うん。シャッターチャーンス! っていう興奮気味な視線だった。


(というかお前ら、いくらなんでも目立ちすぎだろ。リンク外でこっちを凝視しているの、お前らだけなんだが……?)


 ともあれ、樋口の右手を拒否するわけにはいかない。
 アリスにこのデートを満足してもらわなければ、俺のバッドエンドは確定なのだ。






「…………………………………………さ、サンキュ」






 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャァァァァ!!


 樋口の右手に触れた瞬間、バカうるさいシャッター音が聴こえてきた。
 しかもまさかの連写である。さすがの樋口も「なんだあの子……?」と撮影者トピアの存在に気づいた。


(ほら見ろ、バレちまったじゃないか……)


 樋口に助け起こされながら、心底呆れてしまう俺だった。
 残念ながらデートは中止にせざるを得ないだろう(歓喜)。


「はは、あの子誰かを撮ってたみたいだな? 写り込んじまったよ」
「……はあ!?」
「ん? どうしたんだ憑々谷?」
「い、いや……。お前はもう気にしなくていい……」


 いやいやいや……写り込んでしまったもなにも、撮影対象は俺達なんだよ。 
 やめろ、照れ笑いするな。まるで満更でもないように見えるから……。


「よし、このまま手を繋いでおいてやるよ。怪我して大会に出られなくなったら悲しいだろ?」


 俺が悲しいのは、お前と手を繋ぎっぱなしなことだッ!! 


「ほら、早く滑るぞ。最初の内は下半身に力が入っちまうかもしれないが、90分もあればだいぶ楽になるさ」


 はいいいいいいいッ!? 
 時間いっぱいまで滑る気なのでッ!? というか俺のデートプラン()はッ!?


「おいなんだよその絶望しきった顔は? あぁ、上手く滑れるようになれるか不安なのか? はは、信用されてねえなあ。だから大丈夫だって。なんなら俺が保証してやるよ」
「ほ、保証!?」
「ああ……―――お前はこのデート、最高の気分で終われる」


 終われるかアアアアッ!!





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